「なあクロロ」
「…ん?どうかした?アオイ?」
ハンター協会所有の飛行船の中。
窓際に寄りかかり、ケータイをいじっていた黒髪の青年―――クロロ=ルシルフルと。
そしてその隣で、棒付きのアメを舐めながら窓の外の美しい夜景を眺めていた青年―――アオイ=サクラ。
それまで黙って夜景を見ていたアオイが、突然ぽつりとクロロに尋ねる。
クロロはいじっていたケータイから顔を上げ、隣のアオイを見た。
「お前さ、試験終わったらどーすんの?」
「どうするって…。どんなハンターになるかってこと?アオイはどうするんだ?」
逆に聞き返されて、アオイは視線を夜景からクロロの顔へと移す。
「んー…、そーだなー…。
じゃあクロロ。ここで会ったのも何かの縁だし、ハンター試験が終わってもこのままオレと組んで仕事したりしないか?」
ピッとアメでクロロを指しながら言う。
――――アオイとクロロ。
ハンター試験・一次試験のさなか、人懐っこいアオイから話しかけて出会った2人。
歳が近い事もあってそのまま協力しあい、共にこの最終試験まで勝ち上がってきた。
最初はぎこちなかったものの今では、「仲の良い友達同士」。
数日間の短い間だったというのに、そんな関係になるまでだった。
「オレとお前だったらぜってーいい仕事できるぞ?な、どーかな?」
屈託の無い笑顔でアオイが言う。
年の頃はクロロとほとんど変わらないというのに、少年みたいな無邪気な笑顔が印象的だった。
きっと彼は本心で言ってるんだろう。
でもクロロはそれに同意する事ができなかった。なぜなら――――。
「……ああ、うーん。気持ちは嬉しいけどさ、……でも、ごめん。オレ、先約が居て」
先約、とはもちろんあいつら―――蜘蛛の事。
「あー……、あー、なんだそーか…、じゃあしょうがねぇな」
「…ごめん、アオイ」
「気にすんな。言ってみただけだから」
努めて明るく笑って言うアオイだったが、クロロにはそれが逆にとても残念がっているように見えて少し心が痛んだ。
「そんじゃあ試験が終わったらバラバラになっちまうけど、またどっかで会えるといいな。お前、どんなハンターになるんだ?」
「…うーん、そうだなぁ……。アオイはもう決めてるのか?」
「オレか?んー、まだはっきり決めてないけど、やっぱ賞金首ハンターかな?」
「アオイらしいな」
「そっか?まともにそれになる気は無いけどさ、やっぱ犯罪者捕まえる仕事が必然的に多くなるじゃん?この仕事って」
「まあ、そうだね」
「だからどこでどんなハンターになったって、きっといつかはどこかの戦場でお前にも会えるよ。そんときはまたお前の背中守ってやるから」
「はは、ありがとうアオイ。…でもとりあえずは試験に合格してから言おうよ、そういうセリフは」
「そーだな。これで落ちたら本当かっこ悪ぃ」
へへっと笑うアオイ。
―――本当によく笑う青年だと思った。明るい笑顔の似合う、日の光みたいな奴。
オレには少し眩しい。そう思いながら、クロロもあわせるように笑う。
お前がハンターになるのならば、次に会うときはオレ達はきっと敵同士としてしか会えないのだろうけど。
「アオイ」
「ん?」
またいつか―――どこかの、戦場で会えたら。
「………アオイ。」
戦場とは程遠い――――年季の入った食堂の椅子に座り、オレはかの男の名を呼んだ。
目の前には、香ばしい香りを漂わせる、おいしそうなあんかけチャーハン。
それを一口食べてその味に驚愕したオレは、側に立っていたアオイに向かって神妙に目を向ける。
当のアオイはポケットから棒つきのアメを取り出し、それを口に突っ込んだところだった。
「…んーだよクロロ?」
「アオイ。久々の再会で突然こんな事を言うのもなんだが…、
ぜひオレのところに嫁に来てくれ!!」
「は?」
オレ達が受けた、あのハンター試験よりすでに5年の歳月が流れていた。
街中で偶然―――まったくの偶然で5年ぶりにアオイと再会したオレ。
じき昼飯時だったこともありオレが飯に誘うとアオイはオレの手を引いて、とあるユースホステルへとやってきた。
アオイが今現在宿をとっているという小さなホステル。その、厨房にまでつれてこられ、隅のテーブルへと座らされた。
そして『何食いたい?』と、でかい中華鍋を持ってアオイが聞くので、じゃあ中華。と軽く言ったら、アオイは見事な手際でうまそうなあんかけチャーハンを作ってくれた。
あんま良いモン使ってないけどな〜、などと笑いながら言うアオイだったが、出てきたチャーハンはそれはそれはうまかった。
いつも食わされているような、昔から一向にうまくならないマチやシズクの料理とは雲泥の差というか、(『嫌ならコンビニ弁当食え』とか『外食行け』とか言われる)
はっきり言ってかなり久々にうまい飯が食えてオレは感動した。
で、先刻のセリフに戻るわけだが。
「嫁が嫌ならオレ専属の料理人でもいい!頼む、
これからはオレのために飯を作ってくれ!!」
「わはは、なんだよそれ。プロポーズのつもりか?オレ男だぜ?…つーか第一お前、この世のどこにハンターを雇う犯罪者がいるんだよ?」
カラカラと冗談のように笑うアオイだったが、オレはいたって本気だった。
オレが盗賊で、お前はハンター。そんなことは些細な事だ。
「オレだってお前があのときの宣言どおり賞金首ハンターになっていたのならこんな事言わなかったぞ!
なんでお前、よりにもよって美食ハンターなんかになったんだ?」
…いや、オレ的にはうれしい誤算だったが!
「おいクロロ、待て待て。美食ハンターをバカにするな。いくらお前でもぶっ飛ばすぞ?」
「いや待て、包丁をしまえ。…すまない、"よりにもよって"とは失言だった。お前が美食ハンターになってくれたおかげでオレはこんなにもうまい飯が毎日食えるようになるのだから。」
「…おい、それってもう決定事項なのか!?オレはまだお前の嫁になるなんて言ってねーぞ!?」
お前、そんな自己中な奴だったっけ?と付け足すアオイ。
「そう言うな。生活に不自由はさせない。調理道具だって、食材だって、お前が言うなら何でも盗って来てやる」
「盗るのかよ」
「衣・住にももちろん文句は言わせないし。なんだったら性欲処理にだって付き合うぞ」
「仮にも飯食うところでそういう話はやめろって!」
「だから嫁に来い、アオイ!」
「…お前っ!オレの話、ちょっとは聞け!!」
あきれた風に言うアオイ。
「ホンットしょーがねぇ奴だなぁ…」といいつつも顔は笑って。
「でも待遇悪かったらすぐ出てくからな!」
「望むところだよ、アオイ」
そう言ってオレ達は――――あのとき、交わすことができなかった堅い握手を交わした。
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主人公さんもとから料理好きだった上に念の師匠がメンチで美食ハンターになった〜みたいな設定でお願いします(え)
最初は敵同士で再会の予定だったんですが、いい話が思いつかずに結局仲良しさんのまま再会。
短編にしてもちょっと短すぎたかな?
すもも