ヒュウッと風を切る音が聞こえた。
「わぁっ!」
僕ら目がけて何かが飛んできて、あたるのかと思って僕はとっさに頭を抱えた。
けどイルミさんが僕を抱き上げたままその場を飛び退る。
僕らめがけて飛んできたものは弧を描くようにして、背後にあった木の幹をごっそりと抉り取った。
メキメキと音を立てて倒れた木。なんだか僕は冷や汗が出た。
あ、危ない……。
イルミさんが避けてくれたからよかったものの、あんなものあたったら死んじゃうじゃないですか!
ぞっとして思わずイルミさんに抱きついた。
「温和そうな顔してやることは結構情熱的なんだね、ゼロって」
「…えっ………なっ……!ど、どういう意味ですかそれは!?」
「そのままの意味だけど。 …さて、そんなことより…出ておいで、キル。わかってるんだよ?そこに居るんだろ?」
僕の質問も軽くスルーして、イルミさんは先の木陰に向かってそう呼びかける。
しばらくは何もなかったように、風が木の葉を揺らす音が聞こえていた。
けど痺れを切らしたイルミさんが、呼びかけた木陰に向かって歩みを始めると、すっと木陰からキルアがでてきた。
「キルア!助けに来てくれたんですね!」
「ゼロ………」
キルアのその手にはヨーヨーが握られている。さっき木を抉り取ったのはそのヨーヨーらしい。
………にしても一体何でできたヨーヨーなんですかね?
と、そんなことを思ってるとキルアが少し寂しそうに僕を見てた。
「どうしました?キルア?」
「ゼロ……何でそんなまんざらでもなさそうな………。 …オレとデートは嫌でも、兄貴と結婚はいいのかよ!」
…………。
「は?」
「…オレがガキだから?だから嫌なのかよ、ゼロ………」
「いや、何を言ってるのかわかりません…」
「そうだよキル。ココからはオトナの世界。まだキルが入れる領域じゃないんだ。ゼロのことは諦めなよ。あとはオレがゼロの面倒見るから」
「はい?あの、イルミさん?」
僕の疑問をさえぎってキルアに応えたのはイルミさん。
というか、あの………;
「まぁキルがどうしてもって言うなら、ゼロのこと『義姉さん』って呼ぶ権利をあげるよ?」
「…絶対嫌だね。兄貴のほうこそ、『義妹』に手ェ出さないでくれる?大体、ゼロを女に変えたのはオレだし。オレのほうが結婚の権利はあると思うんだよねー」
「ふーん?…まぁどうやったのかは知らないけど…兄想いのいいコだね〜キル。オレ感激だよ」
「だから兄貴のためにゼロを女にしたんじゃねーっつーのに!ほんっと、人の話聞かないよな、兄貴って」
「だ―――っ!!だから何ワケの分からない話してるんですか!!」
「「そりゃあもちろん、どっちがゼロを嫁にめとるかって話」」
キルアとイルミさんが声をそろえる。
だけどその後には、すぐにキッと向かい合ってなにやら剣呑な雰囲気……。
いや、あの…ですから意味がわかりませんてば………
「勝ち目の無い敵とは戦うなって、あれほどオレが口をすっぱくして教えただろ?キル」
「勝たなくてもゼロを連れて逃げるくらいは出来るし」
「…渡すと思うの?」
「愛は奪うもんだよ?」
ザアァッと木の葉が風に揺れる。
風が止むと同時にキルアが動いた。
イルミさんは僕を地に下ろしてそれを迎え撃つ。
イルミさんの針と、キルアのヨーヨーが火花を散らした。
ひぃい…なんか危ない…;
何でこんな壮絶な兄弟げんかが………やっぱりこれ、僕のせいなんですか……?
呆然と2人の戦いを見てると、ヨーヨーにはじかれた針の1本が僕に向かって飛んで来た。
ぴぎゃあ!危ない!!
「ひゃっ…!!」
グンッと視界が揺れる。強い力で引っ張られるような、そんな感覚に襲われて一瞬目が回った。
誰かが僕を抱きかかえ、すごく速いスピードでその場を後にする。
急に負荷がかかってバランスを崩しかけた僕は、とっさにその誰かの服をしっかりと掴んだ。
掴んだのは黒い服。
白いファーがついた、黒いコートだった。
見上げて目に入ったのは、黒い髪。――――黒い瞳。
見たことない男の人。
僕の中でジャズが一瞬舌打ちをしたようにも聞こえたけど、……一体だれだろう? 僕は知らない。
「…ここまでくれば大丈夫だろう。怪我は無いか?」
最初の公園…かな?
僕を抱きかかえたまま男の人は緑の多いどこか、この公園まで走ってきた。
さくさくと草を踏みしめる音がする。涼しげな木陰の、緑のじゅうたんの上に僕をそっと下ろして、男の人はそう聞いてきた。
「あっ、はぁ。…はい、大丈夫です。あの…ありがとうございました」
とりあえず親切な人がいてくれて助かった…。
僕は、ちょっと失礼だけど座り込んだままぺこりと御礼をした。
「礼はいらない。ただ…」
「…ただ?」
その男の人は、ふむ、と少し考えるような動作をした。
なにかいいたいのかと、僕は彼の言葉を待つ。
「……ただ、君のお義兄さんにはくれぐれもよろしく言っておいてくれ」
…………………。
お義兄さん?
誰?
つづく
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そういえば初対面だった
すもも