※深月様からの7周年記念のリクエストで原作沿い夢
double styleとのコラボです
『…………』
遠くで誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる……。
一体誰?
僕は…まだ眠い………
『…おい、ゼロ』
―――気持ちよくまどろむ僕を、誰かが呼んでいる。
すごく近くで聞こえる声。
うっとおしくて、僕は仰向けに寝ていた顔をちょっと横に傾ける。
まだ眠いんです、静かにして欲しい…。
もうちょっとで良いから寝かせてください……。
………。
『……おいっ、オイ起きろへなちょこ!』
ばちっ
ばちばちち、べちっ
「…い、痛ッ…、痛い……何するんですかジャズ…」
ほっぺたを平手で乱打されて、うなされるように僕は目を覚ました。
視界を真っ暗に覆うアイマスクを、平手を受けた側とは反対側―――左手で持ち上げる。
さっきまで僕のほっぺたを乱打していた右手はそのまま、ジンジン痛む右ほっぺたを押さえた。
僕の中にいるもう1人の"僕"の人格――――ジャズは、どういう回路を使ってやってるのかわからないけど、こうやって勝手に僕の体を動かすときがある。
自分で自分のほっぺたを乱打して目を覚ます僕の姿は、他の人の目にはとても異様に映っただろう。
いつも言ってるけど、起こすならもっと穏便に起こして欲しい。
人目のないホテルの個室とかならともかく、こんな飛行船の中なんかでは特に。……恥ずかしい。
『お前もわかってんならいちいち喋んな、口閉じろ。お前がむにゃむにゃ言うから人目が集まるんだろーが』
僕が悪いわけじゃないのに…。
文句は山ほどあるけど、それを直接伝えるとさらにジャズはうるさくなるので我慢して黙っておく。
とりあえずアイマスクを目元からおでこに移動。
座席に体をうずめなおして、半分ずり落ちていた毛布をもう一度肩まで被った。
僕の相棒のジャズは、「始末屋」なんて物騒な仕事を請け負う結構有名なハンターだ。
世界のあちこちを舞台に仕事してるから、"彼"とおんなじ体を使う僕も当然、最低2ヶ月に一度はこうして飛行船で世界を回る破目になる。
とはいえいくら回数を踏んでも、それでもやっぱり飛行船の座席での睡眠にはいつまでたっても慣れなくて。
さっきだってやっと寝れたばっかりだったのに……。
『……で、せっかく寝てた僕を起こしたのはなんで?』
今回の「始末」のお仕事も無事に済んだみたいし、あとは日ごろの棲家にしている天空闘技場へ帰るだけ。
このまま飛行船に揺られていればあと1日の行程で済むっていうのに、突然なんだって言うんだろう?
『……悪ィけど行き先、闘技場じゃねーぞ?』
「…………。
えっ!!?」
大きな声を出してしまってから、僕はハッとして自分の口を手で押さえた。
身をかがめつつ辺りをうかがうと、起きていたお客さんの何人かがうっとおしそうな面持ちで僕を睨んでた。………すいません;
『…………っていうか、闘技場へ帰るんじゃなかったんですか!?何で!?どこ行きなんですか、この船!?』
『アオイだよ。アオイの奴に会いに行く』
『……え…アオイさん?…何で突然……』
えーと…ジャズの仕事仲間の美食ハンターさん…?でしたっけ?
どこでどうやって「始末屋」のジャズと「美食ハンター」が知り合ったのかいまだによくわかんないんですけど、結構仲良いんですよね?
「僕」はまだ2回くらいしか会った事ないんだけど…。すごく料理が上手くて、美味しいんですよね〜。面白くて優しいし。わりと良い印象の人かな。
……で?アオイさんが何?
『最近あいつ付き合い悪い』
『……………はい?』
『前は4回に1回は必ず呼び出しに応じてたのに、最近は仕事に誘っても断るばっかだあいつ』
よ、呼び出し……;
また無茶な日程で勝手なお願いしてるんじゃないでしょうね…。
『つったってあいつの作るメシが一番旨いんだよ!めんどくせーからもうオレんとこ嫁に来いッつってんのにヤダとか言うから仕事にカコつけていちいち誘うしかねーだろが!』
『それ、ジャズがしつこいからついにアオイさんもキレてフェードアウト狙ってきてるんじゃ…』
べっち
「痛ッ!」
またほっぺた叩かれた……。
『……お前、ちょっと偵察に行って来い』
『えっ…なんで僕が?ジャズが自分で訊けばいいじゃないで』
ごむっ
「すブッ!?痛いッ!?だからなんで叩くんですか!」
『ばか、オレが出てったら必死になってるみたいでカッコ悪いだろ?』
…今でも十分未練たらしくてカッコ悪いです。
ていうか殴るの止めてください!僕、すごく変な目で見られてます!
『いいから。そーゆーわけだからお前、ちょっとあいつんとこ行ってさりげなく探り入れて来い』
「(さりげなくメールとか電話で訊けばいいのに…。アオイさんと接点少ない僕が聞きにいく方がよっぽどヘンですよ…)」
『何か言ったか』
『なんでもないです』
アオイさんだってハンターなんだし、自分の仕事だっていろいろあると思うんですけどね?
ジャズ、普段はわがままばっかりだし、結構身勝手だし…付き合ってられないですよ、普通は。
ジャズはもっと相手の都合を考えるってことしたほうがいいと思います。ただでさえ少ない友達、みんな失くしますよ?
『ごちゃごちゃ言ってねーで』
『はいはい分かりました。行けばいいんでしょ、もー。……ふぁ〜あ』
ていうか着いてからでもよかったじゃないですかそんな話……。
とりあえず今はゆっくり寝かせてください…。
最後にそうやって呟いて、僕はおでこに上げていたアイマスクを目元に被せた。
「ん……?」
「…?どうしたアオイ?」
アオイに付き合わされて朝市へ買い物に行った帰り。
オレとアオイと2人でいくつかの買い物袋を抱えてアパートに向けて歩いていたとき、不意に何かを見つけたアオイが道の真ん中で足を止めた。
つられてオレも足を止め、振り返る。
「悪いクロロ、ちょっと待っててくれよ」
「おい、アオイ!」
引き止めるオレにも構わず、アオイは走り出した。
走る先には、どこかどんよりと影を背負った足取りで歩く1人の青年の後姿が。…誰だ?
青年の元にたどり着いて、早速その丸まった背中を撫で始めるアオイを追って、オレも2人のところへと向かった。
「…アオイ?一体誰なんだそれは?」
「おう、悪いなクロロ。前にちょっと組んで仕事したこともある奴なんだけどさ、ゼロっていうんだ。……あ、こっちは今のオレの相棒でクロロ」
「あ…そうなんですか…。はじめまして。僕、ゼロって言います」
「あぁ…。はじめまして」
オレと青年をきょろきょろと交互に紹介したアオイ。
青年はアオイの紹介にあわせてぺこりとオレに会釈をして来た。
オレと同じくらいの身長の―――ちなみにアオイはオレ達の中で1人だけ、頭半分くらい背が低い―――おっとりとした眠そうな笑顔が印象に残る青年だった。
……眠そうな、というか本当に眠いんだろう。目の下のクマが深い。
よろよろ歩いているように感じたのも気のせいではなかったようだ。
「アオイと組んで仕事をしたことがある…、ということはこの男も美食ハンターなのか?アオイ」
「いや、ゼロはハンターじゃねぇよ?……お前はまだライセンス持ってなかったよな?」
「あ…、はい。近いうちに試験受けようかなーとは思ってますけど…。
僕の弟がブラックリストハンターまがいのちょっと危ない仕事してて…、その代理で2回くらいアオイさんとも一緒にお仕事させてもらったんです。普段は天空闘技場で闘士をやってます。
そういうクロロさんはハンターなんですか?アオイさんとは……?」
「ああ…、オレの方はアオイと同期で一緒にライセンスを取ったんだが、色々あって今はハンターとしての仕事はしていないんだ。しかしアオイとは腐れ縁でな。今はこの近くのアパートでルームシェアしてる」
「へぇー…、そうなんですか…」
「……お前、なかなかイイ性格してるよな、クロロ……」
「なんのことだ?嘘はついてないだろ」
訊かれてにこやかに返したら、その傍からアオイに突っ込まれた。
イイ性格もなにも、ブラックリストハンターの縁者相手に、盗賊やってるなんて馬鹿正直に言うわけがないだろう、面倒な。
もちろん"仕事中"にカチ合えば話は別だが、せっかくのオフにわざわざこちらから地雷を踏みに行く必要はない。
見たところこいつはアオイにとって大事な仲間の1人のようだし、それこそ不必要に手を出してお前を怒らせたりなど絶対に御免だ。
普通ならば絶対に相容れない『盗賊』と『ハンター』が、細い奇妙な縁で繋がってせっかくここまで良好な関係でいるんだ。なるべく長く維持していきたいと思ってる。
(アオイの料理の腕と、オレの職業を知りつつも深くは気にしない楽天的な性格は、さすがに易々と手放すには惜しいからな)
こうしたちょっとした言い回しで十分避けられる闘いならば、今は積極的に回避しておくべきだろう。
「そもそもオレが盗賊だなんて知れたら、一番に突っ込まれるのはそんなオレと一緒に生活してる現役ハンターのお前の方だぞ?」
「……あっ、それもそうだな」
さすがに職業言った後で『親友だ』なんて言ってもしょうがねーやな、とケラケラ笑い出すアオイ。
ゼロと名乗った青年は突然笑い出したアオイの様子に、何事かと困惑顔になっていた。
「あー、悪い悪い。…で?お前の方はどうしたんだ、ゼロ?すげークマ作って」
顔は笑ったまま、ごまかすようにゼロの背をすりすりさすって、アオイは尋ねる。
訊かれたゼロは、だんだんと思い出したのか徐々に顔色を悪くし、肩を落として、少し地面の上に視線を泳がせた後に非常に言いづらそうに「実はおサイフ落としちゃって……」と小さくつぶやいた。
「サイフかー…、そいつは困ったなー。いつごろ、どこで落としたんだ?」
「…あ、えっと…、たぶん昨日くらいだと思うんですけど…、どこで落としたかは…その、分からなくて…」
「ふーん…、届けは?出したのか?」
「いえ…。幸いカードは別に持ってたし、現金しか入れてなかったからもうあきらめようかと思ってたところなんですが…」
「そか…。ま、元気出せ?そーだ、腹減ってないか?昼飯良ければ食ってけよ。おごるぞ?」
「えっ…、でも……」
「おい、アオイ」
オレが制止すると、ゼロはそれこそとても申し訳なさそうな表情でオレを見てきた。
しかしアオイは、オレの意向も無視したままいつもの明るい笑顔で「旨いもん安く作ってやるから!」と話を進めてしまう。
実際メシを作るのはアオイだし、オレも恩恵に預かっているだけだから強く文句を言える立場に無いが………。
お前はそうなんにでも首を突っ込みたがるおせっかい焼きな性格をもう少し直した方がいい。
たしかにゼロは、その温和な顔つきの分落ち込むとことさら悲惨な状況に追い込まれている風に見えるし、人懐っこくて面倒見がいいのはアオイの良いトコロでもある。
しかしかといってそうそうウチに他人を……それも"ハンター"もどきなんかを連れ込まれても困るぞ?
「つったって可哀想じゃん!見ろ、癒し系のゼロがこんなにやつれて!」
「知らん。オレには単に寝不足にしか見えないぞ?」
「えーと、その…; (…なんか騙してるみたいで気が引けるな…)」
はぁ…、と重苦しくため息をついたゼロ。
どうしたのかと思って視線を合わせれば、ゼロは「なんでもないです」と言いたげにアワアワと両手を振ってみせる。
………さっきからどうも取り繕い方が気になる。
ブラックリストハンターもどきがサイフ落としたというのも、おかしな話だしな。
やはりこいつ、何か裏があるんじゃないのか?
「アオイ…、やはり、」
「なんだよ〜!いいじゃねーか別に!お前にもてなせなんて言ってないし。オレが面倒見るから!」
「………。というかなんでお前はそんなにそいつが好きなんだ…」
「だって可愛いじゃん」
「…いやあのアオイさん…。僕カード持ってるし、なんとでもなりますから…;」
ゲストのゼロの方が逆に空気を読んで、アオイを止めようとオロオロしていた。
しかしおせっかい焼きなアオイがそんな控えめな止め方で止まるわけもなく。
「いいって!遠慮すんな?…つーわけだからいいだろクロロ?」
「『つーわけだから』ってどういうわけだ…。結局話が最初に戻ってるし、オレが何言っても強行する気満々じゃないかお前…。
まったく…。もう好きにすればいい…」
このまま反対し続けてたらオレの方が逆に家から追い出されそうだしな。仕方ない。
「おっしゃぁ!」
「ああー…; 本当にすみません…;」
「いや別にお前のせいではない、アオイがトラブルメーカーなだけで。オレに謝られても困る」
「そうだぜ!遠慮なんかすんなって!メシはみんなで食った方が旨いしな?オレだって2人分作るよりはいっぱい作る方が作り甲斐あるし!」
「("トラブルメーカー"って所には触れないんだな、アオイ…)」
「……って、あー…」
「どうした?」
突然、なにかを思い出したように上を見上げて、声を伸ばしたアオイ。
「…っつっても、そういえばお前たしか少食だったっけ…」
「えっ!?あ、そんな!アオイさんが腕を振るってくれるっていうなら、僕頑張って食べますから!ぜひご馳走してください!」
尋ねたアオイに、ゼロはにっこりと微笑(わら)って返した。
天真爛漫なアオイの明るい笑顔とは少し種類の違う、温かみのあるのほほんとした笑顔で。
なるほどな、これなら………ん?
「……どうした、アオイ?」
「……? あの、アオイさん…?;」
「…………。」
アオイが突然無言で、ゼロの服を掴み、肩を掴み、無理やりゼロの体を自分の正面に向きなおしたかと思ったら――――
アオイより少し背の高いゼロの頭を抱き寄せて撫で始めた。
「…あぁ〜、お前本当癒されるな〜」とか呟きながら。
……なんなんだ。
「苦しいです、アオイさん;」
「おう、悪かったな」
小さな悪戯が成功し、それを喜ぶ子供のような顔でアオイは笑う。
ゼロもそんなアオイを見て苦笑いをしていた。
「まったく、こいつらは…」
「ん?」
「…なんですか?」
「なんでもない」
和むような空気に押されて、この際もう仕方がないかとオレも諦める。
小さく息を吐き、目元にかかる髪を掻き上げた。
―――しかし、アオイも『陽』でコイツも『陽』か。
オレの存在だけが少し場違いかな、とわずかに笑い、とりあえずは3人でオレとアオイとが住むアパートへと向かった。
狭いアパートの、小さなテーブルに所狭しと料理を乗せた皿が上る。
それでもまだアオイはダイニングで鍋を放さず、オレとゼロはアオイからの勧めもあって先に2人で食べ始める事となった。
アオイが「少食」と言っていた通り、ゼロは春巻1個食いきるにももきゅもきゅと時間がかかる。
しかし手をつけた全ての料理をどれもとても旨そうに、幸せそうに頬張るので、―――あぁ、たしかにこれならアオイが気に入るわけだと納得する。
「可愛い奴だろ〜?なんでも嬉しそうに「うまい」って食ってくれるからオレこいつスッゲー好きなんだよ〜」
「しかしどう考えても食べるの遅すぎだろう。一所懸命食おうとしてるのは分かるが、この分では確実に料理が余るぞ?」
「ばか、そんなときは
オレとお前・DE・ザ☆大食いデスマッチ大開催だろ!」
「それはもういい。お前は毎回なんでも作りすぎなんだ。……というかアオイ。お前いつの間にアメを咥えてるんだ!?メシの前にアメを舐めるな!作る気はあっても自分で食う気ないだろお前!」
「クスクス」
ミネストローネの小鍋ときのこのホットサラダを持ちながら戻ってきたかと思えば、アオイの口にはいつものアメの棒が咥えられていた。
「まーまーいいじゃねーか、メインはゼロなんだし。好きなの好きな分だけ食ってっていいからな、ゼロ?」
そう言ってゼロの隣に座ったアオイ。少しずつでも色々な料理を取り皿に乗せて、ゆっくりと食べ進めていくゼロをニコニコと楽しそうに見ていた。
ゼロもまた、隣に座ったアオイに向かって「おいしいです〜」とこれまた幸せそうな顔で訴えていた。
…どうもふわふわと花が飛んで見えるな。幻視か。
どれだけ相思相愛なんだ、お前達。
「似た者同士もいいところだな…」
「えー、だって本当においしいですし…。んぐ……クロロさんは、そういうの言ってあげないんですか?」
「あーあー、駄目だクロロは。そういうの最近は言ってくれねーんだ」
「ええー、駄目ですよ〜クロロさん。そういうのはちゃんと言わないと〜」
ケラケラと笑って言うアオイと、むきゅむきゅと春巻の残りを口に入れて言うゼロ。
なんだこのオレだけアウェーみたいな感じは。地味につらい。
「…仕方ないだろう。常態化してくるほどにそういうのはどう言ったら良いのかよくわからなくなってくるんだ」
「でも、やっぱり作るほうとしては、言ってくれない人より「美味しい」って言ってくれる人相手に作りたいんですよ」
「そーそ。わかってるなーお前。やっぱり好きだわ。もうオレ、クロロと今日で別れるから、お前明日からオレと暮らさないか?ゼロ」
「ええ?急に言われても困りますけどぅー、ウフフ」
これ見よがしにアオイはゼロを撫でて可愛がる。ゼロもニコニコとそれに乗っかっていた。
くそ。……わかったわかった。言えばいいんだろう。
かなわないな、お前達2人には。
「ふぅ…わかった、仕方ない。そこまで言うなら言ってやろう。……アオイ」
「おう?」
箸を置き、姿勢を正してアオイへと真摯に向き直る。
そしてアオイの手をとってしっかりと視線を合わせた。
ゼロも、新たにサラダに伸ばしたスプーンを止めて、オレとアオイの動向を見守っていた。
「アオイ、……
好きだ」
「
――――ぶふうっ!違う、、お前、それ全然セリフ違うじゃねーかよ!馬鹿!」
「あはははっ」
とてもウケた。
狙い通りでオレは満足だ。
機嫌よく大笑いし始めるアオイとクスクスと控えめに笑うゼロの姿をよそに、オレはまた箸を手に取り料理へとそれをのばした。
―――――そして昼から始まった3人だけの宴は結局そのまま夕方まで続いた。
蜘蛛の連中と開く騒がしいいつもの酒宴とは違い、アルコール摂取量も少ない終始落ち着いた雰囲気の和やかな食事会だった。
最初はどうなるかと思っていた盛りだくさんの料理も、ある程度はオレとゼロで、そのあと最後にはアオイも加わって食べて、なんとか大半を片付けることができた。
「悪かったなー、なんか無理させて」とアオイはゼロに言っていたが、一番量を食わされたのはオレだぞ、実際。どれも旨かったから別にいいがな。
「無理してないですよ!全部すごく美味しかったです!帰り賃までもらっちゃって…ありがとうございます、アオイさん。いつか絶対恩返ししますね!」
「ハハッ、そんなん全然忘れていーぞ?」
日が暮れる前においとまする、と言うゼロをアパートの玄関で送る。
それにしても、ゼロに会った最初から最後までアオイは上機嫌だったな。よっぽどこいつが好きなんだろう。
…とはいえ、オレもアオイのそんな気持ちが分からなくなかった。
短い間だったがこいつのことはオレもかなり気に入った。色々と折り合いがつけばぜひとも嫁2号に迎えたい程度には。
「あ、それからクロロさん」
「…ん?なんだ?」
別れの間際、ゼロはオレに呼びかけてきた。
少し考えるようなしぐさをした後、意を決したように顔を上げるゼロ。
「その…、アオイさんっていろんなハンターの、仕事の合間の食事係にすごく人気なんです。
明るくて楽しいし…、精神的なサポートも生活全般のサポートもうまいから、『俺の嫁に!』って狙ってる人たくさんいるみたいなんです」
「あぁ、それはなんとなく分かるが…なんだ突然?」
「いえ、その…アオイさんのこと末永くよろしくお願いします。僕の弟には、僕がよ〜〜〜く言って聞かせておきますから!」
「…あ?…ああ…そうか…;」
突然何を言い出すんだこいつは。やはりよく分からん奴だ。
「お前、何言ってんだよゼロ?」
「いや、アオイさんが楽しそうにクロロさんと話してるの見たから、邪魔したらいけないなーって思って。お邪魔虫になりそうな僕の弟は何とか僕が抑えときますから!
大丈夫です!!」
「何が!?」
張り切って両拳を目線の高さでぐっと握ったゼロ。
結局言いたい事はよく分からなかったが、アオイの突っ込みの勢いの良さもあいまって何故だかとても愉快に思えて、つい噴き出してしまった。
「フッ…。お前といるとなんだか調子が狂うな。…だが悪くもない。
職業柄、いつも歓迎するわけではないがアオイがいるときにはまたいつでも来たらいい。お前が一緒にメシを食ってくれた方がアオイも喜ぶしな」
「そうですか…、ありがとうございます。じゃあまたいずれご一緒させてください。今日は楽しかったです!」
「ああ」
「じゃーな!」
そうしてニコリと笑って、何度も振り返って手を振りつつゼロは雑踏へと姿を消した。
ほんのりと暖かいほのぼのとした空気をオレ達の間に残して。
「……な?いい奴だろ〜?明るく咲いたひまわりみたいでさ」
「そうだな。踏まれてもたくましいタンポポみたいなお前と組ませると、オレの存在がかすみそうになる程度には」
「わはははは!ギャグかそれ!?」
オレンジ色の夕日が照る中。アオイの、気持ちのいい笑い声が響く。
ハンターの溜まり場にされても困るが、まぁたまにはこんな日があってもいいかと思いながら―――――
オレは、アオイと共に片付けが終わりそうにない部屋へと戻っていくのだった。
『……おい。…おい、ゼロ。起きろ』
空港に向かう専用のバスに乗り、ふかふかの座席で、僕は満腹感からかウトウトとしていた。
すると今の今まで僕の中で寝ていたらしい、件の"弟"からとげとげしく声がかかって、僕は閉じていた瞳を半分ほど開けた。
『…なんですか?ジャズ。僕、眠いんですけど…』
『いいからよ。結局どうだったんだよ。収穫はあったのか?アオイの奴どうしてた?』
面倒事は僕に押し付けて寝てたくせに、調子がいいなぁなんて思う。
優しいアオイさんと面白いクロロさんと、おいしくて楽しい時間を過ごせてそれまで結構気分が良かったのに、急に水を差されたのと――――
あとは、眠れない飛行船に乗るまで少し寝ておこうとウトウトしてたのを邪魔されたこともあって。
僕は意趣返しのつもりでニッコニコの笑顔を浮かべて言ってやった。
……普段からのジャズのわがままへの不満がついでに爆発したというのもある。
『アオイさんなら、格好いい男の人と仲よさそうに暮らしてましたよ〜』
ばっち
「いっ、痛い……; ひどいです、嘘じゃないのに…」
『暮らしてたってなんだよ!!仕事たてこんでんのかと思ったら!しかも格好いい『男』だ!?ざけんな、一体誰だよ!?言え!
オレ達のアイドル独り占めなんて、んなこと許されると思ってんのか!?』
「("達"って…僕も一緒にしないで欲しい…)」
僕はアオイさんに嫌われてるわけでもないですし…。
クロロさんとも仲良く出来たと思ってます…。
ジャズのわがままだけが迷惑なんですよ……。
『……何か言ったか、へなちょこ』
『何も言ってませんよ、ばかジャズ』
面倒だなぁ、もー…と、とりあえず飛行船に乗ってしまうまでは何が何でも黙っておこうと僕は決心して、ビルの合間に照るオレンジ色の夕日を眺めた。
NEXT→その5へ/
←PREV(前話へ)
7周年記念のリクエスト受付で、深月様から「double style」のゼロさんと「無自覚カリスマ」のアオイさんとクロロのコラボ夢承りました。
ゼロさんとアオイくんに癒される団長とのことでしたがほのぼのしただけで終わってしまった気が…
ゼロさんは原作突入前ごろ、団長とは初対面って感じでお願いします
深月様、お祝いとリクエスト、ありがとうございました!
すもも