double style ◆12:最終試験前面談



「ゴン〜。会いたかったですよ〜v」

「く、苦しいよゼロ…;」




飛行船の中で、ゴンの姿を見つけた僕は彼をかかえ上げて思い切り抱きしめた。

四次試験の終了の合図と共に集合地点でも会ったが、人目があるのでさすがにやれなかった。



「う〜、信じてはいましたが、合格おめでとう!ゴン!」

「ありがとうゼロ。ゼロも合格おめでとう」

お互いに、お互いの顔を見合わせて笑った。


「あ〜!!ゴン!てめ、なに羨ましい事してんだよ!!」

僕らを目ざとく見つけたキルアがそう叫ぶ。

「キルア!ゼロに四次試験突破おめでとうって言われただけだよ」

「…キルアも抱っこされたかったんですか?」

「ちっ…ちげーよ!!」


…図星ですか?


「第一ゴンはともかく、ゼロが合格できたのはオレのおかげだろ!?」

「そうなの?ゼロ?」



…口止めするの忘れてましたね…まぁ真実ですからいいんですけど…; なんか恥ずかしい…。


「はは…実はそうです」

「あはは、でもよかったね!」

「はい、もちろん!」


「だからいつまで抱っこしてんだって!!」

「「あはははは」」



なんか今日のキルア、面白いですね〜。

キルアの面白い顔に免じて、僕はゴンを降ろしてあげました。




「それにしても…まさかあの、ヒソカさんからプレートを奪うなんてね」


さすが、見込んだだけありますねこの子は。








――――ゴンは、自分のプレートとターゲットのプレートとを集め四次試験をクリアーした。





あの、ヒソカさんのプレートを奪って合格したんだ。






「うん…」

僕のその言葉を聞いてゴンは少し、うつむく。


…あれっ?変ですね。うれしくないのかな?もっと喜んでいいところだと思うんだけど。





「ゴン?」

キルアも、ゴンのその様子を変に思ったようだった。




「こんなところにいたのか」

クラピカがやってきた。

「クラピカー!クラピカも合格おめでとうございます!」

「ありがとうゼロ。ゼロもおめでとう。あとは最終試験だけだな」

「あぁそういやあと1個なんだな〜。やっぱ楽勝じゃん、ハンター試験」

「…キルア……;」


拍子抜けした〜と言い出すキルア。

この天才児めっ!!ちょっと小憎らしく見えましたよ…。




「うん。あと1個だね。がんばろうね…。オレ、ちょっとトイレ…」

そう言ってゴンは駆け出して行った。


「…変な奴。ま、いいや。んじゃオレも向こうで休むわ。またあとでなー」


ゴンの背中を、少し首をかしげつつ見たキルアだったけど……。結局ゴンとは反対方向―――喫茶コーナーの方へと歩いて行ってしまった。


キルアに手を振り、見送って。その場には僕とクラピカだけが残される。




「ゴンくん…。何かあったんですかね…」

「…うむ。私もそう感じた」

僕がつぶやいた言葉にクラピカも同意してくれる。


やっぱり、変…ですよね。


いつも元気なゴンの元気がなかった。

ヒソカさんのプレートを奪うなんてすごい事をしでかしたっていうのに、あまり嬉しそうでもなかったし…。



―――――嬉しくないはずはないのに…。




何かあったとしか思えなかった。









「追いかけた方がいいですよね」

「そうだな。そうしよう」

クラピカとともに歩き出した瞬間、飛行船内にアナウンスが響いた。


『これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までおこし下さい。

受験番号1番の方。1番の方おこし下さい』




「えっ…、面談…?しかも僕からだ」

「そのようだな。…仕方ない。ゴンのことはとりあえず任せておけ、ゼロは早く行って来るといい」

「はい、わかりました。……ゴンのこと、頼みます。クラピカ」

「ああ。あとで質問内容なんかを訊かせてくれ」

「はい。ではちょっと行って来ますね」






















案内板を頼りに小走りで2階の応接室まで行き、ノックをして扉を開ける。

和室っぽいつくりの部屋の中では、すでにネテロ会長が座して待っていた。


「こんにちは、ネテロ会長。…面談ってなんですか?」

「おうおう、早かったなゼロ。まぁとりあえず座りなさい」

促されたのでとりあえずネテロ会長の前のザブトンに正座した。



「おぬしなら残ると思っていたが、やはり残ったのじゃな、ゼロ」

ほっほっほ、と笑ってネテロ会長はヒゲをなでる。


「あの…;」

「ふむ。そう緊張せんでいいぞい。次の最終試験の参考にいくつか質問させてもらうだけじゃ」

「はぁ…」

「まぁ気楽に答えてくれりゃええ」

そう言って、ネテロ会長はお茶を勧めてきた。


………え…、なんかこれ逆に寛げません………;





「まず、ゼロはなぜハンターになりたいんじゃ?」

「…それはネテロ会長もご存知のはずですが…」

「おぬしの口から聞きたいんじゃ」


「そうですね……。ライセンスがあると便利だから、ですよ………建前は」



色々な言葉を含ませて僕はそう答えた。


…ネテロ会長もその意味を知っている。何度かうなずいていた。





「…ではおぬし以外の9人で一番注目している人物は誰じゃ?」

「ん………」

困ったな。一番といわれても…。



「複数でもいいぞい」

悩む僕を見かねてか、ネテロ会長が助け舟を出してくれる。

「…あ、はい、それなら……。99番と405番…ですね。今後の成長が楽しみな…面白い素材ですよ。ずっと見ていたいくらいです」


「ふむ。…では9人の中で一番戦いたくないのは誰じゃ?」



「僕は本来、ここにいるべき人間ではないんですよね…。本当なら…ライセンスだって持ってるのに……。

………だから理由が無ければ誰とも戦いたくありません。だって僕はここにいるべき人間じゃないから…誰かの挑戦の邪魔はしたくない…。

…それにもしスイッチが入ったりしたら…、そんな相手をうっかり殺してしまいかねませんし…」

「そうか…」





僕は戦闘のスイッチが入ってしまうとときどき思考が飛ぶことがある。

ジャズと交代したわけじゃなく…それでも、僕とジャズは1人の人間。



…僕の中にも、"ジャズ"は存在する。







"敵"は、排除しようとするココロが。










「…でも」

僕がつづけた言葉にネテロ会長も反応する。僕の顔を見た。



「………僕の前に立ちふさがるなら…誰とでも戦います。…僕だってライセンスが欲しいから……」


まっすぐに、ネテロ会長を見つめた。



「矛盾していますか…?」

「いいや…。おぬしらしくていいのじゃないかの?ほっほ。」

「…はは…」


ぽりぽりと頭をかいた。




「…では最後に質問じゃ、ゼロ。……もしこれより理由なく、405番や99番と相対してしまったら?戦えるのか、おぬしは?」


「ん……意地悪な質問ですね…。でも…それはまた話が別ですよ。

…戦えます。相対するというならば……むしろ僕が彼らのために、彼らの前に立ちふさがりますから」




彼らはきっと強くなる。

いつかは、僕が届かないところまで、駆け上がっていくだろう。



僕は、それが見てみたいんだ。




ねぇ、いつかは…この僕を、超えてみせて―――――








「…おぬしのほうがよほど意地悪じゃ……」

「…そうですか?ネテロさんを真似てるだけですが」

きっぱり言うと、ネテロ会長はちょっと渋い顔をした。



「……見てみたいんですよ、僕。期待してるんです。…ネテロさんの"意地悪"もそういうもんでしょう?」

「ぬ…、バレておるのか…」

にっこりと笑って、僕は出されたお茶をすすった。





















「ふむ。わかった。面談は終わりじゃ。ごくろうじゃったな」

「はい、ありがとうございました」

ぺこりと座ったまま姿勢を正して一礼する。





「……ところでジャズはどうじゃ?」

部屋を出て行こうと扉に手をかけたとき、ネテロ会長に後ろからそう声を掛けられた。

「ジャズですか?今のところ大人しくしてますが…」

「うーむ、そういう意味じゃなくてじゃな…」




ネテロ会長が頬を掻きながらそう言った瞬間、僕の意識が――――途切れた。















がくっと、ゼロの体が揺れた。


そしてその反動で俯いた顔を、ゆっくりと上げた時。





「…………呼んだか?ジジィ…」




今まで目の前にいた男が―――全く同じだが―――明らかに別の男になる。




「……ジャズ…じゃな?」

ネテロは一応確認した。















さっきまでゼロがちょこんと可愛らしく正座をしていたザブトンに、今度はジャズがだらしなく足を投げ出して座った。

相変わらずなんちゅうふてぶてしい男なんじゃろか。


「……で?何の用だよ?ジジィ……。まさかオレにも面談する気か?」

「うむ。さすがは愛弟子。察しがいいのう」


「……めんどい」

「茶を出すぞ?」

「…いらねー」

「茶菓子も出すぞ?」

「…………」


…ふてくされよった。

茶菓子くらいで悩むのか、単純なヤツじゃな…。




「……………オレが出てもいいってんなら答えてやる」

「…それではゼロの試験にならんじゃろ。カステラをやるから答えてくれんか?」


「………チッ。」








ジャズはわしが持ってきたカステラをもっくもっくとほおばりながら、フォークでわしを指して言った。


「一番ヤリてぇのが44、301。99も捨てがたいが…まだガキだしな、今はイケそうにねぇな」

「…もっと他に言い方はないんかい」


なんとなく想像はついてたが………。あきれた奴じゃ。


「…何?もっと過激なほうがいいか?老いても盛んだな。エロジジィ」

「……………もういいわい」


おぬしに真面目に聞こうと思ったわしがバカだった…ということじゃ。




















「あ、おかえり!ゼロ」

「あ、はい、ただいま。ゴン、クラピカ」



応接室からの帰り、廊下でゴンとクラピカに会った。2人で僕のことを待っていてくれたらしい。


ゴンはというと、心なしか、僕が面接に向かう前よりも元気になったように見えた。

クラピカがうまく励ましてくれたみたいだ。やっぱりクラピカに頼んでよかったです。




「ゼロ、なんか面接だったんだって?」

「それで、一体何を聞かれたんだ?」

「うーん、そんなたいしたことじゃありませんでしたよ?次の最終試験の参考に、と、いくつか質問をされました」

「そうか…」





「…もしかしたら僕たち、戦うのかもしれませんが…」


僕の呟きは、ゴンとクラピカ、2人の耳に届いたのかどうか――――






つづく


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すもも

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ももももも。