「うわあ―――!雪だ―――――!!」
「おいゴン、外で雪合戦しよーぜ!」
『…ガキか』
「いやいや、ガキでしょ」
僕の当然の突っ込みに、ジャズがむっと黙る。
見渡す限り、一面の雪。
一晩の間に突如として雪化粧をほどこした古い街並み。
カーテンを開けて見えた、昨日とは別の世界のような外の景色に、ゴンとキルアは瞳をきらきら輝かせて、表へ駆けて行った。
「はは…元気だな、ゴンとキルアは…」
「ま、お子様だからな」
我先にと部屋を飛び出していったゴンとキルア。
それと入れ違いに僕の部屋に入ってきたのはクラピカとレオリオだった。
「おはようゼロ。…いや、今日ばかりは『あけましておめでとう』かな?」
「はい。あけましておめでとうございます、クラピカ、レオリオ」
「おう、おめでとうゼロ」
ぺこ、と頭を下げて新年の挨拶を交わす僕と、それにつられて頭を下げたクラピカ。いつものように片手をぴっと上げて笑ったレオリオ。
「………僕たちが出会って、もう一年になるんですね」
「そうだな。これを祝ったら、キルアもハンター試験に向かうんだろう?」
「早いもんだぜ」
ハンターを目指す人たちの、年明け最初の試練―――――ハンター試験。
そこで、僕らは出会ったんだ。
「今年は受かるといいですね、キルア」
「そうだな…」
…まぁ、キルアなら心配は要りませんか?
くすっと笑って、窓の前まで移動する。
ホテル3階の窓から下を覗けば案の定、キルアがゴンとともに外に飛び出したところだった。
「それにしても…この辺でこんなに雪が降るとは思いもしなかったな」
窓の傍に立った僕の隣にクラピカが寄って来て言う。
枯れ木に乗った雪と、その下の、雪に覆われた街並みを見て。
「そうですね。ゴンとキルアがすごく嬉しそうです」
下では、ゴンとキルアがわっさわっさと雪を掛け合っている。
「寒そうだな…。コートくらい着たらどうなんだ、あの2人も;」
「まったくです。…ゴーン!キルアー!風邪引かないようにしてくださいよー!」
看病するの、どうせ僕なんですからー!と窓を開けて2人に呼びかけた。
するとゴンくんは雪まみれのままにこやかに手を振ってくれる。
「うん!大丈夫!ゼロもおいでよ!一緒に雪合戦しようよ!」
「うーん…、僕は遠慮しておきます」
せっかくクラピカが仕事休みなんだし、もっと色々お話したいから………
僕のすぐ隣に立ったクラピカの横顔を、そっと見る。
いつも見せているような険しい表情はそこには無く。外で遊ぶゴンとキルアを、少し楽しそうな顔で眺めていた。
「…よかったです」
「ん?なにがだ、ゼロ?」
「…クラピカが、幸せそうで」
にっこり微笑みかけてそう言うと、クラピカは少し照れたのか視線を外した。
目の前では一年前の今日と同じように、新年の日が明るく街を照らしている。
僕はぺたんと手を合わせて、窓の外の太陽に向かった。
"よーし、あの太陽に向かって今年一年の目標!立てるぞ、ゼロ"
そう言って僕に微笑んで、ビッとあの太陽を指差したジンさん。
優しく頭をなでてくれたジンさんの手の感触を、思い出して。
―――今また僕は、あの新年の日に誓います。
一年前の今日、"ハンター試験に合格するぞ"って意気込んだように。
あの太陽に、誓います。
―――――どうか今年一年も、みんなが幸せでありますように。………そのために…僕は戦うことを誓います。
一年の始まりのハンター試験から。
ゴンとクラピカとレオリオ、キルアと出会って、ハンター試験に合格して。
みんなで一緒に走って、今に至るまで。
みんなが僕を助けてくれたように。今度は僕が、みんなの幸せのために戦う番。
みんなが、―――クラピカが笑顔を見せてくれるなら、僕も。
僕も、嬉しいです。
―――――だから、戦わなくちゃ。
ふと、閉じた目を開いて、ゼロはくるりと後ろのクラピカとレオリオに向き直った。
満足そうな柔らかな笑顔に、なにか暖かいものを感じて。クラピカも笑みを見せる。
と、その瞬間。
ズバッ!!
「―――うわっ、ゼロ!?」
大きな雪玉が、ゼロの頭に命中した。
「よっしゃあ!大命中!」
パチッと指を鳴らしたキルア。
3階の窓際に、頭から雪を被ったゼロの後姿が見える。
「だっ、大丈夫か?ゼロ!?」
「おいおい……こら、キルアッ!」
心配そうにゼロの頭の雪をクラピカが払い落とし、レオリオが窓から、下のキルアに向かって怒鳴った。
ゼロはぶんぶんと頭を振って雪と水分を払い落とそうとしていた。
「ゼロ、ほらタオル……」
クラピカからタオルを受け取って、濡れた髪の水分をふき取る。
わしわしと頭を拭いてふっと顔を上げたゼロが、怖いくらいの笑顔を見せたのでクラピカは少し退いた。
なんだかこめかみに青筋が見えるのは気のせいだろうか…?;
「…僕、雪合戦行って来ます。」
「あ、ああ…; 気を…つけてな…(ゴンとキルア…)」
にこっとクラピカとレオリオに向かって華のように微笑んでから、ゼロはドアをバンッとふっ飛ばすように開けて滑るように部屋を飛び出していった。
ゼロが出て行った後で、廊下から
「ふざけんなぁあッ!!」
とか、乱暴な叫び声が聞こえた。
ふぅ、と一つ息を吐いてクラピカは微笑む。
(私は、大丈夫)
――――――みんなが、幸せでありますように――――――
と、さきほどなにやら太陽に向かって手を合わせていたゼロが漏らした言葉。
いつもの優しい笑顔を浮かべたゼロの顔をクラピカは思い出す。
(大丈夫)
「…ゼロが幸せなら、きっと皆幸せだから…」
ポツリと呟いた言葉。
「………お前も幸せだってか?クラピカ」
その返答と疑問をレオリオからもらう。
だからクラピカはフッと顔を上げて、笑った。
―――――その答えも、もちろん一つに決まっているだろう?
「もちろんさ。私は幸せだ。あんなにいい仲間を持っているのだから。
…さ、レオリオ。私たちも行こう、雪合戦に」
「へいへい」
タッと駆け出したクラピカの背中。
言った言葉と共にクラピカが見せた笑顔に、レオリオも少し嬉しくなった。
「はは……ちゃんとガキみたいな顔も…できるんじゃねーか……」
いっつも険しい顔してないで、たまにはそうやって笑えばいい。
ゼロや、ジャズみたいに――――。
「キルア!テメ、覚悟しろ!!」
「ぎゃーっ、来たー!ゴン、援護しろ、援護!」
「う、うん;わかった!」
そんな声が窓の外から聞こえた。
フッと笑って下を覗くと、一足先に部屋を出た青年がちょうど雪の中に飛び出していくところが見えた。
ばさばさと雪を掛け合うゴンとキルアと、1人の青年。
「ぷっ…ガキばっかだねー」
レオリオはくくっと笑って、そしてぱたりと窓を閉めた。
「…さて、オレも行くか」
見覚えのある金髪もちょうど下に見えたことだし。
仲間入り、しますか。
そう思って部屋を出ようと、閉めた窓に背を向けて歩き出したところで。
突然、なにか獣のような大きな鳴き声が、ビリビリと窓を揺らした。
「………って…、おいおい……;;」
――――――え?雪合戦の勝敗がどうなったかって?
そんなの、もちろん僕とジャズの圧勝に決まってるじゃないですか。
「ジャズ!!リバイアサンは反則だろッ!!」
「きーこーえーまーせ〜ん」
「うええ、雪まみれ…」
「は…はは……;」
おわる
原作沿いっぽいけど、原作上での新年はグリードアイランド中の出来事という罠
すもも