「あの…僕、帰りたいんですが…」
「だめ」
「だめだな」
「許さないよ★」
白い猫がふいに言った言葉に、瞬時に反応したのは黒猫とクロロ、ヒソカだった。
他の蜘蛛もその会話を聞いて白い猫を見た。
「あの…;あのっ、あの………ぼ、僕…試合があるんですっけど…だから……その…」
13匹の蜘蛛と黒猫にじっと見られているせいか、だんだんと声が小さくなっていく。
仕舞いにはいたたまれなくなったのか、俯いてしまった白い猫。なぜかぷるぷるしている。
「可愛いわねぇ…」
「蜘蛛には居ないもんね、こういうタイプ」
「猫って言うより仔犬だね」
とは女性陣の意見。
「だいたい、フロアマスターになんかならなくったって、ここで暮らせばいいじゃねーか」
「え〜…だって、僕はジャズと暮らすためにがんばってきたのに…」
「オレだって兄貴のためにここ見つけたんだぜ?…変な居候ごちゃごちゃ居るけど…。
…第一、天空闘技場なんかにいたら…兄貴、怪我すんだろ」
「こんなとこに居たら、ジャズがガラスの破片とかで怪我したりするじゃないですか!」
「しねーよ!!お前と一緒にすんな!!」
「ジャズのバカー!!」
「バカはお前だーっ!!」
「あぁ…なんていうか…お互いにお互いが心配なわけだ…」
「似てるといえば似てるな。アホなところとか。」
シャルナークとウボォーギンがあきれた。というか全体的にあきれている。
またぼろぼろと泣き出した白い猫。黒猫は寝転んだまま白い猫とは反対方向を向いてしまった。
「…それにしてもよく泣く猫ね」
じーっと白い猫の様子を観察していたフェイタンが口を開いた。他の蜘蛛も同じ意見だろう。
「おい、お前の名はたしか…"ゼロ"だったか?」
クロロが聞いた。
「ぅえっ…ヒック、そうれす…っうう〜」
「泣くな。ここに来い」
ずびずび泣きながらよたよたとクロロのほうに歩いていく白い猫。黒猫がガバッと起きた。
「ゼロ!!そいつに近づくな!!」
「ぅう〜っ…うるさいですぅっ!!ジャズには関係ないです!!」
「んなっ…っち、知るかバカ!!」
「クロロはやめなよゼロ、ボクのトコおいで」
「ヒソカのところなんか危なかしね。ここ来るといいね」
黒猫が邪魔をすると思っていた蜘蛛。白い猫が黒猫を拒絶したのを見て、ヒソカとフェイタンがまず声をかけた。
「…何?フェイ。珍しいこともあるもんだね、キミが他人に興味を示すなんて。明日は槍が降るかな?」
「ヒソカ、お前ワタシに喧嘩売てるか?ワタシは白猫をもう少し近くで観察したいだけね。ヘンタイは引っ込むといいね」
バチバチと火花が散るのが見えるようだった。
「あう、あう…;」
「何か皆あぶないって〜。こっち来なよ」
とシャルナーク。
ニコニコと害意の無い笑顔で白い猫を誘う。
「シャルの顔が危険だわ。私たちのところに来るといいわよ」
「あはは〜、ひどいなぁパク。…オレ、スネちゃうよ〜?」
「勝手に拗ねてなさい。……ここにおいでなさい、白猫。ねぇ?」
パクノダは一緒に居たマチとシズクに聞いた。
「…そうだね、野郎共に預けるのは確かに危険だね。蜘蛛の巣に蝶を引っ掛けるようなもんだし」
「そうそう、ここおいでよ」
何方向からも呼ばれて困惑してその場でおろおろしていた白い猫。
女性陣3人から手招きされて、ふらふらと寄っていったのを見て、男共はそろって舌打ちした。
「はいはい、鼻をかむ!」
パクノダに布をあてられ、鼻をかんだ白い猫。
「ぅう、ありがとうございます…」
「図体はでかいくせに子供だね、アンタ。ゼロって言ったっけ?」
「はぅ…そうです…お嬢さん達のお名前は?」
(((お嬢さん!?)))
シズクとマチが反応する。パクノダに至っては、目がキラリと光った。
「ア、アタシはマチ」
「シズクだよ」
「私はパクノダ」
「えと…、マチさんと、シズクさんと、パクノダさんですね。…はい、覚えました!僕はゼロ=シュナイダーです。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた白い猫。
「オレはシャルナークだよ!!ゼロ!」
比較的近くに居たシャルナークが入ってきた。
「「「ちっ!」」」
女性陣はまたそろって舌打ちした。
案の定それを皮切りにわらわらと蜘蛛数匹が集まってくる。
「オレはフランクリンだ」
「ぼくはコルトピ」
「オレぁフィンクス」
「ノブナガ」
「ウボォーギンだ。ウボォーでいいぞ」
「あ!じゃあオレはシャル!」
「はい。はい。わかりました」
「はぁーまったく…。ゼロ、ちなみに、あれがボノレノフで、あの変なのがヒソカ。黒いのはフェイタンで、あれは団長のクロロっていうのよ」
大きなため息をついてパクノダが補完する。
「…ダンチョー?」
「…クロロ=ルシルフルだ。クロロでいい」
少し首をかしげた白い猫に目を伏せて名乗ったクロロ。
(見たらダメだ!!押し倒したくなる!!というか押し倒したい!!)
葛藤していた。
「はぁ、"団長"ってなんですか?皆さんは応援団か何かですか?」
「違う!!」
口をそろえて蜘蛛が突っ込んだ。
「どこにこんな奇抜な応援団があるんだよ…」と黒猫があきれたように呟く。
「ゼロは蜘蛛…幻影旅団って知ってるかしら?」
白い猫の隣でパクノダが聞いた。
「幻影りょ…げん……えっ!!?と、と、盗賊の!!?」
黒猫がきょとんと見ているのにクロロは気づいた。
黒猫の性格なら知らないとは思っていたが、こう態度に出されるとやはり少しがっかりする。
しかし、あの間の抜けた顔の無駄な可愛さはなんだろう?
(くっ…襲いたい……っ!!)
クロロは思った。表情に出さなかったが。
「なっ、なにを盗る気ですか!?あっ!!ぼ、僕からジャズを盗る気ですねっ!!」
「盗らないって!!」
突拍子も無い白猫の言葉に突っ込む蜘蛛。
黒猫とは別の意味で調子の狂う猫だった。
「…いや、それもいいかもな」
ぼそりと呟いたクロロ。
「団長!?」
蜘蛛は思った。
(余計な事言うんじゃねーよ!!)
と。
「うわぁああん!!」
案の定泣き出す白い猫。泣きながら黒猫に駆け寄って彼を抱きしめた。
「ジャズは僕のものです〜!!僕もジャズのものです〜!!」
「…ゼロ。落ち着け」
呆れ顔の黒猫。よくわからないパニックを起こしている白い猫の頭をなでてなだめた。
「そうだ。今日の盗むものは…ゼロとジャズ。…いいな?」
クロロが蜘蛛へと命令を下す。
それを聞いた蜘蛛は、そろってニッと笑った。
「了解!!」
「「え?」」
2匹の猫は、こうして蜘蛛に捕らえられたのだった。
つづく
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仲良しゆえの逆ギレ兄
すもも