二匹の猫と十三匹の蜘蛛 ◆09:ハロウィン夢
※ハロウィンに書いた季節ネタです。
※お相手いません(爆)いつも通り白猫と黒猫だけでイチャイチャしています




「ジャズ、ねぇねぇジャズ〜!」

「ん?」


「いたずらされるか、おもてなしするか、どっちがいいですか?」


「……は?」



朝から不在が続いていた白猫。

夕方になってやっと戻ってきたと思ったら、開口一番そんなことを言ってきた。

『家』の個室の古びたベッドの上で雑誌を読んでいた黒猫は、顔を上げて思わず目を点にした。



「…って、兄貴なんだその格好?」

「ふふふ、似合うでしょ?この日のために作ったんですよ!」

「へぇ…」


じゃーん!とばかりに白猫はポーズをとる。


頭には白い犬の耳と、ズボンにはフサフサの尻尾が垂れ下がっていた。

普段からつけている、(黒猫とおそろいの)小さな十字架のついた首輪もその姿にあいまって、さながら犬のようだった。



「で、兄貴。何のマネなわけ?それは」

「えっ?そんなの見て分かるじゃないですか!狼男ですって!」

「"おーかみおとこ"。…へぇー…」


上から下まで白猫の姿を嘗め回すように見て、黒猫は呆れたため息を吐く。


聞いた瞬間、『赤ずきん』や『3匹のこぶた』や『7匹の子ヤギ』なんかの絵本で見るような馬鹿で下品な悪人ヅラの狼の姿が流れるように黒猫の頭をよぎった。

…が、今の白猫の姿を見る限り、黒猫には、せいぜいその辺の路地裏に捨ててあるよれよれのダンボールの中でしょんぼりと飼い主が現れるのを待っている小さな仔犬が関の山に見えた。


しかしなおも得意げな表情で「がおー」とばかりに迫ってくる白猫。

怖がらせてるつもりなんだろうが、ぜんぜん怖くない。



むしろ………"萌え"?



内心「やれやれ…」といったふうに頭を振った黒猫が、ポンと白猫の肩を叩く。


「似合ってないぞ、兄貴」

「ええー?なんでですか〜、すごく似合ってると思うのに…」

「うんうんそうだな、別の意味で似合いすぎだ。……じゃなくて、兄貴に狼男は無理だろ。迫力無いし怖くないし、それに…」

「それに?」

「………いや、やっぱなんでもないわ;」

「えー?なんですかー?」



『兄貴はどっちかっていうと狼男に襲われる方』とか『オレがむしろそのまま襲いたい』とかいろいろ言いたい事はあったが、やめた。

こんなんでもがんばって作ったんだろうから、あんまり否定しすぎると白猫が泣いてしまう。


とはいえ――――




「ねーねー、ジャズ〜、答えてくださいよー」


(くそっ、可愛い…)




プニプニとほっぺたを突っついてくる白猫。

普段から、ちょっと頭のゆるい大型犬のような面がある白猫には、犬耳と尻尾はあまりにも似合いすぎた。

愛しの白猫からそんな格好で可愛らしく迫られたら、理性の檻が音を立てて崩れ去るのも時間の問題。


現に、ふとした瞬間に


(コスチュームプレイ…)


などという意味不明な言葉が一瞬頭をよぎって、黒猫はハッと我に返った。

ブンブンと頭を振って別の話題へと切り替える。




「…っつーか……一体何のマネなんだよそれ?」

「だから狼男ですってば」

「いや、じゃなくて…。な・ん・で、そんな狼男のマネなんかしてるんだって」

「え、だって今日ハロウィンじゃないですか」

「ああ?」

「『ハロウィン』」



二度聞いて、やっと思い出したのか「ああ!」といった風に黒猫がぽんと手を叩いた。

「…思い出した。お菓子がなんとかってやつ?」

「ちょっと違いますけど、まあそうですね。……っていうか最初の僕の話、全然聞いてなかったんですね?ジャズ」

「いや、ゴメン;お前のその格好のほうが先に気になっちまったからさぁ」



そう言って黒猫は、不満げな顔をする白猫の頭を撫でる。

触ってみると、犬耳は髪の色と同じ色のヘアバンドにくくりつけてあるのだということがわかった。


サラサラの髪を撫でて、ほっぺたに触れて。

白猫が、撫でて喜ぶ場所をひとしきり撫でてやった後―――、これで機嫌を直しただろうと顔を見てみれば、白猫はまだその眉根にしわを寄せ続けていた。




「……っちょ、まだ怒ってんの?兄貴;」


「…………、怒ってないですー!」

「ぶわ!?」



黒猫が白猫の顔色を伺ったとたんに、白猫はにこーっと満面の笑みを見せて黒猫に飛びついた。

抱きついて、その勢いのまま黒猫の後ろのベッドに倒れこむ。


「なにすんだ、ゼロ」

「ジャズがお菓子くれないからいたずらするんです〜vv」


じゃれつきながら白猫が楽しそうにそうのたまう。意外とまんざらでもなさそうに白猫にじゃれつき返す黒猫。



「ばっか、お菓子なんかふつう持ってねーだろ!」

「ハロウィンなのに用意しとかないジャズが悪いんですよう。んー…、」


可愛らしげに頬を染めて、首筋に唇を寄せてくる白猫(犬耳つき)。

オッケーサインかなー?などと下心をちらつかせていた黒猫だったが――――


次の瞬間、そんな黒猫の妄想はものの見事に粉砕された。





「はむ゛ーっ!!」

「痛って、いでででーっ!!」

「ふぐーっ!!」

「『ふぐう』じゃねーって!いてててっ!!思いっきり噛んでんじゃねーよこのバカ兄貴!!アホ、離せ!!」



甘噛みとか吸い付きとか、そんなかわいいもんじゃなかった。

頭を押さえつけられて、血がにじみそうなくらい強烈に首筋を噛まれた。無理やり白猫を引っぺがして、黒猫は涙目のままで抗議する。



「お前っ、それっ、ドラキュラかなんかと勘違いしてんじゃねーのか!?」

「…え?狼男も噛み付きで感染するって、僕何かで読みましたよ?」

「またマンガかなんかの知識鵜呑みにしてんじゃねーだろな…。あー、痛って…『いたずら』のレベル超えてるっつーの、マジで」


噛まれたところを撫でさすって、その撫でた手をさらに目で確認する。どうやら血は出ていないようだ。


その間、白猫はというと自身の白服の下から別の黒い衣装を取り出して、首をさすっていた黒猫の前へとそれを差し出した。

薄っぺらなその服のどこにそんなもん隠していたんだという黒猫の疑問にはもちろん答えなどない。



「…………なんだよこれ?」

「ふふふ、ジャズの分の衣装ですよ〜」

「なんで」

「だから『感染』するんですってば!はい!着て下さい」


(それがやりたかったのか…)



意図が読めて、黒猫は呆れ顔を見せた。諦め半分に、差し出された衣装を受け取る。

広げてみるといつもの黒ズボン……いや、長い尻尾がついていた。そして黒い猫耳のヘアバンド。



「……猫じゃねーか」

「猫の方がジャズっぽいじゃないですか?」

「"ぽい"ってなんだよ、"ぽい"って。お前の狼男成分は感染したら猫男になるのかよ」

「まあまあ細かい事は気にしない。ジャズは猫の方がかわいいですよーv」

「…ちぇ」


にこにこと楽しそうに微笑んで、白猫が頭を撫でてくる。


こういうときだけ"面倒見のいい兄"に変貌してしまう白猫を少し疎ましく思いつつ、それでもやはり黒猫は"愛しい白猫"の言う事には逆らえないのである。

『"かわいい"のはお前のほうじゃねーか』と心の中で毒づきながらしぶしぶ服を脱ぎ始めた。




黒猫が着替える間、ニコニコと満足そうにその様子を眺めていた白猫。

ちょうど着替え終わったかというところでベッドから下り、立ち上がった。そして黒猫の前に手を差し出して。


「それじゃあ着替えたらみんなのところ行きましょうね、ジャズ」

「は?………みんなって誰よ」


なんとなく予測はついたが、黒猫はあえて知らぬフリをして聞き返した。

悪い予想を否定して欲しかったのだが、残念ながら白猫は黒猫の予想したとおりの返事を返してきた。


「そりゃ、クロロさんとかシャルナークさんとか、フェイタンのところですよ?」

「ヤダ」

「早いです!!なんでですか!」



即答だった。

白猫がびっくりするくらい黒猫は即答だった。

そしてそのまま一気にまくし立てる。



「アホかオマエ!?何でわざわざこんなカッコであいつらの前にノコノコ出てかなきゃなんねーんだ!!またこないだみたいに食われたいのか、バカ兄貴!バカ兄貴!!」

「え?え?だって僕、せっかくハロウィンの衣装作ったのに…。皆で一緒にお祝いするくらい…」

「もう少し相手を選べ――――ッ!!!」

「いひゃい、いひゃいれすぉう、ジャズ〜;」


自覚が無いのか懲りてないのか…、自身の言っている事の危険度をまったく理解していない白猫の両頬を、むにょー、と強く引っ張った。

涙目で何かを言いながらタップを繰り返す白猫。うりゅうりゅと思う存分に引っ張った後、やっとの事で黒猫はその手を離した。




「ひっ、ひどいです〜。僕、何にも悪い事してないのに…うぇ…」


真っ赤に腫れたほっぺたをさすりながら、白猫はぽろぽろと涙を落とし始める。

黒猫はそれを見て『さすがにやりすぎたかな?』と思った。

今しがた自分がつねった白猫のほっぺたを、今度は優しくなでてやった。



「悪かったよ、もー。泣くなって兄貴…」

「う―――…」



しかしなおもしゃくり続ける白猫。

しぶしぶ、黒猫はある言葉を口にする。




「……………じゃ、ダメか…?」


「…う?」



小さい声でよく聞き取れず、白猫が首をかしげる。

だから黒猫はもう一度、今度ははっきりと白猫の目を見て言った。





「だから、…オレが傍にいるだけじゃダメなのか?ゼロ…」


「……えう…」




―――それはいつもの常套句。


白猫が逆らうはずの無い……いつもの、ズルイ言葉。



それでも、(すでに予測済みの)答えを貰うまではと黒猫はじっと白猫の瞳を見つめる。

黒猫の頭に乗った黒い猫耳がピンピンと揺れていた。




「……ゼロ?」


「…う…、うん…。あの、僕…、ジャズが近くに居てくれれば…、それでいいです…」

「…だろ?」




満足そうに、ふと笑った黒猫。


照れくさそうに言った白猫の頭をくっついた犬耳ごとそっと撫でて、そしてその唇に黒猫は自分の唇を重ねる。




「愛してる、ゼロ…」

「うん…。僕もです、ジャズ…」



わずかに触れた白猫のほっぺたが、暖かく熱を持っていた。













「…でもやっぱり僕、みんなにも見せたかったなぁ」

「…………。」



リピート。











***さらにおまけ




「………。」

「どしたのさ、団長。深刻な顔して」


「…なにかチャンスを逃した気がする…」

「は?何の?」


「いや……、なんだろうな…。勘なんだが…。」








おわーる


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相変わらず何をやっているんだこの双子は

すもも

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ももももも。