double style ◆04:ブハラのメニュー



くんくん


「こっちだよ!」

「………;」


僕らはゴンの鼻を頼りにヒソカさんを追って、霧深い森の中を進んでいた。



「…そんなにはっきりわかるのか?」

「うん!レオリオのつけてたオーデコロンは独特だから数キロ先にいてもわかるよね」


((無理だ…))



クラピカと顔を見合わせ、お互いにそう頷く。


……ありえませんて。普通はそんなの出来ないですから!

キルアも常人離れしてるけど、この子も相当だ。この野生児クンめ!!



ゴンの鼻もあるけど、ヒソカさんが(おそらく)僕らを誘導するためにオーラを残してくれている。

僕が念使いだと知ったから。凝でソレをたどれと。



だからゴンのたどっている道も正しいとソレが証明してくれてる。

ゴンは念が使えないみたいだし、そうなると本当に匂いだけで追跡していることになる。


……頭イター…;




それにしてもヒソカさんて実は結構いい人…?なのかなぁ…?















「どうやら間に合ったようだな」

「レオリオはどこでしょうね?」


ゴンの(あとヒソカさんの)おかげでなんとかサトツさん率いる本隊へと合流できた僕ら。

合流したもののすでにここがゴールだったのか、各々休憩を取り始めている受験者達の間をレオリオを探して歩く。


きょときょとと辺りを見回していたら、突然ゾクッと背中に強烈な悪寒が。



ヤな視線に背中の方から射抜かれて鳥肌が立った。

ヒ、ヒソカさん……や、やめてください…;



振り向くとやっぱりヒソカさんと目が合った。

最初、僕らのほうにむけて手を振っていたヒソカさん。そのうちにその手で森の方を指した。

それを見て、ゴンとクラピカはそちらの方へと駆けていった。




僕はというと、ヒソカさんと目を合わせたまま、動けなかった。


目をそらすと背後から何をされるかわかったもんじゃない、なぜかそういう気がしたから。


その間に、ヒソカさんはツカツカと近づいてくる。



「やぁ。ボクのアト、わかったかい?君のためにつけたんだよv」

「それについてはお礼を言っておきます。ありがとうございましたヒソカさん」

「ん〜〜〜!…いいね、君のその口からボクの名前が出るのは。でも……」


また僕の顎をくっと持ち上げる。

「ボクも君の名前が知りたいな…どう?」



「…………ゼロ…です……」

「ゼロ。…いい名前だね……覚えたよ」




正直、ヒソカさんのような凄腕の念使いには教えたくなかった。


彼ならきっと、僕の顔を知っているから。ジャズ=シュナイダー、という名で。


ファミリーネーム明かせないな、これじゃ…。まぁ、バレてるだろうけど…。

きっと彼ならいつか僕たちの秘密にたどり着きそうな予感がするし…。はぁあ…。



「それじゃあ、失礼します」


これ以上ヒソカさんと一緒にいたくなかったので、するっと彼の横を通り抜けた。

この人のペースにはまったらうまいこと色々聞きだされそうだし…。






「…そう毛嫌いしなくてもいいのに。残念◆」












はぁ、ヒソカさんといるととても疲れます…。

僕の癒しクンたちはどこかな〜…。早く会いたいよ…;


トボトボと受験者達の間を今度はゴンとキルアを探して歩く。

森の奥の大きな建物の傍まで来たところで、彼ら2人の小さな背中を見つけることが出来た。



「あ、ゼロ!」

「はぁぁやっと見つけた…。ゴン、キルア、会いたかったぁあ…」

「何でそんなに疲れてるの?ゼロ」

「セクハラでもされてたんじゃねーの?」

「シャレにならないです…キルア…」


しかも半分以上当たってます…。



「ところで試験はどうなってるんですか?まだ始まってないみたいですけど…」

「アレ。見ての通りさ」

「正午スタートだって」

「へぇ?」

ゴンとキルアがそろって建物の前の掲示板を指差した。たしかに掲示板には『本日正午スタート』の文字。

一次試験官のサトツさんが「二次試験会場へ」って案内してくれたんだから、ここがやっぱり二次試験会場なんだろうな…。


―――でもなんだろうこの轟音。建物の中からすごいうなり声が響いてるんですけど…;



「はあ…。まぁ正午スタートはともかく、このうなり声みたいなのは何なんでしょうね?まさかと思いますが、正午になったらいきなり猛獣が襲ってきたりしませんよね…?」

はは…と僕が乾いた笑いを漏らすと、ゴンもキルアも少し緊張した面持ちになった。


「ゼロこそそれ、シャレになってねーよ」

「そ、そうだよ」

「あ、大丈夫大丈夫。そのときは僕が守ってあげるから!」

「本当ゼロ!?じゃあ安心だね!」

「え――――――?そうか―――――?」

「『えーっ』て…キルア、さっきからひどいなぁ…。お兄さん傷つくよ…」



この子ほんとにこういうとこジャズに似てるなぁ…。


ジャズ今寝てるっていうのに、ジャズと一緒にいるみたいな感覚になるよ…。











さて、もうそろそろ正午だけど…。一体何が始まるんでしょうか…。



休憩を取っていた他の受験者達も、時間が近づくにつれ建物の傍に集まってきた。それぞれが神妙な面持ちで扉が開くのを待つ。


そして時計の針が正午をさすと同時に「ギギ…」と重苦しい音を立ててドアが開いた。


中にいたのは…ソファにどっかり座った奇抜な格好の女性と、そのうしろに大男。


どうやらうなり声だと思っていたのはこの大男さんの腹の虫だったようです。

腹の虫というよりは腹のケモノ?おなかの中になんかヘンなもの飼ってそう…;




「どお?おなかは大分すいてきた?」

「聞いてのとおりもーペコペコだよ」

「そんなわけで二次試験は料理よ!!」



「料理!?それもまたなんか唐突ですねぇ…」

あまりにすっ飛んだ試験内容に汗をたらす。

するとゴンのくりくりした目が僕を見上げてきた。


「ゼロ、料理苦手なの?」

「いや、料理は出来ないこともないけど、ハンター試験って仮にも「試験」っていうからもっと闘ったり審査したりするのかと思ってたから…。

マラソンに今度は料理だよ?ヘンな試験だなぁって」



「そうかな?結構理にかなってるとは思うが…」

ゴンと話してたら、クラピカとレオリオも近くにやってきた。


「クラピカ。あ、レオリオ!無事だったんですね!」




……顔は変形してるけど…;




「? おう」


…?

あれ?レオリオの様子がおかしい気がしますが…。僕が首をひねってるのを見てか、クラピカがコソッと教えてくれた。


「どうやらレオリオは湿原に入った以降の記憶が全部飛んでるらしくてな」

「あぁ、なるほど。」

ヒソカさんのあの強烈な一撃で記憶も吹っ飛んだんですか。

ふわぁ、たしかにレオリオ、殴り飛ばされて空中で一回転くらいしてましたもんね…。

これはレオリオには言わないほうがいいですか…。案外レオリオってプライド高いし;



「そんなことよりメニュー、聞かなくていいの?3人とも」

そう言って僕の前に立ってたキルアが振り向いてきた。


「あ、キルアごめんね。ありがとう」

「…いや別に…」



試験官さん2人の方を見ると、後ろの大男の方がきらきらと目を輝かせていた。

まずはあっちからか…。





「オレのメニューは…豚の丸焼き!!オレの大好物」





…………。



えーと?………いや、ちょっと待ってください?

それって何人も受かるの?



僕は1匹…いや、半匹でおなかいっぱいですよ…。

ってことはこの試験、先着順か。これは早めに行かないとな…。




「それじゃ、二次試験スタート!!」

メンチさんの大きな声で一斉に、僕たち受験生達はみんな森へと走り出した。
















「あれ?ゼロは?」

試験官の合図と共に、走り出そうと後ろへ振り返ったゴン。辺りを見回すが、ゼロの姿はすでにそこにはなかった。


「あれ!?今さっきまでそこにいたのにな?いっつも急にいなくなるよな、あいつ。また先に行ったんじゃねーの?」

と頭の後ろに手を組んでキルアが呆れたように言う。



「うん、そうかもね。ゼロ、足速いもんね」

森へ向かって走り出しながらゴンはキルアにそう相槌を打つ。



「んな心配いらねーって。また後でひょっこり出てくるさ。それより豚探せよ、お子様たちはよ」

「同感だ。単独でヒソカ相手に向かって行くくらいだし、彼は強いんだろう。だから心配は無用だと思うぞ」

「はぁあ!?ヒソカ!?何やってんだよあのバカは!命知らずな〜!」

「(お前が言うか…)」


他人事のように言うレオリオに、クラピカは内心突っ込まずにはいられなかった。



「あ、いたよ、ゼロ!」


その矢先、ゴンがゼロの姿を見つける。

ゴンが指差した先―――茂みの向こうに、長剣を脇に構えたゼロがいた。その奥には大きくて頑強そうな鼻をもつ大きな豚の姿も。






心なしか自分たちのほかにも視線を感じる。


何人かの使い手が、彼を見ているようだった。



その間にも豚は鼻息を荒げ、猛ダッシュでゼロに襲い掛かる。



「何ぼっとしてんだ、飛べよ!ゼロ!」

思わずキルアが声を上げるがゼロには届いていないのか、彼は眉一つ動かさなかった。




凄まじい集中力。

そして次の瞬間、一気に場の空気が凍りついた。





ゼロの殺気。




普段の彼からは想像もできないほど、それは鋭く。


その表情は息を呑むほど――――――美しかった。







いつ、剣を抜いたのかわからなかった。


4人が何もわからぬうちに、ゼロはくるっと剣をまわし、それを鞘に収めた。



彼は、豚を「正面から」真っ二つにしていた。






4人とも、声が出なかった。


今目の前にいる男が、自分たちの見知っている男とはまったくかけ離れた存在にみえたから…。



彼の実力の一端を垣間見て、いやな汗がぽたりと落ちていた。










「ふぅ…。―――――あ。」

空気が戻る。いつもの彼がそこにいた。



「あ――――――!!真っ二つにしちゃダメじゃないか!!丸焼きっていってたのに!!!」


ズルッ



「……?…なんだろう、なんかこけたような音が…」




「……ごい…。すっごいや!!ゼロ!!」

「まいったな、強いとは思っていたが…」

「あ、あれ?みんな居たんですか;」


ゴンがゼロに駆け寄っていく。

クラピカ、レオリオもその後に続いた。



だがキルアは、動かなかった。









「(アイツ…、強いな…)」


闘りあってみたい、と思った。







(だけど今のオレに殺せるのか?)




そう、キルアの奥底で何かが――――叫んだ気がした。











「皆はもう豚捕まえたんですか?」

「ううん、まだだよ」

「じゃあ、僕も一緒に行きます。もう1匹捕まえなくちゃなりませんから…;」

「見事に真っ二つだしなー」

「たしかにこれでは「丸」焼けないな」

「あははは…、ハァやっぱり……;」


屈託なくやさしそうに、ゼロは笑った。







つづく


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すもも

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ももももも。