double style ◆05:メンチのメニュー



結局、大男・ブハラさんは豚の丸焼き70頭をたいらげ、二次試験前半は70名が通過しました。



「やっぱりハンターってすごい人たちばかりなんだね」

「すごいっちゃすごいけど…70匹…、さすがにああはなりたくないな…」


なーんてゴンとキルアが会話してるけど。

……いやいや、ハンターでも普通は70匹なんて無理ですから!彼だけですから!





「それにブハラさんだからここまで70人も合格できたのかもしれませんが、あの女性の胃袋はどうでしょうね?

次の課題しだいではひとケタになってしまうかもしれませんよ」


「早いもの勝ちってこと?」

「うーん、課題しだいでは…」


ブハラさんのように簡単な料理ならそうなるでしょうね、と付け加える。

…と、そんな会話をしていた僕らを尻目に、女性―――メンチさんは、フフンと得意げな笑みを零した。


そして彼女の口から出たメニューはというと………




「二次試験後半、あたしのメニューは……スシよ!!」







――――間。








「スシ?スシって何か知ってる?ゼロ?」


えぇ!?ゴン、僕に聞くんですか!?僕も知りませんよ!




「う〜ん……。でもきっと、これは皆が知らないメニューを用意することで、ヒントを見逃さない注意力とかを試しているんじゃないかな?」


「う〜〜〜ん、そっかぁ…」


うんうん、がんばれゴンくん。



…とは、いうものの。僕も『スシ』が何か分からないんだよね…。

ヒントも少ないし、案の定他の受験者達も皆揃って首をひねっていた。


うーん…。ゴハンを使った料理で、名前はスシ。種類はニギリズシ。

たぶんニギリ・ズシで区切るんだと思うけど…ニギリってなに?


ニギリって食材の名前なのかな?

それとも単に「握る」からニギリ?




……………ふぅ。わからない。






「魚ぁ!?お前ここは森ン中だぜ!?」 「声がでかい!!」


メンチさんが受験生達に用意してくれたキッチンの前で考えていたら、ちょっと離れたところからレオリオとクラピカの叫ぶ声が響いて、僕は軽く飛び上がった。



レ、レオリオ…;

だめですよ。わかってもそういうのは黙っとかないと。


でも、そうか。魚を使った料理なんだ…。


知っていたのはクラピカだろうな。博識そうだし、なんか突っ込んでるし。あはは。

…さて、僕も魚を捕りに行かなくちゃ。



他の受験生達が建物の外へ走っていくのにあわせて、僕も魚を捕りに川へと走った。













で、魚が捕れたはいいんですけど……ここの試験会場は変な魚しかいませんねぇ。

なんかどれもびよんびよんしたりみょんみょんしてますよ。(説明になってない)


何この触覚。毒とかないんでしょうか。ほんとに食べられるんでしょうか。

まぁこれ食べるのって僕じゃないからいいんですけど…。

メンチさんだって、この場所で魚料理をメニューに選んだ以上、この変な魚を使う流れもある程度予想してたんでしょうし。僕はこんな魚、御免ですけど。


と、僕はぐるっと、周りの受験生たちがそれぞれ手にしている魚を見た。


…うん。やっぱり食べるのは御免こうむりたい。



…………ま、とはいえそれでも作るのだけはしっかりやらなくちゃ。試験の合否がかかってますしね。


えーっと…、そうだ。「料理」というからにはまずこの見た目をどうにかして、食べやすくしなくちゃだめですね。

よし、捌きましょう。







「出来たぜ――!!オレが完成第1号だ!!」

ざくざくとウロコを取ってたらレオリオがメンチさんの元に走っていくのが見えた。


「レオリオ早いなぁ」

「おう!ゼロ!見てな、オレが二次試験最初の合格者だ!!名付けてレオリオスペシャル!!さぁ、食ってくれ!」

と、レオリオは自信満々にメンチさんに料理を差し出した。




ぴくぴくと死にかけの魚を丸のままゴハンで固めた……何か。



「食えるか―――!!!」



一目見てお皿をほおったメンチさん。


……いや、うん。


レオリオがそれに対して文句つけてるけど……メンチさんの気持ちはわからないでもない…。僕もあんなものは食べたくないなぁ。

魚とか生だし。エラ、パクパクしてるじゃないですか; 締めましょうよ、せめて。



「ちょっと!…いーい!?カタチは大事よ!!ニギリズシのカタチをなしていないものは味見の対象にもならないわよ!!」

「ニギリズシってカタチがあるんですね」


レオリオのおかげでいいヒントにはなった。

でもここからどうしたらいいんだろう?


3枚に卸した魚を前に悩む。


キッチンにコンロはないし…。まさかホントに生のまま食べるんでしょうかねぇ?

魚を生で食べるなんて聞いたことないんだけどな…。



うーん………。生…。


あ、生ハムみたいに食べるんでしょうか?





……うん、とりあえずそれでいってみよう。

どうせ形が違ったら食べてもらえないわけですし。チャレンジあるのみです。


大きさは生ハムメロンも一口ですから一口大くらいがちょうどいいですかね。

メンチさんは女性ですし、そのほうが食べやすいでしょう。


生ハムメロンのようにゴハンに切り身を乗せて持っていってみた。





「えーと、どうでしょう?」

「あらv やっとそれっぽいものが出てきたわね。でもちょっとネタが薄いわよ」

「ネタ?魚のことですか?」

「んー、まぁ、そうね。……味もいまひとつ!作り直し!!」

「はい。ありがとうございました」

ぺこんとお辞儀をすると、メンチさんがきょとんと目を見開いた。


「あんた礼儀正しいわねー。むっさい男ばっかかと思ってたわー。……あっと……でもサービスはしないからね!やり直し!」

「はい」




カタチはこれでいいのか。後は味かぁ。それ、一番難しいじゃないですか、メンチさん…;

味って事は別の魚を獲りに行った方がいいのかな。

それともなにかこの辺の調味料で特別な味付けが…?



「ざけんなてめー!!」


――――はい?



突然の背後からの怒鳴り声に、後ろを振り向く。


「鮨をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!!

キサマら素人がいくらカタチだけ真似たって天と地ほど味は違うんだよボゲェエエ!!!」



えええ…; なにやらキレたメンチさんがスキンヘッドの人に一息でそう言ってすごんでいた。


こ、怖い…;ああいう人はああなると手がつけられないんだよなぁ…。

いくらこっちが正論を言っても聞く耳持たない。

ジャズもそうだ。



………ふぅ。これはもうだめかな?



案の定メンチさんのその後の審査はそれまで以上にカラかった。

そして…





「ワリ!おなかいっぱいになっちった」


あぁ…やっぱり………;













「だーかーらー、しかたないでしょ!そうなっちゃったんだからさ!」


メンチさんがケータイで誰かと話している。

内容から察するに審査会の人たちかな?そんなものあるのかわからないけれど。


「こんなところで終わりなのかな…ゼロ…」

「う、う〜ん…こればっかりはねぇ…」

そばにいたゴンと話す。周りも当然ながらざわついている。

それもそのはず。


「とにかく!あたしの結論は変わらないわ!二次試験後半の料理審査、合格者はナシ!!よ!」


………だったからだ。






『―――――納得いかねぇな』

突如、頭の中に不機嫌な声が響いた。


『ジャズ!起きたんですか?』


『あ?てめぇが豚狩ったときから起きてたぜ。にしても…あの女、うぜぇな。―――殺るか?』

『は?物騒なこといわないでくださいよ…。手は出さない約束でしょう?』

『知るか。ハンター試験がここで終わりならそんなこと関係ねぇだろうが!』

『何をそんなにイライラしてるんですか?今は待って…』



ドゴオォン!!


キッチンをぶち壊し、テスト生のひとりがキレた。


メンチさんに向かって啖呵を切るが、メンチさんはそれを


「また来年がんばれば――――?」

とあっさり流す。



その瞬間、ザワッと背筋に寒気が走った。







―――――うわ、……あぁ、やばい、



ヤバイ!




今のあの一言でジャズもキレた!









「だめだ!!」


「ゼロ!?」


パンッ!!


メンチさんに啖呵を切ったテスト生がブハラさんにぶっ飛ばされた。

それと同時に僕は両肩を抱くようにしてその場にうずくまる。


指先から血の気が引いていく。嫌な汗もが額から噴き出してきた。



「ゼロ!?どうしたの!?だいじょうぶ?」

「顔色が悪い…。どうしたんだ、ゼロ!?」

「おい、なんだ、どうした?」

ゴン、クラピカ、レオリオの声が聞こえる。




だめだ、キレたジャズが出たらたぶん真っ先に、今目の前にいる彼らを―――彼らのその命ごと押しのけてメンチさんを殺しに行く。


そんなのは絶対にイヤだ。








イヤだ。





出るな。


出るな。






今出たら、"僕らの秘密"がばれるぞ。













―――うるさい!出るなったら!!





















「ゼロ!?ゼロ!!しっかりしてよ!」

「ン…は……、ゴン、く……。はぁっ。う…」


255番の人がメンチに向かっていくと同時に、ゼロも苦しげな表情でその場にうずくまった。

一体急にどうしたんだろう、ひどく顔色が悪いし、呼吸も荒い…。

どうしよう。どうしよう…!?


「ねぇ、クラピカ、どうしよう…?どうすればいいかな!?」

「ゴン、落ち着け。私たちまで慌ててどうする」


「待て、オレに見せてみな」

「レオリオ…」

「一応これでも医者志望だしよ。ゴンはちっとそこどいてな」

「う、うん。わかった…」


オレを横に退けてレオリオがゼロの正面にしゃがみこんだ。

そしてそっとゼロの肩に手を掛け、声をかける。



「おい、ゼロ、聞こえるか?ゼロ。」

怒鳴るでもなく、レオリオはゼロを落ち着かせるように、安心させるように言った。



「はっ…はっ…。……リオ…」

「大丈夫だ、ゴンもクラピカもオレもここにいるぞ。…だからまずは落ち着け。ゆっくり呼吸をして」

「はっ、はあっ」


ゼロがレオリオの服をつかむ。


何も見えない暗闇の中で、何かにすがるように、力無く。




なんだか、心がちくちくする…。


ゼロ…一体どうしちゃったんだよ……?






「…ぐ…。 …はっ…。はぁっ…。っあ、―――はぁあっ…」


ひときわ大きく息を吐いて、少しづつ、ゼロの呼吸が戻っていく。

苦痛の表情も消えてた。



レオリオはゼロの上半身を抱えてその場に横たえた。


「ゴン、水持ってきてくれ」

「あ、うん!」



言われてオレは、試験会場のキッチンから水道水をコップに持ってきて、ゆっくりゼロの口に流し込んだ。


「大丈夫?ゼロ?飲める?」


「…ん……、ごほっごほっ…」

「あ、ごめん…」



「はぁ、ありがと…ゴンくん……。もう、大丈夫です……大丈夫…。心配…かけてしまって……すみませんでした…」

「ゼロが謝ることないよ!それよりホントに大丈夫なの?」

「はい、ありがとうゴンくん。でも…もう大丈夫ですから…安心して下さい…」



タオルで汗をぬぐってあげたら、ゼロはいつものように微笑んでくれた。







ゼロの様子を見ているうちに、なんだか試験の話も進んでいた。

それまでいなかったえらそうなおじいさんがメンチと何かやり取りをしている。


あのおじいさんはだれなんだろう?


「ねぇ、キルア。どうなってんの?」

「あのジィさんがハンター試験の最高責任者だってさ。んでテストをやり直すかどうか揉めてるみたいだぜ。つーかお前話聞いてなかったのかよ」

「ごめんキルア;ゼロがいきなり倒れちゃって、それで…」

「ハァ!?倒れたって…大丈夫なのかよ?」

「あ、うん。いま、向こうで少し休んでるけど、もう大丈夫だって!すごい大変だったんだよ!」





そんなことがあって、どうやら責任者のおじいさんのおかげで二次試験のやり直しになったみたいだった。

今までいた試験会場から見えるマフタツ山ってとこでゆで卵を作るらしくて、オレ達テスト生は飛行船に乗り込む。



ゼロ、大丈夫って言ってたけど本当に大丈夫かな。受けられるのかな?


「ゼロ、テスト受けられそう?」

「うーん…、課題によりますね…」

飛行船内部でも、ゼロは壁際に座り込んでいて、レオリオとクラピカがそばでゼロを看てた。

そこへ、キルアがやってくる。


「ゼロ、お前倒れたんだって?」

「キルア…。ゴンに聞いたんですか?…心配かけてすみません」

座ったままでゼロはオレ達に向かってぺこりと頭を下げた。

「謝らなくていいってば、ゼロ」



「何で倒れたんだ?」


ゼロを見下ろして、キルアがそう尋ねる。

オレも、それを聞きたかった。何かの病気を持ってるんだったら、これから注意してあげないといけないだろうし。

クラピカもレオリオも、オレと同じようにゼロを見た。


だけどゼロは、「あ…、その…………」とひどく困った顔で目線を床に這わせる。

そしてそのままで沈黙が続いた。







「着いたわよ」

メンチの声。他のテスト生達がぞろぞろと降りていく。




ゼロは、


答えなかった。







「…そんな、隠さなきゃいけないようなことなのかよ!?それともオレ達が信用できないっていうのか?

……いいよ、行こうぜゴン。二次試験始まっちまうし」


「キルア…!」

「まぁ、しかたないな。私にも人に聞かれたくないことくらい一つ二つはあるしな。話しづらい事ならなおの事、無理に聞き出そうとは思わないよ、ゼロ」

「クラピカまで…」


「……立てるか?」

レオリオが一つため息をついてゼロに手を差し伸べた。


すると、ゼロは意を決したように顔を上げた。飛行船を降りようとするキルアにも聞こえるように大きな声で言う。


「ごめんなさい!倒れた理由は…今はちょっと話せません…けれどいつか時が来たら、真っ先に皆さんにお伝えしますから…!……かならず…」



キルアにもその言葉は届いたはずだ。

こっちは見なかったけど、片手を上げてひらひらさせてた。





ゼロはそれからレオリオの手を借りて立ち上がろうとしたんだけど、よろけていたからオレも手を貸してあげた。



「ゼロ、オレ、待ってるよ。ゼロが話してくれるまで。だから、いつかきっと聞かせてね!」

「はい。ありがとうゴンくん。……わがままですみません…」


「あ!ほら、また「ゴンくん」って言ってる!それから謝らなくてもいいって」

「あ、ごめんなさい…あっ……;」

「言ったさきから謝ってんじゃねーか」


オレとゼロとレオリオは笑った。


そして一番最後に飛行船を降りる。


















山の上での今度のテストは、メンチが先に実演して見せてくれた。

谷間にあるクモワシの卵を採ってくるんだって。



「あ――――、よかった」

「こういうのを待ってたんだよね」

わかりやすくてよかった!でも…



「ゼロは?いけそう?」

心配顔でゼロを見ると、ゼロはにっこりと笑顔を作ってくれた。


「ゴンは心配性だね。僕なら大丈夫ですよ?」

「ならよかった!」


「よっしゃ行くぜ!」


レオリオの声にならって、オレもキルアも、クラピカも、ゼロも。みんなためらい無く谷底へ飛び降りた。



谷間に丈夫な糸を張って巣を作るクモワシのその糸に掴まってから、オレはあたりを見回す。

ゼロもちゃんと糸に掴まってた。


でもこのままちゃんと卵を手に入れたとして…、こんな崖登れるのかな?けっこう高さあるけど…。


そう思って見ていたら、ゼロの手のひらから光の玉みたいなものが矢のように上空に向かって打ち出された。

まっすぐ、空気を裂くような音を立ててすごいスピードで上に向かって飛んでいき、それは見えなくなる。………な、なにあれ?


呆然とそれを見てたら、隣で「お先に」とゼロの声がした。

振り向いたときにはゼロの姿はもうなかった。







よくわからないままオレたちは崖を上っていく。



やっと上に着いた時、ゼロが手を伸ばしてオレを引き上げてくれた。


「おかえりゴン」

「ありがとうゼロ!…ゼロっていつもいきなりいなくなるよね」

「あははっ。そうかもね」





いきなりいなくなっては、オレ達の前を行ってる。


いつも先で待っててくれる、不思議な人。




いつか全部話してもらいたい。

もっと知りたい、ゼロのこと。




いつか…きっと。








つづく


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ジャズくんがイライラしてたのはヒソカの殺気のせいです…。
突然ゴン視点になってしまいましたがお分かりいただけたでしょうか…。

すもも

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ももももも。