spiritless spider ◆01:へんなやつとであう




天空闘技場。



勝者のみが上の階にいける格闘技場。

1日平均4000人の腕自慢がより高い階を目指してやってくる。観客動員数は年間10億を越える。

建物内部にはサービス用の各種施設が完備されており、高い階級の闘士は1フロア全てを所有することが出来るのだ。







「ねぇキミ」


天空闘技場、200階クラス。

顔にピエロのようなペイントを施した男――――ヒソカが、目の前をぽてぽてと横切った少年に声をかけた。


右肩に彫られた、――――腹に髑髏を模様付けた――――『蜘蛛の刺青』が印象的だったから。




「ん――――――…?」

周りには自分以外の気配が無い。男が呼びかけたのは自分なのかと思って、少年は立ち止まった。

そして間延びしたような声を上げてくるくると体ごと辺りを見回した。


「ぅ――――ん…。………オレ?」

ヒソカの方向を向いて首をかしげて聞いた少年。


その目は開かれてはいない。


「………キミ、もしかして目見えない?」



「うーん……そう――――。」



ここは200階クラス。

このクラスの闘士は、全員が『念』の使い手。念を知らずにこの階に上がってきた者は必ず念使い達から『洗礼』を受ける。




『洗礼』―――――『念』による攻撃。




"死んでもかまわない"と容赦なく打ち出される攻撃によって、死ぬ者も多くいる。

『洗礼』に耐えた者は念使いとして目覚めるが、代償に足を失っていたり、手を失っていたり。


きっとこの子は目を失ったのだと、ヒソカは解釈した。





「キミ、名前は? 200階の闘士…だろ?」

もともとヒソカは他人に興味など示さない。

面白そうな人材には目をつけることもあるが、基本的には自分以外どうでもいい。

今現在200階クラスにいるのは20名前後とはいえ、そんなヒソカだから全員の顔を知っているわけではないし、覚えようとも思っていない。

おそらく初めて見る少年……だったのでヒソカは尋ねた。


「そー、200階の闘士ー。なまえはね―――、ラッカーっていうのー」


別段何の警戒も見せず答える少年―――ラッカーの様子に、ヒソカは少し笑った。

「だめだよ、キミ。もうちょっと警戒心持たないと」

「ん―――――…?そ―――お?だってここ、別にリングの上じゃないし―――。おにーさんが聞いてきたんじゃんかー」


「くっくっく…面白いねキミ。ラッカーくん、だっけ?」

「うん。そ―――」

ぼやーっとした受け答えの少年。頭弱いのかな?などと思いながらヒソカはくすくすと笑って、そして自己紹介をする。



「ボクはヒソカ。ボクも200階の闘士だから。縁があれば戦うこともあるかもね」

「ヒソカ―――?…ふ――――ん」




別に名前が売れたいわけじゃない。


だけど自分は目立つから(わざと目立つように振舞ってる節もあるが)、目が見えなくて、顔はわからなくてもきっと名前くらいは知ってるんじゃないかと思ってた。

しかし予想に反してラッカーの反応は薄く、ヒソカは少し残念に思った。


「…まぁこれからよろしく」

「う―――――ん…………、よろしくー」

かくんと頭をさげたラッカー。なんとなくそれが面白くて、ヒソカはまた笑った。

ラッカーの頭をぽすぽすとなでると、ラッカーはなでられた場所に手をやってヒソカを見上げる。


「なにすんのー」

「ククッ……いや、なんとなくなでやすい位置にあったからさ」

勝手に手が伸びたんだよ、と言ってヒソカは笑う。それを聞いてラッカーは少しむくれた。

「オレ、そんなにチビくないもん」

「そうかい?小さいよ、どう見ても」

「ヒソカー、が、でかすぎるんだよぉーぅ。何食ってんのさー、ばかー」


そう言ってラッカーはまっすぐ手を伸ばしてヒソカに触る。

手が当たったのは、ちょうどヒソカの股間。

「……どこ触ってんの」

「ん――――………」

ラッカーはぺたぺたと両手でいろんなところを触って、最後にはヒソカにくっついた。



「う――――――――」

ヒソカの腰らへんに抱きついて、上を見上げたラッカー。相変わらずその目は開いてない。

「なんだー?でかいぞー。半分よこせー」

「それは無理だね」

きっぱりと言うと、またラッカーはうーうーとうなりだした。

ふてくされた子供のような顔で、ヒソカにくっついたままうろうろきょろきょろするラッカーを見てヒソカはまた、彼の頭をなでた。




「…ま、ラッカーも大人になれば伸びるよ?」

「おおおぁあ、それは今オレをバカにしたな?バカにしたな?ヒソカ!」

チビじゃないもんー、チビじゃないもんー、と叫んでラッカーはヒソカから離れた。すてすてと距離をとって、ヒソカに向き直って言う。


「ばーか、かーば、ヒソカーなんかーきーらいだー!ドアの頭に天井ぶつけて死んじゃえー!」


ベーッと舌を出し悪態をついて、ラッカーは廊下の角に消えた。











「……………ドアの頭に天井ぶつけてって……逆じゃないのかい?それ……」

ぼそりと呟いたヒソカの言葉がラッカーに届いたかはわからない。










NEXT→02:みんなでごはん

一応ヒソカがメイン。

すもも

TopDreamspiritless spider◆01:へんなやつとであう
ももももも。