double style ◆17:ミケという生き物




さてと。

依頼人に報告も終わったし、あとは金の振り込み確認だけか…。



暇だな。





ホテルで一晩過ごしたオレは昼近くに目覚めた。

クモも追っかけてこなかったおかげでゆっくり寝られた。



前にウボォーギンに昨夜と同じような挑発を残して帰ったら、ホテルにまで押しかけてきやがったことがあってな。


そのときはしかたねぇからたっぷり遊んでやったが。

なんかずっとニヤニヤしてたんだよな〜あんにゃろう。熊みてーな顔でニヤニヤ笑ってもキモイだけだっつーの。

あいつそんなにオレとヤリたかったのか?


結局眠気に耐えられなくてオレは途中で寝たがな。

オレの念の「擬態」を奴に見せてやったのもそのときだ。




あ〜くそ。

暇だ〜。



暇暇暇。





ゼロの野郎を起こすのもなー。めんどくせー。


…アイツが起きているときはオレの意識もあるが、オレが起きているときはアイツはオレの中で完全な眠りにつく。

だからアイツはオレがかかわった裏世界のことは、オレが教えてやらなきゃ知ることは無い。



オレがクモに誘われてることも。

ゾルディックと仕事でニアミスしたことも。


アイツは何にも知らない。







…………まてよ、ゾルディックか…。


そういや前にあそこのオヤジに獲物取られたんだよなぁ…。



……………………………思い出したら腹立ってきた……。




ここはパドキア共和国。


…ククルーマウンテン…か。




近ぇな。行くか。
















ゾルディック家に向かうっつー専用の観光バスに揺られて移動する。暗殺一家に観光バスってオイ…。


最後尾窓際の席で、観光ガイドの話を聞き流しながらオレはボーっと窓の外を眺めていた。

乗り物に乗るとオレ、どうしても眠くなるんだよな…。

はぁ〜〜〜…。





……って、あ! やべ、寝てた。




前を見ればバスもいつのまにか止まってて、バスん中にはもう誰もいなくなってた。くそ…。

のこのこと1人遅れてバスを降りる。



…で、ガイドの話によると、どうやらこの目の前のでかい塀の先からはゾルディック家の私有地らしい。


金持ってんな。オレも金なら持ってるけどよ。用途がねぇからどんどん溜まってく。

しかもへなちょこ野郎も天空闘技場なんかで稼ぎ始めやがったから、なんかもうわけわかんねぇ額が銀行に預けられてる。

どうにかできねぇもんかな。…別にどーでもいいけど。



とりあえずガイドと運転手に断りをいれてオレは1人、門の前に残った。


中に入るには守衛室横のドアを使うらしいんだが…守衛いるじゃねーか…。

守衛の目の前でドア蹴破るわけにもなー。やっぱ無理だよなー。



…ふぅ。しょうがねぇ。跳ぶか。


オレはその場でちょっと屈伸運動をしはじめた。



跳ぶ瞬間にオーラを足に集中して高く、跳ぶ。

この塀もかなり高けーが…オレのオーラでならギリでイケそうだ。…やるか。












先ほど定期バスでやってきた黒い服の男が門の前で不審な行動をとっている。

守衛室でちょうど当番だったシークアントは気になった。



―――あの男、何するつもりだ?屈伸運動なんかやってやるが…。


そう思って、 声をかけようと守衛室から出た。

「オ、オイあんた。さっきから何やって…まさか…!」



オレが声をかけた瞬間、男はニヤリと口角を上げ――――



「うらぁああっ!!」

バンッ!!



「うげっ!?マジか!?」


キッと上を見上げたと思ったら、そのまま男は思いっきり跳び上がりやがった!!

あ、ありえねぇー!!門を跳び越えようってのかよ!?あんな突飛な行動に出る野郎は初めてだ!!



―――って、あっ!!!やべぇ!もしもあのまま門を超えられたとしたらアイツ、向こうでミケに食い殺されちまう!!


「オイあんた!!待ちなって!!」











守衛がなんか叫んでやがる。へっ。捕まえられるもんなら捕まえてみな。オレはクモからですら逃げられる男だぜ?(ヘンな自信)



塀の頂上付近まで来た。

が…おっと、ちょっと高さが足りねぇか。

オレは塀の上に手をかけ、その装飾を足場に体を塀の中へと放り込んだ。





………………高けぇ…………やっべ、降りる時のこと全然考えてなかった。



落下しながらそんなことを考えた。…考えてもしょうがねぇか。

くるっと空中で体勢を立て直し、おもいっきり着地した。



ズドンッ!!!



「くっ、ぉ…いでぇぇ〜〜〜……」

足がしびれるどころじゃねー。マジ痛ぇ。オーラで保護したとはいえ痛いもんは痛い。

くっそ。常識はずれなモン作りやがって、シルバの野郎。





ガサガサ…



「ぁあ?」

…ぬお!?なんだありゃ。いつの間にお前、そんなに毛深くなったんだ、シルバ!?



ガサガサと音を立てて森の中なら出てきたのは、やたらと筋肉が発達した犬のような熊のような狐のような…よくわからん生き物。

オレの「念のバケモン」とはまた別の意味で形容しがたい。




「しゅーっ」



あっ、やべ……コイツ、目が怖ぇえ。


そう思った瞬間、案の定その生き物はオレのほうに突っ込んできた。


スピードが尋常じゃねぇ。人間じゃねーから当たり前だが。

オレの方へ走りながら、そのぶっとい腕をオレの頭のはるか上空から振り下ろす。



ドゴォオン!!

「うひぃっ!!」


オレは間一髪避けたが、オレがさっきまでいた場所はその生き物の爪によって大きく抉られていた。



……冗談じゃねぇ。ウボォーギンのビッグバンなんとかも真っ青だ。


この生き物は、野生の生き物とは明らかに違う。

こいつは、オレが死ぬまでその動きを止める事はないだろう。そういうモノの目だ。



そいつはまたオレに向かって突進を始める。


「ちっ、しょうがねぇな…」


オレはオーラを集中させる。





"闇食い(リバイアサン)"




オレの、「念のバケモン」。

どんなものも食い、どんなものも消化する。


オレの……念の兵器だ。


突っ込んでくるその生き物に向かって、オレは「バケモン」を開放した。



「ギャァフ!!」

オレはその生き物の正面から"リバイアサン"を出したので、その生き物はちょうど"リバイアサン"の口に突っ込む形になった。


……イノシシか?



"リバイアサン"はその生き物の頭から食いついたまま離れない。その生き物も必死の抵抗を見せる。

おお、すっげぇ綱引きだ。がんばれリバイアサン!





「…お兄さん。ウチのミケ、食べないでくれる?」



バケモンvsバケモンの激突が面白くてパチパチと手を叩きながらそれに見入っていたら、ふと背後から声がかかった。

振り向くとそこには変わった服装のガキ。


「…よう、お嬢ちゃん。この家のコかい?」

「…僕は男だよ」

「………マジで?」

「うん。…ウチのミケ、離して」



ガキの育て方間違ってねぇか?この家。

まぁ暗殺一家に育て方うんぬんとか言ってもしょうがねぇけど。



「お前ん家のペットか?アレ。………でも離したら襲ってくるだろ?」

「…………ミケ、おやめ」


ガキがそう言うとミケ、というらしいあの生き物の動きが止まった。

…つーかミケって普通、猫の名前じゃねぇ?


オレも"リバイアサン"を消した。



「ミケ、いいよ。…行きな」

それを聞いたミケはくるりと方向を変えて森の奥に消えた。


「…あのね、お兄さん。ウチに入りたかったらちゃんと門から入ってきてくれる?そうしないヒトは襲うようにミケは躾けてあるから」

「そうなんか。悪かったな。…見てたのか?」

「うん。アレを飛び越えるなんてお兄さん、すごいな。僕ちょっと感心したよ」

「ちょっとかよ」



「おおい、アンタ!!……あ、カ、カルト様!この男が今っ…」


ちっ、守衛だ。すっげえ分厚いドアを開けてオレ達のところに来た。

…っつーか門って守衛室横じゃなかったっけ?


「うん、見てたから知ってる」

「あんた、ここに入るにはあの門から入らないとミケっていう生き物に…」


アレ、門なんかい。変な塀かと思ってたぞ。




「それも言った。このヒト、ミケを食べたんだ」

「ミケを食った!!?」

「食ってねーじゃん」

「食べかけたじゃないか」

「ミ、ミケを食……!?く、食った?ミ、ミケ………!?ぇえ!?」

守衛がパニクってる。まぁ気持ちはわからんでもない。




「お兄さん。門、開けて」

「めんどくせぇ」

「………ミ」

「だぁあっ!!わかった、やめ!呼ぶなっつーの!!」


ミケがさっき消えてった森の方を向いて叫ぼうとするガキの口を押さえ、ムリヤリにそれを止めた。

そして守衛がもう一度開けた門から、オレ達3人はぞろぞろと門の外に出る。



「ん……」

んで、門の外から中に向かって、ちょっと扉を押してみる。



重。



「はぁ……」

ため息が出るぜ。

オレのそもそもの系統が、強化から遠い具現化なんだからよ。

リバイアサンの能力は高いっつっても、オレ自身の出力はそれほど高くねーんだよ…。……めんどくせぇなぁ…。

ちらりとガキに目をやると、奴もオレの目をじっと見てくるし。…早くやれってか。…ったく。




「しょうがねぇ……ふっ!!」

思いっきり押した。



ギィォオオン…



……ああああ重い!重っ!重ーっ!!!

開いたはいいが、なんだこれありえねーっ!!腰が折れるって!!!




「お兄さん、やっぱりすごいよ。キルアお兄様と同じ3の扉まで開けるとはね」

「あぁっ!?」


オレ、余裕ねぇ。


オレとガキは中へ。守衛はやっぱ守衛だから、そこで別れた。




「はっ…はっ…。…ふっ…ざけんな…!重すぎだバカタレー!!」

「うん。3の扉は16トンだから」

「アホか―――っ!!!」


思いっきり怒るオレに、ガキはにっこり笑ってちょこんと礼をした。



「ゾルディック家へようこそ、お兄さん。僕、カルト。お兄さんは?」

「……ジャズ」







つづく


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