「……ウフ。ウフフ。うぼぉーぎん…」
「ふふん。…なんだ?どうした、ケイ?何かあったか?」
胸板に頭を擦りつけニコニコと笑顔で見上げてくるケイリュースに、ウボォーギンもまたニヤリと勝ち気な笑みを向け平然とそう返した。
するとケイリュースはびっくりしたように口を変な形に開けて困った顔になってしまうので、それが面白くてウボォーギンはなおさらニヤニヤと楽しそうに口元を吊り上げる。
「う?ア…、ぁ…?ナニあった…?なに言う、は…デモ、ウボォーギン…。今、きすくれたデスネ。いま、ワタクシ、の……。うう?した?キス…。した…シタデスヨネ?……シナイ?
ナニあったの、言うは…うぼぉーぎん……。ナンデ?うぼーぎん、きすしてナイデス?…ナンデ…?ワタクシ、の…、ココ…。ワタクシに……、ウボォーギンはキスした…?ワタクシ、は…そう思うの、けど…」
「あ?そうか?オレぁなんにもしてねーぞ?」
「あ…。うぅ?シテナイ…?本当…?」
と…ウボォーギンの嘘を真に受けて、頭の上に山ほどハテナを浮かべるケイリュース。
ウボォーギンが唇で触れて来た場所を手でペタペタといじくりまわして、困った顔で何度も首をかしげていた。
馬鹿扱いすりゃあなんだかんだうるせー癖に結局馬鹿なんじゃねーかwと、そんなケイリュースの姿を腹の中で笑い飛ばしながら、ウボォーギンは胸の下で揺れる薄ピンク色のフワフワ頭をぐりぐりと撫でた。
しかし至極楽しそうな表情のウボォーギンとは裏腹に、ケイリュースの表情はなぜかだんだんと暗くなっていく。
「うー…。うぼぉーぎん…ナンデ…?うぼーぎんからキス…シタクレタ、のに……。シテナイ、アナタは言うの…?なんか、…うぅ…?デモ、デモー、なんかシタ…。きすシタデス…うぼぉーぎん…。ワタクシの、わたくし、の…ここ…。キスした。きす…。シタデスネ。
なのに、ウボォーギンは、ナンデ嘘言う…。キスは…それ、シタはアナタ…。ワタクシ好きの、カラ…シテクレタの違う?コイビトみたい思う、ワタクシ、を……ウボォーギンも、思うシテくれた、じゃナイデス?カラ…うそ言うしたデス…?」
「ぁん?」
すっかり意気消沈して悲しそうに俯いてしまったケイリュースを見て、『やべ、からかい過ぎたか?』とウボォーギンは少し焦る。
…が、かと言ってケイリュースが口にしたセリフの内容を安易に肯定してしまうのも何か違う気がしなくもない。
「コイビト…。んー……恋人か…。そりゃちょっと違ぇぜ、ケイ。オレはただ…、そうだな。してやりてぇと思ったからキスしただけだからな?」
「きす…。うう…。チガウ、の…?デモ、デモー、キス…、は、ワタクシ好き思うのカラ、アナタ…、シテクレルした…違うデス…?」
「…おう、まぁそうだな。嫌いならキスなんか絶対しねぇな」
「ウフ。そう?ワタクシ好き…?愛シテルの言う、シテクレルナラ、好きのキスクレルあなた、は…、ワタクシうぼぉーぎんの、…とは、コイビト、は…、違うデスカ…?」
「それは……、やっぱちょっと違ぇな…。オレとお前は…ほら、そこまでじゃねーだろ」
「ちがう…。違うの…?ナンデ…?キスクレルの、好き、言うアナタ…。ワタクシ抱くを、一緒シテくれるした、いっぱい…ノニ…。コイビトの、チガウは…ナニちがうデスカ?うぼぉーぎん…」
「……おぉ、そりゃーお前…。その、なんだ。何が違うかっつーと……、あー……説明は難しいな…」
今にも泣きそうなほどに困った顔で見上げてくるケイリュースのその視線から逃げるように、ウボォーギンは曇天を見上げカリカリと頬を掻いた。
ウボォーギンとしてはケイリュースのそのコロコロと変わる表情豊かな挙動が面白いから単におちょくるつもりでからかっただけだったのに、この流れは完全に想定外だ。
確かに、好きか嫌いかで言えば好きの部類に入るのは間違いないし、どんなふうに弄り回しても最後にはいつもニコニコと嬉しそうに自分を見上げてくるケイリュースを可愛いと思ったからキスしてやりたい衝動にかられたのも事実だ。
求められるままに身体を重ねたのも一度や二度じゃない。
ただ、だからと言ってこの気狂いが『コイビト』かと問われると、それはやはり何か違う気がする。
好きには違いないのだが、それだって「酒が好き」とか「魚より肉が好き」とか「ケンカ相手なら弱いのより強い奴の方がやっぱ好きだ」とかそういう"好き"の感情とどう違うのかがわからないし――――
なにより
『コイビト』なんてそんないかにも女っぽい甘ったるいくくり、自分には絶対に合わない自信がある。
「(じゃあ何が一番コイツとオレのカンケイに合ってるかというと………、ん゛〜〜〜〜…やっぱペットか?)」
そう思うものの、それを言うとまた変な癇癪を起こされそうで面倒なのでウボォーギンも口に出したりはしないが。
しかしケイリュースのいつもの馬鹿ヅラを頭に思い浮かべてみるとやはり、その横には仔犬や仔兎、仔狸、仔猿…とか小動物の顔ばかりが並んでしまい、何度考えてみても『やっぱコイビトっつーよりは…ペットだよなぁ…』という結論に落ち着いてしまう。
でもそれを言うとうるせーし…と軽く堂々巡りに陥るウボォーギンだったが、その途中、自身を見上げてじーっと答えを待っているらしいケイリュースの無垢なピンク色の瞳が視界に入って、ウボォーギンは『考えてもしょうがねぇか』とばかりにふっと息を吐いて軽く笑った。
「…うぅ?うぼーぎん…。ナニ笑うスルデス…。ヘンです?ワタクシこいびと、アナタ…うぼぉーぎんを思うの…。アナタ、は…チガウ思うシテルデス…?うぼーぎん…、は、言う…シテくれるナイ…は、本当は…、真実は、ワタクシきらい…?のカラ…?」
「『きらい』、じゃねーよ。なんだ、早とちりすんな?……ま、恋人なんてガラじゃねぇって思ってんのは確かだけどな。
けど別にそんなもんにくくらなくても、オレとお前は……『オレとお前』で良いじゃねぇか。な?」
「う…?ウゥ…。なに…?うぼーぎん、が…、ナニ言うシテル、は…ワカラナイ、ワタクシ…。好きは、違うナイデス…?」
「…おぉ。まー、つまりだな…。オレと一緒にいれりゃ、お前はそれで十分だろ?ケイ…」
『コイビト』なんて関係にくくらなくてもよ。と少し照れくさそうに笑って、再びウボォーギンは、ふにゅ、とケイリュースの鼻先を指で押した。
するとそれまで不安そうに曇っていたケイリュースの表情も、元通りの嬉しそうな笑顔にふわりと戻った。
それを見て『オレより単純バカだな』とか『お前の鼻はスイッチかw』と思わなくもないが、そんなケイリュースの後腐れの無い所が好きな部分でもあるので、あえてそれを指摘するような野暮はしない。
馬鹿にするようでもなく、歯をむき出しにした楽しそうな笑みをウボォーギンもまたケイリュースに返すだけだ。
「…ウフ。ウフフフ…。うぼーぎん、一緒にいてくれるデス?ずっと?ウボォーギン、アナタ…一緒のです?」
「おう。ずっと一緒だぜ。どこでも連れてってやるよ。ずーっと一緒にな」
「本当?……ウン。うん…!嬉しいデスネ…わたくし…。一緒…ウボォーギンと一緒良いデス…。ズット、一緒…連れるのシテ…。好き、ウボォーギン…」
そう言ってぺったりと胸板に寄り添ってくるケイリュース。
あたりを飛び回るハートマークを幻視してウボォーギンは『ちょっと早まったか?』と汗をたらす。
が、一度口にしてしまった言葉をひっこめることはできずに、結局は「…ま、良いか」と零して懐いてくるケイリュースの頭を撫でた。
そしてそのままウボォーギンはその無骨な太い指を、ケイリュースの薄ピンク色の細い髪にするりと絡める。
フワフワとウェーブのかかったストロベリーブロンドの間から耳を探し当ててはその縁をなぞり、耳たぶから顎のライン、ほっぺた、細い首まわりをこちょこちょとくすぐって。
ひょっとするとどこかからクロロに…誰かに見られているかもなんていう事もまるっきり忘れて、ウボォーギンは懐に抱き寄せたケイリュースにイタズラを繰り返して遊ぶ。
「う?…うぅ、ん……ウフフ。ナニ…?なにする、うぼぉーぎん。…くすぐったい、キモチするデスネ、ワタクシ…ウフフ」
「ふんw当たり前だろ。わざとくすぐったくしてるんだからよ」
「ふふふふ。ナンデ?ウフフフ。ナンデ?くすぐったい…。ウフフ。うー」
「うるっせぇなw」
と、寄り添ってクスクスじゃれ合うその様子は、はたから見ればまさしく恋人同士のそれにしか見えないものだったが、ウボォーギンにその自覚はまだ無かったようで。
「…あ、まーた何2人でイチャイチャしてんの?ウボォー」
などと背後から突然掛けられた声に、ぎくうっ!とばかりに身体を飛びあがらせて、固まってしまう。
「あはははっww そんな、声掛けられて固まるくらいならせめて見られにくいトコでやりなよw 部屋だっていくらでも空いてるんだしさ。わざわざ外でイチャイチャするより、その方が安全なんじゃない?w」
と、固まるウボォーギンの背中を笑ったのはシャルナークだ。
マグカップを両手に2個ずつ持って、どうやら長屋街で朝食を調達して戻ってきたらしい。
一番ツッコまれたくない時にツッコまれて嫌な汗をたらしていたウボォーギンだが、それでもなんとか気を取り直し、必死で平静を装ってゆっくりと背後に振り返った。
「……人聞きが悪ィな、シャル。イチャイチャなんて別にしてねーぞ?コイツがオレのトレーニングの邪魔しやがるから、ついでにちょっと遊んでやってただけで。なぁ、ケイ?」
「ンン?」
ウボォーギンが訊くと、懐のケイリュースは何故か自分の身体をキョロキョロ見回して。
そしてまた、何が嬉しいのかニコーッとウボォーギンに向けて笑顔を見せてきた。
「…なに?ナァニ?うぼーぎん?ナニ言う、いちゃいちゃ?は…、したいデス?ワタクシ、と…」
「したい?じゃねーよ。お前はもうちょっとちゃんとヒトの話聞いてろ!」
「おぅう」
放っておくと余計な恥ずかしい事までペラペラと喋り出してしまいそうな雰囲気を感じ取り、ウボォーギンはとっさにケイリュースの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜて黙らせた。
訊いたのはウボォーなのにそりゃないだろwとシャルナークはそれを見てプッと笑いを漏らす。
「あーあ、かわいそ。ケイはウボォーの都合のいいオモチャじゃないのにね?」
「うるせーなぁ…、どーでも良いだろうが。そういうお前の方こそ、今までどこ行ってたんだよ」
「どこって…、やだなー。これ見ればわかるだろ?朝食の調達。……おはよ、ケイ。朝ごはん持って来てあげたよ」
と、両手にマグカップを持ったまま、シャルナークはウボォーギンの肩越しにケイリュースの顔を覗き込んで、人当たりの良い笑顔で微笑みかける。
すると困った顔をして両手でぺたぺた頭を直していたケイリュースも、それにつられて再びニコニコと小さな花を周囲に咲かせるかのように可愛らしく微笑った。
「ウフ。しゃるなーく。オハヨウデスネ。おはようー」
「うんうん。やっぱりパーマも良いじゃん。笑うといつもの倍は可愛いよ、ケイ」
「うー。ウフフフ…かわいい?ワタクシ?ウフフ。シャルナークが、ワタクシ褒めるをしてクレル?可愛い、は…そう言うワレルのは、良いデスネ。たくさん嬉しい、ワタクシ。シャルナークは優しいの…、カラ…、ワタクシ好きデス…。ウフフ」
「そう言ってくれるとオレも嬉しいなーw」
ケイリュースのウェーブがかったストロベリーブロンドを満足そうに眺め、シャルナークは言う。
それを横で聞いていたウボォーギンも『ああ…それでか』と、そこでケイリュースの髪が今日に限ってウェーブになっていた理由を察した。
「…なんだ。やっぱこの髪、お前がやったのか?シャル」
「もっちろん!可愛いだろ?まあ、実際に三つ編みに編んだのはシズクなんだけどね」
「あ?みつあみ?」
ケイリュースの髪をこんなふうにしたのが誰かはわかったが、何故パーマの話が突然三つ編みの話になったのかがよくわからずにウボォーギンは聞き返す。
するとシャルナークは何故かウボォーギンを見返して「え?」と不思議そうな顔をする。
その顔を見てウボォーギンもまた、…ん?なんか噛み合ってねーか?と疑問符を掲げ、『訊き方が悪かったか?』とばかりにもう一度シャルナークに問い質した。
「だからよ、なんで突然みつあみの話が出てくんだ?みつあみにするとこんなパーマがかかるのか?」
「あ、うん。まぁ見ての通り、かな。髪湿らせたまま三つ編みして一晩おいとくとこんなふうにパーマがかかるんだって、シズクが言うから昨日ちょっと試してみたわけ」
「ほー…?さすが、女は妙な事色々知ってんな」
ドライヤーも無しにどうやってやったのか不思議だったが、そういうカラクリか。なるほどな。
……とどこか感心したような顔でウボォーギンは懐に収まるケイリュースの、そのゆるくウェーブのかかったピンク頭を見下ろす。するとシャルナークが横から、さらに妙な事を突っ込んで来た。
「ってかさ、三つ編み解いたのってウボォーじゃないの?わかんなかった?」
「…ぁあ?知らねーぞ?お前が夕べ、みつあみ解いてからコイツをオレんトコに寄越したんじゃねーのか?」
「え?…いや、知らないよ?」
キョトンとした顔でシャルナークに言われ、ウボォーギンも怪訝そうに眉を顰める。…が、その瞬間にピンと鋭く働く勘があった。
「…………シャル。お前昨日あれから、団長見たか?」
ウボォーギンが夕べこのアジトに戻って来たその時に「…団長は?」と尋ねた際には、シャルナークは首を横に振り「見てないよ」と言った。
しかしその後、ウボォーギンが部屋に籠ってから夜中に目を覚ましたあの時間まで―――部屋で寝てた間はどうだろうか?
ウボォーギンの一言でシャルナークもピンと来たらしい。なるほどね、と笑い出した。
「たしかに。夜中に一度オレの部屋来たよ、団長。『ちょっと出てくる。早めに戻るが後を頼む』ってさ。オレも窓から見送りしたし、ホントすぐ出てったからその時は何とも思わなかったんだけど…。
その様子じゃ、オレの所来る前にケイに会って髪解いてったのかもね。……何?それでウボォーのトコにケイ置いてかれたの?w」
「ああそうだ!くっそ…、やっぱそうか!やられたぜ!もうちょっと警戒しときゃ、団長がケイをオレんトコに連れてきた時点でとっ捕まえる事もできたかもしんねーのに…!あーっくそ、油断した!!」
と、悔し紛れにバシッと胸の前で拳を叩くウボォーギン。すると耳元でしたその音に驚いたのか、それまでポケーッと自身の名を口にするウボォーギンを見上げていたケイリュースが、突然ビクッと肩を飛び上がらせて急に辺りを見回し始めた。
「どしたの、ケイ?w キョロキョロしてさ」とそれに気づいたシャルナークが半笑いで尋ねてくる。
「ダンチョー、イナイなったです。ずっとそば、ワタクシの…、一緒いてクレル言う、シタクレタ…、ノニ…。連れるスル…、良いトコロ、起きたシタら…ワタクシ、に、言うシタのに…。ダンチョー…、ボス、ナンデいないなったデス…」
「ははっ、やっぱり犯人は団長じゃんw 何、ケイ?団長に何言われたって?オレにも教えてくれる?」
良いトコロ、ってどういうこと?とシャルナークはケイリュースと目線を合わせ、さらに聞き返した。
すると説明を求められて嬉しいのか、ケイリュースは「教える?ワタクシが?イイの?」とはしゃぎ出した。
ウボォーギンはその横で、ただただ「ぬー…」と怒りを噛み締めるかのように歯を食いしばるばかりだ。
「ウフ、ウフフ…。そう、ボス…ボス、ダンチョー言う!クロロ!いうシタデスネ!くろろ…は、ダンチョー、ナンデくろろ?ワカラナイワタクシ…。デモ、デモー、ワタクシ寝るの、オキルした、トキの…!サムイ…したらボス、来たクレタデス!
ボス…ダンチョーは、イッパイやさしい…。ワタクシ可愛いいく言う、シタ!言うの、嬉しいスルワタクシに、きらきら、ダンチョー、ピンクいの…見て笑う、とるシタデス!一緒イルの…、シテクレルから、手!あたかい!安心!シタ!…から…ダンチョー、は良いトコロ、起キルしたらワタクシ、連れてって言うダカラ…、チャント寝る!した!シタデスネ!ワタクシ!」
「あ゛〜〜〜〜っ!だからわかんねーって言ってるじゃねぇか!興奮すんじゃねぇ!!」
「ア――ッ!?」
「いやいやw」
ぺちーん!と勢い良くデコピンで額を弾かれたケイリュースが、ウボォーギンの腕の中でもんどりうって悲鳴を上げる。
まあ、ケイに説明を求める方が悪かったかもねww と少し前の自分と似た感想を零しながらなだめてくるシャルナークに、ウボォーギンは「ったくよ…」と舌打ちで応えた。
――――とはいえ、ケイリュースのあまりにごちゃごちゃした主張に理解しようとするのをさっさと諦めたウボォーギンとは対照的に、シャルナークの方は落ち着いてきちんと聞く努力をした結果なんとなくは理解したようで、「"とる"ね…。そっかー"撮る"のしたんだーw ふーんww」などと笑っていたが――――ケイリュースを見下ろして1人ブツブツとクロロに対して文句を連ねていたウボォーギンの耳にはその声も届かなかったらしい。
そしてシャルナークも『面白いから黙っとこw』とその事に関してはそのまま口を閉ざしてしまったので、かなりのちにそれが大ごとになって返ってくるまでウボォーギンがその事に気づくことは無かった。
「ううぅ…」
「あーあ、しょうがないなー。ほらケイ、これあげるから元気出しなって」
そう言って素知らぬ顔でとびきりさわやかに笑って、シャルナークは両手に二つずつ持っていたスープ入りのマグカップを、赤い痕の残る額を涙目で撫でていたケイリュースの目の前にスッと全部そろえて差し出した。
……それ、お前がよく女をカモるときにしてる顔だな。とウボォーギンが横で突っ込んでいたのも聞こえないふりをして。
「うう…?なぁに…?しゃるなーく、笑う、スルの…は、ナンデ?カップ、これ、ワタクシ、に、すーぷくれるスルデス…?ナニ…?ワタクシの?これ、スープ、ワタクシのもの、シテ良いデス…?」
「そうだよー。あ、でも1個だけね。好きなカップ選びなよ。まだあったかいから気を付けて」
「ウフフ。カップ…。ワタクシ、好きのカップ、選ぶ、シテイイも良いです…?ワタクシのかっぷ?選んでイイの?デスカ?ウフ。嬉しい…。ワタクシこれ…。これワタクシの、シタイ…」
「そう?じゃあこれが君のカップね」
「ん?んん…。ウフ」
「中身入ってるからね?ホント気を付けなよ?」
と…中身の入ったマグカップをシャルナークから手渡され、ケイリュースはすっかり機嫌を直した風情で笑った。
「ケイ、ホント扱いやすいw」とそれを見てシャルナークはまた笑い、その後で「じゃ、これがウボォーの分ね」と手に残っていた三つのマグカップから一つをウボォーギンの前に差し出す。
「…あ、あとこれも」
「あん?」
マグカップを手渡した後、カップを持った手にかけてた薄汚いビニール袋を「取ってくれ」とばかりにウボォーギンの前に出してくる。
受け取ってみれば袋の中には、少し固めの黒パンが4切れ。
「なんだこりゃ?パンか。4枚入ってるがどうすんだ」
「そりゃもちろん、1人1枚だろ?」
「ならオレとお前とケイで1枚余るだろ。もらっていいか?」
「何言ってるのさ。シズクの分だよ」
「あ…おお、そうか。忘れてたぜ」
足りねーんだよな、パン1個にスープ1杯ぐらいのメシだと。…なんて文句を零しながら、ウボォーギンはごそごそとビニール袋を漁る。
そして「じゃあオレと、ケイの分。な?」とパンを2枚取り出して、これ見よがしにシャルナークの前に見せびらかした。
隙あればケイリュースの分と称した1枚も自分の腹に収める気満々であることは早々にシャルナークに看破されてしまっていたが、いつもの事だと思われているのか特に嫌味を言われることも無かったので、ウボォーギンも知らん顔でそのまま2枚のパンを自らの物にした。
それからまずは、間違いなく自分の分である1枚と1杯を―――パンはもしゃもしゃ二口で押し込み、身体と釣り合ってる気がしない小さなマグカップの中身はグイッと一気に飲み干して終わらせる。
そしてケイリュースの分であるもう1枚のパンをいつ口の中に入れてしまおうかと件の馬鹿の様子をうかがうと、いまだに手にしたスープを一口も飲んでいない事に気づいてウボォーギンは面食らった。
両手に抱えたマグカップを、ケイリュースは何がそんなに気になるのかというぐらいにジーッと見つめ続けていた。
―――そりゃ確かに、間に合わせの平皿やどんぶりでスープすすってた昨日までよか全然飲み易そうではあるけどよ。何事だよ…。とウボォーギンに観察されているのにも気づかず、しばらくすると手にしたマグカップを眺めるのにも満足したのかケイリュースはニコニコと目を細めて笑い出して。
ウフフ、ウフフフと足までプラプラと揺らしながら、ふちの少し欠けたマグカップを宝物を持つように大事そうに抱えて、とても嬉しそうにふーふーと、ぬるくなって消えかけの湯気を吹き始めた。
「……おいしいかい?ケイ」
マグカップのスープを一口、音を立ててすすったケイリュースにシャルナークが笑顔で尋ねてくる。
ケイリュースはカップに口を付けたまま、コクコクと頷いてそれに応える。
「うー。おいふぃ!ワタクシ、ワタクシ…、ウフ。イツモ、ワタクシさぷ、さぷりめんと、と…ゼリー食べる…仕事、のアイマ…。おいしぃクナイ…デモ、時間ナイのから…。お金ない、ワタクシシテタカラ。
りゅうせいがいは、すーぷ…。あた、た…たカイの!味アル…、おいしいデスネ!好き。ウフ」
「へー、そうなんだ。それは良かった。でもこんなのでそんなに喜んでもらえるなんて、なんかケイの以前の食生活が忍ばれるよw」
「ソウ。そう、よろこぶしたワタクシ。ウフフ。良いデス。ウフフフ」
と、シャルナークはケイリュースを撫でて、互いにニコニコと笑い合う。
ウボォーギンはそれを見てなんだか面白くなさそうに口をへの字に曲げていた。
独占していたケイリュースの分のパンを横目に見て、手に持っていたそれをぷらぷらと振る。
シャルナークにだけコイツを喜ばせる役目をやっておくのも惜しいというか……、今の今まで自分の事しか見ていなかったケイリュースの興味がシャルナークから渡されたカップ1個ごときに全部持っていかれたのが癪に障るというか。
なんとなく面白くない。
「……おいケイ。スープもいいが、パンもやるぜ。お前の分だ」
そう言ってウボォーギンは、マグカップに鼻先を突っ込んでいたケイリュースのピンク頭をがしゃがしゃと混ぜっ返した。
そして「アゥー」と困った顔を上げるケイリュースの鼻先にすかさずパンを見せつけて、目の前でそれを振る。
するとケイリュースはいつかと同じくパーッと顔の周りに大きな花を咲かせて喜んだ。
その顔のまま大きく口を開けて嬉しそうにパンに噛みついてこようとするので、ウボォーギンは『ドーブツかお前は。』なんて内心突っ込みつつ――――少し意地悪をしたくなって、寸前でひょいっとパンを退いた。
ケイリュースの並びの良い歯がガチンと火花が出そうなくらい強く空を噛む。
「………う?」
「ガハハハ!ワリーワリー。ほれ、今度はちゃんと食わせてやるぜ?」
目をぱちくりさせて無傷のパンを前に首を傾げるケイリュースの馬鹿ヅラは、狸か兎か…相変わらず小動物のようでちょっとばかり可愛い。
ウボォーギンはそれで気分を持ち直し、上機嫌にニヤリと笑った。
そして頭の上にハテナを掲げるケイリュースの唇に『イタズラして悪かったな』とパンをぺとぺと押し付ける。
途端にケイリュースも嬉しそうに笑って、さきほどよりは穏便に、ウボォーギンが持っていたパンにかぶりついてきた。
そのまま目を細めて幸せそうにモフモフと口だけでパンを食べ進めていくケイリュース。
……マジでドーブツかお前w
コイツの馬鹿っぷりは本当どうしようもねーな、とニヤニヤそれを眺めていたら、視界の端でシャナークが必死に笑いをこらえて体を折っているのが見えて、ウボォーギンは再び不機嫌そうに口を曲げる。
「………ンだその顔。何気色悪ィ笑い方してやがる、シャル?」
「……いや、ゴメン…wでも、…ぶっ…くくww…ゴメン。だってウボォー、ホンット面白いなーって思ってww」
「あ?…何が面白いってんだ?」
尋ねたその瞬間に、なにか嫌な予感はした。
自身の勘がそう言っていた。
……が、とりあえずは平静を装って、ウボォーギンはシャルナークをジト目で睨み返した。
しかしシャルナークはいうとそんなウボォーギンを見てはさらに楽しそうに笑い出す。
「いや、何がってさー。だってウボォーってば、さっきからずっとケイの事見てるじゃん。横からオレにちょっかい出されるのそんなに気になった?すっげぇ面白いんだけどw」
「チッ…。うるっせーな。そんなんじゃねーよ」
「でもケイの事は好きだろ?」
「嫌いじゃねぇってだけだ。いいからお前ももう黙ってメシ食え」
「はいはいw」
と、クスクスと零しながら、シャルナークは自身の分とシズク分のマグカップと袋に入ったままのパン2枚を持って辺りを見回し、座れる場所を探し始める。
そのシャルナークの横顔に向かってウボォーギンは『別にそんなずっとなんて見てねーし。』などと心の中で言い訳をしつつ、目線は再びケイリュースの方へ。
見ればケイリュースは先ほどと変わらずモムモムとマイペースにパンを食べ進めているところだった。
じーっと見ているとその視線に気づいたのか、ケイリュースは顔を上げてにっこりと微笑んできた。
「んフ!んふぉーひん!おいふぃ…ふぁん!あなふぁくれた、ふぁん…ふぁ、おいふぃ!ワハフヒ、ふぁんもふひ…。んふぉーひん、くれたふぁん、ふき!んふ。ヒライ、ひゃないふぁ…ヒガウれふ…。嫌いふぁ、ナイふぉ!ふき…。ワファフヒ、ふぁくさん!ふぁふふぁん、んふぉーひん、あなふぁ…ふひヘス!フフフ…」
「ふふふ、じゃねーよ。秋口のリスみてーなツラで何喋ってやがる。ちゃんと口ん中のモン飲み込んでから言え。全然わかんねーんだっつーの」
「わふぁんな…?わふぁふひわ、…まぅー」
パンを口いっぱいに頬張ったままモゴモゴとなにか言っているケイリュース。
おそらくまた余計な事を喋っているだろうことを勘で察知したウボォーギンは、黙らせる代わりにぐいぐいと残りのパンをその口へと押し込んだ。
「そういやシャル、お前シズクはどこ行ったか知ってるのか?」
「んー?」
懐でけっふけっふと口の中のパンを吐くケイリュースを無視して、ウボォーギンは近場に落ちていたコンクリート片に腰掛けマグカップを傾けるシャルナークに尋ねる。
石材に座るシャルナークの身体の影には、まるでウボォーギンの目から隠すかのようにシズク分のパンとマグカップが確保されていた。
それを指差して、「メシ時に戻って来ねぇことはそれ、いらねーって事だろ?」と暗に寄越せと言ってみる。
「いやいや、シズクも後でちゃんと来るって。朝食前になんか探し物するって言ってたから」
「あ?探し物?なんだよ探し物って」
「さあね。ケイの髪弄くるのに『ブラシ欲しい』ってのは昨日聞いたけど。それじゃない?」
ちなみにこのマグも拾い物。とシャルナークは手に持っていたマグカップを掲げて見せる。
ケイリュースが今両手で抱えているそれと、ウボォーギンが先ほど中身を飲み干した空のマグカップもおそらくはそうなのだろう。
「ふーん…。ま、こんだけ長けりゃ、そりゃブラシはあった方が良いだろうけどよ」
女ってのはオシャレとかめんどくせー事好きだよな、とケイリュースの長い後ろ髪を腕に絡めて持ち上げるウボォーギン。
その間もケイリュースは苦しそうに、けひゅっ、くひっ、と変な咳を繰り返していたので、さすがに見かねて「…大丈夫か?」と背中をドンドンと手で叩いてやり始めた。
力加減が下手なのか、シャルナークの目にはなおさらケイリュースが苦しんでいるようにも見えたが、面白いので黙っていた。
「…3人で何やってるの?」
なんとか無事にパンを喉から吐き出せたものの、乱暴にされたせいかすっかりしょぼくれてしまったケイリュースのピンク頭を、ウボォーギンが「悪かったって」とまたぐりぐり撫でていると――――
噂をすればなんとやらで、シズクが普段通り手ぶらのままでゴミ山の方角からひょっこりと姿を現した。
「何って…、見ての通りウボォーがケイとイチャイチャしてるんだよ」
「あ!?どこがだ!イチャイチャなんてしてねーだろ、何回言わす!」
「あっはww冗談だってw怒んないでよ。……それよりシズク。危なかったよ、もう少しでシズクの分のパン、ウボォーに盗られるトコだったんだから」
「え、ひどいウボォー」
「ちっ…くそ…。なんだよ、お前の方こそ朝っぱらからメシも忘れて、結局何探してきたんだよ」
バツが悪いのか話題を逸らすかのようにウボォーギンから「何も持ってねーじゃねぇか」と突っ込まれて、シズクは口を尖らせて「ちゃんといろいろ探してきたよ」と反論する。
そして手ぶらだったその手に自身の念能力である金魚型掃除機もとい『デメちゃん』を具現化させた。
それを見てウボォーギンとシャルナークはほぼ同時に、あぁそういえばそれがあったな、的な事を思う。
「ケイの髪まとめる用にブラシと、一昨日ウボォーが壊しちゃった椅子の代わりと、あとケイのベッドとかソファも探してきたよ」
「ベッ…;」
「プッww」
固まるウボォーギンと途端に吹き出すシャルナークをよそに、シズクは淡々とした表情で具現化したデメの口から今言った4品を吐き出させた。
いくつか歯の抜けたヘアブラシと、ところどころ真新しい傷は見られるが造り自体は頑丈そうなチョコレートカラーのクエーカーチェア、背もたれや肘掛部分が擦り切れて破れかけている2人掛けの合皮のソファ、そしてシングルサイズのパイプベッド。
流星街で手に入ったにしてはどれも十分上等な部類に入る代物だった。
しかしそれらを―――歩み寄って来て、腕組みしながら特にベッドを見下ろして、「エー?w」とシャルナークが愉快そうにだがどことなく不満がにじんだような、そんな声を漏らす。
「…何?シャル」
「いやぁ…せっかく探してきたトコ言っちゃ悪いけどさぁ、シングルのパイプベッドじゃケイ1人なら良くてもウボォーの体重まで支えきれなくない?w せめてダブルでしょー、それも出来れば木製の。分かってないなぁシズク」
「あ、そうか」
「『あ、そうか』じゃねーだろシズク…。そんでもってシャル。お前も、速攻でオレとケイとベッドとを絡めるんじゃねぇ」
絶対ろくでもねーこと言い出すだろ…と思って見ていたら案の定だったので、呆れ半分・怒り半分の表情で苦言を漏らすウボォーギン。
次言ったらぶん殴るぞ、とばかりにドラム缶から立ち上がった。
太腿の上に座っていたケイリュースを、ひょいっと片腕で抱き上げてベッドサイドに立つシャルナークの傍へのしのしと寄ってくる。
シャルナークは「うわぁ怖いw」などと肩をすくめて、それでも顔だけは楽しそうに笑っていた。
「…ぅう?ナニ?うぼぉーぎん。ベッド…?これ、は…ベッドなのデス?」
「そうだよ、ケイ。今日からこれが君の夜の陣地w 後で部屋に入れてあげるよ」
「ソウ?…ウフ。ワタクシ、のベッドです?デモ、デモー、これ、は…ワタクシ知るのシテル、ベッドは違うデスネ?」
と、不思議そうに首をかしげつつ、ケイリュースはマグカップを握ったままパタパタとベッドへ手を伸ばす。
そんなケイリュースを見て何がしたいのかをなんとなく理解したウボォーギンは、「零すぞ」とまずケイリュースの手の中のマグカップを抜き取ってから、ケイリュースの身体をパイプベッドの上へと降ろしてやった。
マットも無くむき出しになったワイヤーメッシュの寝床の上に降ろされたケイリュースは、きょろきょろと尻の下を見回したあと妙に不安そうに近くのシャルナークを見上げて来た。
どうやらワイヤーメッシュの寝床部分を、スカスカのハンモックベッドかなにかと勘違いしているらしかったが―――
「どうかした?ケイ?何か気になる?w」とその理由を察しつつもあえてシャルナークはケイリュースに訊く。
まるでケイリュースがどういう受け答えをするのかを楽しみにしてるような顔で。
「うぅ…ベッド…。ホントウ、…これ、ベッド…は、真実なのです?ワタクシ知るのはチガウ、ワタクシのいえ、ベッド…も、ベッドとは、本当のは、違うシテタ…ケド…。
デモー、ベッド…。べっど、は…ふかふか…モット、あたかい違うデス?これ、べっどは…糸。糸ダケ…のカラ、おしりイタイのし…、サムイ。すかすかデスネ。寒い、は…イタイのは、べっどナナイデス」
「スカスカの糸だけって…、それそのまま寝床にするわけじゃないからww マットになるものは後でオレが探してきてあげるよ。そうしたらきっとケイの知ってるちゃんとしたベッドになるってw」
もー、ホントしょうがないなーwとシャルナークは笑いを零しながら、ケイリュースの頭の足りなさを愛でるように撫でた。
するとケイリュースはなおさら"わけがわからない"という様子で、頭上にハテナをいくつも浮かべて尻の下のワイヤーメッシュに見入ってしまう。
「うう…。まっと…アルと、すかすか…は、ベッドナルです?ナンデ?どこのヘン?べっど…なるの?ナルデス?ホントウ?ワカラナイ、ワタクシ…。すかすか…は、サムイ…は、…デモ、デモー。…ウフ。
ウボォーギンの…、ワタクシ一緒イテクレルなら、あった…たカイ…カラ。だいじょうぶの!ベッドは、ナイシテも良いデスネ。アナタ…うぼーぎんが、そば、ワタクシの…、居てくれるスルナラ…。ワタクシ、は…あたかい…。べっど…、ナイデモ良いデス…。
アナタいるナラ、ワタクシ何もいらないの…。うぼぉーぎん、すき…。抱くのシテ…」
それまでの不思議そうで不安そうな表情が突然切り替わり、クスクスと口元を両手で押さえ楽しそうに笑い出したケイリュース。
先ほどベッドに向かってしたように、今度はウボォーギンに向けて両の手のひらを見せながら、身体を縦に揺すって再度の抱っこをせがんで来た。
いつものこととはいえその唐突なまでの熱烈ラブコールに、当のウボォーギンは不意を突かれたのか、こっそり口にしかけていたケイリュースのマグカップの中身をブッと噴き出した。
手の甲で口元を拭いながら「あのなぁ…;」と戸惑った表情を見せるウボォーギンを、シャルナークは『ヤレヤレw』とばかりに苦笑いで肩をすくめる。
ちなみにシズクはいつも通り後ろ手を組み、真顔でケイリュースを見るのみだ。
「それにしても、ケイってば毎日アッツイなーw日ごとにラブ度上がるとかどういうフラグ管理の仕方してるのかな。絶対壊れてるよ。…あ、ケイがバグってるのは元からだっけww」
「うるせーよ。お前こそ何言ってっか全然わかんね」
「ケイの恋愛って本当、情熱的だよね。こういうストレートに好きって言える所はちょっとうらやましいかも」
「いやいや、うらやましいって何言ってるんだよw シズクだって結構なんでもズケズケストレートに言う方じゃん。
…あ、でも好きとかそういう事も雰囲気考えずに真顔で淡々と言い出したりしそうで、恋人からしたらスゲー白けるかもねw そんな物好きな相手がいればの話だけど」
「………デメちゃん」
「ちょww冗談だろ、じょうだん!」
「冗談でも、女の子に言って良い事と悪い事があるよ」
「女の子ってw 自分で言…うぉわ!?」
パッと手に具現化した金魚型掃除機を、一言以上余計なシャルナークに向かって振り下ろしたシズク。
そのまま、「団員同士マジ切れは禁止だろー?w」と逃げるシャルナークを掃除機を引きながら軽快に追いかけ回す。
その隙にウボォーギンはケイリュースを元の通りその腕に抱き上げ直し、シャルナークとシズクの追いかけっこを眺めては愉快気にガハハと笑い出した。
「ったく…。何やってんだお前らw」
「ウフフ。シャルナーク。ナニ楽しそう?ワタクシも、わたくし…、も、混ざるシタイデスネ…うぼぉーぎん。ウフフフ」
シャルナークを指差し、ケイリュースがぺたぺたとウボォーギンの肩を叩いてそう訴えてくる。
前日、同じような追いかけっこの末クロロに勝ち逃げされたその憂さを晴らそうというのか、ウボォーギンはニヤリと笑ってケイリュースからのその提案に飛び乗った。
「おーし。じゃあオレ達も今日はシャルの奴追いかけて遊ぶか、ケイ」
「うー!あそぶ、良いデスネ!しゃるなーく!シタイ!」
「遊んでるわけじゃないからww 馬鹿な事言ってないで止めてくれよウボォー!」
「ハハ!何言ってやがる。毎度毎度、全部お前の軽口が原因なんじゃねーかw」
「あ!!もしかしてウボォーもそれ、根に持ってる!?」
もー、悪かったってば!と2、3日前にウボォーギンをからかって怒らせてしまったことを再度大声で謝罪するシャルナーク。
ウボォーギンの「冗談だ」とでも言うかのような豪快な笑い声が、ケイリュースのはしゃぐ声と共に石造りの建物に反響して聞こえるのだった。
(3)へつづく
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こんなほのぼのしててえろちゃんと入れるんだろうか…
すもも