double style ◆30:彼の部屋にて



「あ、ジャズ。ゾラさんからメール来てるよ」



あれから半月ほど経った。

僕は日中、ゴンたちに付き合って『点』をする日々を送っている。

夜の日課が、ジャズのケータイのメールを見ること。

今日もゴンたちと別れた後、自分の部屋に戻り鍵をかけてジャズのケータイをチェックしていた。





ゾラさんは情報屋であり、"仕事"の仲介人をやっている人。

僕らの秘密も知っている数少ない人の1人だ。


ゾラさんは長年、何人もの殺し屋や仕事人の仲介屋をやっているんだけど…彼らでもこなせないような仕事をときどきジャズのところに持ってくる。

今回も、タイトル見るかぎりどうやらその類のメールらしい。



「連絡くれって。どうします?ジャズ?」

『めんどくせぇなぁ…』



ゾラさんは僕らを最終手段的に使ってくるので、当然仕事の危険度も高い。その分報酬も高いけど…。


「まぁ…断るにしろ受けるにしろ、返事はジャズが返してくださいね。僕、もう寝ますから…」







「…っち」

ゼロがとっとと寝てしまったので、オレはしぶしぶ自分のケータイの番号を押した。

いちいちメール打つのがめんどくさかったから直接電話だ。

…盗聴の危険がって?知ったことか。向こうでなんとかするだろ。



『はいよー、もしもし〜』

「もしもし〜、じゃねぇよババァ。…なんだまたやっかいな頼みごとか?」

『いや、違うよ。まぁアンタにしか出来ない仕事だとも思うけどね。……アンタを御指名なんだよ』

「あァ?」

御指名?何を?オレを?





『9月1日から始まるヨークシンのオークション、知ってるかい?』




9月1日?ヨークシン?


はははは、どっかで聞いたな、そのフレーズ。






「断る」

『まだ何も言ってないだろーに』

「いや、聞きたくねー。断る」


うっかり行って「あいつら」に見つかるのだけは御免だ。



『いいから聞きなって。働きによっちゃ10億くらい軽く出すって言ってたよ』

「10億!?アホかそいつ!?」

『…アンタ顧客に向かって………まぁいいや、仕事の内容は主にオークション中の身辺警護…』

「はぁあ!?ありえねー!!身辺警護に10億!?うさんくせー。やだ。絶対やだ。ありえねー。行かねー」



オレは一気にまくし立てた。

っつーか普通考えても身辺警護に10億っておかしすぎるし。

うさんくせー。オレ実は命狙われてるとか?


いや、返り討ちだが。




『…最後まで聞きなよ。身辺警護のほかに…地下オークションの競売品を一点"始末"してもらいたいんだと』


「ざっけんなーっ!!全世界のマフィアに喧嘩売れってのか!!危険度マックス!!!10億安すぎ!!」



クモどころじゃねーっつの!!

なんだそのふざけた依頼出す奴は!!




見つからずにこなせられればいいが、バレたら最後世界中のマフィアを敵に回すことになる。

まっとうなオークションもあるにはあるが………特に地下オークションはなー…。

仕切ってんのマフィアだしなー…。



マフィアなんてものは『メンツ』が命。


競売品に手ぇ出すなんてなんてふざけた真似する奴は、地の果てまで追いかけて殺すだろう。



オレ1人だったら別になんとでもできるが、―――オレにはゼロがいる。


アイツまでマトにかけられたんじゃたまったもんじゃねー。




アイツを守ることが、オレの根本にあるって………ババァも知ってるだろ?





『ま、そうだろうと思ってそれは丁重にお断りしておいたよ。あたしだってゼロちゃんが可愛いんだから。

だからまぁとりあえずそれは置いといて、身辺警護だけでもいいって。それでも10億出すって言ってたよ。


それならジャズじゃなくてもいいんじゃないかって言ったんだけどね。…あんたを見てみたいんだって』



「へー……、…女か?」

『残念だけど男。…いや、もっともそいつはたぶん依頼人の部下だろうけどさ。うちに来たのは男だったよ』



―――男・か・よ!!

しかも「オレに」身辺警護してもらいたいだと?


10億出すって………アレか!?


10億でオレを買うってことか!?そういうことか!?



ぅわ、キモッ!!鳥肌たったわ!!





「ふ〜〜〜ん………」

心底嫌そう〜に言ってやったけど、ババァには通じなかったみてーだ。くそっ…。



『まぁ、まだずっと先だし、考えといとくれ。………先方は8月30日に現地で会いたいって。それまでに決めてくれればいいって言ってたからさ。

……でも一応2週間くらい前までに一度あたしに連絡おくれ。受けるにしろ受けないにしろね。準備か後始末かやっとくから』


「…まぁ……一応考えとく。…多分行かねー方向で。」




オレもイタズラは好きだし、そっちシュミの人間に理解が無いわけでもねー。

オレはオレが美人の類に入るのを知ってるし、だから誘ってるワケだケド…。



でも、その理由の大半は相手がうろたえたりすんのを見るのが面白れーからで、さすがにリアルそっち系で金持ちの油ジジィ相手とかはマジで御遠慮イタシマス。

まーそれなりのイイ男なら考えなくもねーが……、それ以前に クモもいるしなー。


10億はちょっと惜しい……ケド、天秤に掛けるとなるとちょっとなー。




『ははは、でもいい返事待ってるよ。割りいいんだから』

「…わかったよ。じゃな。切るぞ」

『おおぅ。ちょっと待っとくれ』

「……なんだよ?」


うぜーな。もう用事ねーだろ。


『いやいや、アンタ…ていうかゼロちゃん、今天空闘技場にいるんだろ?』

「…っち、あいかわらず情報の早えーババァだ」

『あたしゃ、ゼロちゃん大好きだからね。死なせでもしたら承知しないよ』

「ありえねー…、アイツだってそこまで弱くねーよ。…第一オレがそんなことさせねーよ。……それが用事か?」


『いやいや違うって。ひとつそっちに近いとこで仕事あるんだけどやってくれるかい?』





ハ、仕事?

ちょうどオレも毎日変わり映えしねぇゼロの生活に飽きてたところだ。



…くっそ、ゼロの奴も試合に出ろよ。

毎日『点』なんかつまんねーんだよオレは。



暇だから…受けてやるよ。ありがたく思え、ババァ。

でもオレは高けーぞ?




「9:1」

『6:4』

「ボリすぎ」

『そっちこそ。ていうか9:1はフツーさすがにありえないよアンタ。…じゃあ8:2ならいいかい?』

「………まぁいいや。情報は?いつ届く?」

『明日昼にはそっち送るよ。』

「ん、わかった」

『先に連絡入れたほうがいいかい?どうせ寝てるんだろ?』

「あー……たのむわ。……じゃな」


と今度こそオレは通話を切った。




………切ってから思い出したが、そういや着る服がねぇな。


…あーくそ、買いに行くのめんどくせー。

さらっと受けちまったけど思い出したら最強めんどくさくなってきた…。受けるんじゃなかった……。





服は1回着たら大体捨てる。…捨てるというか…リバイアサンに"消化"させるだけだが。

アホなゼロに預けておいたら、どこからどうバレるかわかったもんじゃねーから。一応念の為にな。


金はあるし。必要経費と割り切ってるからそこは別にいい。

オレ好みの服を探すのがめんどくさい。




うー。

あー。




…しょうがねぇな。行こ。


しかたなくオレはカードとチョーカーだけを持って街へと服を買いに出た。


















「今日はゼロ、来ないね」

「そうだな」

翌日の朝、いくら待ってもゼロがやってこないことに疑問を抱いたゴンとキルア。


「いつもキルアより先に来てるのに」

「ゴン、嫌味か?それ」

「ちがうよ〜;」


ゼロの部屋に電話をかけたが、一向に出ない。

「寝てんのかな?めずらしーな」

「部屋、行ってみる?」

「そのほうがはやいな」

と結局ゴンとキルアはゼロの部屋へと向かうのだった。




「でも部屋まで行ってどーする?キルア?」

「とりあえずノック攻勢じゃねー?ガンガンぶっ叩いて起こそうぜ」

「今のオレ達でドア叩いたら、なんかドアが跡形もなく壊れそう;」


などと会話しながら、ゼロの部屋の前に来た2人。


ノック―――しようと一度はこぶしを振り上げたが、ゴンはその前にドアノブに手を掛けた。

ダメモトでそーっと回してみると、意外にもかちりと音がして――――ドアは開いた。




「…開いてんな。物騒すぎ。ありえねー」

「なんかゼロらしくないね…いるのかな?」


と言いつつ部屋の中に向かって呼びかけるでもなく、 なぜかゴンとキルアはこそこそと部屋に侵入した。



「なんでこっそり入るの?キルア; 普通に探せばいいんじゃない…?;」

「…なんとなく。…あ。」

キルアが発見したものをゴンも見た。


「…………服だね」

「………そうだな」


ゼロが昨日着ていた服が床に脱ぎ捨ててあった。それも散り散りに。



「…えぇえ…; 全然ゼロらしくない…。実はシャワー中とかなのかなー…?」

「…なっ、ん…………そうかも…」

「……?どしたのキルア?顔赤いよ?」

「そっ…んなことねーよ!!」


「でもゼロってもっとちゃんとしてると思ってた」

「なにが?」

「こういうの、脱いだらきっちり畳んでそうじゃない?」

「そういやそうな」


無言で顔を見合わせる。それから2人は奥へと進んだ。





「あ、いた」

「ほんとだ……寝てたんだね」



部屋の一番奥、ベッドの上にゼロが眠っていた。


上半身を見る限りは………裸で。



「ぅわ、ありえねー。こいつ裸で寝てんのかよ!」


「綺麗だねー」

「ゴン、それ男に言うセリフじゃねーって」

「でも綺麗じゃない?」

「…………まぁ…そうだけど」



静かに寝息をたてているゼロ。ゴンとキルアはしばらく観察していた。


「まつげ長ー……」

「こうしてるとホント、美人だよなー」

「そうだねー。色白いし…女の人みたいだよねー」

「……男…だよな?」

「…男でしょ?胸板だし」


「…………んァあ?」

そばでこそこそと喋っていたゴンとキルア。突然ゼロが声を上げたので、思わず飛び退いた。



「ん〜……」

体を起こし、眠そうに頭をかいていたゼロ。

ふぁ…とひとつ大きなあくびをしてからゴンとキルアの方を見てきた。


「………………ぁに?」

「あ!ご、ごめんねゼロ!今日はなんか来るの遅いから…む、迎えにきたんだ……けど………」




「(………目が据わってる…;)」

「(こいつ寝起きダメなのか?超恐くね?;)」



汗をたらし身を引いたまま、何も言えなくなってしまったゴンとキルア。

ゼロもまた、ゴンとキルアを据えた目で見たままずっと無言を通していた。



「…あの…; ゼロ?お、起きた……?」

「………ん…」

またごそごそとベッドにもぐり始めたゼロ。


「え!?ね、寝ちゃうの!?」



「………ワリィ…、今日忙しいから…行けね………行けないから………」



ゼロの言葉に、ゴンとキルアはなにか違和感を感じた。


「(…機嫌悪いのかな…?;)」

「(寝起きだからだろ?たぶん…)」



そんな事を2人でこそこそ耳打ちしあっていると―――突然、ベッド脇の台の上でケータイが音を立て始めた。(着信音はなかったが、バイブレーションが激しく台の上を鳴らした。)


ゼロはベッドの中から手だけを伸ばしてゆらゆらとその音を探すが……しかし眠気には勝てないのか途中で諦めてパタリと止まってしまう。

そんなゼロの白い手を見かねてか、ゴンが目の前の台の上からケータイを拾い上げる。




「はい、ゼロ…」


「………サンキュ」



手元に渡されたケータイをゼロはベッドの中に引き込んで、そこでひたすらボタンをいじっている。どうやら電話ではなくメールのようだった。

しばらく見ているとメールも打ち終わったのか、ゼロはケータイをベッドに投げ捨てた。

そしてまた、寝息をたて始める。



「(結局寝ちゃったね…;)」

「(そうだなー…。起こすとなんかあとが怖そーだし…行くか?)」


ゼロを起こさないように、ゴンとキルアは来た時と同じくそーっと部屋を出て行く。


そして静かにドアを―――閉めた。









「今日のゼロ、なんか変だったね?あんなに機嫌の悪いゼロ、オレ見たこと無いよ」


廊下を歩きながらゴンが言う。キルアもまたゴンのその意見に頷いた。



「そだなー。なんか…変だったよなー…」

「勝手に部屋入ったの、怒ってたのかなー…」

「そーかもな。案外ズボラなのがバレたしなー」


そう言ってくくく…とキルアが笑う。



「戦えないのがストレスなのかも…」

「あー、それはありそう。…ゼロまでゴンに付き合って不戦すること無いのにな?」

「うー…、でもそれはそれでさみしいかも…」



キルアに茶化されて、寂しそうにもじもじ指を掻くゴン。


ゼロにはストレス無くいつもニコニコ笑っていて欲しいし(…っていうかゼロにあんな据わった目でいられたくない)、楽しそうに戦うゼロの綺麗な顔も嫌いじゃない。

でもゼロとはずっと一緒に部屋で『点』の修行もしていたいし…。という、ただのわがままだ。



ゴンのそんな気持ちはキルアもわからなくはなかったので、「悪かったよ…」と一応のフォローはしておくのだった。




「…ま、それはともかくさ。今日のところはとりあえずオレらだけで『点』始めよーぜ?」

「そうだね…。これからはゼロはゆっくり寝かせておいてあげよう?」

「だな。なんたってアイツ……」




「「起こすと怖いから」」















ん〜…………。

今何時だ?2時か…。


なんか朝に誰か来たような覚えもあるが………んー………………気のせいだな。





さて、仕事…はじめるか。





と、オレは窓の外に止まっていた大きな伝令鳥にウインクした。





つづく


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大きな鳥は伝令の鳥みたいなものと解釈していただければ
仲介人のゾラさんはオリジナルキャラですが、別に重要ではないので流してくださって大丈夫
番外編はキルアとの閑話、31話は本編です

すもも

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ももももも。