風が、やわらかくゼロの髪を揺らす。
整った顔立ちに潤んだ瞳。
小さくすくんだ肩は丸みを帯びていて、背から腰にかけてのラインは服の上からでもわかるくらい滑らかな弧を描いている。
そして平らなはずのその胸は、ふっくらと膨らんでいる。
見慣れたようで…、全く見たことの無いような美しい少女が、きょとんとした顔でそこに座り込んでいた。
「よっしゃあああ!!作戦大成功!!」
キルアがぐっと拳を握ってそう叫んだ。
クラピカとレオリオが目を丸くしながら僕を見て、ゴンはなんだかすまなそうに眉を下げていた。
一体何が起こったんだろう?
『……ゼロ、ゼロ。 胸……』
胸?
胸が何ですか?ジャズ?
――――ふに。
………。
マシュマロのようなプリンのような…
今までに感じたことの無いような不思議な感触に視線を下に移すと、そこにあったのは見慣れないふくらみが二つ。
………。
あ、あれ?
おおおおかしいですよ?きっ、昨日まではこんなのなかっ………無かったですよ?
ぼぼ、僕はちゃんとおおお男だったは…、はずです!…よ?
訳がわからなくてクラピカやレオリオの顔をきょろきょろと見合わせた。
2人とも、僕と同じく状況がつかめないみたいで、僕と目が合うと『わからない』といいたげにぶんぶんと首を横に振る。
今にも泣きそうな僕がいたたまれなくなったのか、ゴンがバッと僕の前で手を合わせて謝った。
「ご、ごめんゼロ!さっきゼロが食べたクッキー、ホルモンクッキーなんだ!」
ホルモンクッキー?
その名を頭の中で繰り返して、ざっと血の気が引いた。
下半身に手をやれば、そこにあるはずのモノが無い。あるのは胸に柔らかな感触だけで。
気が遠くなった。
「ゼロ!気をしっかり持て;」
ふー…っと気を失いかけた僕の体をクラピカが支えてくれた。
「ううう…クラピカ〜……」
なんだかよくわからない状況に、涙が出てきた。
クラピカの、特徴的なデザインの服が目に入って………クラピカならきっと答えをくれるんじゃないかと思って彼を見上げた。
するとクラピカは困ったような顔をして、ふっと僕から視線を外す。
「ひ、ひどいです、クラピカ……無視しないで下さい…」
「す、すまない;む、無視したわけじゃないんだが………その…、あまり注視しないでくれ……」
なんでそんなに顔真っ赤なんですか…?
うぅ〜?
なんですか?なんなんですか?
何で僕がホルモンクッキー食べさせられなきゃならないんですか?
僕にちゃんと説明してください…。
「なっ、泣くなゼロ;」
「だって…;僕ホルモンクッキ……クッ…お、おん…おんなの……?…おとこ?」
「とりあえず落ち着け;」
クラピカは混乱する僕をきゅむっと抱きしめて、安心させるかのように頭をなでてくれた。
「さあキルア、ゼロが困っているだろう。早く元に戻すんだ」
「無理だよ、24時間経たないと元に戻んないらしいし」
「なっ!?だったらなおさら何故最初に言っておかないんだ!?」
「えー、だって言ったらゼロ食べてくんないじゃん?」
しれっと言うキルアの様子にクラピカはあっけに取られたみたいで口をぽかんと開けていた。
そしてキルアはとても楽しそうに語り始める。
「オレ絶対見たかったんだよねー、女になったゼロ。絶対似合うと思ってたけど想像以上っていうか。…そんでさゼロ、デートしよーぜ、デート!!」
「えっ!?…ええ?」
きゅっと僕の手を取ってとても嬉しそうに言ったキルア。
その言葉に即刻反応したのは他でもない、レオリオだった。
「バカ、お子様にこんな美少女はつりあわねーよ!オレんとこ来いよゼロv 24時間経つまでオレが優し〜く介抱してやるから!な!?」
キルアをぐっと押しのけて、ささっと手を差し伸べるレオリオだけど……
怖い、怖い、
顔が怖い!!
犯される!!!
「やだああああ!!?」
ばっちぃいいん!!!
「ひでぶっ!!」
「あっ!!ゼロッ、どこいくのーっ!?」
もう僕をほっといてください!!
猛スピードでその場をあとにしたゼロの後姿を、ゴンとキルアとクラピカは唖然と見ていた。
頬を真っ赤に腫れ上がらせて倒れこんだレオリオに、哀れみの視線を投げかけながら……。
「…顔が犯罪者だったぞ、レオリオ」
つづく
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レオリオwww
すもも