※過去番外編です
「…オレが欲しいんだったらオレを探してみろよ。…そのときはたっぷり……相手してやるよ……。あばよ」
始末屋ジャズ。
モノでもヒトでも、何でも『始末』するって文句で動いてる奴。
性格は一言で言うと変だ。頭のネジがどっか吹っ飛んでる。
どこまでが本気かわからねぇが、手馴れた女みてぇに男に誘いをかける…変な男。
わがままでめんどくさがり。そんでもって、ガキみてぇに意地っ張り。
一度として奴の本気を見たことねぇが…アイツはきっと強ぇえ。
「シャル、どうだ?」
パソコンに向かうシャルナークに、オレはその後ろから覗き込みながら聞いた。
「…うん。それっぽいのは見つけた。…それにしても大胆だね。「ジャズ=シュナイダー」でホテル取ってるよ。コレ、たぶん本名だろ?」
「さぁ?知らん。」
奴の次の仕事場とホテルの場所を押さえた。ここんとこずっと、仕事場は押さえても遊ぶどころか逃げられっぱなしだったからな。
今日はホテルも調べあげた。…何ではじめからこうしなかったんだろう。
ふっふっふ。今日は逃がさねぇぜぇ〜。待ってろジャズ。
「でもウボォーがこんなに執着する奴も初めてじゃない?…そんなに面白いの?「始末屋ジャズ」って。オレも見に行くかな?」
「ダメだ。2人でなんか行ったらアイツはぜってぇ逃げる。もうずっとオアズケ食らってるから今日こそは遊びてぇんだよ」
「ふーん。じゃあしょうがないな。…今度いつか見せてくれよ」
「おお。…コレ、サンキュ。恩に着るぜ」
「そう思うなら金をくれって」
「オレは金は持たねー主義だ」
「ははっ。いってらっしゃーい」
奴を見つけたのはシャルの情報どおり町外れの教会。その墓地でだ。
奴の足元の墓が壊されてるとこをみると…今日の仕事は死体処理ってトコか?まぁそんなことオレにはカンケーねぇが…。
「ジャズ、見つけたぜ…」
「ぁあ?……またてめぇか、ウボォーギン……」
月と、森のシャドウを背にジャズはゆっくりと振り向いた。首の銀の十字架が光る。
場所が墓場なのに、それが逆に1枚の絵のように妙にハマっていた。
「遊ぼうぜ」
「……墓場でヤるシュミはねぇよ…雰囲気のねぇ野郎だな……。それにオレぁ今、一仕事終えて疲れてるんだ……またにしな…」
「いやだね。オレにはカンケーねぇ」
「ハッ…マグロ相手にヤル気満々かよ。……変態野郎が…」
ゆらゆらとジャズはこちらに向き直りはしたが…あの目は逃げる気満々だな。ま、いいぜ。乗ってやる。
「おぉらっ!!」
オレはジャズに向かって拳を繰り出す。
すると案の定奴はオレのほうに向かって跳んだ。そのままオレの頭上を飛び越える。
その拍子に今日奴が着ていた、黒のロングコートがひらひらとオレの視界を遮った。
「チッ…」
振り返るとジャズはオレから離れた一つの墓標の上に乗っていた。
「おい、また逃げんのかジャズ」
「……体力バカが…疲れてるっつってんだろ。…テメーに最後まで付き合ってたらオレの体がもたねぇんだよ……。
また今度、仕事じゃねぇときに来な。そうすりゃ…一晩たっぷりと遊んでやってもいいぜ……。ストリートの真ん中でも、…ベッドの上でもな…。じゃあな」
そういってオレとは反対方向…墓場の出口にむかってジャズは逃げた。
いつもこうやって挑発残してくクセに、いざ行くと逃げやがる。調子のいい猫だ。
だが…「仕事じゃねぇとき」だとよ。…その言葉、後悔すんなよジャズ。
ガッシャアァアン!!
しばらく後で、奴のホテルに向かった。そろそろ油断してる頃だろ。
奴の泊まるホテル、奴の泊まる部屋、その窓を割った。部屋に風が入り込み、カーテンを揺らす。
「…………」
「よう、ジャズ。仕事じゃねぇときに来てやったぜ」
わざとらしくそう言ってやった。
明かりのついてない部屋の中。ジャズは上半身裸。黒いズボンだけ穿いてベッドに寝転んでいた。
奴はオレを見て目を見開いていたが、そのうち体を起こす。
「……テメ…誰が修理代出すと思ってんだよ…」
「お前だろ」
「…あっさり言うなっつの」
お、珍しく呆れ顔だなジャズ。
ジャズはベッドから降りる気配すらない。だがオレは奴が逃げないよう奴の動きに注意を払いながら、そばに近寄る。
奴はじっとそのオレを見ていた。
…逃げるどころか動こうともしねぇ。諦めたか?
オレがベッドの横に来ても、ジャズはベッドの上で足を投げ出したまま動かない。
クッと奴のあごを持ち上げた。
「遊ぼうぜ?」
それを聞いてジャズはゆっくりと動き始める。
オレの首に手を回し、それからひどく甘ったるい声でささやく。
「…………場所……変えてくれんだろ…?」
髪がしっとりとぬれている。風呂上りだったのか?
「…どこがいい?」
「声……出しても聞かれないようなトコ……」
「…まかせろ」
オレに体を預けるように抱きついてるジャズの細い腰に手を回す。
…こいつ普段何食ってんだ?ちょっと力入れたら折れちまいそうだぜ?……ま、そんなもったいねぇことはしねぇが。
ジャズを抱えたまま入ってきた窓から出ようとしたら、ジャズが部屋の中を指して言った。
「……あぁ、そこの服も持ってってくれよ。さすがに今時間、外でヤルのに裸はきついからな…。……チョーカーとな」
オレは床に投げてあった服とベッドの脇に置いてあったチョーカーも持って、走り出した。
「…お前いつもそれ、してるな」
「……似合うだろ?」
今ジャズの手の中にある、銀の十字架のついた黒いチョーカー。
ジャズはいつも、それをつけた首元を見せ付けるように襟元の開いた服を好んで着る。
「飼い猫みたいだぜ?」
「飼い猫かよ。………誰のだ?」
「さぁな。悪魔のか?」
「ハッ…そりゃすげぇ」
そう言ってジャズはガキみたいに笑う。笑った後で、一つあくびをした。
「ねみぃのか?」
「…ん〜…。お前が…ゆれて……キモチ…い………」
どこまでも紛らわしい奴だな。…なんだ乗り物に弱いのか?
今にも眠っちまいそうなジャズを抱えたまま、オレは闇の中を駆けた。
街から遠く離れた丘の上まで来た。
とりあえずジャズは持ってきた黒い長袖のシャツを着て、その首にチョーカーをはめた。
「逃げねえと約束しろ、ジャズ」
「…逃げんならとっくに逃げてるっつーの」
「…本気出せよ?」
「やだね」
オレとジャズの間に、風が舞う。
「しゃあっ!!」
オレはジャズに殴りかかった。
そのままラッシュをかけて奴に拳の雨を降らせるが、奴は簡単に…ことごとくオレの拳をかわしていく。
ちっ…、まるで木の葉か何かを相手にしてるようだぜ。
「ハッ!!単調に突くだけしか脳がねぇのか?ウボォーギン。オレとヤリてぇって言ったのはお前だぜ!?もっとオレをヨくしてくれよ…退屈だぜ!!」
「っ…言ってくれるな!だったら一発でかいのいくぜ!!腰抜かすなよ!!?
超破壊拳(ビックバンインパクト)!!!」
拳にオーラをこめてぶん殴るだけの技だが、オレの必殺技だ。破壊力には自分でもかなり自信がある。
地面が消し飛ぶ。奴は…よけやがった。
「…ッは……スゲ………すげぇよお前……。ゾクゾクするぜ。こんなモンぶち込まれたらいくらオレでも壊れちまうな」
「ああ、跡形も無くな」
どう考えてもジャズは強化系じゃないだろ。そういうタイプじゃねえ。
オレの拳を生身で受けきれるのは強化系だけだ。ジャズならおそらく当たれば死ぬ。
ジャズは…気まぐれな猫。ヒソカと同じ感じだ。…変化系か?
「ハ……イイぜ、ウボォーギン。ちょっとヤル気出てきた…」
「そうか?……っふ!」
オレはまたジャズに拳を向けた。
「避けてばっかじゃどうしようもねぇだろがジャズ!!」
「…バーカ!!食らったらイッちまうじゃねーか!ハハッ♪」
っつーか全部避けやがるお前もどうよ!?
「っの!!ちょこまかと!!」
バキィッ!!
オレの拳を受けてジャズが吹っ飛んだ。
今のは…ワザと当たったっぽい。しかもこの手ごたえは…
「油断してんなよ」
オレのすぐうしろからジャズの声がした。
ガツッ!!
背後から攻撃をもらう。
それなりに痛いが……クモ一の鋼の肉体を誇る、オレの防御力をなめんなよジャズ!!
「痛って…、この野郎…」
「ふん、テメーの攻撃でテメーの拳がイカれてちゃ意味ねーぞ、ジャズ」
背後にはジャズ。オレの正面…吹っ飛んだのも、ジャズ。さっきの殴った感じだと、正面のほうがニセモンだな。
「…具現化系かお前。"分身(ダブル)"ってやつだな…?」
「聞かれて答えるかよバーカ…ったく、攻撃がきかねーんじゃオレ、どうしようもねーだろうが…。この強化バカ」
「なんとでも」
実にいい気分だ。
ジャズが初めて念を見せた。…オレだけに。
…ふっ。ノブナガ、オレの勝ちだ。(←賭けをしていたらしい)
「ニヤつくな。キモイ」
「おう、悪かったな」
「それから…」
「あ?」
「後ろ見てみろ」
ゴッ!!
「…っ!!」
背中に痛み。
いきなりもう1人のほうのジャズが襲ってきやがった。
気配断ちできんのかよこのダブルは!!攻撃力もハンパなく高けぇ!!…こっちがホンモノか!?
奴の重い拳をガードしながら考える。
………ちがうな。コレはダブルのほうだ。姿形はジャズだが…表情がまるで違う。なんつー凶悪なツラしてやがる!
いつでも余裕こいた感じの綺麗な表情のジャズ。ダブルのほうは…なんつーか…気味の悪い薄笑いを終始浮かべている。
……ジャズの顔でその表情はヤメロ。不愉快だ。
「……あ〜?…さっきまでの勢いはどうしたァ?ウボォーギン。…もう萎えたのかよ?早すぎだぜ?」
あー…、そうだな。なんか声がやる気の無い感じになってきたが…こんな台詞を平気で吐く、後ろのほうがホンモノだ。
…となるとこのダブルの顔がマジで憎らしくなってくるぞ。ジャズ……コレはわざとなのか?
「…オラァ!!」
ダブルのほうを怒りに任せて殴り倒し、後ろのジャズに襲い掛かる。
っつーかお前、本当にめんどくさがりなんだな。ダブルに任せきりとか普通ありえねぇぞ?
「…ん〜……やべ、そろそろイク……」
「あ?」
オレの拳が当たる瞬間、奴は膝から崩れた。
オイオイ。まだ当たってねーぞ?
「ジャズッ!!」
ジャズは倒れたまま動かねぇ。ダブルも掻き消えていた。奴の体を抱き起こす。
「オイ!ジャズ!!なんだ!?」
「ん〜……」
……寝るなよ。
この……っ!!いくら遊びでやりあってたとはいえ、戦闘中に……!ありえねぇだろうが!
…ほんっとにフリーダムな野郎だな!!
このままクモに連れてってもいいが…そりゃ反則か。
……………………ホテル連れてくか…。
気持ちよさそうに眠るジャズの体を抱き上げ、ホテルに向かった。
ジャズの泊まっている部屋。はじめに来た時に割ったガラス窓から入った。室内に散らばる破片がじゃりじゃりと音を立てる。
「…ん…」
その音を聞いてか、かすかに声を上げるジャズをベッドに寝かせる。
窓は割れたまんまだが…オレには直せねぇ。ガマンしろや。
ジャズのさらさらの髪をなでた。
「おやすみジャズ。…またな」
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