バサッ
久々に13人の蜘蛛が一堂に会した、その夜。今回のアジトとした廃墟のなかに、音が響いた。
振り向く13人の視線の先に居たのは、十字架のついた首輪をした…いうなれば黒い猫。
その猫が、持っていたコンビニのレジ袋を床に落とした音だった。
「…なんだこりゃ?」
しばらくの間の後、その猫がそう言った。その声を合図に蜘蛛が動く。
一瞬の出来事だったというのに、蜘蛛が動いたのを見てその猫も動いた。
踵を返し、廃墟の出口に向かって暗く長い廊下をひたすら逃げる。とにかく足の速い猫だった。
「捕まえたっ!」
マチの糸にからめとられ、一瞬動きの鈍った猫。それをクロロが捕らえ、床に叩きつけた。
「ぐふっ…!」
他の蜘蛛も、クロロにうつぶせに床に組み伏せられたその猫を取り囲む。
「お前は何だ?」
猫の上に乗り、頭を押さえつけたままでクロロが尋ねた。
「っは…、お前らこそっ…なんだよっ…ここはオレの家だっ」
押さえつけられているからか苦しげに答えるその猫。
「…家だと?こんな廃墟がか?」
「そうだよっ…!!悪いかよっ!離せよ…!お前らなんなんだよっ!!いつつつっ!!」
クロロが猫の腕を後ろにひねり上げた。猫の腕がぎしぎしと悲鳴を上げる。
「パク、コイツを調べろ」
クロロの言葉にパクノダが頷いて、組み敷かれたままの猫に近づく。
押さえられていても、猫の眼光にかげりは無い。近寄って猫に触れるパクノダ、そして自身の上に居るクロロを終始睨みつけていた。
「貴方は何者?ここに住んでるの?」
「…っぁあ!?そうだっつってんだろ!!テメーらこそナニモンだっいてててぇー!!」
少しは黙っていられないのか、とばかりにクロロがまた猫の腕をひねる。
「………団長、本当にこの男、ここに住んでるみたいだわ。…名前はジャズ=シュナイダー」
「んなっ!?何でオレの名前をっ…!!?」
「どうすんだ?団長?…殺るのか?」
ウボォーギンがクロロに聞いた。
しかし聞かなくても答えなどはじめから一つだということを、蜘蛛は知っている。クロロが猫の首に手を伸ばした。
「オイ!聞けよ人の話を!!……っこのっ!!!」
突如、猫の真上…天井からなにかがクロロめがけて落ちてきた。
クロロとパクノダがその場から跳び退る。他の蜘蛛も、構えた。
舞い上がったほこりが薄れて見えたのは、巨大な――――化け物。
なんと表現していいかわからない。『化け物』という言葉以外にコレを表現する言葉が無い。そんなモノだった。
それは、さっきまでクロロにひねられていた腕を押さえる猫を背後から守るように立っていた。
「……でかいっ…」
誰ともなく言った。
おそらくは、念能力。
具現化系の力。
しかし蜘蛛でさえ、これほど大きな『動くモノ』を具現化する人間を見たことが無かった。
そのモノは猫の2倍以上の大きさで、その大きな口をぎちぎちと動かしていた。
「はっ…はっ…、いてぇなクソッ…。何なんだお前ら!!オレの家に何の用だ!?」
13匹の蜘蛛は誰1人答えなかった。
「ちっ…流れモンかよ…。…残念だがここはオレが先に見つけたんだ、お前らは違うトコ探せよ」
「…いや、ここに決めた」
「ハァ!?オレの話聞いてんのかよ、このデコ十字はよっ!!」
間。
「……デコ十字って…すごいこと言うね、この猫」
シズクが突っ込んだ。他の団員は必死で笑いをこらえている。
ヒソカにいたってはすでに笑っている。
しばらく黙っていたクロロだが、そのうちゆっくりと口を開いた。
「…ここがいいんだ。………お前も含めてな、ジャズ」
「はぁあ!?」
猫が叫ぶ。
そうして13匹の蜘蛛と、1匹の黒い猫の奇妙な共同生活が始まった。
猫は日の大半を寝てすごす。夜に目覚めて、メシを調達し、この家でそれを食って、暇ならまた寝る。
同じ家を使う蜘蛛に興味はないようだった。
『棲むなら勝手に棲め、オレの邪魔はするな』と態度が言っていた。
「ホントに猫だな」
今はなぜか、瓦礫に座り飯を食うウボォーギンのすぐ横で丸くなって寝ている、その猫。
「あれだけの能力持ちのくせに、どこにも属さねぇんだな」
「性格が集団向きじゃないね」
「つーかこの生活態度だぜ?人間としてもどうよ?」
言いたい放題のフェイタンとフィンクス。
「……うるせー、そこのスダレチビ。寝られねー…」
ぴしぃっ!!
猫の放った言葉に場が凍りついた。フェイタンの額にもまた、青筋が浮かんだ気が…した。
「落ち着け、フェイタン」
「そ、そうだよ。寝言だよきっと!」
フランクリンとシャルナークがフェイタンを押さえる。
どう聞いても明らかにいまのは寝言じゃないだろう、と他の団員が心の中で突っ込んだのは言うまでもない。
「…ワタシこいつ嫌いね」
「そう?面白い猫だと思うけど?」
シズクが言った。
それを聞いて他の団員は思った。
(毒人間のフィーリングか?)と。
ヒソカはひたすら笑っている。
「うるせーッつってんだろ、ったく…」
猫が起きた。
起きたが…ウボォーギンの足にぐでーっと体を預けて、再び寝に入ろうとしていた。
「おい、猫。オレは枕じゃねぇ」
「…オレは『猫』じゃねー…この剛毛モミーが」
ぶふっ!!
と…何人かが盛大に噴き出した。
「(ムカッ)オイ、猫っ!!」
猫の後ろ首をつかむような形で、ウボォーギンは猫の顔を自分の顔付近まで持ち上げた。
「あー…?」
「『猫』って呼ばれたくねーならお前もオレらの名前覚えろ!」
「やだ、めんどい。お前らはオレの名前だけ覚えればいーけどよ、オレは13匹も覚えなきゃなんねーじゃねーか。
…第一ここ、オレの家だし。お前らが勝手に住み着いてるだけだし。意味ねーし。」
「…あー、なんか色々むかつくな、コイツ。殴っていいか?」
ウボォーが他の団員にそう聞く。
OKを出す団員とNGを出す団員と無関心な団員に分かれた。
OK・・・・・フェイタン、フィンクス、シャルナーク。とウボォーギン。
NG・・・・・シズク、マチ、パクノダ、ノブナガ、ヒソカ。
その他無関心。つかそんなくだらないことはどっちでもいい、と呆れ顔だ。
場が均衡を保っている。ビミョ〜な緊張感に包まれる、広間。
「お前が殴ったらせっかくの顔がつぶれる。ガマンしろ、ウボォー」
いままで黙って本を読んでいたクロロが突然喋り出した。
「ジャズ、ここに来い」
「あー?お前が来い、デコ十字」
そのあだ名が出たことで、またしばらく間が開いた。
ヒソカの笑い声だけが静かな広間に響いている。
少しの逡巡の後、本を置いてクロロが立ち上がった。それにまず他の団員達が驚いた。
ツカツカと、ウボォーギンに吊られている黒猫の前まで来たクロロ。
猫と目線を合わせあごを押さえて――――キスをした。
「…んっふ……っ…!」
吊られたままでも、嫌がって体が逃げる。クロロを押しのけようとするが、クロロはびくともしない。案外、猫は非力だった。
口が離れる。糸のように唾液がクロロの舌と、猫の下唇の間を伝う。
「…っ!!このデコ十字!!なにしやがるっ!!」
今までクロロと重なり合っていた唇を袖で拭って猫が吼えた。
「舌に噛み付くことも知らないのか、意外に純情だな。……オレはクロロだ。覚えておけ、ジャズ」
クロロの行動に、ほかの12匹の蜘蛛と1匹の黒い猫が、目を見開いて驚いていた。
つづく
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主人公ズが本当に双子だったらシリーズ
凄まじく古い作品でひどく読みづらい…
すもも