「くそっ…。なんでオレがこんなこと…」
両腕に二つずつ、どれも満タンにお湯が入った大きなポリタンクを抱え、ウボォーギンがそんな文句を垂れながら建物に戻ってきた。
最初からトイレか風呂にするつもりで作られた部屋なのだろう、排水のための溝が掘られ外にまで続いている小さな部屋。
建物にいくつかあった部屋のうちのその一室に壊れかけのバスタブが設置してある。
シャルナークの手によって置かれたというそのバスタブのそばに、ウボォーギンはゴツゴツとポリタンクを置いた。
バスタブの中を覗けば、泥まみれに汚れたケイリュースが服を着たまますっぽりとバスタブに収まって寝息を立てていた。
「いい気なもんだ」と、ケイリュースをそんな状態にしたのは自分であることを棚に上げ、ウボォーギンはその寝ているケイリュースに気づかれないようそーっと腕を伸ばし―――
「おい、起きろケイ。ケイリュースってよ。…寝ぼすけ」
そう言って額にベチッとデコピンを喰らわせた。
「アウ!?…イタイ…ウボォーギン…」
「起きたな?風呂だぜ、ケイ。とっとと服脱げよ」
「…ふろ?ふろ、はオフロデス?ウボォーギン、と?お風呂?…ウフフ。アナタ、とシタカラ?せっくす。シタからデス?ウフフフ」
「あ゛ー…ったく。いーから黙って裸んなれ!」
「んむー」
起きたら起きたでマジでやかましいな、とぶつくさ呟きながらウボォーギンはケイリュースの頭をぐしっと押さえつける。
それには少し照れ隠しの意味も含まれていたかもしれない。
しかしそのことにケイリュースが気付くはずもなく。言われたとおり素直にケイリュースはプチプチとワイシャツのボタンをはずして服を脱ぎ始める。
脱いだシャツの下から出てくるのは、砂埃と泥で薄汚れた素肌だ。元が色白なだけに確かにシャルナークの言う通り汚れが目立つ。
月明かりの下で見ていた時はそれほど気にならなかったが、明るいところで見ると一目瞭然だった。
シャルが切れる気持ちもわからなくねーか…とウボォーギンはチッと舌打ちして、ケイリュースがバスタブの中に脱ぎ散らかした裏返しのシャツを拾い上げた。
雨風で吹きさらしの廃バスの中で思う様にケイリュースを抱いてそのまま戻ったら、砂埃と泥でえらく汚れたケイリュースの姿を見てシャルナークが切れてしまった。
「汚したのウボォーなんだからウボォーがちゃんとケイをきれいにしてみなよ、ほら!」とこの部屋に連れてこられ、何枚かの布きれと石鹸とシャンプーを渡された。
その時こそシャルナークの勢いに押されて「わかったわかった」と了承したが、改めて考えるとものすごくめんどくさいことを押し付けられたのと違うか?
ずりずりとバスタブの中で尻をずってズボンを脱いでいるケイリュースを、腕を組んだ格好で見下ろしてウボォーギンは短く息を吐くのだった。
「…脱いだかー?」
「うー!脱ぐ、脱イダ!シタ!お風呂ー!おふろ、一緒入るスル、シマスカ?洗うの一緒、スルデス?ウボォーギン!」
「うるっせぇな。だからはしゃぐんじゃねぇよ」
ウボォーギンに向かって、脱いだズボンをケイリュースは笑顔で高々と掲げる。
その手からズボンをひったくるように受け取って、ウボォーギンは足元にあったポリタンクの一つを拾い上げた。
そして自身を見上げてニコニコしていたケイリュースの顔面に、どべしゃ、とポリタンクのお湯をひっかぶせる。
次いで、シャルナークから渡されていた布きれと石鹸をまとめて、涎と鼻水を垂らして汚くむせるケイリュースの足元に投げて寄越した。
「洗うぐらいは自分で出来んだろ?流すのはしてやるからとっとと洗え」
「えっふ、え゛っ、けぷっ、くふ、…うう…。洗うのスル、シナイ?ウボォーギン、洗うはシナイです?背中、ウボォーギンは…アナタ、洗うの…、ワタクシ、シタカッタ…」
「オレはいいからまず自分の身体をしっかり洗え。つーかその汚ぇ鼻水先に拭け。大体お前、立てもしねーのにどうやってオレの背中洗う気だ?」
「うぅ…、ずず」
言われてケイリュースは鼻をすすり、寂しそうに視線を下げた。
まだ自由に動かすこともできない包帯の巻かれた自身の脚を、ケイリュースはしばらくじっと見つめて何か考えているようだった。
…が、そのうちにのろのろとバスタブの中に転がっていた布きれとそれにくるまれていた石鹸を拾い上げた。
脚の上に布きれを広げ、ケイリュースは無言でそれに石鹸を擦り付け始める。
ほんの少し前までやかましく騒ぎ立てていたというのに、一転黙りこくってしまったケイリュースの淡いピンク色の後頭部を見て、ウボォーギンはちょっと言い方きつかったかと一瞬歯噛みした。
しかし特にそれをフォローすることもなく、ただただ腕組みの格好のままバスタブの中のケイリュースを見下ろす。
「……ア」
「ぁん?」
そんな中、スポンッと不意にケイリュースの手から石鹸が逃げ出した。
二呼吸ほど遅れて、自身の手の中から石鹸が消えたことに気が付くケイリュース。
バスタブに転がった石鹸を拾おうと手を伸ばすが、最初に掛けられたお湯がうっすらと溜まったバスタブの中、石鹸はつるつるとケイリュースの手から逃げ回る。
「うう…、う?」
滑る石鹸に翻弄されるケイリュースを見かねたのか、ケイリュースの視界に突然太い腕が降りてきた。
石鹸を拾い上げるその腕の主―――ウボォーギンの横顔を見て、ケイリュースの表情がぱあっと明るくなる。
「オラ、何やって…」
「ウボォーギン!」
「あ?」
「ウボォーギンも、入るスルの?一緒?ワタクシ、と、一緒?お風呂入るデス?洗うのスル?」
「お前…、会話が堂々巡りしてんじゃねーか。入んねーよ、めんどくせぇ」
「ナンデはるシナイ…、はいるナイデス?入ルのしる!…シテ?一緒…一緒、ダメデス?ナンデ…?アナタ、好きのワタクシ…、一緒イタイ。うう…ウボォーギン…アナタの洗う、ワタクシしてアゲルの、したいデス…」
石鹸まみれの小さな両手がギュッと太い手首を握ってきて、つやつやと濡れたストロベリーブロンドの髪の間から濃いピンク色の瞳が懇願するように見上げてくる。
しばらくそのまま2人で見つめ合っていたが、「…うぼーぎん…」とケイリュースが悲しげに眉を下げると、ウボォーギンはフーッと長いため息をついた。
「しゃーねぇなぁ…」と呟いて、ガリガリ頭を掻く。
それを見てケイリュースは花が咲いたように微笑むのだった。
「う…うぅ…」
「何だケイ、そのへっぴり腰は。お前そんなんでよくオレの背中洗いたいとか抜かしたな?」
バスタブの中でケイリュースは生まれたての仔鹿のようにプルプル脚を震わせて、全裸のウボォーギンの引き締まった横尻に頬を押し付けるようにして、腿のあたりに必死に抱きついていた。
「…オラ、いつまでもオレのケツにしがみついてないでちゃんと立てよ、自分で」
「うぅ、ううう〜っ…」
焚きつけると、痛みに目を細めケイリュースはウボォーギンを見上げてくる。
歯を食いしばりゆっくりと身体を起こして、ウボォーギンの手によって目の前にぶら下げられた泡まみれの布きれにしがみつく。
まるでそれだけが支えになっているかのように力いっぱい下に引っ張られる布きれの感触に、自分が手を離せばケイリュースがそのまま前のめりにすっ転ぶだろうことを承知で、ウボォーギンは布を握る手の力を緩めた。
「アッ!?」
案の定、支えを失って頭からバスタブに沈むケイリュースを、ウボォーギンはフンと鼻を鳴らして一笑に付した。
「な?全然無理じゃねぇか」
バスタブにへたり込むケイリュースの腕を掴み、まるで人形を拾うかのように乱暴に引っ張り上げて無理やり立たせる。
立たせる、と言ってもしっかり自力で立つだけの力がまだケイリュースの脚には無く、引っ張り上げられた腕と肩に全体重がかかってしまう。
「うう、う…いたい、痛いデス…」
「おっ、そーか?そりゃ悪かったぜ」
とウボォーギンはケイリュースの脇の下から腕を通し、脚に負担がかからないよう今度は身体ごと持ち上げてやった。
薄々予想ついてたがやっぱこうなんのかよ、と心の中で毒づきながらウボォーギンはケイリュースの手に握られていた布きれを取り上げた。
そして黒いドラゴン模様の大きなトライバルが刻まれた背中を手始めに、ケイリュースの軽い身体を自分が洗いやすいように時折持ち替えながら片手で洗えるだけ洗ってやる。
ストロベリーブロンドの髪を巻き込みつつ首まわりをぐるりとなぞり、華奢な肩口から細い腕を大きな手で握りこむようにして手首まで抜くように洗い。
脇の下から脇腹へごしごしとこすって降りて、細い身体に浮いた肋骨のでっぱりをなぞって腹側へ。
「ん…、んぅ、う…あ…」
下半身に降りていくごとに艶っぽくなっていくケイリュースの声を耳元で聞きながら、ウボォーギンはお構いなしにヘソ周りの薄っぺらい筋肉をなぞって、その下に下がるケイリュースのモノを布きれで握りこんだ。
「やぁは…、うぼーぎ…、んあ、やぁ、あっう…」
「…ケイお前、間違ってもこんなんでイクんじゃねぇぞ?」
「うう、あっ、あ…ナンデ、駄目…?きもちイイデス…ワタクシ…」
「『なんで?』じゃねーよw 馬鹿だろお前」
「ばか……。バカ!?馬鹿、言うシタ!ナンデ!ワタクシ、チガウ、馬鹿…!うぼぉーぎ、んっアッ、う…、ああっ、アッ」
太い腕をそのままケイリュースの股に滑り込ませて、小ぶりな尻を揉むようにしてその間まで洗ってやる。
中心で手を動かすたび内腿がひくつくのが面白くてついつい悪戯したくなるが、このままだと本当に勃起してしまいそうなケイリュースのそれを見て「今はまだな、」と自制した。
股から入れた腕を折り曲げ片脚を持ち上げるようにして、包帯を避けつつ露わになった素肌を足先までするりとなぞり、足指もぐりぐりと洗う。
そうやってケイリュースを洗い終えた後は、くしゃくしゃになっていた布きれを再び二つ折りに畳んで、ついでにとウボォーギンは自分の身体もごしごし布きれで泡立てる。
その間ケイリュースはウボォーギンの片腕に抱かれた格好のままぐったりと項垂れていた。
眉根を寄せて涙目ではあはあと荒く息をつく。
「…オラ、ケイ。洗ってねーとこは自分で洗えよ?」
「うぅ…」
自身の胸板にこめかみあたりを擦り付け目を伏せていたケイリュースの頬を、泡のついた指でくすぐるように掻いた。
そして顔を上げるケイリュースの目の前に泡まみれの布きれを再びプラプラと見せつけ、ウボォーギンは言う。
揺れる布きれをしばらく黙って見ていたケイリュースだったが、のろのろとそれを受け取った後は、目の前にそびえていた毛むくじゃらの肉の壁を布きれでこすり始めた。
そんなケイリュースを「そうじゃねぇよw」とウボォーギンは豪快に笑い飛ばす。
「おーし、そんじゃお次…は、と」
と、ご機嫌な表情でウボォーギンはバスタブに落ちていた石鹸を拾い上げた。
ポンポンと二度三度、お手玉のように手の中でそれを弄んでから、いまだに自身の胸板を布きれで熱心にこすっているケイリュースの頭に石鹸をごりごりと擦りつける。
「あ、あ…イタイ、いたい。ナニデス?頭、ナンデ痛いの、スルデスネ?」
「めんどくせーからついでに髪も洗っちまうぜ。まとめて全部流すぞ」
「あうう…、うー。いたい、いたい、うぼぉーぎん…!」
ケイリュースの長いストロベリーブロンドの髪をぐしゃぐしゃと片手でまとめ上げ、力任せに石鹸で泡立てる。
加減はしているつもりだが、他人の髪を洗うなんて事まず初めてのウボォーギンはその力加減自体がよくわからずに、自分の髪を洗うのと同じ調子でケイリュースの髪を乱雑に扱う。
痛みから逃げようとケイリュースは頭を下げるが、すでにがっちりと胸の下をホールドされていたために、それも微々たる逃げにしかならない。
床から浮いている足を動かせる範囲でパタパタさせて嫌がっていた。
―――しかしその様子を見て、キレる人物がいた。
シャルナークだ。
部屋の入り口外の柱の影に隠れてウボォーギンとケイリュースのことを覗き見していたシャルナークが、柱にかぶりつきながら小声でキレる。
「(…だーかーらー!なんでシャンプー渡してあるのに石鹸でそんな粗末に洗うんだよウボォー!!自分の髪とケイの髪、一緒に見てるだろ!?そんな風にしたら傷んじゃうじゃないか!)」
「(落ち着けシャル。柱から出るな。ウボォーにバレるだろ)」
「(もー、狭いなー)」
造りかけのまま蜘蛛達の巣の一つにされてしまったその建物は、いくつかの部屋には優先的に扉がつけられているものの、部屋の大多数が入り口吹き抜け状態で放置されていた。
まだ壁すら塗りかけで柱がむき出しの、『部屋』とも呼べないような部屋も多い。
そんな死角だらけの建物の中、巧妙に『絶』で気配を消し、シャルナークとクロロとシズクの3人は柱の影に縦に並んでウボォーギンとケイリュースが風呂を浴びる様子を覗いていた。
シャルナークが一番上から立って覗き、その下に片膝のクロロ、そのクロロの手前にはシズクが、両頬を両手で抱えるようにして頬杖をついてしゃがむ。
「(でも意外ですね。ウボォーがあんなにケイの世話焼くなんて)」
部屋の様子を指さして、シズクが後ろのクロロに少し振り返り言う。
「(そうか?オレが見た限り、ケイリュースとは割と最初からあんな感じだったと思うが?案外小動物っぽいものが好きらしいな)」
「(小動物っていうか、面白いおもちゃ手に入れて嬉々として人形遊びしてるようにしか見えないけどね!オレには)」
「(……だからお前はもう少し落ち着け、シャル。どれだけアイツの髪に執着してるんだ、お前は)」
「(執着じゃないよ!?オレは綺麗なものは綺麗にコレクションしておきたい派なだけだから!)」
「(そして手折る時は自分の手で…、か?気持ちはわからなくもないが)」
「(だから違うって、そこ団長と一緒にするなよ!オレは別にケイがウボォーとくっついたって構わないし!ってか見てて笑えるからってあそこくっつけたのオレだけどさ!
だけどケイ、せっかくあんな綺麗で可愛いんだから、どうせなら綺麗なまんまで見てたいじゃないか!?ウボォーのものになったからってなんでもウボォーっぽくされちゃたまんないんだよ!)」
ウボォーっぽく、と言われクロロはケイリュースがまだ初めて会ったころのような、薄汚れた髪をもさもさとあちらこちらに飛ばした格好でウボォーギンに抱っこされてニコニコ笑っている姿を想像した。
シャルナークが一時ケイリュースを綺麗に手入れしなければケイリュースはたぶんずっとあの姿のままだったろうし。
確かにシャルナークの言う通りこのままウボォーギンにケイリュースを任せておくと、ウボォーギンのあの傷みきったアッシュグレーの髪と同様にケイリュースのストロベリーブロンドも台無しにされてしまうだろうことを思い、「ふむ」と頷く。
「(それは確かに一理あるが、)」
「(だろ!?だからせめて髪を石鹸で乱暴にするのだけは止めてくれよ、ウボォー!!)」
「(………。)」
頼むからさー!とぐしゃぐしゃ自身の髪を掻きむしるシャルナークを見て、クロロは『…だがウボォーのそういう所への無頓着さを考慮に入れないでケイリュースをあいつに任せたお前の読みが甘かっただけじゃないのか』……と、続けて言おうとしていた言葉をぐっと飲み込んだ。
それを口に出してしまうと本気でシャルナークがウボォーギンを止めに走ってしまいそうな気がしたからだ。
娯楽の少ないこの流星街でせっかくこんな面白い余興が始まったというのに、余計な事を言って早々に中断させてしまう事もないだろうと考え、クロロは黙ってシャルナークを見るのだった。
「ぅぎゅー、…ッひぁん!?」
ウボォーギンの腕の中で、ぐったりとしてされるがままに頭を洗われていたケイリュースが突然艶っぽい悲鳴を上げて、宙ぶらりんだった脚をびくりと硬直させる。
声に反応したクロロとシャルナークの視線が部屋の中へと向く。
シズクはというと先ほどからまったく表情を変えずに淡々と部屋の様子を観察していた。
「あ…あ…、ィヤ…、うぼーぎん…」
頭を洗うついでに、とばかりにウボォーギンはケイリュースの耳も泡のついたぬるぬるの指で弄くる。
くすぐったいのかそれとも敏感になってしまったのか、ケイリュースがピクンと身体を戦慄かせ肩をすくめた。
「ハッハァー!なんだお前、こんなとこも弱ぇのか?全身性感帯もいいトコだぜ?」
「あふ…、ぅ…あ…」
腕の中でぞわぞわとした快感に身をくねらせるケイリュースに悪戯心をそそられ、ウボォーギンはその泡のついた指でケイリュースの胸にある小さな突起までもクルクルと撫でる。
「ひゃ…ん、ぁ…う…」
ぷくりと立ったそこをつまみ、先端を指の腹でつつく。
とどめに石鹸でぬめる掌で胸をぬるりと撫で上げると、ケイリュースはかぶりを振って縋るようにウボォーギンの胸板に頭を擦り付けてきた。
口からだらしなく涎を垂らし、悦楽にとろけた潤んだ瞳で見上げてくるケイリュースを、ウボォーギンは鼻を鳴らして嘲笑う。
―――「お前、全然予想を裏切らねーな」と。
「ンッ…」と身を震わせるケイリュースの頭を気分良さそうにポンポンと撫でてから、ウボォーギンは一旦ケイリュースの身体をバスタブに下ろした。
ケイリュースが身体を落ち着かせる間に、自身の頭にも石鹸を擦り付けてわしわしと手早く洗う。
「…おっしゃ。そのまま目ぇ瞑ってろよ、ケイ」
バスタブ傍に置いてあった熱めのお湯で満タンのポリタンクを片手で軽々と持ち上げ、ウボォーギンは足元にへたり込んでいたケイリュースにそう声をかける。
「…はふ……ぁ、ナニ…? ……ぶふ!?」
「だぁから、顔上げんじゃねぇよw」
呼びかけられてトロンと顔を上げたケイリュースの顔面に、高い位置からばちゃばちゃとポリタンクのお湯を浴びせかけた。
大量のお湯の滝を不意に顔面に浴び、またしても鼻水を垂らして苦しそうにむせるケイリュースをウボォーギンは「学習しろよ」と笑い飛ばしながら、それでもタンクを傾ける手は止めなかった。
ケイリュースのそのストロベリーブロンドの長い髪から身体にまでまとわりついていた泡があらかた流れ落ちるまでお湯を浴びせ、その後ウボォーギン自身も頭からお湯を浴びる。
そしてポリタンクが空になるとそれをゴツッとバスタブの外に投げ捨てて、さらにもう一つお湯の入ったポリタンクを拾い上げる。
「う、うぼーぎ…!ひひょ、ひどいデス…!わく、わたくし、くるしいシタ…!いっぱい!苦シイ、るく、し、し……ぺぶしゅ!!」
「きったねぇなw せっかく洗ってやったのによ。オラ、今度こそちゃんと目ェ瞑って息止めてろ、顔洗ってやるから」
「ウゥ、ン…」
バスタブに座り込んだまま鼻水を垂らして汚く泣きじゃくるケイリュースに、今度はさっきよりも近い位置からポリタンクのお湯を静かに浴びせ、ぐりぐりと手で顔を洗い落としてやる。
洗い終わってもギューッと目を瞑ったままいつまでもしょっぱい表情を続けるケイリュースに「もういいぜ」と声をかけてやり、その頭を撫でた。
ケイリュースの濃いピンク色の瞳が兎のように無垢に見上げてくる中、その身体を再び胸に抱き上げてウボォーギンもまたバスタブに座り込む。
「…ウボォーギン?」
「ぁんだ?一緒に風呂がいいんだろ?」
「……一緒?…ウフフ。そう、フロは、一緒イイデス…」
ケイリュースを自身の上へと乗せ、それと同じ手でバスタブの排水口の蓋を閉める。
それからウボォーギンはもう一方の手でポリタンクのお湯をどぽどぽとバスタブに注いだ。
狭いバスタブに自身の巨体ともう1人分の痩躯が詰まっているとはいえ、ポリタンク1個分のお湯では満量にはもちろん足りず、残り2個のポリタンクのお湯も順にバスタブに空けていく。
その間「ウフフ、ウフフフ」と浮かれた様子のケイリュースだったが、だんだんと水位が上がってきて脚に巻かれた包帯にお湯が浸るようになってくるとそれに合わせて押し黙り、ウボォーギンの身体にぐいぐいと自身の背を押し付けてお湯から逃げるような体勢を取り始める。
「何やってんだお前?…ああ、傷に沁みるのか?」
「うぅ……ウン…。ワタクシ…、イタイの、きず…。撃たれる、のシタ、怪我、あし……。痛い…」
「そーかよ」
と、自身の上に乗るケイリュースのヘソ下がひたひた程度の湯量ではあるがウボォーギンはそこでお湯を注ぐのを止め、ポリタンクをバスタブの外に置いた。
「イタイ、アナタ…。ワタクシ、痛い…脚…」
「わかったっつーの。我慢しろ」
バスタブにふんぞり返り、自身の腹の上で脚を抱えて身を振るわすケイリュースのピンク色の後頭部を見下ろし、ウボォーギンは冷めた口調で言う。
「がまん…。ソウ、ワタクシ我慢シタいた…。ズット、たくさん…。デモ撃ツの、あしうたれるシタ、ワタクシ…。
う、う……うた、る…、撃たれる、シタ…?ワタクシ…誰に、デス?……誰……ダレ撃つの、ワタクシ撃つの、シタデス……?」
「…あん?」
「ワタクシ、わたくし撃ツ…シタ……の、は……したの……ぅうう…、いたい…。痛い、アタマ…」
抱えた脚の包帯をじっと見つめ、ケイリュースはぶつぶつと何事かを繰り返し呟いていた。
しかしやがては頭痛を堪えるかのように眉根を寄せ、脚を抱えていた両手で今度は頭を抱えてフルフルと苦しみ出す。
身体を丸めて呻くケイリュースだったが、不意にその頭頂部に大きな手がボスンと乗せられた。
涙で潤みかけていたケイリュースの瞳がその瞬間にぱっちりと大きく見開かれる。
そろりと振り返る濃いピンク色の瞳に写ったのは、呆れたように自分を見下ろすウボォーギンの姿だった。
「撃ったのが誰だとかオレが知るわけねーだろ。誰でもいいじゃねぇか、んなもん。頭痛ぇならもうぐちゃぐちゃ考えんな。うるせぇしよ。脚は後で包帯取っ替えてやるし、もういいから体あったまるまではもうちっとくらい黙って湯に浸かってろよ」
「…ぅう…?ダレ、も、いいデス?誰撃つした、なのは、考えるの、もういいデスカ…?もうシナイしていい言うの?ウボォーギン?」
「…おお。考えても仕方ねぇだろうが、そんな事」
警備中の侵入者とかなんとかお前が言ってた奴だろ?と、ウボォーギンは自身を見上げてくるケイリュースの頭を、それに乗せた大きな手でぐりぐりと動かす。
「その侵入者共の誰が撃とうが、今のお前にとっちゃもうどーでもいい事だろ?それで仕事ミスって、この流星街に用済みにされちまった今のお前にはよ」
「よう、ずみ………ソウ、そう…ダケド、だけど…。うぅ……、そう…デスネ…。ワタクシ、は…、用済み…シタカラ、棄てられたデス…。りゅうせいがい…。
デモ、流星街は、…新しい、ワタクシの世界…には、アナタいたから…。ウボォーギンいた…カラ、誰、なのは……、そう。もういいデス…。
デモ、デモー、痛いのワタクシ…。あし…」
「…ったく、わかったわかった。頭痛ぇとか脚が痛ぇとかせわしねぇな、お前。…んじゃ、これでどうだ?」
「…う?」
そう言ってウボォーギンは、包帯の巻かれたケイリュースの両脚がお湯に浸らないようその膝裏に腕を入れて持ち上げてやった。
両脚をひとまとめに持ち上げられ、ケイリュースの上体がウボォーギンの身体に寄り掛かった状態で少しずり下がる。
一瞬何が起こったか理解できなかったのか、ケイリュースは呆気にとられた表情でぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
中編(えろ)へつづく
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ウボォーと一緒に風呂はサイズ的に無理だと思うの(爆)…と突っ込まれる前に突っ込んでおきます。
すもも