double style ◆20:コイン・ゲーム




道なりに山を目指していると、その道の先に少女が立っていた。

「出て行きなさい」

それが彼女の最初の言葉だった。




私達は執事室から入庭を許可されていない、つまりは『不法侵入者』で。

彼女は我々侵入者を排除するためにそこに立っていたのだ。


ゴンが私たちを抑え、1人彼女の前に進む。

彼女の立ち位置を越そうとした瞬間、ゴッという鈍い音と共にゴンの体が中へと浮いた。


「「ゴン!」」

「ゴンくん!」

「……だ、いじょうぶ。まかせて…」



そう言ってゴンは再び―――何度も、何度も。

何度彼女に殴られても、ゴンは前に進んだ。


キルアに会いたい。その一心で。




「もう…やめてよ」

何度目かの『排除』のあと、彼女が言う。


それでもゴンは構わずに前へと進んだ。



――――レオリオも、ゼロも、私も。

皆、気持ちは同じ。


こんなところで止まれはしない。

誰も、ゴンの意志を止める者はいない。



「…なんでかな…、友達に会いに来ただけなのに…キルアに会いたいだけなのに…。

何でこんなことしなきゃいけないんだ!!」


ゴンがまた一歩、前に進む。




「ねぇ」

「えっ!?」


「もう足…入ってるよ。殴らないの?」




そう問われ、少女は構える。


ぐっと杖を握り締め少女は構えたが………動かなかった。


そしてぽろりと一滴の涙を落として、少女は言ったのだ。




「お願い…、キルア様を助けてあげて」







パシッ!!


「!!」

彼女のその言葉をさえぎるように音が飛び、血が落ちて。

少女がゆっくりとその場に倒れた。




「全く…」

そう、声がする。

そこに、ドレスに身を包んだ女性と黒服の少女が立っていた。



「使用人が何を言っているのかしら。まるで私達がキルをいじめてるみたいに…。ただのクソ見習いのくせして失礼な」


女性が言う。


きっと、彼女がキルアの…"母親"なんだろう。

彼女はゴンを見つめていた。


「貴方がゴンね。イルミから話は聞いています。3週間位前からあなた方が庭内に来ていることもキルに言ってありますよ。

……キルからのメッセージをそのまま伝えましょう。



『来てくれてありがとう。すげーうれしいよ。でも…今は会えない。ごめんな』」



女性が我々に伝えた言葉―――キルアの言葉……。




………おそらく本当なのだろうが…そのまま信じていいものか…。


ここまで来たというのに……会えないのか…キルア…。





「…貴方が…ジャズのお兄さんね……」

「え…?」

ふと彼女がゼロを見て、そう呟いた。それを聞いてゼロが少し困惑したように隣で声を上げていた。






―――今なんと言った?


「ジャズ」と聞こえたが…。




ハンター試験の後、電脳ページで調べた名。


『始末屋ジャズ』


あの名を思い出す。




ゼロの相棒。

金次第で、ヒトでもモノでも…なんでも『始末』する――――『始末屋』。



ゼロの…弟が……『ジャズ』だったのか……。








「ジャズを知っているんですか…?」

「ええ。何日か前にここに来ましたもの。…そう、貴方がジャズの兄。…フフ。本当にそっくりなのね。

……紹介が遅れましたね。私、キルアの母です。この子はカルト」

「………。」

キルアの母の言葉に、なぜかゼロは押し黙って俯いた。

………我々に、知られたくなかったのだろうか……。




「キルアに会えないのはなんでですか?」

静まった森に、ゴンの声が静かに響いた。



「…独房に居るからです」

キルアの母の口から出た言葉は、普通ならば聞くことのないような単語を含むものだった。


独房…。


「キルは私を刺し、兄を刺し、家を飛び出しました。しかし反省し自ら戻ってきました。今は自分の意志で独房に入っています。

ですからキルがいつそこから出てくるかは…」


そこまで言ってキルアの母は止まった。

…一体何だ?


「まぁ!!お義父様ったら!!何で邪魔するの!?だめよ!!まだつないでおかなくちゃ!!」


突然そう叫んだキルアの母親。


な、なんだ?何が起きた?



「…私急用ができました。ではこれで。また遊びにいらしてね」

そうして彼女と黒服の少女は森の中に消えた。

本当に一体なんだったんだろうか…。






「言っちゃ何だが薄気味悪い連中だな」

「でもゾルディックって暗殺一家ですし…」

「つったってよ、ゼロ。キルアが「自分から」ってのもうそくせぇぞ?…ゴン、このまま戻るのはしゃくだぜ。無理にでもついていかねーか?」

「レ、レオリオ〜…;」

困った顔でレオリオをなだめるゼロ。


ふふ、たしかに…ゼロの弟は裏の人間でも、ゼロはそうではなさそうだ。


「レオリオ…でもそうすると…きっと彼女が責任をとらされる気がするから…」

「あ…そうか…」

ゴンの言葉にレオリオも怒りを納めたようだ。

倒れた…執事の少女もその会話を黙って聞いていた。



「私が…執事室まで案内するわ」












「あそこよ」

森の中を歩き続けて…日が落ちた頃、少女…カナリアの指した森の先に館が見えた。そばまで行くと5人の執事が出迎えてくれた。

私達は中に通され、ゴンは中で執事達に、カナリアに殴られた傷の手当てをしてもらった。


そして私達は広間に案内される。大きな椅子に4人とも座った。私の隣にはゼロとゴン。ゴンを挟んでその向こうにレオリオが座る。



「先ほどは大変失礼いたしました。奥様から連絡があり、あなた方を正式な客人として迎えるよう申し付けられました。


ごゆっくりおくつろぎ下さい」

ゴトーと名乗った執事がそう言ってお茶を用意してくれた。


「ここが屋敷じゃないのか?」

私は椅子の後ろに立っているカナリアに聞いてみた。

「ここは執事用のすまいよ」


守衛の家に…執事の家か。スケールが違うな…。



「心遣いはうれしいがオレ達はキルアに会うためにここに来た。出来ればすぐにでも本邸に案内してもらいたいんだが…」

「その必要はございません」

レオリオの問いにゴトーが答える。やはりこれ以上通してはくれないのか…。



そう思っていると、ゴトーが続けた。

「キルア様がこちらに向かっておいでですから」

「本当!?」

「ええ、もうしばらくお待ち下さい」

私達は顔を見合わせた。レオリオも私もそうだが…ゴンとゼロが特に喜んでいた。




「さて…、ただ待つのは退屈で長く感じるもの。ゲームでもして時間をつぶしませんか?」

ゴトーがそう提案してきた。コインを取り出し、上へ投げる。



「コインはどちらの手に?」



ああ…そういうゲームか…。



「「「「左手」」」」

「御名答。では次はもっと早くいきますよ」

そういってふたたびゴトーはコインを投げる。


「さあ、どちら?」

「また左手」

ゴンが答えた。皆それにうなづく。



コインはゴトーの左手の中。


「すばらしい」

執事達が手を叩く。この程度ならば問題ないだろう。楽しめそうではあるが…。




「じゃ…次は少し本気を出します」

ゴトーは三度、コインを投げる。



そして…さっきとは桁違いの速さでコインを取る。…速い…!…だが、まだこれなら…



「さあ、どっち?」

「ん〜〜、自信薄だが…たぶん右…」

レオリオが答える。左だぞレオリオ…;



だがそれを聞いたゴトーの…館内の雰囲気が一変する。



「私は…キルア様を生まれたときから知っている。僭越ながら親にも似た感情を抱いている…。

正直なところ……キルア様を奪おうとしている、お前らが憎い。……さあ、どっちだ?答えろ」

「左手だ」


「……奥様は…消え入りそうな声だった。断腸の思いで送り出すのだろう…………許せねぇ……」

ゴトーが、うつむいた顔を上げる。…おそらく……本気…だな………。




他の執事もナイフを構えた。1人がカナリアの首にナイフを押し付ける。

「いいか、一度間違えばそいつはアウトだ。キルア様が来るまでに4人ともアウトになったら……キルア様には『4人は行った』と伝える。

……二度と会えないところにな…」





………『殺す』……ということか…。




「キルアは」

「黙れ」

ゴンの言葉をゴトーがさえぎる。

「てめぇらはギリギリのところで生かされてるんだ。オレの問いにだけバカみてぇに答えてろ」


部屋の空気が張り詰める…。

そして、ゴトーがコインを投げた。



くっ…速すぎる……。


「どっちだ?」



誰も答えない。



「モタモタすんじゃねー。3秒以内に答えろ。………おい、そいつの首、掻っ切れ」

カナリアを押さえる男にゴトーが言う。くそっ…

「待て!!左手だ!!」

「オレは右手」

「僕も右手です」

「私もだ」



「……まずは…1人アウトだ」


コインは――――右手。




そのままゴトーはコインを投げる。

くそっ…まだ速くなるのか…!?

もう私には見えん!!


「どっちだ?」


ゴンと顔を見合わせる。こうなったら仕方があるまい…。ゴン、わかってくれ…。


「私は。…右手だ」

「…じゃ、オレは左手」




「…お前はなんだ?」

ゴトーがゼロに聞く。

「……左…手……です…」




………ゼロ…?


ゼロの答え方が少し変だったので、私はゼロを見た。彼は苦しげな表情で胸の付近をぎゅっと握り締めていた。


…なぜそんなに苦しそうなんだ…?胸を押さえているが…また試験のときのように発作か何かなのか…?



「当たりは左手…。残りは2人か」

ゴトーがゴンとゼロを見ている。…あと1回は、私が使った手を使えるが……キルア…早く来てくれ……。



「いくぜ」

「ちょっと待って!」

「なんだ?ただの時間稼ぎなら1人ぶっ殺すぞ」

「レオリオ、ナイフ貸して」


ゴンがレオリオにそう頼む。何をする気だゴン?

「安心してよ、暴れたりしないから」


そう言ってゴンは左目の上…カナリアに殴られ、大きなコブになっているところを切った。血が流れ出る。

そうか、血を抜いて腫れを引かせたのか。



ゴンの両目が、開いた。

「よし、オッケー。よく見える。どんと来い!」

「フン!」

ゴトーがコインを投げた。


私にはもうコインの行く先は見えない。ゴン、ゼロ…頼んだぞ。



「どっちだ?」

「左手!」

ゴンが自信満々に答える。見えたのか。さすがだな。

「……同じく」

ゼロもそれに同意する。もう苦しげな表情は消えていた。


「………やるな」

ゴンとゼロの指摘どおり、コインはゴトーの左手の中。




「じゃ、こいつはどうだ」

ゴトーが立ち上がる。ゴトーを挟み、他の2人の執事も、尋常ではない速さで手を動かした。

なんて連中だ。見えるわけが無いではないか!


「さぁ……誰が持ってる?」




――――ゴン!



見れば、 ゴンは自信満々にニッカリと笑った。


「こっちの…後ろの人でしょ?」

ゴンが後ろに立つ執事を指差す。…コインは、たしかにその執事の手の中にあった。


ゴトーが笑った。


「すばらしい!!」

執事達が拍手を送った。



さすがはゴンだな…。私はさっぱり見えなかったよ。

私もゴンに拍手を送る。

レオリオも、なんともいえない表情でゴンに拍手を送った。








「……命拾いしたな……」



隣から、かすかに…だがたしかに、ゼロがそう呟くのが聞こえた。


ひどく重く、暗い声で……



振り返る私の目に映ったのは………







にっこりと笑って、ゴンに拍手を送る




―――――――いつもの……ゼロの姿だった…。







つづく


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難産すぎていずれ書き直したい…

すもも

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ももももも。