僕と君と、ある少女の憂鬱 ◆03:婚約者



「とにかく、早くゼロを追いかけるべきだな」


街の方に向かってすごいスピードで走ってったゼロ。やっぱりゼロって足速いなぁ。


…いやいや、今はそんなことを言ってる場合じゃなくて。



「そうだね、女の子のままで行っちゃったもんね…;」

ホルモンクッキーの効果が切れないまま―――女の子の姿のままゼロ、逃げちゃった。



「まずいよね、可愛かったしゼロ」

「うむ」


オレとクラピカがどこら辺をまず探そうか相談してると、キルアがあっけらかんとしてそのオレたちに向かって言った。


「大丈夫だって、そこら辺のチンピラじゃゼロにはかなわないし。ゆっくり探そうぜ」


明らかに今の状況を楽しんでる風な表情のキルア。ゼロ絶対困ってるのに…。

するとクラピカも同じことを思ったのかキルアに向かって怒鳴った。


「キルア!元はといえばお前が原因なんだぞ!わかってるのか!?」

「いや、悪かったとは思ってるよ。でもそんなに焦んなくてもいいじゃん。
 いくら女になったからって…そこらへんの奴らがどうにかできるほどゼロは弱くないし。返り討ちだって。レオリオみたいに」


ゼロに叩かれて気絶したままのレオリオを指差してキルアは言う。

そんなキルアに、クラピカは大きくため息をついて説明し始めた。



「まあキルアの言うとおり、レオリオ程度の連中なら今のゼロでも撃退できるとしよう」

「(『程度』って…、何気にひでーよなクラピカ)」

キルアがそうオレに耳打ちしてきた。でもそのキルアも、『ひどい』とは思ってないらしくて顔は笑ってたけど。

それを目ざとく見つけてクラピカが怒鳴る。


「キルア!聞いているのか!!」

「わ、わかったって、ゴメン、ちゃんと聞きます!」

ビシ!とキルアはクラピカに向かって『宣誓』のポーズをする。


うーん。クラピカ、かなり本気で怒ってる。まぁ、オレも気持ちはわからなくないけど。


「………確かにそこら辺のチンピラども相手なら問題ないだろう。だがもしも今のゼロがプロハンタークラスの連中に狙われたら一体どうする!?」

「いや、クラピカ。プロのハンターだったら少女なゼロが襲われてたら助けるのが普通じゃね?それがハンターの仕事だし」

「違う!私が言いたいのは…『プロハンタークラスの犯罪者』に狙われたらどうすると言うことだ!何かあったとき責任取れるのか?キルア」

あ、そっか。

「そうだよキルア!!旅団の奴らとかヒソカとかが来たら…絶対ゼロ襲われちゃうよ!!」


オレが叫んだらクラピカもキルアもサーッと青くなった。

ごめん、オレも自分で言っててすごい危険を感じた。



「悪い、ゼロ!ぜんぜん考えてなかった。…ヒソカはヤバイよな」

「うむ、ヒソカはヤバイな」

「うん、絶対ヤバイ」


オレたちは急いでゼロを追いかけることにした。














レオリオの顔があまりに怖くて思わず殴ってきちゃったけど…レオリオ大丈夫かなぁ……。


「はぁ…それにしても………これからどうしよう……」

ホルモンクッキー。確か24時間経たないと元に戻れないんですよね…。


僕なんかを女の子にして、キルアは何がしたかったのかな。

まさかホントにデートしようとか思ってたんでしょうか………。


視線を下に移せば、そこには見間違いでもなんでもなくやっぱりふくらみが二つ。

ううう…こんな格好のまま24時間も過ごさなきゃならないの…?

あれ、おかしいな。なんか泣けてきた…。

誰かに見つかってバカにされる前にどこかに隠れよう…。





「………ゼロ?…なにやってるの?」

「わひゃああ!!」

いきなりポンっと後ろから肩を叩かれて僕は飛び上がった。

振り返ればそこにいたのは、キルアのお兄さんのイルミさんだった。……今、隠れようって言ったばっかりなのに…;


「ゼロ…だよね?何やってるの?」

「あああの、僕…、ゼロなんかじゃないですよ?ひひ人違いです!さようなら!」

くるりと踵を返して自然に立ち去ろうとしたのに、イルミさんはその僕の腕をがしっとつかまえた。


「ゼロでしょ?」

その有無を言わさない目で見るの、止めてください…;


「ううう…」

しっかりばっちりばれてるらしい…。

穴があったら入りたい。恥ずかしい…。



「で?なにやってるの、ゼロ?何で女の子になってるわけ?」

「僕にもわからないです…;」

もう説明するのもバカらしいし、説明したからってどうなるわけでもないので僕は黙って視線を下げた。

お願いですから見なかったことにして僕をこのままほっといてください………;;



しばらく沈黙が続いてたけど、不意にイルミさんがぽんっと手をたたく。

「そうか、じゃああれだ。オレの嫁になるための神の采配だ」

「………は?」



……なんですかそれ。



フリーズしかけた僕を、神なんか信じてないけどね、と言いながらイルミさんはひょいっと抱き上げた。


「あ、あの、ちょっとイルミさん!?」

「早速親族集めて式あげようか。母さん泣いて喜ぶよ」

「わああ〜!!ぼぼ僕は男ですってば〜!!」

「こんな立派に胸あるのに?どう見ても女の子でしょ」


違うんです!

今は本物だけどそれホルモンクッキーで出来たにせものなんです!!24時間で元に戻るんです!!



「大丈夫。たとえ戻っても既成事実さえ作っちゃえばあとはどうにでもなるから」



…ちょっと待ってください。どういう意味ですか。

ていうか僕の心を読まないでください!!




「オレはゼロなら男でも女でもどっちでもいいよ」

「良くないです!!」

意味わかりません!!



わあああ!このままだと僕、イルミさんのお嫁さんに!!?お婿さん!?

…そうだ、キルア!こうなったのもキルアのせいですよ!!早くどうにかしてください!!



天にむかって両手を合わせた僕の視界に、何かがイルミさんめがけて飛んでくるのが見えた。









つづく


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何この微妙にボケてるイルミ(爆)

すもも

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ももももも。