「オイ、今日はとんでもないモンをみたぞ」
交代時間が来たので、シークアントは使用人たちの住む家に戻った。
戻るなり、ゼブロとキルアの友達、という3人にそう言った。
「どうかしたのですか?」
クラピカが尋ねた。
「どうしたもこうしたも、正面の門!!アレを飛び越えた野郎がいるんだよ!」
「飛び越えたぁ!?どうやって?縄かなんかで?」
レオリオが驚いて声を上げる。ゴンもクラピカも、驚いている。
「違う違う!こう…ドンッて、ジャンプで!!」
「「「「……………」」」」
シークアント以外の4人が口を開けているが…シークアントも気持ちはわかる。
「…ジャンプでって、アレを?」
「そう、アレを」
「でもそんなことをしてもミケに殺されるだけじゃぁないのかい?」
「いやいやいや、それがよ、食ったらしいんだよ!」
「そうだろう?」
「違う違う!ゼブロ!逆だよ!!そいつが食ったらしいんだよ!!
ミケを!!!」
「「「「ハァ!?」」」」
森の中を山に向かっているとガキが話しかけてきた。
「ジャズは何しにウチに来たの?」
「呼び捨てかよ。ま、いいけどよ。…別に。暇だから?」
「…なんで疑問系?用事が無いのに門を飛び越えてまで入って来たの?」
「目の前の壁は飛び越えてこそ男だぜ。覚えとけ、カルト」
「よくわかんない」
そんな話をしていたら遠くから声が聞こえた。
「…カルトちゃん、どこにいるの?返事して!」
「お母様、ここにいます」
がさがさ…
……と、木の葉を揺らして森の中から出てきたのは、この場所には似つかわしくない―――ドレスの女。
「カルトちゃん、急にいなくならないで頂戴。心配したわ」
「ごめんなさい、お母様」
その女はカルトの横にいたオレを当然ながら見つけた。
「………ジャズ。貴方もいらしてたの」
「…よう、キキョウ」
キキョウとカルトによって家まで案内された。そのまま客間?のような場所に連れて行かれる。
キキョウはお茶と菓子を持ってきた。
カルトはオレの隣に座っている。
「…ところでキキョウ。その顔はどうしたんだ?」
顔に包帯をぐるぐる巻きにしたキキョウに、オレは疑問をぶつけた。
「息子に刺されたのよ」
「…ふーん。残念だな」
「残念じゃないわ。キルがゾルディック家にとってすばらしい育ち方をしている証拠ですもの」
「あ…そう……」
胸の前で手を組み、うっとりと酔うように言ったキキョウ。
あぁ…、そういや、こういう女だったな…。つかキルって誰よ?
「じゃなくてよ。オレが言ってるのは……せっかく会いに来たのにお前のキレーな顔が見られなくて残念だってことだ」
「まぁ。うれしいわ。…ところで飲まないの?ジャズ?」
「いらねーよ。オレを毒殺する気かって」
「…綺麗な薔薇には棘があるって言うでしょう?」
「マジなのかよ!!」
冗談のつもりで言ったのに、この女だきゃあ油断なんねーな!!
「ねぇジャズ、お母様と知り合いなわけ?」
「仕事上ちょっとな」
「何の仕事?」
「…ハンター」
「始末屋じゃろ」
……ジジィ。気配を断って近づくな。
いきなり背後から聞こえた声に、内心突っ込みを入れつつ振り向くと、予想通りゼノのジジィがいた。
「何の用なんじゃ、ジャズ。まさかとは思うが…仕事か?」
「…なわけねーだろ。テメーら"始末"するような依頼なんかこっちから願い下げだっつーの。命がいくらあっても足りゃしねー」
だいたい、マジで仕事だったとしてもどっか遠くに1人ずつおびき出してから殺ってやるっての。
なんでこっちからわざわざ暗殺者共の巣に飛び込まなきゃなんねーんだ。自殺志願者じゃあるまいし。
「お義父様。ジャズは遊びに来たんですのよ」
「遊びにのー………そんなタマかい」
「…喧嘩売ってんのか、ジジー」
「お?やるのか?一度はお前と本気でやり合ってみたかったところじゃ」
「うっ………それはやめとく」
「…根性なしはあいかわらずだのォ」
うるせー。戦略的撤退だ。
「皆集まって何してるわけ?…………ゼロ?」
ゼノが正面のソファについたところで、黒髪を流した長身の男が部屋に入ってきた。
…にしても、なんでこう集まってくんだ?
そんなに客人が珍しいのかこの家は。
だいいちオレは…
「ゼロじゃねー」
「………始末屋ジャズ?」
…あぁ、思い出した。ハンター試験にいたな、こいつ。なんてったっけ。えー…と、ギ、ギ、ギラ…忘れた。
眉間にしわ寄せて考えてたらその後ろから、また1人来た。
あいつは…。
「そうだ。一体何をしにきたんだ?始末屋ジャズ…」
「シルバ!!テメー、いつかはよくもオレの仕事邪魔してくれたな!!」
「お前が俺の仕事の邪魔をしていたんだろうジャズ」
「テメーがオレのターゲットぶっ殺してくれたおかげで、オレんとこの仕事、報酬が全部パーだぞ!!あれだけ苦労したのに!オレの苦労を返せ!!」
「ジャズ。人の話を聞け。」
「だいたいな、依頼人もケチりすぎなんだよ!!オレが"始末"出来なかったからって、報酬はださねーとか言い出しやがって、ふっざけんな!!」
「落ち着け」
「落ち着きなよ」
「落ち着きなさい」
「落ち着かんかい」
「ふーっ、ふーっ、あ―――…思い出したらムカついてきた!!!」
「よくそんな感情むき出しで始末屋とかやってられるよね、ジャズ」
「黙れ!!ロンゲ!!」
オレは出来ねー仕事は最初から受けねー!仕事やるからには完遂がモットーだこの野郎!!
「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着きなさいな」
「オレを殺す気か!キキョウ!!」
ゼブロが交代で、守衛室に出かけた。ゴン、クラピカ、レオリオはそのあともシークアントから話を聞いていた。
「それでそいつは?」
ミケを食ったらしいことを聞いた。どうやらシークアントも直接、その男がミケを食べたところを見たわけじゃないらしかった。
「オレが門を開けて入ったとき、カルト様…ゾルディックの人間がそいつと居て…門を開けて入りなおすことになったんだ。
それでその野郎は3の扉まで開けやがった」
3の扉……16トン。
「一体何者だ?」
「わかんねーよ。長いことここにいるが初めて見る奴だったぞ」
「ミケを食ってその上怪力か。…どんな化物ヤロウだ」
「レオリオ…;」
シークアントの話を聞いて『んー』と考え出すレオリオを尻目に、ゴンはただ1人、目を輝かせていた。
「すごい人がいるんだね!オレ、その人に会ってみたいよ!」
「落ち着いたか?ジャズ」
「…………」
オレはソファの上に膝を抱えてうずくまっていた。オレの正面のソファに座るシルバがそのオレに尋ねる。
「まったく、ガキじゃな」
「始末屋ジャズがこんなに子供っぽいとは思ってなかった」
とはイルミの言葉。
「そうね。キルがもう1人いるみたいだわ。ジャズ、ウチのコにならない?」
「やだ」
「貴方の技術があればあとは気構え次第で立派な暗殺者になれるわよ」
「いやだっつーのに」
「ジャズがお兄様になるの?」
「なんねーよ」
「そうだな。強さは十分だしな」
「おぉい、聞けよ人の話を」
「念能力も殺しに向いてるしのォ」
「つっこむの疲れてきたな」
「お祖父様はジャズの念を見たことが?」
「……………」
「で?結局ジャズは何しにきたんじゃ?」
「いきなり話を戻すなジジィ」
はぁ……疲れるなこいつら。
クモに誘われた昨日の今日で今度はゾルディックかよ。
どうもロクでもねー集団にばっか縁があるな。…厄年か?
「………あ」
オレはあきれて、天井を眺めていた。と、ふいにゼロの顔を思い出す。
「そういや、ガキの3人組が来なかったか?」
「…来てるわね、庭内に」
「そうか…」
「何でそれ知ってるの?ジャズ」
キキョウと話してたら、イルミ、と名乗った奴が横からオレに聞いてきた。
…なんだ?サグリ入れてるのか?
「…バカ兄に聞いた」
「あら、貴方に兄なんかいたの?」
今度はキキョウが、オレの言葉に反応する。
「ああ、双子のな。そのうちここにも来るだろ。…そいつら、バカ兄のダチだから、殺さないでくれるか?」
…ふっ。オレもお人好しだな。
「ふぅん。お兄さんねぇ…」
反応するとこちげーだろ、キキョウ。
「変なもてなしすんなよ。オレとは違って凡人だからよ」
「そうかな?」
「…お人好しだから、茶なんか出された日には残さず飲んじまうぞ。…いいのかイルミ?」
「そういえばそんな感じだね」
オレはソファから降りた。
「さて、そろそろ帰るわ」
「え。泊まっていかないの?ジャズ」
カルトが聞いてくる。
…なんだその期待の目は。
「やだ。帰る」
「そんなこと言わないで泊まっていきなよ」
なんでイルミまで同意する?
「もうお外、真っ暗よ?」
暗殺者が何言ってやがる?
「大体今度はオレを餓死させる気か、キキョウ!ここんちの飯でオレが安心して食えるようなもんなんか一カケラもねーだろ!」
「いやぁねぇ。毒耐性つけてあげようっていう親切心なのに」
「お前にそんなものあったのか、キキョウ。っつーかいらんお世話だ!…オレは帰る。じゃあな」
「またいつでもいらっしゃいな!」
「もうこねーよ!!」
疲れる家だな………。
家から出たが…門まで遠いな…。今日中にホテル帰れんのか、オレ。
「ジャズ」
「…ぁあ?……なんだイルミ。まだ何か用か?」
「送ってくよ」
「挙句の果てには送り狼かよ!!」
つづく
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そろそろ原作に戻ります。
すもも