メルフォぽちお礼 ◆こらぼる×double style×silver fang
お題「あいたいあいたいあいたいいますぐあいにこい!」silver fang番外編「とある日のゾル家・4」が前提。時間軸?ワカラナイ









「…んん…」


完全な遮光ではないカーテンから差しこむ日差しの明るさに負けて、今日も僕は天空闘技場200階クラスのスイートルームの大きなベッドで目を覚ました。

昨晩に枕元の棚の上で充電器に置いた携帯を、ベッドの中から手探りで取り上げて時間を確認する。

6時30分か…、まあいい時間かな。


ボーっとした頭を覚醒させるために、のろのろとベッドから出てまずはバスルームで軽くシャワーを浴びて。

パジャマ代わりのシャツから着替えて身支度を整えながら『今日はどうしようかなー』なんて色々考える。


「今日は闘技場での試合も組まれていないはずだし、ジャズの仕事も今のところ入ってないし…。ゴンとキルアとズシでも誘って街の屋台でも散策しよっか?」


誰に言うでもなく、天空闘技場の200階の闘士に与えられた1人部屋の中、そんな独り言。もちろん誰の返事もない。



「……ま、いいや。とりあえず朝食摂ってから考えよう」


着替え終わった足で部屋に備え付けの簡易キッチンへと向かう。

容量小さめの冷蔵庫から、チーズと卵と……


「そろそろ買い足しとかないとストック切れそうだなぁ…。今日は大人しく街で買い物にしとこうかな。
 今はとりあえずブロッコリーとベーコンの残りと…。チーズと卵で…、うーん。チーズオムレツ!安直か…。ミルクもあるしフレンチトースト…。んー、あんまり気分じゃないなぁ。ジャズはどっちが良いですか?」

『んん〜〜……? ……チーズオムレツ……』

「じゃあそうしようっと」


僕の中のジャズは、まだなんだか寝ぼけた感じ。

でも返事はあったから、もうそろそろお目覚めだろう。


ぼんやりした"もう1人の僕の人格(ジャズ)"が無意識にチーズオムレツを欲したって事は、きっとそれは僕の本心って事。

…っていうことにして、今日の朝食はチーズオムレツに決まりだ!



ぺそぺそとフライパンを振るって、冷蔵庫に最後だった卵とチーズで手早くチーズオムレツを作って、ついでにベーコンとブロッコリーも炒めてしまう。

あとは街のパン屋さんで昨日買ったクルミパンとミルク。手抜きだけど、誰かに食べさせるわけじゃないしまあいいや。


そう思ってテーブルに並べた朝食を前に手を合わせて「いただきま…」と言いかけたところで『ピンポーン』と部屋のベルが鳴って、僕の朝食は始まる前に中断したのだった。



「ああああ…; 一体こんな時間から誰ですか〜…?」


もしや僕の朝食を狙ってやって来たイタズラ猫ちゃんたちかな?と、半泣き姿勢で部屋のドアを開けに向かう。

だけどゴンとキルアの低い頭位置を思い浮かべ目線を下に扉を開けてみると、そこにあったのは見慣れない長い脚。んん…!?


視線を脚から順に上へ、見上げるとそこに立っていたのは……



「…や。ゼロ。おはよう」


きれいな黒髪ロングの美青年―――もとい。

イルミさんが、いつもの無表情ながらも口元だけは少し楽しそうに笑っ…てる?んでしょうか?ピッと右手を挙げて挨拶の格好でそこに居て、僕は表情が固まった。


……ええ!?なんでイルミさん!!?



「ジャズは?今日は居る?」


そう言って僕の返答なんかお構いなしに、イルミさんは扉を開けた僕の身体を押しのけて部屋にズカズカ入っていってしまう。ちょっ、ちょ…!ちょっと!?


「あの!?えと、イルミさん!?きょっ、今日もちょっとジャズは…!」


言いかけて僕も部屋に戻ろうとして、そこで気が付いたけど扉の外には黒い人影がもう1人分。

いつかにキルアの家を訪ねた時に出迎えしてくれた執事さんたちと同じ黒い燕尾服に、キルアに似たフワフワの銀髪(キルアよりはちょっと長めかな…)、右目に眼帯をした銀眼の……。見た感じ初めて見る人だけど…。



「あー…。えっと…。その、もしかしてイルミさんの執事の方…?」

「はい」



ですよねー!やっぱりゾルディック家の方ですよねー!


「あの…。どうぞ…」と扉を押さえて、その執事さんも部屋へと勧める。ご主人様はもうさっさと部屋入っちゃったし、イルミさんの従者さんならもちろん追って入りたいだろうと思って。

執事さんは、そんな僕の事をなんだか見定めるみたいにその鋭い銀眼を細めてジロジロと睨んできたけど、結局は「失礼します」と優雅に僕に頭を下げてから部屋へと入って行った。



…見た目とんでもなくきれいで儚げな人だけどなんか目力あって怖い…;変な汗出た…;


執事のゴトーさんも見た目物腰柔らかい紳士なのに目がすさまじく怖かったけど、まあゾルディック家の執事の人たちってカナリアちゃんも含めてなんかみんな初対面はそんな感じだったか…。

暗殺生業って恨み買いそうですし、そんなおうちに仕える執事さん達もきっと外敵とかには敏感じゃなきゃならないんでしょう、たぶん。

……あれ、待って?って事は僕もしかして外敵認定されてる?;



「(いやいやいや!…ていうか!!そんなことより一体何?何の用でイルミさんなんですか!?まさか家出したキルアの様子見に、僕に探りを入れにとかじゃないですよね!?)」


もし万が一そうだとしたら、なんとか隙を見てキルアに「今日は僕のとこ来ないほうが良いですよ」ってメールしとかなきゃですけど…。

あ、でもそんなメールしたら逆にキルア心配で来ちゃうかな!?



なーんてとこまで考えかけて、………ま、いいや後でにしよ。と僕は思考を途中で放棄した。


…なんていうか、イルミさんと執事さん、2人も一緒に傍に居たんじゃどうせメールする隙なんかないって事に気が付きました。断言しても良いです。絶対バレて携帯没収されます。僕、予言者でもなんでもないけどそんな未来が見える。


キルアもゴンも今日は野生の勘働かせて、ここ来ないでくれると嬉しいんだけどな………;



「(…って言っても、それよりまずは自分の心配をしたほうが良いか…。ジャズに用事らしいけど、こんな朝からなんなんだろほんとに…;)」


急に訪ねてこられてもジャズにこの場で代わるわけにもいかないし。二度寝してるしジャズ。

ちょっぴり落ち込み気分になりつつ扉を閉めて、僕も2人の後を追いトボトボと部屋の中へと向かった。


















「イルミ様。ご注文の品お持ちしました」


ある日、仕事で外に出られていたイルミ様から連絡があり、とある街まで呼び出しを受けた。

何か仕事内容に不備があったのかと焦ったが、暗殺任務の方は無事に済まされた後のようで、それとは別件で『あるもの』を用意して欲しいとのことだった。

正直そんな事のために家から呼び出されるなんて今までにないことだったが、主の命令であればもちろん否応もない。


すぐさまオレは奥様とゴトーから許可を得てゾルディック家を出、一般には「天空闘技場」と呼ばれている塔のそびえる街まで、イルミ様権限でゾルディックの私用船をお借りしてやって来た。

使用人のオレ1人のために私用船なんて恐れ多くて冷や汗が出そうだったが、イルミ様が「急ぎで」と許可をくださったのもあってゴトーが手早く手配してくれた。

…本当に良かったのか…。今でも心臓がバクバクしているくらいで思い出すのも鬱なんだが。



しかしそうして急ぎで来たにも関わらず、イルミ様が取られていた宿へ到着したのは真夜中ごろになってからだった。大変申し訳なく思います。


オレを待って起きておられたイルミ様に深々と頭を下げ、持って来たものを差し出すと、イルミ様は早速それを確認して「うん。いいね」と口元を少し機嫌良く上げられた。



「じゃあアゲハ。明日はこれ持ってオレについて来て」

「承知いたしました」


中身を確認した紙袋をオレに再び預けられ、その日はそれでイルミ様もお休みになられた。

朝一でお目覚めになられたと思ったら、用意していた朝食にも手を付けられず「行くよ」と宿をお出になり、向かった先はなぜか天空闘技場。

まだ職員たちが清掃中と思われる闘技場各会場をすり抜け、寝ぼけ眼の闘士たちがまばらに行き交う居住区に向かう。


低位階の闘士たちは街の宿を利用しているようだが、ある一定階位以上に登録されている闘士にはそれぞれ塔内部にある部屋が与えられるらしい。

200階を超える位階の闘士ともなると星付きのホテルにも劣らぬ部屋に移れるというのだから、己の腕1本での成り上がりを夢見る連中にとってはそれこそ夢のような場所だろう。

ゾルディック仕えの身からすると何一つ興味を惹かれもしないが。


そしてイルミ様はその200階を超えてのある部屋へまっすぐと向かわれ、「ここなんだよね」とインターホンをオレの出る幕も無くさっさと押してしまわれた。


「…はーい?」とのんびりした声と共に扉を開けて出てきた男の顔を見た時、オレは思わず声を出して飛び退きそうになった。…が、どちらもなんとか堪えた。




サラサラと流れるような淡い色合いのストレートヘア。

朝方のせいか少しとろりとけだるげに垂れてはいたが―――あの、忘れようもない印象的な青の瞳。



「(…それでこの品か)」と手にしていた紙袋の中身を思い出しながら、オレはイルミ様の肩越しにそいつの顔をもう一度確認し、そして声には出さず頭の中で"その名"を復唱した。




―――――始末屋ジャズ。



家人の同業者。だがゾルディック家に出入りの際は、特にゼノ様と奥様の客人扱い。

イルミ様とはご友人…であるらしいが、オレとしてはあまり良いイメージの無い男だった。

















「なんだ。今日もジャズは留守なわけ?」

「いや、僕たち別に一緒に住んでるわけじゃないですよ?;」


部屋を一通り見まわし尋ねたイルミに、追って部屋に入って来たゼロが応える。



アゲハは部屋に入ってすぐ、扉の脇にスッと立って待機していた。

どうにも退路を塞がれた予感しかせず、ゼロは「ハハ…」と乾いた笑いを力無く漏らす。


前門の虎、後門の狼、というのはこういう時に使う言葉だろうか?


そんなことを遠い目のまま薄ぼんやりと考えながら、しかしとりあえずは気を取り直し。




「ジャズは仕事の関係であちこち飛び回って、日ごろからホテル暮らしなんで」

「へえ。双子なのに会うことは無いんだ?」

「まあ…、それは居場所とかの都合が合えば時々は……。連絡は普段から結構頻繁に取り合ってるんですけど、僕らもそんな子供じゃないんでそれぞれ生活してますね」



もはや流れるように口から出て来る嘘。とはいえ自身とジャズとの関係が本当の双子ではない事は、さすがにこの暗殺一家ゾルディックの長男様にバレるわけにはいかない。

職業柄ジャズの仕事にも支障が出かねないし、…いや、そもそも誰に対しても今のところバラす気は全然無いのだけれど。

必要な嘘と割り切ってはいるが、罪悪感を感じないわけではなく、気まずそうにゼロは少々視線を床に落とす。


そんなゼロの様子を、イルミは『ふーん…?』と観察しながら。


「……ま、でも連絡取り合ってるならいずれジャズにも話は行くだろうし、ゼロとでもいいか」

と、そう言っておもむろにポンと手を叩いて、イルミはアゲハに目配せした。



「…へっ?僕とでもって…?えっと…イルミさん?」

「うん。ジャズがカステラ好きって前に聞いたから、一緒に食べようと思って入手させたんだけど、肝心のジャズがいないんじゃしょうがないよね?」

「はあ。カステラ…ですか?」

「そう。ゼロはカステラ、好きかなぁー?」


間近に寄られ、じーっとゼロの目を見て言ってくるイルミ。


なんかこれもしかして僕とジャズの関係に探りでも入れられてるんだろうか…とすこーし汗しながら、ゼロは「えっと…、僕もカステラ好きです…;」と無理矢理笑顔を作った。



「そう?良かった。じゃあアゲハ」


ぱちっと指を鳴らし、イルミはアゲハに持っているものを出すよう指示する。

それに短く返事をしたアゲハは、手にしていた紙袋から箱を取り出して「こちらになります」とゼロの前へと差し出した。


「カステラの他、それに合う和紅茶の茶葉も勝手ながらご用意させていただきました」

「えっ!?あ、ハイ!そんな高級なもの、ありがとうございます!こっちではなかなか手に入らないんで嬉しいです…」

「気が利くね、アゲハ。…ゼロ、今すぐ食べる?なら全部準備させるけど」

「いえ、ここ僕の部屋ですし、お茶の用意はさすがにホストの僕がしますよ〜」

「遠慮しなくていいよ。うちの執事優秀だから」

「はい。お任せください」

「いえ…!!あの、ぶっちゃけキッチン片付けてないんで勘弁してください…!;」


ぺこりと一礼して流れるような動作でキッチンに向かうアゲハの後を、ゼロは慌てて追いかける。

先ほど自分用に用意した朝食の片付けをいつも通り後回しにしたのを激しく後悔しつつ、『いや、だってこんな朝から来客あるなんて思いもよらないし…!』『ていうかそんなことよりいつの間に部屋の間取り把握されたんですか!?執事さんコワイ…!!』などとぐるぐる考えて、次第に涙目に。


さらには「…それ、ゼロの朝食?」と、後をついてきたイルミにキッチンテーブルの上のシンプルな朝食模様までも覗き込まれてしまい、「ひょえ!?」とか声を上げてしまった。



「あ…あぅ…;ええと…。はい、そうです…。ちょうど作って食べようとしてたところでした…」

「ふーん。パンとベーコンとオムレツか…」

「買い置きの材料がもうこれだけで…; 本当に適当に作ったものなんであんまり見ないでください…」

「そう?おいしそうなのに」


口ではそう言いつつ、表情はいつもの淡々とした真顔のまま―――「美味しそう」なんてそんな意見など全く読み取れないような顔のままで、イルミはテーブル付きの椅子をカタンと引いた。

ちょうど朝食が用意されていた席の正面の椅子だ。


そしてそこに座ったイルミは、テーブルに肘をつき両手の指を交差させるように組んだその上に顎を乗せて、……なんだか食事を眺める気満々の体勢に。

"ええ〜〜〜……"とばかりにゼロが辟易した表情を隠せないでいると、「ほら、ゼロの朝食なんだから遠慮なく座って食べたら?」とテーブルの上のものを指され、ゼロはますます閉口した。



「あの…、そうは言ってもそんな見られてたら僕、すごく食べづらいんですけど…」

「オレは楽しいから大丈夫」

「何がどう大丈夫なんですか…。もー…」


諦めたようにため息をついて、ゼロも開き直って席に着くことにした。


そんなゼロとイルミのやり取りを―――キッチンの掌握ついでに横目に見ながら、アゲハはフッとその真一文字に固く閉ざしていた口元を緩め笑った。



双子……とイルミ様は申されただろうか。



押しが強く無遠慮で、手に負えない野生の黒豹のようなあの男―――ジャズとは正反対の、優しげな目をした穏やかな性格の青年。

彼自身の印象は悪くないのだが、しかしあの顔だけは、双子というだけあって本当にジャズとそっくりで。


全くの別人であるにもかかわらず、彼がイルミに振り回されている様を見ているとジャズ本人が自身の主人に振り回されているように見えて、なにやら胸がすく思いだ。……彼自身に罪は無く大変申し訳ないのだが。


そしてそれと同時に、このゼロという穏やかな青年はおそらく現在のイルミと同じように、兄弟であるジャズにも同様の振り回され方をしているのだろうな、と簡単に想像できてしまい多少の同情をする。



とはいえが自身が今やるべきは、持ってきたカステラと和紅茶の茶缶、ここで見つけたこのティーセット(なかなか悪くないセンスなのはこの高級ホテルのスイートルームばりの部屋に元々備えてあったものだからか、それともあの青年の審美眼のおかげだからか―――)で、主の望む完璧な食後のティータイムを演出することだ。

そう思い、アゲハは自身の中に湧いた私的な感情を心の奥に追いやって、目の前の作業に徹する。


…が、しかし。




「そういえばオレも朝食まだなんだよね」

「あ、そうだったんですか?」

「うん。だからあとでオレの朝食にも付き合ってよ。ゼロもこの後買い物に出るつもりだったんだよね?」

「なんでわかるんですか…?; 心読まないで欲しいんですけど…」

「え?食材もう無いってさっき口走ってたし。ちょっと考えたらわかると思うんだけどな。でも…」

「……ん?『でも』?」

「その前にそれ、オレにも一口ちょうだい?ゼロ」

「え」



「はい、あーん」なんて滅多に聞かないようなイルミのそんな異様に楽しげな声が背後から聞こえきて、硬直したアゲハは思わず茶缶の蓋を取り落としてしまった。

カタタンッ!という金属の甲高い音が、イルミとゼロの会話の場を静止させる。



「………アゲハ?」

「しっ、失礼いたしました!」

「や、やっぱりお茶の用意は僕がしますよ!アゲハさん」


部屋に慣れてるの僕ですし…!とイルミから逃げるように慌てて立ち上がったゼロを、アゲハもまた慌てて止める。


「いいえ!私の仕事ですので、ゼロ様はどうぞ続けてご歓談くださいませ」

「いや、でもここ僕の部屋ですし…!ていうかもうお願いですからキッチン片付けさせてください…!!」


どちらも丁寧な言葉遣いながら決して譲らず。

イルミはそれを『何やってるの?』と観察しながら、その能面のような表情には"期待通り"とでも言わんばかりのわずかな笑みが浮かんでいた。











メルフォのぽちぽちありがとうございました!!


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うちのイルミ様は基本役得なのです(笑

すもも

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ももももも。