※裏猫9話までが一応前提のお話ですが、読んでなくてもたぶんわかると思います。
2匹の猫と13匹の蜘蛛が根城にする廃墟。
1階と2階が吹き抜けた広間、過去は1階の天井であり2階の床であっただろう瓦礫の山に、何人かの人影があった。
その中の一つ、山のふもとのほうに座り込んで黒猫が1匹、コクコクと舟を漕いでいた。
時折カクッと首を落としては目を覚まし、また眠たそうにしていた黒猫。
黒猫の位置から一段上に座り込んで黒猫を眺めていた白猫が、そんな黒猫を見かねてかやがて黒猫の隣に下りてきた。
眠たそうな黒猫に肩を貸して、またにこにこと黒猫を眺めていた。
「…ねぇジャズ、そこ虫に刺されてますよ」
自分の肩にもたれうとうととする黒猫を見ていた白猫は、ふと黒猫の体についた赤い痕を見つけてぷにぷにと黒猫をつつく。
「ん〜…んぁ…?」
「虫に刺されてます」
「ん〜…」
「ここのところ」
眠たそうに目をこすりながら自分の体を見回す黒猫の、痕のついたところを指差して白猫は笑う。
「裸でなんか寝るからヘンなところ刺されるんですよ」
「ん、…ぅあ?!」
気付いていなかったのか、白猫の指差す先を見て驚いた黒猫が声を上げる。
そして黒猫はキッと、自分の正面…少し向こうに座って本を読む逆十字の男を、白猫に気付かれないようにして睨み付けた。
―――だが睨まれた男は、何事も無いように軽くそれを流してふっと笑う。
黒猫の抵抗すらもこの男にとっては「愉しむべきもの」であり、「脅威」の一つになることなどありえない。
ひどく自分が見下されているということに黒猫は嫌悪と強い怒りを覚えた。
「蚊取り線香買ってきてあげないとだめですね〜」
などとにこにこ笑いながら自分の頭を撫でてくる白猫。
何もわかってない白猫を前に、怒り狂って男に掴み掛かるわけにも行かず、バツの悪そうな顔をして黒猫は白猫の手に頭を預けていた。
だが突然、何かを閃いたのか黒猫がひょこりと頭を上げる。
にやぁっと、自分が使役する「バケモノ」並みの悪い笑みを浮かべた黒猫。
その笑みの黒さは、それをうっかり目にしてしまった数匹の蜘蛛がちょっと退くほどのものだった。
「ゼロ、…ゼロ。蚊取り線香じゃ全然ダメだからよ、スプレー買ってきてくれよ。殺虫スプレー。超強力な奴」
「スプレー?…が良いんですか?」
きょとんとした白猫。匂いがきつくて眠られないんじゃ…と漏らすので、黒猫はにやにやと笑いながら続ける。
「デカイのがいるんだよ。黒くてデカくて…超しつっけーの」
「ふーん…。まぁ古いおうちですしね……。
ゴキブリがいてもおかしくないですけど…。でもゴキブリは人刺さないでしょ」
「新種のゴキブリなんじゃねーの?」
「そうなんですか…」
2匹の猫の会話を耳にしていた数匹の蜘蛛。黒猫の言う「虫」がなんなのか読めて、白猫との会話の微妙なズレに思わず吹き出しそうになる。
言われた当の本人も、本を読む手を止め2匹の会話する様子に目を向けていた。
「気付いたら目の前にいてマジでうぜぇし、叩いてもへこたれねーし、とっとと死んで欲しいんだけどさー」
「そういうときはね、思いっきり踏めばいいんですよ」
「エー。…なんか逆に発奮して飛び掛ってきそうで怖くて踏めねぇ」
「うーん…ゴキブリはしつこいですからね」
首をかしげる白猫を見て、いよいよ堪えきれなくなったのか、シャルナークが腹を抱えて笑い出した。
瓦礫に突っ伏しプルプルと肩を震わせて床を引っかくシャルナーク。ヒィヒィと息のきれる音が静かにこだまする。
ノブナガもウボォーギンも、つられて出そうになる笑いを必死に堪えて顔を赤くしていた。
そんな蜘蛛共の様子を横目に見ながら、勝ち誇ったようにニヤニヤと笑みをうかべて黒猫が逆十字の男に視線を流す。
「案外近くにいるから兄貴も気をつけろよ」
「大丈夫ですよ。見かけたら踏み潰しときますから」
「へー、…急所をか?」
「そうですね。ぐしっと踏んでグリグリって潰しておけばいくらしつこいヤツでも死にますよ!大丈夫です!」
「兄貴スゲェ〜」
床をバンバンと踏む真似をする白猫を、ケラケラと笑いながら眺める黒猫。
楽しそうな黒猫につられてか白猫も笑顔になった。
何がそんなに面白かったのかはわからないが何かが面白かったんだろうと、一緒になって笑う。
「じゃああとでゴキブリ用の殺虫剤買ってきてあげますね〜」なんてにっこり笑って白猫が言うから、黒猫は堪らずに吹き出した。
クロロ以外の他の蜘蛛もブッと笑いをこぼした。
「……ジャズ……」
クロロの口から漏れた悲壮なため息は、当の黒猫の笑い声にかき消され、誰の耳に届くことも無かった。
つづく
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白猫が天然なのか黒天使仕様なのか微妙なところ
すもも