double style番外編 バレンタイン夢◆「願望」




「はあっ!!」

「遅いっ!」


ゴンの、僕の顔を狙った蹴りを左腕一本でガードしきる。



"硬"や"凝"を使わない生身の蹴りだというのになんて威力だろう。

それを止めた僕の左腕がぎしぎしと悲鳴を上げた。


公平を期そうと必死に押さえているオーラが、この場で爆発してしまいそうだ。



ゾクゾクするよ、ゴン。

キミの成長を、―――――キミの進化を。この目で、この体で感じることができて。




―――でも、

「まだまだぁあっ!!」


ガドッ!!

「―――ぎっ!」



ゴンの渾身の蹴り。その威力を完全に殺したことで一瞬、ゴンの体が中空に制止した。

そこに、僕の思い切りの右ストレートが入る。



極力、クセになってしまっている"流"を押さえ、生身の拳を入れたつもりだけど、ヒットする一瞬にそれもきちんとできていたのかどうなのか。

ただどっちにしろ、まだまだ"オーラによるガード"が身についていないゴンには重いものだったようだ。


ゴンの両腕のガードを突き破り、僕の拳はゴンの腹へと深く身をうずめてしまった。

ミシミシと手ごたえを感じる。


軽量なゴンの体は簡単に吹っ飛んで、ゴロゴロと地を転がっていった。



手に残った、ゴンの筋肉と骨の感触をフルフルと振り落とし、十数メートル向こうに倒れたゴンが視界に入って、僕は慌てて駆け寄った。


「ご、ごめんなさいゴン!結構思いっきり入っちゃった!!…あああ、どうしよう〜…ゴン〜…」

うつ伏せて、げほごほとむせて胃液を吐いていたゴンをオロオロと見守る。

天空闘技場にいたころも、こういう感じに何十人と半死半生の目にあわせてきた前科があるだけに、僕は気が気じゃなかった。



うろたえるようにゴンを見守っていると、そんな僕を落ち着けるようにゴンが手を上げた。

「だ、…だいじょ、ぶ」


ぐぐっと震える腕で踏ん張って起き上がろうとするゴンを、手助けするように抱き起こす。

立ち上がろうとするも膝が笑っているのか結局立つことはできず、ゴンはぺたりと座り込んだ。


そしてズキズキと痛む腹を撫でさする。


「はは…効くなぁ、ゼロのパンチ…」

「…ごめんなさい、ゴン…」

「ううん。ゼロが謝ることないよ。望んだのはオレだし…。ありがとうゼロ」


僕がしょんぼり肩を落とすと、「気にしないでよ」と言いた気に、少しつらそうにだけどゴンはにこりと微笑む。

うう、気を使わせちゃった…。


差し出された手を取って、苦笑しながら僕は握手を返した。







事の発端は、一輪のバラ。

バレンタインデーの贈り物にと、ゴンからそれをもらった。


僕も何か贈り返そうと考えたけど、ゴンは何が欲しいのか見当もつかなかったので結局

『お返しは何がいいですか?』

と、直接聞くことにした。




「う〜ん……」

「何でもいいですよ、僕が返せる範囲でなら」

「でもオレがあげたのって、花一輪だけだし…;」

逆に悪いよ、と苦笑いを見せたゴン。


「…でも僕は嬉しかったんです。素敵な贈り物だったと思ってますよ?…だから、何か無いですか?」

困ったようにぽりぽりと頭をかいていたが、結局は僕の微笑みに負けたのか、最後にはゴンもにこっと笑ってくれた。


「うーん…、じゃあさ、オレと戦ってよ、ゼロ!バトルしよう!」

「……そんなんでいいんですか?」

「うん!」


そして中心街から離れた廃材置き場みたいなこの広場に来て、今へと至ったわけだ。







「……やっぱり…まだまだ全然届かないや…」

おなかをさすりながらポツリと呟いたゴンくんの言葉。


その言葉を聞いて、僕はなんとなく、ゴンくんが何をしたかったのかわかった気がした。


「僕に勝てないうちは、ヒソカさんには通用しないってことですね?」

「…うん。ゴメンねゼロ。オレ、どうしても試したくて」

「いえいえ。僕でよければいつでもお相手しますよ、ゴン」

「ほんと!?ありがと!ゼロ!」

ゴンくんの前に手を差し伸べた。

そろそろダメージも幾分か回復してきたころだろう。後はホテルにでも戻ってぐっすり寝ればいい。



ぎゅっと握ったゴンくんの小さな手。――――小さいけど、でもしっかりした手だった。

それを引き起こして、ゴンくんを立たせる。

そしてゴンの服についた土埃をぽんぽんと払い落としながら、僕はゴンくんを見上げた。

「まぁ、もし仮に僕を倒せたとしても、ジャズを倒せるくらいにならなきゃヒソカさんには通用しないと思いますけどね」

「えっ…。いじわるだなぁ、ゼロ…」

「そうですか?…それに"念の強さ"っていうのもまた色々ありますからね。特にヒソカさんのバンジーガムは本当によく完成された能力ですし…。ゴンくんの力ではまだまだ……」

「えー…」

へろんと耳を垂れた仔犬のような顔を見せたゴン。なんだかそれが可愛くて、面白くて、僕はぷっと吹き出してしまった。


「大丈夫大丈夫。ゴンくんの念はまだ発展途上だし…これからどんどん強くなれますよ。ね?」

「ほんと?ゼロがそう言ってくれるならオレもなんだか心強いよ!」

「はは、自信つくでしょ。僕が言うと」

「うん」

冗談めかしていった言葉を、2人であははっと笑い飛ばして、僕らは帰り道を歩み始めた。





ゴンくんと手をつないで、人通りの少ない小道を大きな道を目指して歩く。


その途中で、ゴンがとても真剣な表情で一言を呟いた。

手を、胸の前で強く握り締めて。



「…オレ、もっと強くなるよ。ゼロ」

「はい」


「……クラピカも、キルアも、ゼロも…。いつも何か…オレには見えない大きな敵と戦ってる」

「……はい」


「いつか手助けできるくらい……。仲間を守れるくらい…オレ、もっと強くなりたい」

「はい」



「それまで…オレが強くなるまで、ゼロはいなくならないで………ずっと傍にいてくれるよね?」

「もちろんですよ。…ゴンがそう望んでくれるなら、僕はいつまでもキミと一緒にいます」


僕がそう言うと、ゴンくんはぎゅっとおなか付近に抱きついてきた。


まだまだゴンくんは小さいけど………。



ゴンくんの抱擁は、ジンさんのもののように力強くて。

僕はなんだかとても暖かい気持ちになった。






おわる


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お相手ゴンでバレンタインお返しバージョン。ネタとオチとが合ってない気もしなくない。

すもも

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ももももも。