僕と君と、ある少女の憂鬱 ◆07:流星衝



「いやだああああっ!!!」


ヒソカにいいようにもてあそばれて、ゼロの中で何かがブツリと音を立てて切れた。



目を開けていられないほどの強い光。

深緑の森からは一瞬で色が抜け落ち、ゴンはまるで真っ白い"闇"に1人置き去りにされたような感覚に陥った。


ゼロの泣き叫ぶ声と共に、美しくも獰猛な光がその場の全てを埋め尽くす。


「「ゼロ――――!!」」


ゴンとキルアの重なった声は、ゼロに届くことは無かった。








―――――――流星衝(スターランサー)!!―――――――



「うわ、ちょっ…ゼロッ!わああああっ!!

ズドドドドドドッ!!!



ゼロの小さな体から無数の光の矢が放たれる。

敵味方の区別もなく放たれた矢はゼロの近くに居たヒソカはもとより、ゴンやキルア、クラピカにまでも襲い掛かった。

光の矢がキルアの頬をかすめ、クラピカの髪の毛を数本焼き切り、ゴンの足元を焦がす。

尽きることなく放出される矢は緑豊かな森を無残に焼いていった。




「彼女は放出系か…凄まじいな…。ポテンシャルの高さだけでいえばジャズと大して変わらない…」

矢に狙われる前に後ろに飛び退き、木の影に隠れたクロロ。木陰から、光の中心にいるゼロを覗き見て言った。


「そうだね。でもゼロは念使わなくてもすごいよ」

「な…っ!?彼女を知っているのかイルミ!?」

「うん。うらやましい?クロロ」

「ぐ……、うらやましくなどない…っ!」

「声震えてるよ」

無数の矢が乱れ飛ぶ中イルミも、クロロと同じように木陰に隠れて矢をやり過ごしていた。

クロロの知らないことを知っているのが優越感なのか、無表情だったがどこか嬉しそうに、わなわなと震えるクロロの言葉を聞く。


「絶景絶景♪…まさかこれほどの力を秘めているとはね…すごいよゼロ……。うずいちゃうじゃないか…♥」

「ヒソカ、まだいたの?死ねばよかったのに」


ぬっと突然、イルミの背後からヒソカが湧いた。

何とかゼロの全方向無差別攻撃から逃げ切っていたようだ。


しかし至近距離からの攻撃を全て避け切るのは無理だったのか、ヒソカの肩や腕からわずかに出血していた。

致命傷には至らないようなそれを見て、イルミがいかにもとげとげしく言葉を投げる。


「ひどいなぁ。それがトモダチに対する言葉かい?」

「別にトモダチじゃないし。…ヒソカもゼロのこと狙ってるんでしょ?だったらライバル」

「…そういう話ならオレも混ぜろ。彼女は渡さない」

ゼロの様子を見ながら、ヒソカとイルミの会話も耳にしていたのかクロロが話に割って入ってきた。だが2人がそれを許すはずも無く。


「クロロにはジャズがいるだろ。」

「混ざる権利もないよね」


と、イルミとヒソカの2人にそろって切り捨てられ、クロロは少しショックを受けてよろけた。

そこへさらにイルミが追い討ちをかける。


「図々しいよね。『彼女』のこと何にも知らないクセに」

「ぐっ…」


何かひどく痛いものがクロロの心にグサッと刺さった。



「そうだねぇ…いまさら?って感じだよね♣クク…」

「ま、ゼロを泣かせた元凶のヒソカが言えることでも無いと思うけど」

「やだなぁ。愛情表現だよ?」

「あれ?それって攻撃されたんじゃなかったっけ?」

びしりとヒソカの怪我を指差してイルミが言う。

するとヒソカは恍惚の表情で肩の傷から流れた血を舐めた。


「これこそゼロの過激な愛情表現…」

「そ。じゃあ全部食らって来たらいいよ。」

そう言ってイルミはドン!とヒソカを木陰からおもいきり押し飛ばした。


ヒソカの姿を見つけたゼロがびく、と体をこわばらせ、そして辺りの矢が一斉に方向を変えてヒソカに向かう。


「何するんだいイルミ」

「ゼロの手で死ねるなら本望だろ?ほら来た」

ゼロの体から放たれた無数の矢がヒソカめがけて飛んでくる。

ヒソカが構えたのを、イルミとクロロは見た。





「あれ…?…矢が…?」


いきなり180度方向を変えた矢の動きに首をかしげたゴン。

周りを見回せば、クラピカとキルアの無事な姿も発見できた。

クラピカとキルアはそろってゴンの元に駆け寄ってくる。

「これは一体…?」

「おい、むこう…!」

キルアが指差した先………全ての矢が向かった先ではヒソカが構えていた。


ヒソカは凝で両手にオーラを集め、そしてそのままその手で矢を弾き飛ばす。

避けられるものは最小の動きで避け、確実にヒットしそうなものだけを狙って弾く。


「すげ…バケモンかよ」

それを見てキルアが感嘆の声を上げた。ゴンもクラピカも驚愕の表情を見せる。



1本1本の矢はそれほど高い攻撃力を持ったものではなかったから(それでも銃弾程度の威力は十分に備えている)

それよりも多いオーラで手を覆ってしまえばそう簡単に大怪我をするものではない。

まぁそれでもやはり痛いのにはかわりないし、襲いくる矢の本数が尋常ではなかったから、怪我をするのも当たり前なのだが。





「ク…、流石にちょっと痛いね………でも。」


避け切れずに何本か食らいはした。

何本もの念の矢に触れたその手からも、ぱたぱたと血が落ちる。


しかしヒソカは、放たれた最後の矢も弾き飛ばし。そこに立っていた。



「あ……、あ、あ…っ!?」

言葉が、出なかった。



――――スターランサーを、止められた。


驚きと恐怖で、ゼロの顔が引きつる。




「ククク…もう打つ手無しかい、ゼロ?……じゃあ遠慮なく戴こうかな…?」




こつ、と悪魔が近寄ってくる。

僕を喰らいに。



僕を"殺しに"やってくる。




「あ…あっ、……や……っ」

ずるずると、足腰立たないままゼロは後ずさった。


ドッと背に木があたって。

もう後ろに下がれなくて、………逃げることも叶わなくて。


ただ泣いて。悲鳴を漏らす。





――――誰でもいい。だれか、たすけて。






「ゼロ!!やめろっ、ヒソカ!!」

「おいでゼロ。ボクがたっぷり…可愛がってあげる…」

「やっ、いやあああっ!!」


ゴンとキルア、クラピカ、そしてイルミやクロロが走り出そうとした瞬間、差し出されたヒソカの手を振り払って再び強く白い光がゼロの体を包む。


「ククッ…、もうボクにはそれ、効かないよ?ゼロ……」

また同じ攻撃かとヒソカは構えたが、矢が再び放たれたわけではなかった。


強くほとばしる光が晴れたとき、そこにあるはずのゼロの姿は忽然と消えていた。




「ゼロ……?」

焼け焦げた緑、乾いた空に、誰かが漏らした声が聞こえて…消えた。







つづく


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今回は上空に放つんじゃなくて全方向攻撃でしたが猫シリーズの白猫さんだけじゃなくてちゃんとゼロさんもスターランサーは使えます

すもも

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ももももも。