手を失った男は、『手』の代わりの能力を。
足を失った男は、『足』の代わりの能力を。
じゃあ目を失った、ラッカーの能力は?
てってって。
天空闘技場の通路に軽快な足音が響く。
小さな少年が1人、通路を駆けていた。
もふっ
「ぱう!?」
「おや?」
曲がり角を曲がったとたん、何かにぶつかってラッカーはしりもちをついた。
ぶつかったのは、ヒソカ。
「やv また会ったね、ラッカー」
「あ――――――。ヒソカ――――………」
ヒソカの声を聞いて、なんとなく肩を落としたラッカー。立ち上がって、くるりと方向を変えた。
「どこ行くの?」
「ヒソカー、には、関係ないの――――」
そう言い残してラッカーが歩き出したので、ヒソカも歩き出した。
てくてくてく。
かつかつ。
てってってって。
かつかつ。
すたたたた。
かつかつ。
だんだんと歩みを速めるラッカーだったが、ヒソカを撒くことは出来なかった。
足の長さが違いすぎる。どんなに急いでもヒソカの足の長さにはかなわなかった。
しばらく天空闘技場内を歩き回っていた2人。小さな少年をなぜか"あの"ヒソカが、追いかけている。
運悪くこの妙な2人の追いかけっこを見てしまった闘士達は瞬間的に退いた。
黙ってその光景に見入って、そして2人の姿が見えなくなってからこそこそと今見たものを噂しあった。
先に歩いていたラッカーが、ずっと一定の距離を開けてついてくるだけで何もしないヒソカに痺れを切らしたのか、動きを止めた。
そして体ごとヒソカに向き直り、怒ったような困ったような、そんな顔を見せる。
「んー?どうしたんだい?ラッカー…」
「…………なんでついてくるの―――。あっち行ってよー。オレ、ヒソカきらいっていっただろ―――」
ぶんぶんと腕をばたつかせてラッカーが言う。
そう、ヒソカはラッカーに嫌われていた。
なぜ?
「…なんでそうボクを避けるんだい?」
「ヒソカー、が、きらいーだから―――――」
「だからなんで嫌いなの?」
「う――――――?だってヒソカ、オレのことバカにするもん」
「バカにしてないじゃないか。なんでそうなるんだい」
ふわふわきらきら。
しばらくラッカーを観察していて、ヒソカは気付いた。
ふわふわとしたオーラのかけらのようなものが、絶えず彼が纏うオーラから流れ出ていることに。
どうやらラッカーは"それ"によって、人や物を感知して避けているらしかった。
(彼特有の『円』みたいなものかな……?)
『円』にしては妙な物。
きっと失った"目"の代わりの"能力"なのだろう。
まるで蜘蛛の糸のように見えにくく、ぺたりと物にくっつく"それ"。
それが彼の"念能力"なのかどうかはまだはっきりとはわからないが、とにかくそれに触るとラッカーが反応する。
逆に言えば、あの妙な『円』にさえ触れなければ目の見えないラッカーが自分の存在を感知することはほとんど無いと思われる。
戦闘中でもあるまいし、そこまでの警戒はしていないはずだ。
ふわふわと宙を自由に舞い、酷く見えにくい"それ"に注意を払ってヒソカはラッカーに近づいて行った。
別に仲良くしたいわけじゃないけど…このままではいつか対戦するどころか、逃げられて姿を隠される。そのうちクチすらきいてくれなくなりそうだ。
(困るんだよね、それは)
珍しくみつけた、面白そうな素材。
丁寧に育てて、そのあとでむさぼりつくしたい。
そのためにはまず、ラッカーのこの変な警戒を解かなければならない。
逃げられては元も子もないから。
向かってくるコはどんなに放っておいてもやってくるけど。
逃げるコは追いかけないとね。
「意味がわからないよ、ラッカー。ボクがキミを馬鹿にしたのかい?」
「だってヒソカー、オレのこと、コドモ扱いするじゃん――――?」
「そうかい?いつ?ボクそんなことしたっけ?」
あともうちょっと。
「頭なでるの絶対ばかにしてる―――。オレがちびだからってヒソカーはオレのことコドモ扱いしてる――――。むかむか。」
オレ、コドモじゃないもんー。コドモじゃないもんー。などと叫びながらラッカーはまた腕をばたつかせた。
それを見て、内心ヒソカは笑う。
そんなところが、十分コドモなのに。
「だからオレ、ヒソカきら
はびゃ―――――っ!!」
「油断大敵だよ、ラッカー。捕まえたv」
ヒソカは喋っていたラッカーを、わしっ!と捕まえて抱き上げた。
きーきーとねずみの様に騒いでラッカーは一生懸命ヒソカの腕から逃れようとするが、ヒソカのほうが力があって、どう足掻いてもびくともしない。
もうちょっと暴れるかと思っていたが、案外すぐにラッカーはおとなしくなった。
「諦め早いねー。まぁ楽でいいけど」
むふーっとむくれたラッカーは、動く範囲でヒソカとは反対方向―――そっぽを向いた。
「まぁまぁ、そうむくれなくてもいいじゃないか?」
「ぬふ――――――」
ぷっくりとほっぺたを膨らませて口を尖らせるその様子に、ヒソカは笑う。
――――キミ、本当にいくつ?
「くくくっ…、ホント、面白いねキミ。」
「オレはおもしろくない―――――」
ぷふぅっと、頬を膨らませていた空気を吐いてラッカーは脱力した。
なんだかもうどうでもよくなってきたらしい。
「機嫌なおしなって。…じゃあ…そうだねぇ……ならラッカーの好きなもの何かおごってあげよう。それで仲直りv」
「む―――っ!?ほんと!?………あっ…ううん、だまされないよ!!仲直りしないよ!?」
ヒソカの言葉を聞いて、びくりとしたラッカー。うろうろきょときょととヒソカに抱っこされたままラッカーはおかしな動きを繰り返す。
おおいに迷っているのは誰の目にも明らかだった。
仕舞いには困って、黙ってしまったのを見てヒソカは目を細めた。
(扱いやすいなぁ…)
「じゃあどっか食べに行くかい?」
「ぅ―――――――ん……」
とりあえずヒソカは、なんとなく釈然としない顔のラッカーを抱えたまま歩き出した。
NEXT→05:らいほうしゃ/
←PREV(前話へ)
まったりスローペースなので、いまいちストーリー性が皆無です。
すもも