double style ◆03:湿原での攻防



「ふう。やっとゴールかな?」



暗くて長い地下道からの出口。

まばゆい光の先に見えたのは、二次試験会場………ではないような雰囲気…。あ、あれぇ?サトツさん?;;





「うわ―――――」

ゴンが声を上げてる。僕も声を上げたい;


クッタリ肩を落としていると、先頭にいたサトツさんが振り返って説明をくれた。


「ここはヌメーレ湿原、通称"詐欺師の塒"。二次試験会場へはここを通っていかねばなりません。」


あぁ…、なんだ。まだ通過地点なんですかー。ちょっと精神的に疲れてきましたよ僕…。

やっぱりタダでライセンス貰っとくべきだったかなぁ……。



…いやいや、こんな始まったばっかりで弱気になってどうする、僕。

ジャズに聞かれてたら絶対バカにされる。一生へなちょこ扱いされそうだ。




「十分注意してついて来て下さい。だまされると死にますよ」

よっし、がんばるぞ!!


「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」

「は?」

って…思い切り興をそがれました。

何ですか、もー。


見れば、細長い手足のサルを引きずった、重傷な感じの男性が物陰から出てきた。


なんかサトツさんが偽者のハンターだとかイチャモンつけてますが……。

サトツさんが偽者な訳ないじゃないですか。僕の素敵ダンディーにケチつけるなんて、ぶっ飛ばしますよ?



僕がプチ切れた瞬間、トランプがその男めがけて飛んでいった。


もっとも、その男には僕からも"追尾する光の矢(レイ・フォース)"の洗礼があったケド。それに気づいたのはサトツさんとごく数名の念使いだけだったようだ。



鋭いトランプの攻撃を受けて、男はゆっくりと前のめりに倒れる。

流れる血が地面を赤く染めていく。


その男の死体を笑って眺めながらトランプを放った男は、シャァっとトランプをさばいてみせた。


―――――44番、ヒソカさんだ。





「くっく…。なるほどなるほど。…これで決定。そっちが本物だね」

ヒソカさんはそう言いながらビシッとサトツさんを指差す。


ヒソカさんは、戯言をわめいた男だけじゃない。サトツさんにもトランプを投げていた。

でも当然サトツさんはそれを防いでいて、ヒソカさんの言葉を聞いて少し不愉快そうにサトツさんは受け止めたトランプをほおった。



「試験官ってのはライセンスを持つハンターが無償で就くもの。…あの程度の攻撃を防げないわけないよね。クク…」


笑ったヒソカさんは、倒れた男の脇から隙をついて逃げようとしたサルもそのトランプの一撃で殺した。






あぁ、そっか。

この人は「殺す」ということになんのためらいも、違和感もないんだな。


まるで日々の食事を摂るように。当たり前の事なんだ。




……ジャズと同じ…。










「それではまいりましょうか。二次試験会場へ」

そういってまたすたすたと森へ向かって歩き始めたサトツさん。


うぇっ。休憩はないんですか。こんな足場の悪いところで…。



「チッ。またマラソンのはじまりかよ」

聞いた覚えのある声がして横へ振り返るとレオリオとクラピカ、見知った2人の姿があった。


「あ!!レオリオ!脱落してなかったんですね。よかったぁ」

「なっ!ゼロ、お前どこにいたんだ!?お前こそ途中でいなくなるからこっちはあせったぞ!」

「えっ…;すいません、心配かけて……。一番前のほうにいました…」

「あ、いや、責めてるわけじゃねぇよ。落ち込むなって!」


「前にいたのでは見つけようがないな。それにしても汗ひとつかいてないのだな。すごいな、ゼロは」

「ありがとうございますクラピカ。……ところで聞きたいんですけど、なんでレオリオは裸ネクタイなんですか…?僕、恥ずかしいんで離れてもいいですか」

「私もご一緒しよう!!」

「おいクラピカ!テメー、力いっぱい同意してんじゃねーよ!待てコラお前ら!!」

「あははっ」


クラピカと一緒に、憤慨するレオリオの元から走り出す。

鬼ごっこの開始と同時に、マラソンの後半戦もまた始まった。















そんなこんなでクラピカ、レオリオと一緒にずいぶんと走って……もう何分経ったろう。

湿原の奥に進むにつれて少しずつだけど確実に霧が濃くなりはじめた。周りを走る受験者達の姿もうっすら霞掛かり、じきに視界は真っ白になることだろう。



「これは危険ですね…。これ以上霧が濃くなったらサトツさんはおろか1メートル先も見えなくなりそうです」

「うむ。前の人影を見失ったら最後だな」


走りながらそんなことをクラピカと話していたら………



「レオリオ――――!!クラピカ――――!!ゼロ――――!!キルアが前に来た方がいいってさ――――!!」


ずっと前のほうからゴンの声がする。返事をしようと思ったら今度は

「どアホ――――!!いけるならとっくにいっとるわい!!」

ってレオリオに先を越されました。僕1人だけ遅れてるならすぐにでも行けるけど…

前のほうにいるゴンとキルアはともかく、はぐれかねない後方集団のクラピカとレオリオを置いていく訳にも行かない。


なんかイヤ〜なオーラと殺気をビシバシ飛ばしてる人もいるし…;

おそらく、ヒソカさん。

このオーラと殺気でジャズが起きないといいけど…。





そして。


気がつけばもう、前は見えなくなっていた。









「うわあぁあああ――――!!!」

「ひぃいい―――!!」

「ぎゃあぁぁ―――!!」



突如そこかしこからテスト生たちの悲鳴が上がった。

うろたえ、逃げ惑う受験生と肩がぶつかる。


「ちぃっ!知らねーうちにパニックに巻き込まれちまったぜ!」

「どうやら後方集団が途中から別の方向へ誘導されてしまったらしいな」

「はぁ。や、やっぱり…;」


うー、心配してた事態になっちゃったなぁ。

どうしようか。僕のレイ・フォースならゴンとキルアを追尾して先へ進むことも出来―――!?


「ぎゃっ!!」

「ぐっ!」



いきなり無数のトランプがその場にいた人間に襲いかかった。それもちろん僕自身も例外ではなく。

僕は肩にかけていた長剣の柄でそれを叩き落した。


「くっ」

「ってぇ――――――!!!」



「クラピカ!レオリオ!」


レオリオの悲鳴。

無事なのかと辺りを見回しながら、僕は彼らの名を呼ぶ。

霧は濃かったけど、わりとすぐに、そばにいた彼らを見つけることができた。


「大丈夫ですか、レオリオ!?」

「あぁ…、なんとかな…」


よかった、怪我は怪我でも大事はなさそうだ。




だけど視界が悪くその攻撃を放った人間は見えない。

でもわかる。


このトランプ。この殺気。



「ヒソカさん…ですね…」

「てめぇヒソカ!!何をしやがる!!」






「くくく。何って?試験官ごっこだよv」


パラパラとトランプをシャッフルしながら、楽しそうに悪魔が笑う。





「試験官…ごっこ…?こんな殺し合いが『ごっこ』なんですか?」


「ヘンかい?二次試験くらいまではおとなしくしてようかとも思ったんだけど、一次試験があまりにタルいんでさ。選考作業手伝ってやろうかと思ってね」

「………っ」


レオリオは軽い怪我で済んだとはいえ、受験者の何人かはもうすでに息がないようで。

ヒソカさんや僕らの周りには、倒れたまま動かない血まみれの身体がいくつか転がっていた。




――――ジャズと同じだなんて、前言撤回だ。


ジャズもいくらなんでもここまでひどくない。




この人はジャズとは違う。


…殺人快楽主義者っているんだなやっぱり…。少し、怖いかな…。






…なんて考えてるうちに残っていた受験生たちがヒソカさんを取り囲んでいた。


「殺人狂め、貴様などハンターになる資格なんてねーぜ!」

「二度と試験を受けられないようにしてやる…!」



皆それぞれ武器を持ってそんなことを言っていたが、…無理だろう。彼はおそらくすでに念使い。纏うオーラが確実にソレを示している。

ハンター志望とはいえ、タダの強者が、彼に勝てるはずもない。


ヒソカさんはピッと1枚のトランプを周りの連中に差し出し、見せた。



「そうだなァ〜〜〜…君達まとめて、これ1枚で十分かな」

「ほざけェエ――――――!!」




受験生たちが叫ぶと同時に、ヒソカさんが舞った。

血飛沫を纏いトランプ1枚で、踊るように獲物を仕留めていく。



楽しそうに、笑い声を上げながら…。






ものの数秒もかからず、立っているのは僕たちだけとなった。

……まずい。やっぱりかなりの使い手だ。



「君ら全員不合格だね。残るは君達4人だけだ」

僕と、クラピカ、レオリオ、そして76番を胸につけた人を指してヒソカさんが言う。

蛇の一睨みに思わず、汗が一筋頬にこぼれた。



「…おい」

と、ヒソカさんから目をそらさず、僕たちに聞こえる程度に、76番が提案してくる。

「いいか、お前達。オレが合図したらバラバラに逃げるんだ。奴は強い。お前達も強い目的があってハンターを目指しているんだろう。

悔しいだろうが今は………ここは退くんだ!」



退却はたしかにいい判断だと思うけど……。

その提案、クラピカはともかく…レオリオは…受け入れてくれるかな……。





「今だ!!」

とにかく、76番のその合図と共に僕らは四方に散った。


「おやおや…。何をしてくるかと思ったんだけど……なるほど、好判断だ。ご褒美に10秒待ってあげるよ。い――――ち…」







バラバラに逃げる。確かにこの場合、好判断といえる。

ヒソカさんが誰か1人に狙いを定めるうちに他の3人は逃げられる。助かる。


けど――――狙われたそのたった1人の人間は、まず確実に死ぬ。

狙われてしまったのがもし彼ら3人なら、それはなおさら。





(でも僕……、僕は……。 ――――僕なら。)



そうだ。



僕は、クラピカを、レオリオを、こんなところで死なせたくない。



僕は念能力を持っている。

せめて彼らが逃げ切るまで僕が時間を、稼ぐ。




勝たなくていい、時間を稼いで逃げる。


僕の能力ならそれは十分可能なんだ。




意を決して、僕はぴたりと立ち止まった。




「おや?君は逃げないの?」

ヒソカさんのその問いかけにも黙ったままで、僕はすらりと長剣を抜いた。




僕が残ったことを彼らに知られてはいけない。引き返されても困るから。


ふう、と息を吐き、ゆっくりと剣を構え、オーラを研ぎ澄ました。




「ふぅん…。」

と……悪魔が、にぃっと顔を歪めて嗤った。






が、次の一瞬。

背後に現れた気配に僕はぞっと寒気がした。


僕も、ヒソカも。―――『彼』を見た。

霧の向こうに立っていた、誰か。




「やっぱだめだわな。こちとらやられっぱなしでガマンできるほど……」




――――――レオリオ!!





「気ィ長くねーんだよ!!」

「レオリオ!!やめっ…!!逃げてください!!」


僕の叫びも届かず、レオリオはその辺で拾ったであろう木の棒を振りかぶりヒソカさんへと跳び掛かる。



「ん――、いい顔だ」

「うぉおっ!!」


レオリオの一撃を軽くよけ、彼の背後に回ったヒソカさん。


相当の殺気を以って、レオリオの首に一気に手を伸ばす。

くそ、だめだ、間に合わない――――っ







ドゴッ!!





「!!な…釣竿…!?」

「!?」



僕がレイ・フォースを飛ばすより先に、釣竿の一撃がヒソカさんを襲った。

糸の先……そこには……





「ゴン!?」

「ゴンくん!!」



そこに立っていたのはゴンだった。


………嘘だ、まさか試験を放ってこっちに来たのか!?

ゴンは僕みたいに、本隊に帰る術も持たないはずなのに……!



――――仲間を、助けにきたんだ…!







「ゼロ…」

「僕はいい!ゴン、前を向いて!!」



その瞬間、レオリオがヒソカのパンチ一発で沈められた。

それを合図にとっさに僕もゴンも動く。


だけどヒソカさんはそんな僕らをあざ笑うかのようにフッと僕らの視界から消え、一瞬のうちにゴンの背後へ。

反応した時にはもう、ぬるりとした妖しげな手つきでゴンの首を取っていた。




「ゴン!!」

「おっと、1番クン。動くとこの子、殺るよ」

「―――っく!!」


ザザッと立ち止まった。




「仲間を助けに来たのかい?いい子だね〜。…大丈夫、殺しちゃいないよ。彼は合格だから。……んん〜〜〜…」


じっとヒソカさんの細い瞳がゴンを見つめていた。



もしその子に何かしてみろ。

今度は―――許さない。




「…………」


「うん!君も合格。いいハンターになりなよ」



構えていた僕だけど、意外にもヒソカさんはそんな一言をにこやかな笑顔とともにゴンへと投げた。

そしてゴンの首にかけていた手を離す。






「そして君!」



立ち上がったと思ったら、いきなりぐるっと音を立てそうなほど勢いよく僕のほうを見たヒソカさん。

ゆっくりと僕に近づいてきて、僕の顎に手を掛けた。


「君とはいつかゆっくりと話したいな…。……うまそうだ…」

「…僕にはアナタみたいな殺人鬼と話すことなんて何ひとつありませんよ」

睨みつけて、そう応えた。


「……そういうところもイイね…。ますます欲しいよ」

くつくつと笑う声が、耳障りだった。





ピピピ



不意に鳴り始めたその音に邪魔されたのが気に障ったのかヒソカさんは少し眉を上げた。


「ヒソカそろそろ戻ってこいよ。どうやらもうすぐ二次試験会場に着くみたいだぜ」

「…OK すぐ行く。…お互い持つべきものは仲間だね」

そう言ってレオリオを担ぎ上げ、悪魔は霧の中に消えていった。











完全に彼の気配が消えると、それまでの緊張感が途切れたのか、へたりとゴンが膝をついた。


「ゴン!?ゼロ!?」

霧の中から、クラピカが駆け寄ってくる。


よかった、みんな無事で…。




僕も安堵と精神的な疲れから、へにゃりとその場に座り込んだ。







つづく


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レオリオは絶対負けず嫌いの良い人だと思います。

すもも

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ももももも。