※さすがに商標そのままはヤバいかと思ってキ→チにしました(爆)
家具らしい家具といえば座り心地の良さそうなソファーベッドと、バーテーブルぐらいしかない殺風景なマンションの一室。
当のソファーベッドの上でくつろぎながら、クロロはただただ静かに本を読んでいた。
ページをめくる際に聞こえる紙の音も、傍のバーテーブルの上で薫り高く湯気を立てるコーヒーの匂いも、身体にかかる窓からの暖かな陽光も、全てが心地いい。
静寂の中、そうして長々と至福の時を満喫していたクロロだったが―――
ガンッ、ガシャン、という突然の騒音にクロロはあからさまな不快感をその顔に表した。
「おいクロロ。居んだろ?お前、今日何の日か知ってるか!」
ガタ、ガチャ、という外の扉を閉める音の後、ガチャガチャとリビングのドアが騒がしく開いたと思ったら―――見知った黒い男がそんなことを言いながらズカズカと部屋に入り込んできた。
一体何事かとクロロはその目を見張る。
オフ時の隠れ家など誰にも教えてはいない。そもそも一定の場所に長く定住する性質でもないし。
もちろん部屋の外にもルームナンバーぐらいしか掲げられていないはずなのに、なぜこの男は当然のようにオレの名を口にしながら鍵を開けて入ってくるんだろうか。
…などと、盗賊である自身の事を棚に上げて、クロロは黒い男―――ジャズが自身の横に歩いてくる姿を黙って見上げていた。
「……今日は確か11月11日…。ポッチーの日、か?それよりもお前、毎度毎度どうやってオレの隠れ家を探し当ててるんだ?」
ソファーベッドの脇に立ったジャズ。目元にサラリとかかった長い髪の隙間から、妖艶な青い瞳が自身を見下ろしてくる。
その瞳に向かって、クロロは腿の上に本を開いたままの格好で尋ねた。
…せっかくのオフだ。例え、このすぐそばに立った男が『始末屋』という肩書を持つとは言え、今日は敵対する気はない。
そういう言葉を、クロロはそのくつろいだ態度で以って表していた。
ジャズはクロロのそんな余裕の態度にこそ『幻影旅団』団長としての風格を見出し、好感を持った。
上機嫌に口角を吊り上げてジャズは笑う。
それから自身の鼻を指さし、負けじとジャズもクロロの質問に得意げな表情で答える。
「あいにくと鼻が利くんでな。お前みてーなイイ男の居場所なら匂いですぐわかんだぜ?」
「答えになってないな。…まあいい。訊いたところで素直に答えるような奴じゃないしな。―――で?今日は何の用だ、ジャズ?」
「はあ!?『何の用』だ!?オレの話聞いて無かったのかよ。今日は何の日かって訊いたろが」
と、突然それまでの余裕の表情を怪訝なものに変えたジャズ。
片手に引っかけていたコンビニのレジ袋からガサゴソと菓子の箱を取り出して、クロロの目の前に押し付けるように見せつけてきた。
「ポッチーの日と言えばポッチーゲームが定番だろ!」
「……それで?まさかお前、オレとポッチーゲームするためだけにここに来たなんて言いやしないだろうな」
「ハ、そのまさかだぜ。この状況でそれ以外に何があるってんだ?」
「…いつだったかウボォーやノブナガやマチがお前の事を「かなり真性のアホだ」と言っていた意味が今わかった気がする」
「ぁあ!?あいつらオレの事そんな風に言ってんのかよ!?」
くっそ!次遭ったら覚えてろよ、と感情露わに地団太を踏むジャズの反応が面白くて、クロロはクッと笑みを零した。
それから腿の上で開いていた本をぱたりと閉じて脇へと除け―――悪戯を考え付いた子供のような顔で、スッとジャズの手に握られていた菓子の箱を横から盗り上げた。
「おい、ジャズ」
「あ?」
「お前、こんな挑戦を仕掛けてくるからにはもちろん、それなりの覚悟はしてきたんだろうな?」
言う間にバリッと箱の口を開けて、中の小袋を引き破る。
小袋から出てくるのはパッケージに印刷された通りの細い棒状の菓子だ。
ジャズの言う"ゲーム"は、その1本の菓子をその両端から2人で頬張る、そんなゲーム。
キスを強請るのとそう変わらないだろ、と箱の中身を見下ろしクロロは言う。
しかしジャズはというと、その言葉を待っていたかのようにニィッと笑みを深くした。
そしてソファーベッドの上のクロロの脚にするりと手を這わせ、四つん這いに近づいてくる。
獲物を狙う豹のような鋭いジャズの視線が、クロロの漆黒の瞳とかち合った。
「ハ…。そりゃもちろん、今日だけはテメェの足腰立たなくなるまでたっぷり相手してやるぜ?クロロ…」
「フッ…、それはこっちのセリフだな…」
と、互いに笑みを交わし、肝心の菓子そっちのけで深くキスを貪った。
おわる
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裏には別に続きません…
すもも