無自覚カリスマ ◆その4
※燈香様からの7周年記念のリクエストです





ある日の朝食後――――


満足感に浸りながら、食後の休憩がてらオレは2人掛けのソファでくつろぎながら本に目を通していた。

アオイはというと、食事の後片付けをしっかりと済ませてから小さめのノートパソコンを持ってソファの元にやって来た。



「おーいクロロー。オレにも座らせろ〜」

「ああ、悪いな。ほら」


ソファのど真ん中から少し横にずれて隣を開ける。

パソコンの画面に見入ったままでアオイはそこへと座り、膝上でカチャカチャとパソコンをいじり始める。




「……仕事か?アオイ」

「んん〜〜〜〜?仕事っつーか…、まあ半分くらいはハントの誘いだから間違ってねーか。適当な周期でメールチェックしておかねーと果てしなく溜まってくからさぁ…」


棒付きのアメを口の中でコロコロと鳴らしながら、アオイはオレの方も見ずにパソコンに向かっている。

横からちらりとのぞき見させてもらったが、相当な数の新着メールのタイトルでアオイのメールソフトのトップ画面は埋まっていた。





「……なぁ、アオイ」

「んー?」

「前々から思っていたんだが、お前付き合いハント多すぎやしないか?まさかと思うがそれ全部美食ハンターなのか?」


アオイは、自ら単身でハントに出るというよりは、こうしてメールや電話で誰かからの誘いを受けて「仕事」に出かけてしまうことが多い。


今まではずっとアオイと同業の美食ハンター達からの誘いかと思っていたが、実際は意外とそうでもないのか?

どう考えても、今現在世に存在しているであろう美食ハンターの数と目の前のメール件数が合わない気がしてならない。



……と思ったら案の定、アオイの口からは聞きたくもなかったイヤな答えが出てきた。




「んーまぁ…、美食ハンターもそこそこいるけど、あとは知り合いのブラックリストハンターがほとんど…」

「………ブラックリストハント?美食ハンターのお前にか?何故?」

「んー?…あぁ、主に張り込み中の飯炊き係と戦闘面でのサポートにってよく手伝いを頼まれるんだよ」

「へぇ…。サポート向きなのか?アオイの能力って」

「まーな……」



…と、それきり会話は途切れてしまった。



何気ない感じで聞いたつもりだったんだが、アオイはそれ以上自身の能力については喋ってくれなかった。当然だろうが残念だ。


しかしアオイの能力か…、一体どんなものだろうな?気になる。



ふむ…と考え込んでいたら、それまでずっとパソコンの画面に釘付けだったアオイの目がいつの間にかオレへと向けられているのに気が付いた。

オレがアオイの視線に気が付くと同時に、アオイはニカッと"してやったり"の笑顔を見せる。




「んな難しい顔したって念能力は教えねーぞ?」

「ちっ…」

「ちっ、じゃねーよ、ホント抜け目ねーなぁお前。一応職業柄敵対関係にあるんだし…、そもそも能力喋るのが制約うんぬんってんならともかく自分の能力早々バラす奴もいねーだろ」


「そうかな。お前のことだから何気ない感じで訊いたらうっかり口を滑らせやしないかと思ったんだけど」

「おいっっ」


お前、オレのことナメてるだろ!とオレを非難するアオイ。


しかし本気で怒っているわけではない。

証拠にアオイの顔も半分は笑っている。




「…わかった。能力について訊いたのは失言だった、忘れてくれ」

「おう、しょうがねーな」

「しかしな、アオイ。そんなブラックリストハントを嬉々として手伝うくらいならお前も最初からブラックリストハンターになればよかっただろうに、なぜ美食ハンターなんかやってるんだ?
そもそもお前、ハンター試験受けてた頃から、ライセンス取ったらブラックリストハンターになるって言ってたはずだろう?」

「ん〜〜〜?」



アオイとは以前に――――ハンター試験の最終試験前に、そんなことを話した記憶がある。



もしもそのときのままアオイがブラックリストハンターになっていたら、今こうやって一緒に暮らすようなこともなかっただろうが……



何故アオイはハンターの花形ともいえるブラックリストハンターという肩書きではなく、まったくの正反対ともいえる美食ハンターになってしまったのか。


アオイと再会してからこっち、密かに気になっていたが訊くに訊けなかった部分ではある。

あまりへんなことを言うと「美食ハンター馬鹿にすんな!」とアオイが不機嫌になってしまうからな。



しかし今日は、話の流れから何となくリスクなしに聞けるような気がして。


思い切って尋ねてみた。






アオイは、パソコンのキーボードをいじりながら、しばらくの間「ん〜〜…」と口の中でアメを転がしていた。


…が、「ま、いいか」と呟いたのちにぽつぽつと自身の身の上について語り始めた。




「なんつーか…オレ、あんまり育ちよくないからさ」

「…ん?そうなのか?」

「そうなんだぜ?」



見えないか?と笑うアオイ。


……まあ普段のアオイの、食に対するたくましい探究心を思えばたしかに裕福な育ちではないのかもしれない。

流星街出身のオレからすれば、アオイの育った場所がどんな場所であれオレよりは恵まれているように思えたが――――せっかくの話に水を差すこともないので黙っていた。




「だから昔から、まーとにかく将来はヒトヤマでっかく当てて幸せになりてーって漠然と思ってたわけ。ビンボーだったし」

「…へぇ。それでハンター目指したのか?」


「いや?最初は特に『ハンターになろう!』っつって目標持って試験受けたわけじゃなくって、オレの兄貴分…っていうかハンターになった先輩から、「身分証にもなるし他にもいろいろ便利だから、チャンスがあったら取っとけ」って言われて。
お前と会ったあのハンター試験の、申し込み締切ギリギリの時期にちょうど申込書出す機会があったから、じゃあって…」

「『じゃあ』はないだろ、『じゃあ』は。…というか意外だな。アオイは、もっと強い意志持って試験受けたんだと思ってたが」


「ハハ、そうか?でもホントど〜〜〜〜〜してもなりたいモンだったら、あんなほかの受験者に手ぇ貸したりしてねーって。もっとなりふり構ってねーよ」

「そうか…、そう言われればそうかもな」




忘れもしないあのときのハンター試験中。


たしかにオレがいくら「やめろ」と言っても、アオイはすぐそばの受験者たちに進んで手を貸して、巻き添えでオレまでよくいらん苦労をさせられたな。

アオイだって試験に受かりたいだろうになんでそんなおせっかい焼きなんだと思っていたが……、別に受かっても受からなくてもいいと思ってたのはちょっと意外だ。



「申し込んだときの動機も「身分証にもなるし」みたいなあいまいな動機だったし、受かれば『おぉ、やった!』と思うけど落ちても『あーあ』としか思わなかったと思う。別に1回きりの試験って訳でもねーし…。それでもなんとか順調に試験突破できて…」

「いやいや、オレ的には全然順調じゃなかったぞ?お前のフォローに苦労するばかりで。もういっそお前ごと切り離そうかと何度思ったか。
そんなどーでもいい感じだったならあの時迷わず切っておくんだった」

「マジで?そっか、そりゃ悪かったな〜」


全然悪気のない風にカラカラと明るく笑うアオイ。お前、絶対悪かったなんて思ってないだろ。楽天家な。


…とはいえオレもそんなアオイの行動をそこそこ楽しんで見ていたからおあいこか。





「それでもうじきハンター試験も終わりだ、合格か〜!って時に思ったんだよ。受かるのはいいけどこれからどうすりゃいいかなってさ」

「…そこは『まあいいや』で済まなかったのか…」

「そう!そーなんだよ!なぜかオレ、そこで悩みモードに突入してさ!試験受けたはいいけど"その先"がオレにはなかったことに気が付いたら、なんかスゲー愕然としちまって。

……でさ、クロロ。最終試験の前にオレ、お前に『一緒に行こうぜ?』って誘っただろ?覚えてるか?」


「ああ。大丈夫だ、覚えてる」




飛行船の中でアオイと2人、夜景を見ながら『一緒に仕事をしようか』って話したのを覚えてる。


ただオレはその時にはもう旅団の活動を開始していたから、その誘いに乗ることはなかった。





「4次試験突破したあたりからもうスッゲー悩んでて…。あーどうしようって時にお前にまで断られて、オレ結構本気でショック受けたんだぜ?」

「…そうなのか?あまりそうは見えなかったが…」

「顔に出したらカッコワリィと思って必死に取り繕ったもん、オレ」

「ははははっ!」



口をとがらせて少し恥ずかしそうに言ったアオイ。



わからないものだな。

あの時のアオイは確かに取り繕ったような笑顔で、どこか残念そうに見えたが――――その裏ではそんな事にまでなってたのか。



あの時のアオイの顔を思い出し、今のアオイの話と比べてみたら面白くてつい笑いが漏れてしまった。


アオイも頬を指で掻いて、照れた風な苦笑いを見せていた。




「そっ、それで?ハンター試験の後どうしたんだ、お前?」


こみ上げる笑いを抑えるように口元を手で隠して、続きをせかす。




「ん?そんでお前と別れて、とりあえず最初に試験勧めてくれた先輩を頼りつつ、しばらくのらくらと賞金首ハンターっつか懸賞金ハンターみたいなことやってちょろちょろ稼いでたんだけど…。
ハンター試験の後って、裏試験で念能力修めなきゃなんなかったろ!?」


「あ…、ああ、たしかにあったな」



オレは本試験前から念能力修めてたし実際には裏試験は受けていないが、話だけはシャルから聞いている。


オレが相槌を打つと、アオイは修行時代でも思い出してか、語気を強めにすごく嫌そうな顔で矢継ぎ早に喋りだした。



「で、その裏試験のオレの念の師匠が美食ハンターでさ!オレがどんなハンターになるか迷ってんのに気が付いたら、一も二もなく『じゃああんた、美食ハンターになんなさい!!』だぜ!?うわーなんだよこの女!って思ったぜ!?」

「ぶっ…」


セリフのところはその"師匠"のマネなのか背筋を伸ばして上から目線でオレの方を指さし、声色まで変えてアオイは叫んだ。

無理な裏声を出しながら、高飛車な女っぽく。


似てるのか似てないのかわからないが、アオイのそのセリフの勢いのよさに思わずちょっと吹き出してしまった。



…よりにもよってオチが『美食ハンター』だったこともある。




「そのときはオレも例に漏れず美食ハンター馬鹿にしてたふしあったからさ。なんつー贅沢な職業だって。まあ元のビンボーから来るひがみもあったし」

「だろうな」


やれば決して安易にやれる仕事でもないんだろうが、『美食』なんて肩書きからナメられやすい分類のハンターなのは確かだ。

アオイ自身もそれを理解しているのか、自分も今はその美食ハンターであるというのに、クスクスと笑って話していた。





「最初はやっぱ納得いかないまま念を教わってたんだ。
そしたらある日師匠もキレて『あんた将来幸せになりたいっていうけど、じゃああんたが言う"幸せ"ってなによ?説明してみなさい。金儲けとか言ったらぶっ飛ばすわよ』とか言い出して」


「…なんだかオレにもその女の声が幻聴で聞こえるようになってきたぞ」


「ホントか!?分かち合おうぜこの気持ち!……それでいろいろ押し問答して何回かぶっ飛ばされたりしたけど、結果的に師匠が言うには

"この世界で人を一番幸せにするものは何か、それは何より「おいしいものをおなかいっぱい食べること」"ってさ。

そう言われたときなーんかスコッと心に入っちまったんだよな。『あ、それもそーだ』って。
さっきも言ったけどオレ、育ちがよくなかったもんだからさ」



「たしかに…貧しければ貧しいだけ、「食」はまず第一に上がる幸せの象徴ではある。三大欲求の一つだしな」


「そーそー!…なんだ、クロロも割と出身地悪い方なのか?」

「……一般論でだぞ?」

「なんだよ、隠すなって!オレだけ身の上暴露って恥ずかしーだろ!?」

「………フッ…」

「鼻で笑うな!」

「まあまあ」



ニヤニヤと笑いを漏らすが、オレを止めるアオイも顔は笑っている。




「師匠に言われるまでなんで忘れてたんだってくらい、大事な思い出あるの忘れてたんだ。生活が恵まれてくると忘れてくのかなー、わかんねーけど…」



そう言って、アオイは咥えていた棒付きの小さなアメをひょいと口から取り出した。



「コレさ、オレがガキの頃、ハンターになった先輩兄ちゃんがコミュニティーに帰ってきた時に、オレ含めた仲間全員に1本ずつくれたのが最初なんだ。
親のいねぇ子供らだけでコミュニティー作って、今にも崩れそーな掘っ立て小屋棲家にして、こーんな小っせぇお供えの握り飯取ってみんなで分け合って…。

でも同じ境遇の連中が集まっても年齢(トシ)はみんなバラバラだし、結局大人になった順から仕事見っけてコミュニティーからは出て行くんだけど…、その、オレ達より先に"卒業"して出てった兄ちゃんがさ、稼ぎの一部で買ってきて配ってくれたんだよ。

落ちてる木の実から草の根っこ掘って食って、土まみれ埃まみれの物理的に灰色だった生活の中でだぜ?

……うまかったんだ。す―――っげぇ甘くてうまくて、しかもキレイで。ガキの頃の思い出なんてろくなのないけど、唯一あの時のあの味だけは今でもずっと覚えてる、宝物みてーに大事な思い出なんだ」



「だからお前はそれが好きなのか…」


「そーだよ!こんなん、ビンボー脱却した今ならいくらでも買って食えるのにな?
師匠と初めて会ったころにももう常に口に入れてるのが習慣になってたから、慣れきって忘れてたんだけど……師匠のその言葉でふと思い出してさ。

だから今は美食ハンターやってんだ。貧しかった分、やっぱ"幸せ"になりたくてさ」



「ふーん……」




アメを咥え、子供っぽくにっこりと笑ったアオイ。



腹いっぱいに旨いものが食える幸せ…、か。


どこも似たようなものだな、と思う。



しかし身振り手振りを加えて、一般的には決して『良い』とは言えない過去を語っていたアオイの顔は、それでもやけに楽しそうだった。




アオイのことだから、小さなころから今のように明るく笑い、貧しい中でも何事も楽しく受け止めて過ごしていたんだろう。

茶色い荒野に色づくひまわりみたいに。


アオイの笑顔を中心にたくさんの『仲間』達が集まっている光景がオレの目にも見えるようだった。







当のアオイも、話すうちに望郷の念にでも駆られたのか――――パソコンの画面に映るメールリストへ、いつのまにか視線を戻したその瞳には、懐かしさと淋しさが混じったような何とも言えない色気がわずかに混じって。



普段オレには見せることのない横顔が垣間見えた。












…………そうか、もしやメールの相手というのは………。








「…ほーぅ…、なるほどな……」

「…ん?」


「じゃあ今の話を踏まえてもう一度聞こう、アオイ。結局美食ハンターやって今"幸せ"だというなら、なぜお前はそうやってブラックリストハンター共からの依頼を嬉々として物色してるんだ?」

「え?」


どこか腹立たしさを感じつつ、なんとか平静を装ってオレはアオイに尋ねる。

するとアオイはまたいつものあっけらかんとした表情に戻った。





「美食ハンターならば料理と食材の探求にハントに出るだけで十分だろう?ブラックリストハントなんて美食ハンターとしては仕事のリスクがでかすぎるじゃないか。それほどまでにそいつらが大事ってことなのか?」


パソコンの画面にずらりと並ぶ新着メールリストを指差しつつ尋ねる。



"知り合いのブラックリストハンター"とアオイは言ったが、その正体はおそらく今の話に出てたアオイの昔の仲間達か、先輩兄ちゃんとか言った奴らだろう。

だからこそアオイは仕事の内容が危険の大きなブラックリストハントであろうと、積極的に断ろうとしないんだ。







「……何怒ってんだクロロ?;」

「別に怒っていない。オレの『嫁』が何故オレを2日3日放ってまで、"知り合い"程度のブラックリストハンターと絡もうとするのかと思ってな」


皮肉をこめて"知り合い"という部分を大きく言うと、アオイもさすがにオレの意図を察したようだった。




「…案外独占欲強いのなお前…。

移動含めて1日2日ぐらいの近場選んで手伝ってんだからいいじゃん!
オレだって14でコミュニティー抜けて故郷(くに)出てからハンター試験でお前と会うまで、いろんなやつと付き合いあったし、試験の後だって仕事斡旋してもらったりとか世話んなったりいろいろあったし!
その関係で今まで来てるんだからしょうがねぇじゃん!先輩もダチも、みんなオレが美食ハンターなの知ってて、報酬には食材くれるって言うし!お前だって食ってるし!」



―――ああ、たしかに報酬は毎回でかいブロック肉だったり獲れたての魚だったり、黄金色のうまい卵だったこともあったし、妙な形の果物やら、ほかにも珍しい食材の山だな。なぜか。



しかし本職の食材ハントよりそれらの『手伝い』の方が多いというのはどうなんだ?


オレからすれば『手伝い』くらいで報酬として片手で持つに足りるわずかな食材を分け前にもらうより、食材メインにして自力でハントに出るか、逆に高報酬のブラックリストハンターを直にやってそれで食材買いあさるほうが効率的なんじゃないかと思うが。


ブラックリストハンター共に食材をエサにいいように釣られているようにしか見えんぞ?

……オレも毎回その恩恵に預かっていてあまりそういうことを言いたくないが。









「……いや、そうか、そこまで言うならわかった。じゃあこうしよう。だったらオレもそのブラックリストハントを手伝ってやるよ」

「はぁ?」


「助っ人は1人より2人のほうがいいだろ?オレも腕には自信あるし、そこらの賞金首ごときにそうそう遅れをとることはないぞ?」

「いやいやいや、ねーよ。狩られる側筆頭のお前がブラックリストハント手伝ってどうするんだよ。本職泥棒だって言ってただろ、お前」



泥棒じゃなくて盗賊だな。その上確かにA級首の「幻影旅団」の団長だ。ブラックリストハンター共ならノドから手が出るほど欲しい首だろう。



…とはいえハンターサイトですらまだ本名も顔バレもしてないし、アオイにだってそれは言った事がない。


だから別にお前と一緒に"プロハンター"としてブラックリストハント手伝おうと早々バレはしないだろう。持ってるライセンスカードだって本物だしな。


それに―――





「なに、泥棒だってたまには慈善活動くらいするさ。…1日2日とはいえお前と離れるのも嫌だし」

「………ん?」



「お前のそのダチとか先輩とか言う奴らの顔も見てみたい」


「…何企んでんだ?」

「別に何も?」





そんな、アオイの目の前でそいつらに何かするようなことはないぞ?


旅団の活動時に鉢合わせたときにはもしかしたら手が滑る可能性はあるかもしれないが……



「そもそも美食ハンターのお前に手伝いを頼むようなレベルのブラックリストハンターなど大概に無能だと思うし、そんな奴らの1人や2人仕事中にヘマして命を落としたとしても、ありえん話じゃないだろ…」

「…たぶん心の声だと思うけど、口から盛大に漏れてるぞ?クロロ」


「………な!しまった!」

「『しまった!』じゃないだろ!そーか!!お前そーいう腹黒い事考えるような奴だったのか!」


「フッ、仕方ない……、白状しよう。

たとえそのブラックリストハンター共がお前の昔の『仲間』で『先輩』で。お前がいままで世話になったというそのための恩返しとして、なにかの義理を果たしているのだとしてもだ。
お前はもうオレの『嫁』だからな。誰にも渡したくないんだ」



「…マジメな顔でアホなセリフ吐くなよ。こっちが恥ずかしい…」


「いいだろ別に。本気だぞ?そもそもそんなにアメが好きならオレがいくらでも盗ってきてやるし」


「…いや、そんなヨゴレた"幸せ"はいらねぇよ。なんでお前はそうナチュラルに『盗る』って発想が一番に出てくるんだよ」

「なんだ、お前だってさっき握り飯盗んだとか言ってただろ」


「『盗んだ』んじゃねーから!オレの住んでた地域だとお地蔵さんに供えてあるやつはちゃんと手合わせたら取って食べてよかったんだよ!
どこでお前そんなろくでもねー生き方身につけたんだ!?」


「お前のような境遇の中、お前のように育つ方が稀だろ。まっすぐすぎて眩しい」

「眩しくて結構だ!離せって!………あっ!?



アオイの手に抱えられていたノートパソコンをサッと盗んで、強制終了してやった。

そしてパソコンを閉じて、ソファの、アオイとは反対側の席へと投げ捨てる。


パソコンに手を伸ばそうとするアオイのことは、力いっぱいに抱きしめて抑え込んだ。




「っちょ…!おいクロロ…!」


「いや、もうだめだ。触らせん。大体、先輩先輩って…世話になったとか言うが、お前絶対それだけじゃないだろ。もっと何かあったんじゃないのか?」

「何かってなんだよ!住むトコとしばらくの生活費とか借りたぐらいでキレなくてもいいだろ!?」




「いや、先輩の話をするときのお前の顔は完全に恋に落ちてた」


「はっ…?」




そうだ、なんというか…その言葉が一番しっくりくるような表情だったな。さっきのお前は。



「はぁあああ!?お前、ヒトの話ちゃんと聞いてたか!?」

「聞いていた。だがお前があんな顔するくらいだから何かあったんだろう…。その先輩とやらに何をされたんだ?」

「なんにもねーよ!!マジでいろいろ世話になったからその恩返しにハント手伝ってるだけだって!!」

「取り繕い方が尋常じゃないな…。そんなに好きだったのか…」

「違…!ドツボか!!なんなんだよお前、めんどくせーな!」


「お前がさっさと白状しないから悪いんだ。ほら、こうなったら本当のことを話すまで1時間でも2時間でもこのままだぞ?」

「ほ――――?…昼と夕メシと、抜きになってもか?」

「くっ……!!」


一瞬で固まるオレに、アオイがにやりと意地の悪い笑みを向ける。

飯を人質に取られたらオレは手を緩める他ないじゃないか。卑怯な。







「…何故だアオイ…。オレだってお前の作る飯が好きなんだぞ?お前はオレを"幸せ"にしてくれればそれでいいのに、何故……」

「わかったわかった。夕飯はリクエスト受けてやるからそうブルーになんなって。ホントしょうがねー"旦那"だわ」


くくっ、と喉を鳴らして笑いながら、がっくりと肩を落としたオレの頭をぺたぺたと撫でたアオイ。






くそ……仕方がない。今回は嫁の顔を立てて見逃してやることにしよう。


…別にリクエストに惹かれたわけではない。






だが――――、いずれはその先輩とやらの正体も突き止めて、お前をオレだけのものにしてやるから覚悟していろよ?


なぁ、アオイ。








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7周年記念のリクエスト受付で、燈香様から「無自覚カリスマ」主人公さんのクロロ夢承りました。
主人公さんの飴ネタか念能力ネタかお仕事ネタで短編夢とのことでしたが、全部詰め込もうとしたらすごく長くなっちゃった…。
燈香様、お祝いとリクエスト、ありがとうございました!

すもも

TopDream無自覚カリスマ◆その4
ももももも。