僕と君と、ある少女の憂鬱 ◆04:イルミvsキルア




ヒュウッと風を切る音が聞こえた。



「わぁっ!」


僕ら目がけて何かが飛んできて、あたるのかと思って僕はとっさに頭を抱えた。

けどイルミさんが僕を抱き上げたままその場を飛び退る。

僕らめがけて飛んできたものは弧を描くようにして、背後にあった木の幹をごっそりと抉り取った。


メキメキと音を立てて倒れた木。なんだか僕は冷や汗が出た。


あ、危ない……。

イルミさんが避けてくれたからよかったものの、あんなものあたったら死んじゃうじゃないですか!

ぞっとして思わずイルミさんに抱きついた。



「温和そうな顔してやることは結構情熱的なんだね、ゼロって」

「…えっ………なっ……!ど、どういう意味ですかそれは!?」

「そのままの意味だけど。 …さて、そんなことより…出ておいで、キル。わかってるんだよ?そこに居るんだろ?」


僕の質問も軽くスルーして、イルミさんは先の木陰に向かってそう呼びかける。



しばらくは何もなかったように、風が木の葉を揺らす音が聞こえていた。

けど痺れを切らしたイルミさんが、呼びかけた木陰に向かって歩みを始めると、すっと木陰からキルアがでてきた。


「キルア!助けに来てくれたんですね!」

「ゼロ………」


キルアのその手にはヨーヨーが握られている。さっき木を抉り取ったのはそのヨーヨーらしい。

………にしても一体何でできたヨーヨーなんですかね?



と、そんなことを思ってるとキルアが少し寂しそうに僕を見てた。

「どうしました?キルア?」

「ゼロ……何でそんなまんざらでもなさそうな………。 …オレとデートは嫌でも、兄貴と結婚はいいのかよ!」



…………。


「は?」



「…オレがガキだから?だから嫌なのかよ、ゼロ………」

「いや、何を言ってるのかわかりません…」

「そうだよキル。ココからはオトナの世界。まだキルが入れる領域じゃないんだ。ゼロのことは諦めなよ。あとはオレがゼロの面倒見るから」

「はい?あの、イルミさん?」


僕の疑問をさえぎってキルアに応えたのはイルミさん。

というか、あの………;


「まぁキルがどうしてもって言うなら、ゼロのこと『義姉さん』って呼ぶ権利をあげるよ?」

「…絶対嫌だね。兄貴のほうこそ、『義妹』に手ェ出さないでくれる?大体、ゼロを女に変えたのはオレだし。オレのほうが結婚の権利はあると思うんだよねー」

「ふーん?…まぁどうやったのかは知らないけど…兄想いのいいコだね〜キル。オレ感激だよ」

「だから兄貴のためにゼロを女にしたんじゃねーっつーのに!ほんっと、人の話聞かないよな、兄貴って」


「だ―――っ!!だから何ワケの分からない話してるんですか!!」

「「そりゃあもちろん、どっちがゼロを嫁にめとるかって話」」


キルアとイルミさんが声をそろえる。

だけどその後には、すぐにキッと向かい合ってなにやら剣呑な雰囲気……。


いや、あの…ですから意味がわかりませんてば………





「勝ち目の無い敵とは戦うなって、あれほどオレが口をすっぱくして教えただろ?キル」

「勝たなくてもゼロを連れて逃げるくらいは出来るし」

「…渡すと思うの?」

「愛は奪うもんだよ?」




ザアァッと木の葉が風に揺れる。


風が止むと同時にキルアが動いた。

イルミさんは僕を地に下ろしてそれを迎え撃つ。


イルミさんの針と、キルアのヨーヨーが火花を散らした。




ひぃい…なんか危ない…;


何でこんな壮絶な兄弟げんかが………やっぱりこれ、僕のせいなんですか……?




呆然と2人の戦いを見てると、ヨーヨーにはじかれた針の1本が僕に向かって飛んで来た。

ぴぎゃあ!危ない!!



「ひゃっ…!!」

グンッと視界が揺れる。強い力で引っ張られるような、そんな感覚に襲われて一瞬目が回った。


誰かが僕を抱きかかえ、すごく速いスピードでその場を後にする。

急に負荷がかかってバランスを崩しかけた僕は、とっさにその誰かの服をしっかりと掴んだ。



掴んだのは黒い服。

白いファーがついた、黒いコートだった。


見上げて目に入ったのは、黒い髪。――――黒い瞳。

見たことない男の人。



僕の中でジャズが一瞬舌打ちをしたようにも聞こえたけど、……一体だれだろう? 僕は知らない。













「…ここまでくれば大丈夫だろう。怪我は無いか?」


最初の公園…かな?

僕を抱きかかえたまま男の人は緑の多いどこか、この公園まで走ってきた。

さくさくと草を踏みしめる音がする。涼しげな木陰の、緑のじゅうたんの上に僕をそっと下ろして、男の人はそう聞いてきた。


「あっ、はぁ。…はい、大丈夫です。あの…ありがとうございました」


とりあえず親切な人がいてくれて助かった…。

僕は、ちょっと失礼だけど座り込んだままぺこりと御礼をした。



「礼はいらない。ただ…」

「…ただ?」


その男の人は、ふむ、と少し考えるような動作をした。

なにかいいたいのかと、僕は彼の言葉を待つ。









「……ただ、君のお義兄さんにはくれぐれもよろしく言っておいてくれ」




…………………。




お義兄さん?



誰?








つづく


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そういえば初対面だった

すもも

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ももももも。