メルフォぽちお礼 ◆こらぼる×ピンクメドゥシアナ×spiritless spider
※時間軸キニシナイ





"格闘技の聖地"―――天空闘技場。

場下の露店街ですら各地の筋肉自慢たちがその大きな肉体を揺らし歩く姿をそこかしこに見かける中、そんな闘士達をも軽く凌駕する2メートル越えの恵体で堂々闊歩する大男がいた。

ウボォーギンだ。



格闘技の聖地なんて仰々しい名前には前々から多少の興味を引かれていたウボォーギン。

しばらくは旅団として大暴れの呼び出しも無く、暇を持て余した挙句の思い付きで「……行ってみっか」とやってきたのだ。



しかし『欲しいものは奪い取る』が身上のウボォーギンとしてはもちろんお行儀よく列に並んで1階からちまちま挑戦する気など一切無く。

高額の観戦チケットを、持っていた奴から盗み取り、試合に乱入するつもりで適当に会場入りしてみたものの思ったようなレベルの強者は見当たらず。


この場所で一番強いと噂のバトルオリンピア優勝者の女とは一度闘(や)りあってみたいと思ってはいたが、肝心の天空闘技場自体の試合のレベルが低すぎて、この分じゃ例えトップランカーっつっても望み薄だな、と観客席を立った。


「"ただの"格闘王に用はねぇんだよなぁ…」と下界へ降りて早々、ウボォーギンはその興味を闘争本能から食欲へ―――露店街の屋台グルメへとすっかりと移してしまった。



何より、懐に抱えた小さな"ペット"にとっては赤の他人のショボい試合を付き合いで見せられているよりは、自らの舌で体験できるグルメ巡りの方がよっぽど良いだろう…と。


ここへ来る前からずっとその右腕に抱えていた痩せた尻の持ち主―――

淡いストロベリーブロンドのポニーテールをゆらゆらと揺らし、厚めにスライスしたパンに照り焼きチキンとスライストマト、レタスを挟んだサンドイッチを実に満足そうな顔でふくふく頬張るケイリュースを見て、ウボォーギンは自身の判断が間違っていなかったことに自信を持った。



「ふん…w ケイお前、何ニタニタしながら食ってんだ。そんなに旨ぇのか?」


照り焼きのタレとマヨネーズで口周りと指先を汚しながらサンドイッチを咀嚼していたケイリュースにそう尋ねる。

するとケイリュースはとたんにパァッと花が咲いたような満面の笑顔(ウボォーギンに言わせれば馬鹿ヅラ)をウボォーギンへと向けてきた。


「ウン、…うん!うめぇ!デス!ウフフ。パンおいしい…。ふふ。うぼぉーぎん、も…アナタ、おいしい…。食べるシタイシタ?おいしい…アナタ、も…スル?食べるを、アナタ一緒シマスカ?」

「あ?」


そう言ってケイリュースはウボォーギンの口の前に食べかけのサンドイッチの包み紙を差し出してくる。

ウボォーギンはケイリュースのニコニコ顔と目の前に差し出されたサンドイッチを交互に見やり――――


少し間を開けた後、ガバァッと唐突にそれに食いついて一飲みにした。



勢いにびっくりしたのかケイリュースは大きくのけぞり気味に飛び上がり。

そしてそのまま、"ちょっと一口"どころか包み紙だけを残して丸々姿を消してしまったエア・サンドイッチを手に目を丸く見開いて固まってしまった。


そんなケイリュースを見て、『予想通り過ぎる反応するんじゃねーよww』とウボォーギンは楽しそうに笑い出す。



「ハハハハッ。悪かったな、驚かしてよ。別の旨ぇモンも買ってやるから元気出せ?な、ケイ?」


固まるケイリュースに再起動を促すように、右腕に抱えた尻をゆさゆさと上下に揺する。

その上でウボォーギンは、「オラ、あっちのチョコバナナとかいうヤツも旨ぇんだぜ?」と先の屋台を指差してケイリュースの興味を引いていく。

固まっていたケイリュースは「うぅ」と漏らして困った表情を見せてから、ウボォーギンの指差す先を見やり、それからウボォーギンの顔に戻ってじーっとそこを見つめてきた。


顔中に刺さる熱視線にたまらず「なんだよw」とばかりに軽い頭突きを身体に喰らわすと、構われて嬉しいのかそれともくすぐったかったのか、ケイリュースは肩をすくめクスクスと笑い出した。



「ウフフ。ふふ。チョコ…。ちょこばなな…?ちょこ…はチョコレート、デスネー。ワタクシは、知る…を、チョコレート…。チョコレート、はー、好き、をワタクシシタいたデス。アマイ…おいしいチョコレート、仕事の合間…ワタクシもらうシタ…。おやつ、おいしい…、ときどきデキタデス…。
 ばなな……。バナなは知らナイの、ばななナニデス?食べるデキルのもの、言うデスカ?…ふふふ。
 うぼーぎん、は…たくさん物知り…。ワタクシ知る無いシテルを、たくさん知っテイルのデスネ……。それ、のは、すごい。ナンデモ知るシテルは、いっぱい…タクサンの、スゴイー、デスネ!いっぱい物知りは、頭イイシテル…。それ、は…、アナタ、スゴク格好イイ、思う…。ワタクシ、は…、わたくしは…、ナニも知らナイ…シテルデス…。それ、のはワタクシ…、ばか、だから……。
 デモ、デモー。アナタ、ワタクシに教える、シテクレルデス?ばなな…、なに、ワタクシ教えるシテ、それ、は、スゴク良い思うデスネ。ワタクシの知らナイ…、おいしいも、楽シイ、も…、アナタ知る…。それを、モット、ワタクシ…。ウボォーギン、アナタ…、たくさん、ワタクシと…。アナタすごい…、もっとオシエテ下サイ…。ふふふ…」

「ふふん。ったく…毎度毎度気持ちよーく褒め殺しにしてきやがってw
 おーし。だったら今日はいろんな旨ぇモンいっぱい教えてやるぜ、ケイ。遠慮せずなんでも言えよ?お前の食いてぇモンぜんっぶ、オレが奢ってやるからな?…ま、財布はオレんじゃねーけどな!ハハハハ!!」

「ウフフ。ナァニ?エンリョ?おいしい?いっぱい、は腹…、いっぱいタクサンデス?オイシイのモノ、シテルは、…ナニ?じぇらーと?デスカ?アイスクリーム…?」

「おう、アイスクリームでもジェラートでもチョコレートでもなんでもいいぜ。お前の食いたいモン買ってやるし、なんなら盗っても来てやるからよ。
 旨ぇモンたらふく食って体力つけて、……そんで夜は夜でどっかでしっぽりしてから流星街に帰ろうぜ。良いだろ?」

「ふふふふ。良いデスネ。おいしい、も…、こうシテ、うぼーぎんが、アナタ…一緒…、ナノハー、とても、スゴク、ワタクシしあわせ、イイデスネ…。フフフフ…」

「…んだそりゃ?ホントにお前、意味わかってんのか?」


ガハハ、とウボォーギンは大きく笑う。

するとそれにつられるように、ケイリュースもまた"分かっている"のかいないのかニコニコと楽しそうな笑みをウボォーギンへと向けてくる。

そんなケイリュースの華のような笑顔を見てなおさらご機嫌な表情になったウボォーギンは、腕に抱えたケイリュースの頭をくしゃくしゃと撫でてやり、そしてまずは手近な食べ物の屋台をきょろきょろとその場で探す。



―――――が。


良さそうな屋台を見つけそこへ歩き出そうとした瞬間、脚になにか妙なくすぐったさを感じて、ウボォーギンは「ん?」と視線を下へと移した。


見れば、右肩にウボォーギンも見慣れたような蜘蛛のイレズミ―――12本ではなく脚が8本、さらにはその腹にはナンバーではなく見慣れない髑髏が描かれていたが―――をした小さな少年が、目を閉じたままなぜか手で確かめるかのようにウボォーギンの丸太のような太ももをぺたぺたと触っていた。

「なにやってんだこのチビ?」と首根っこを掴んで持ち上げると、少年は心底驚いたように「わ―――――!!??」と大きな悲鳴を上げた。



「木じゃない―――――!!?何―――!?熊――――!!?」

「ガハハハハッ!!誰が熊だ!つーか木でもねーよ、ちゃんと人間だぜ?なんだお前?」


ケイリュースを抱きかかえる腕とは反対の腕に、器用に少年の身体を抱き上げ、ウボォーギンは豪快に笑う。

するとウボォーギンのその笑い声に呼応するように、ケイリュースもまたニコニコ笑って「木!ウフフ!木です?木!くま!ウボォーギン!」とウボォーギンの肩をペチペチ叩いてはしゃぎ出した。


「だから木じゃねーっつの!お前もウッキウキでこだましてんじゃねーよ、ケイ」

「おぅう」


仕返し代わりに、抱き上げているケイリュースの尻を上下に激しくシェイク。

大人しくなったところで、それからウボォーギンはズイッと少年に向き直った。



「おうなんだチビ。お前オレの事、木だと思ったのか?…なんだ、お前目ぇ悪ィのか?ん?」


先ほどからずっと目を閉じたままの少年の額に、自らの額をぐりぐりと押し付けながらウボォーギンは尋ねる。

ケイリュースはキョトンとした顔でウボォーギンにしがみつきそれを見ていたが―――その途中からなにやら空中にある何かに気付いてパタパタと手を伸ばして遊び始めた。



「ん――――、そ―――。オレ、目見えないの―――。頑丈でー、でかくてどっしりしてるから―――、木だと思った〜〜。こんなところに木なんてなかったはずなのに―――って!ごめん―――――」

「おう、ハハハなるほどな。じゃあしょうがねえ、謝ったなら許してやるぜ?お前、名前なんてんだ?」

「ん―――?オレの名前ー?ラッカーだよ――――!熊さんの名前は―――?聞いても良い――――?」

「熊じゃねーよw オレぁウボォーギンだ。ウボォーで良いぜ。ちなみにこっちのピンク髪はケイリュースって……、ああ悪ィ。目ェ見えてねーんだったな」

「ん―――、大丈夫ー!ピンク色は、わかんないけどー、髪の長い女の人そこにいる―――。ウボォーの腕でーだっこされて―――――、ウボォーの恋人の人――――?」


ラッカーがそう言ってケイリュースを指差す。

急に指を差されたケイリュースはビクッとした後、もじもじと恥ずかしそうに手を擦り合わせて身体を左右に揺らし始める。


「…ウフ。ふふふ。ワタクシうぼぉーぎんの、こいびと?コイビトの、言うサレルは…、ウフフ。チョト嬉しい気持ち、ワタクシシテルデスネ!フフフ。こいびと…コイビト見える?ワタクシ、アナタと…。ウボォーギンと……。ふふふ。ラッカー…言うあなた、怖い…はシナイ…、イイデスネ。
 …デモ、デモー、ヒトツだけ…、ワタクシおんな、女は違ウ、の…。こんな、髪はシテル、長い…ダケド…、おんなはちがうの、ワタクシおとこデス。
 デモ、うぼぉーぎんとこいびとのは、言うサレルは嬉シイ…。おとこ、ダケド…ワタクシ、ズットアナタ一緒いて、ワタクシイイデス?ヘン見える、シナイデスカ?恋人イイ?ふふふ…」

「ん――――…?なんかよくわかんないや…。でも、喜んでるのかなぁ――――?喋るの苦手の人ー?外国の人なの――――?」


困ったように首をかしげ言うラッカー。

『ま、確かに慣れねーと難しいよな』とウボォーギンもうんうんとそれに頷き、「オレでもたまにわかんねー時あるから、適当に聞き流しとけ」と笑ってアドバイスした。


それを聞きつけたケイリュースに、「ナンデ?ナンデ?聞く流すはダメ、ナンデアナタ、聞くを、チャントワタクシシテクダサイ…、ううー」などと抗議のつもりかグイグイと腕を押されるが、ウボォーギンはそれを軽く無視し。

「…つーかそれよりお前、目ェ見えてねーのによくケイの髪が長いってのに気づいたな?」と、ラッカーに続けて尋ねた。



「あー、うん―――。オレ、目見えないけど―――、『円』―――?んー…ホントは円じゃないけどー、そういうの使えるから――――!見えないけど、ちゃんとわかるんだよ――――!」

「ほー?スゲーじゃねーか。お前、その歳で円なんか使えんのか」


言われて目を凝らしてみるとたしかに何本もの細いオーラの糸が、ふわふわと軽そうにだが『円』とほぼ同じ要領でラッカーの身体から周囲に向けて放たれているのが見えた。

ウボォーギンの大きな肉体(からだ)やケイリュースの長い髪にぺたりぺたりとくっつく蜘蛛の糸のようなそれ。


この細いオーラの糸が、おそらくはラッカーの言う"円のようなもの"なのだろう。

敵意は無い。ウボォーギンはそれほど気になりもしなかったが、ケイリュースが先ほどなにやら空中をかきかきと掻いて遊んでいたのは、もしかしたらこの糸が気になったせいだったのか。



「なるほどな。ガキのくせになかなか見どころあるじゃねーか。…あ、もしかしてお前、闘技場(ここ)の闘士か?」


先ほど入った会場には能力者と呼べるような人間は1人も見当たらなかったが、いるところにはやはり念能力者もいるんだな、とウボォーギンはちょっとだけ闘技場の事を"嘗めていた"その認識を改める。



「うん、そーだよ――――。そういうウボォーも闘士なの―――――?でかくてー、堅くてたくましくてー、絶対強いやつだ――――!すごい――――!何勝してるの―――――!?
 強くてでかい――のは、すごい良いな―――。オレ、ちびだから―――、ウボォーぐらいムキムキしてるのは、格好いくて、うらやましい―――――。オレもねー、そういうのなりたいの――――」


「ガハハハハ!なんだ、お前も褒め上手か!…おしおし、いいぜ、気に入った!お前にもなんかうめーもん奢ってやるからよ。好きなモンなんでも頼んで良いぜ、ラッカー!」

「え――――!?マジ――――!?」

「おう、マジだぜ。つーかお前ここの闘士なら、どこの屋台の何が旨ぇかとかよく知ってるだろ?コイツに教えてやってくれよ」


そう言ってウボォーギンは右腕に抱えていたケイリュースの尻をまたゆさゆさと上下に揺すった。

ウボォーギンへの抗議で、ずっと1人でふにゅふにゅとよくわからない言語の文句を連ねながらささやかに暴れていたケイリュースが、それで「……ぅう?」と再起動する。

思考がリセットされたのか何が起こったのか理解できずに、目をぱちぱちと瞬かせポカーンと固まってしまった。


そんなケイリュースの様子に気付かないまま、ラッカーは『やったー!』とばかりに両手を上に挙げ喜ぶ。


「えっとー、じゃあ―――、オレのおすすめはねー!チョコレートサンデー!向こうにおいしいお店あるんだよ―――。あと、クッキークランチと―――、焼きドーナツのおいしいパン屋さんがあってね―――?」

「…ウフフ。……なあに?ちょこデス?チョコレートを、クッキー…。おいしいパンは、ワタクシ好きデス!ウフフフ。さんでー?サンデーなに?さんでー、は、ナニデス?くらんち!うぼぉーぎん!チョコ!どなつ?ウフフ!ふふふ!」


知っている菓子の名前を聞いて再びニコニコしながらペチペチウボォーギンの肩を叩いてはしゃぎ出したケイリュース。

「わかったわかった。うるせーな」とウボォーギンはそれを抱き留め、懐に押し付けて大人しくさせる。


「んーと―――、チョコレートサンデーはね―――!アイスクリームに生クリームとフルーツとー、チョコレートのパフェみたいなー?」

「ふふ!ぱへ!変なまえデスネ!フフフフ!ぱふぇー、ナニ?ナニデス!?おいしい?ぱふぇ、らっかー!アナタうぼーぎん!!」

「だから叩くんじゃねぇっつーの。…しっかしなんだ、菓子ばっかりじゃねーか。ま、ケイにはその方が良いだろうからいいけどよ。にしてもお前見てるとなーんかこう…妙にウチの4番(バカ)思い出すな、ラッカー」

「ん――?誰って――――?」

「ああ、なんでもねぇぜ。こっちの話だ、気にすんな」


ガハハ!と再び豪快に笑って、ウボォーギンは歩き出す。その両腕にそれぞれ小さな動物を抱えたまま。

天空闘技場の場下でどことなく悪目立ちしながらも本人たちは全くそれを意に介さず、ラッカーの案内を元にただただ楽しそうに歩いていくのだった。









メルフォのぽちぽちありがとうございました!!


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ケイちゃんが流星街を出歩いている時点で時系列行方不明です!闘技場女王とか蜘蛛元4番の話題もあったり、あまり深く考えない方が良い(死)
設定的にはピンクメドゥシアナ番外編「7日目」コイビトまで読んでないと分かりづらいかも。とりあえずラブラブなんだな、と認識してもらえればそれで…笑
そしてコラボと言いつつ主人公同士がどっちもマイペースすぎてあまり絡んでない(それぞれウボォーとしか絡んでない)という…

すもも

TopDream小ネタ短編集◆こらぼる×ピンクメドゥシアナ×spiritless spider
ももももも。