僕と君と、ある少女の憂鬱 ◆05:クロロvsクラピカ



他人の空似というには、その少女はあまりにも似すぎていた。

ジャズと同じ髪の色。同じ瞳の色。顔の造形も、ジャズと同じ。美しい少女だった。




「…ここまで来れば大丈夫だろう。怪我は無いか?」

「あっ…はぁ。…はい、大丈夫です。」



………あいつから、姉妹がいるような話は聞かなかったが…それにしても似ている。



一つ、あいつと違うのは少女の持つ雰囲気。


ジャズが決して見せることの無いような、ふわりとした…柔らかでぬるい雰囲気。

ジャズはもちろん、オレの周りにこういった雰囲気を持つものは居ない。少しあどけなさの残る柔らかな笑顔は、オレの心を穏やかに癒す。

ジャズとは別の意味でずっと傍においておきたいと思った。




幸い、相手は女。

モノにする手ならいくらでもある。


それに男のジャズを傍に置いておくにはまぁ色々な弊害もあるが(特にパクやマチやシズクの目が)―――幸いにも相手は女。

傍においていても何も変じゃないだろう?


………ただその場合気がかりなのは、彼女を傍においていてフェイやシャルやヒソカに目をつけられないか………

あと、おそらく彼女の「兄」であろうジャズと敵対しかねないかだな。

たぶん彼女はあいつのお気に入りだ。そんな気がする。

…いや、確信を持って言える。


彼女のような絶対的な癒しの存在をあの男が大事にしていないわけが無い!!

だから今まで何も言わずに隠していたんだろう。あいつめ…。




「あのぅ……?」

少女にそう呼びかけられハッとした。


不思議そうにオレを見る少女。小首をかしげたような動作が、とても愛らしかった。













親切だけど、なんか変な人だなぁ………。急に黙っちゃった。


『…っち、メンドクセー奴に捕まったもんだ。おいゼロ。とっとと逃げるぞ』

黙ってしまった黒髪の人を見定めて、ジャズが言う。…ジャズの知り合いの方なんですかね?


『はぁ、わかってますよ。僕だってこれ以上、こんな情けない姿誰かに見られたくありませんし………あ、でも……』

『…あ?……なによ?』


いくら変な人でもお礼くらいはちゃんと言わないと。











「あの…」

意を決したように少女がオレに呼びかけてくる。

オレは少女の前にしゃがんで、彼女と目線を合わせた。

ふむ…それにしてもそっくりだな。


「…なんだ?」

「はい、あの…助けてくれてありがとうございました。なにもお礼は出来ませんが…」

「礼はいらない。ただ……君のお義兄さんにはくれぐれもよろしく言っておいてくれないか」


「…………はい?…あの……お兄さんって…?」

「…ん?…お前の血縁にジャズ=シュナイダーという名の男は居ないか?」

「ああ…はぁ…ジャズですか……。あの…ジャズは僕の弟ですけど…」

「弟!?」

「はい。双子の」



……………意外だ。

あいつの双子の姉か…。童顔なんだな。


いや、だがそれなら……



「じゃあ何の支障も無いか」

「はぁ…?」



姉の言うことなら奴もしぶしぶながら納得するだろう。




「どうかな?…オレの嫁に来ないか?」










…ァア゛!?何言ってんだコイツ!?』


…それは僕が聞きたいですよジャズ………。


目線を合わせた彼がぎゅっと僕の手を取って、何を言うのかと思えば…

あの…なんで僕の周りにはこういう変な人しか居ないんですか…?何かの陰謀なんですか?僕、男なのに………。

ああ……そうでした…。今は女の子なんだっけ………。


案外混乱してるらしいぞ…僕;



『クソッ、クロロの野郎ふざけんな!ゼロと結婚できるならオレがしたいわー!!』


……いや、キミまで何言ってるんですかジャズ?

僕とキミは二重人格なので、どうがんばってもそれは無理だと思うんです…。



「どうした?…ジャズのことなら心配は要らない。オレとあいつの仲だ。きっと許してくれるさ」

『…だっ…誰が許すかテメ――――!!』

『ぅわ、ちょっとジャズ!?何する気になって…。あ、ちょっと!…やめ…』



バレる!!バレちゃいますよ!?『僕ら』のこと!!




ちょっ…………わああああ!!


だめですってー!!










「あっ…だめ……だめ…っです…」

「…? どうした?」


突然、少女が涙をこぼしてオレにすがりつく。

…そんなに感激したのか?…いや、違うな………。


「…おい…」

「…んっ、ん……あっ……」


弱々しくオレのコートをつかみ、眉根を寄せて苦々しく頭を横に振る様子に、オレはひどく心をかき乱された。


苦しげな表情で甘い声を漏らす少女がたまらなく欲しくて。

そのまま押し倒そうと体重をかけた瞬間、何かが視界の端で光った。





―――ジャララッ!!


少女をうまく避けて、オレだけを狙って飛んできたのは――――鎖。

コンマ数秒の差でそれを避け、後ろに退いた。


鎖の先に居たのは、言わずもがな………鎖野郎・クラピカだった。




「ぁ……っ、…ん…クラ……ピカ…?」

「………。」

彼女を守るように、オレと彼女の間に立ったクラピカ。

彼女の涙を見てか、クラピカはギッと歯を鳴らし鎖を構えた。クルタ族固有の、緋の瞳が発現する。


「…クロロ……っ貴様、ジャズだけでは飽き足らず……!!…許さん!!」

「…ふっ、お前こそ彼女のなんだと言うんだ?…お前にとやかく言われる筋合いは無い。どけ。」

「黙れ!!消えろ下種が!!」










いきなり現れたクラピカに、僕の中から出ようとしてたジャズも一瞬動きを止めた。

ちょっとだけ楽になって…顔を上げると、横からいきなり腕を引っ張られた。


「ゼロ、大丈夫!?早く…こっちだよ!クラピカが団長を止めてる今のうちに!!」

「あ…、あっ…?ゴンくん?」

訳がわからないまま、ゴンくんに手を引かれてもたつきながらも僕はその場を後にする。



「くっ、行かすか…!まだ名も聞いていない…!」

「貴様の相手は私だ!!余所見をするな!!」





―――――結局、あの人誰だったんだろう…?







つづく


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全員でボケなくてもいいんじゃないだろうか…

すもも

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ももももも。