spiritless spider ◆05:らいほうしゃ




「ラッカー。君は蜘蛛のメンバーなのかい?」

「んふ――――――?」



闘技場内部の食事施設にヒソカとラッカーはいた。

お昼時とは少しずれた時間帯のためか、2人のほかに店内にはコーヒーブレイクを楽しむ数名の客しかいない。

そんな時間帯だというのに、昼食を摂っているのかいないのか、ラッカーの前には昼食さながらの料理群が小さなテーブルに並んでいる。

はふはふと熱々のグラタンと格闘するラッカーに、ヒソカが一つの疑問をぶつけた。






一番最初に興味を惹かれたのは、ラッカーの右肩に刻まれたクモの刺青。


腹に髑髏が刻まれたそのクモの刺青と似たようなものを、ヒソカもその背に持っている。

ラッカーのそれと違うのは、ヒソカの"クモ"には4という数字が刻まれていて、そしてその足が6対12本だということ。








12本の足を持ったクモを、シンボルにする奴らが居る。




――――――幻影旅団。





世界にその名を轟かす、特A級賞金首。残虐非道の盗賊団。


ヒソカはその幻影旅団の4番に籍を置いていた。








「んむぅ?ヒソカも目、悪いの?オレはクモの仲間じゃないよ、ちゃんと人間だよ!」

「いや、そういう意味じゃないんだけど……食べるか喋るかどっちかにしなよラッカー」


料理を食べるのに精一杯なのか、ヒソカの話がラッカーにはうまく通じてない。

んぐんぐとほっぺたいっぱいに料理を詰め込んで、ラッカーは1人幸せそうな顔をしていた。



("蜘蛛"って言えば、念使いなら一度は聞いたことあるはずなのにねぇ…)



そういえば初めてラッカーに会ったときも、この天空闘技場である意味有名人とも言えるヒソカのことを、ラッカーはまるで知らないとでも言うように全くの無反応だったことを思い出した。


(我が道を往くコだなァ…)

ラッカーがそれらに興味をもたないのか、それとも単に忘れっぽいのかはヒソカには知る由もないことだ。





かちゃかちゃと食器を鳴らしていたラッカーの手がいつのまにか止まっていたことにヒソカは気付いた。

視線をテーブルに落とせば、皿の上の料理たちは見事に片付けられており、ヒソカが考え事をしてるうちにどうやら全部食べ終わったらしい。




「満足かい?ラッカー」

「う――――ん…」

「…まだ食べるの?」

そう聞くとラッカーはヒソカの様子をうかがうように首をかしげて少し黙った。


「んー、じゃあカンベンしてやる―――――」

「…そ。」


最後にごくごくと水を飲み干して、ラッカーとヒソカはレストランを出た。
















人気の多い闘技場の建物の中、ヒソカの前をラッカーが左右にふらふらとしながら歩く。


(うーん、面白い…v)




右にふらふら〜。

左にふらふら〜。




人が起こすわずかな風に流される木の葉のように、歩いている闘士や客達をまさに紙一重でするりと避け、ラッカーは右にふらふら左にふらふら歩いていく。

前を歩く人間が、驚こうが怒鳴ろうがお構いなし。


実際にぶつかっていないのだから相手の闘士たちも文句のつけようが無く。

ウロウロよろよろ自分達の傍を歩く小さな少年をただ邪魔に思い、吹き飛ばそうと振り上げた拳も、蹴り上げた足も。

ラッカーは足元の小石を避けるかのようにひょいっと避けてどんどん歩く。



ヒソカとはまた違った意味で堂々道を我が物顔で歩くラッカー。

迷惑顧みないというか、自分本位というか………。


ボクと似てるなぁ、などとクツクツ笑いながらヒソカもラッカーの後に続いた。




(まぁボクの場合はみんなが勝手に避けてくけどね)









―――――それはなんていったって、『あの』ヒソカだから。







自分とは一切目を合わせずに、こそこそと脇を通り抜けていく闘士たち。

それには目もくれずにヒソカは前を歩くラッカーを呼び止める。





「ラッカー?次の締め切り、いつだい?」

「ん――――…ひみつ――――」

まるでひよこかあひるのようにぺたぺたよろよろ歩きながら、ヒソカのほうには振り向きもせずラッカーは答えた。


「…ラッカー、ボクのこと見てよ」

「や―――――」

即答したラッカーを、ヒソカは後ろからひょいと抱き上げた。


「冷たいじゃないか、ラッカー。そんなにボクの事キライ?」

「キライ――――。離せ――――――」

「嫌。じゃあボクも離さない」

「エー、きもち悪いー、から、離せよ―――――う」

「ダーメv」

じたばた暴れるラッカーを片手で押さえ込み、ずんずんとヒソカは部屋へ向かって歩いていた。










「待ちたまえ!!」

「ん?」

小さな子供を誘拐する『あの』ヒソカに、ビシー!と声をかけた人物がいた。



「あ――――……、その声はー、カストロ――――」

「ははは、覚えてくれたのかい?ラッカーくん。でも人を指差しちゃいけないよ」

「ああ…キミか…」



カストロに一瞥投げたヒソカは、さして興味なさそうにそう呟く。


………何でボクのことは知らなかったのにコイツのことは知ってるのかと、ちょっと苛立っていた。




「その節は世話になったな、ヒソカ」

「ボクは世話なんかした覚えは無いけど?…邪魔だから消えてよ」

「そうはいかないな。こんな小さな子をどこに連れ去る気だい?」

「キミには関係ないだろ」

「確かにそうだが…退かぬというなら、今ここで借りを返してもいいぞ」



びし、と空間に亀裂が入った気がした。


カストロの言葉にヒソカが細い目をさらに細め、カストロのオーラがその牙をむき出しにする。

ヒソカの小脇に抱えられボーッとしたラッカーの存在が、その場の空気から妙に浮いていた。




(おなかすいた―――。)


カストロの声を聞いて、そういえばおやつ食べてないー…とか、そんなことを1人で考えていた。







「…まさかボクに勝てると思ってるの?」

「フッ……今はまだ、な。…だがいつか必ず借りは返す。首を洗って待っていろヒソカ」


そう言ってくるりと方向を変えたカストロ。

コツコツと廊下の人並みに消えた。





「……ふーん。ま、ボクはどうでもいいけど…」

「あ―――――……」


去って行くカストロを見て妙に寂しげに声を上げたラッカーに、ヒソカはぐるっと振り向いて鋭いオーラを投げる。

「そうだよ。ラッカー?」

「ん―――――…」


「何でボクのことは知らなかったクセに、あいつのことは知ってるワケ?」


つのるイライラをラッカーにぶつけたが、目の見えないラッカーにはあまり効いてはいないようだった。

ヒソカの小脇に抱えられて、だらーんとしたままラッカーは答えた。








「よくアメ玉くれるから――――」


「…………。」





おやつー…、と、カストロが消えた先を眺めて寂しそうに呟くラッカーに、ヒソカは何も言えなくなった。









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カストロさん書くのわりとおもしろい。

すもも

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ももももも。