double style ◆37:対戦日決定




『新人狩りねぇ……ハッ、クソミソに気分の悪い連中だ』

サダソさん達を指して、ジャズがそう言う。




『お前、マジであんなのと戦る気かよ?バックレちまえよ』

『でも…』



そんな事言われても、今の僕に出来ることと言ったら…、あの人と戦ってあげることだけだ………





ある意味僕のせいで―――

"180階のエンジェル・スマイル"に、片腕を奪われた人。



あの人の受けた痛みは、僕にはわからない。

あの傷を元に戻すことは出来ないけど、僕と戦うことであの人の気が晴れるならって……。


でも、だからってゴンやキルアを害させるわけにもいかないんだけど………





僕自身は、彼の申し出ならいつだって……、一切断らないつもりでいる。





僕はあの人とは―――もうこの200階のリングで戦うことしか出来ないから………。



どんな結果になろうとも、僕はあの人相手なら全力を出すつもりです。




それが僕の…あの人への贖罪だと思って……





『お前がいいならいいけどよ…。奴らの根性はいけ好かねぇよオレは』

『ジャズには関係ありませんから。黙っててください』

『おーおー、怖いねぇ…。ま、そのときはせいぜい頑張んな、へなちょこ…』



「ゼロー、ちょっと見ててー」

ゴンの呼びかけにハッとなった。

そういえば『練』を見てあげるって話でしたね。



サダソさんたち3人と別れてから、僕らはキルアの部屋で『纏』の修行に励んでいた。

ズシと僕のアドバイスで、確実に『練』のコツをつかんでいくゴンとキルア。


ズシが青くなってる。僕もちょっと彼らのあまりの上達の早さにあんぐりしたい気分ですね。

まったく、本当に恐ろしい子供達だとつくづく思います。




「だいぶ慣れてきたね」

「練ったオーラを纏でとどめるタイミングが少し難しかったな」

「少っ………」


あ、今の発言、ものすごくショックを受けたな。ズシも僕も。




『…ったく、なんつーガキ共だ』

あれあれ?ジャズもショックだったんですか?




『オレに似てるな』


うわー、ムッカつく☆





「どうかなゼロ?」

「その調子ですよ。これなら最終日どころか3、4日で『凝』もマスターできるんじゃないですか?じゃあもう1回」

「い、いや!!もうカンベンっす!!もうやめましょう!!」


ズシが慌てて2人を止める。

あー…、さすがに半日経たずに追い抜かれたら立ち直れませんよねー?


「そっか?まだまだいけんぞ?」

「まだズシのオーラに比べると力強さが足りないしね」

「だ、だめっす!!体を休めるのも修行の一つ、今回はもう終わりましょう!!」


あはは、声が裏返ってますよ、ズシ。



「そうですね。じゃあ今日はもうやめましょうか」

「ゼロ先輩〜vv」

救いの神が現れた!というように僕に手を合わせたズシ。目がうるうるしてるのは気のせいかな?


「うーん。じゃあやめよっか?」

「そだなー。じゃ、続きは明日にして、今日はもう解散すっか」


と……キルアの提案から満場一致で、とりあえず今日は解散することに決めた。もう結構な時間ですしね。



「じゃあまた明日な」

「うん、お休みーキルア」

「っす!」

「また明日」


部屋の入り口で、まずはキルアと別れる。


その後は歩きがてらゴンと話し合って、天空闘技場の入り口までズシを送るという話になった。




そして下まで降りるエレベーターの中で、ゴンが不意に、僕に尋ねてくる。

唐突過ぎて固まっちゃいましたよ。



「…ねぇゼロ。あの片腕の奴となんかあったの?」



あはは……; ほんとによく見てますね、この子………





「なんでもありませんよ。…ゴンが心配するようなことは何もありませんから。だから大丈夫です」

「そう?なら…いいんだけど…」


笑って繕ったけどそれも見抜かれちゃったみたいで、ゴンはなおも心配そうな顔で僕を見上げてくる。



キルアがこの場に居たら、たぶんグイグイ問い詰めて来たでしょうね…。


でもゴンは、あんまり突っ込まれたくない僕の雰囲気を感じてか、じーっと見るだけに留めてくれた。

無言の圧力とも取れなくない……。でも、ゴンの無邪気な瞳を見る限り、本当に僕を気遣っての事だろう。




…ゴンのそういう優しさ、好きですよ。


ちょっと心が痛むこともあるけど……だからこそ、僕ももう少し頑張ろうって思える部分もあるんです。



僕、君たちよりお兄ちゃんなんですから。

僕が頑張らなきゃね。



「ありがとうゴン。そう心配しなくても、ホントに大丈夫ですよ!彼らなんかに簡単にやられるほど、僕、弱くありませんから」


にこっと…今度はちゃんと笑って、僕はゴンの頭をなでてあげる。

するとやっとゴンもにっこり笑ってくれた。


「…そうだよね!ゼロは強いもんね!」

「そうっすよゴンさん!ゼロ先輩に心配は無用っす!」

「くすくす。ありがとうゴン、ズシ。あいつらと戦うことになってもぜーったい勝ちますから!見ててくださいね!」


ふん!と力こぶし作ってカッコつけてみました。




『ま、テキトーに頑張れ〜』


力抜けた声で水差さないで下さいよジャズ!もー!









天空闘技場の入り口でズシと別れ、その後また200階まで戻ってゴンを部屋に送って、僕も自分の部屋に戻った。

ドアを閉めて鍵を掛けたときにジャズがボソッと、『………やっぱりな』って呟いた。


「え?なんですかジャズ?」

『なんでもねーよ。気にすんな?』



そんな事言われても…。逆に気になりますよ。


その後何度か聞いたけど、ジャズは一切答えてくれなかった。

ホントになんなんでしょう?



首をひねりつつ、まーこうなったらジャズは絶対教えてくれないし…。

とりあえずベッドに腰掛けてジャズのケータイをチェック。


今日も依頼は無し…、と。



その後はなんとなく手持ち無沙汰になっちゃって、ベッドの上でウロウロしてた。

しばらくして、少しおなかもすいたし何か作ろうと思ってベッドから立ち上がったとき、部屋の電話が鳴り響いた。



「んー…?誰でしょう?」

もうずいぶんと時間も遅い。疑問を抱きながらも、僕は受話器を取った。





「もしもし?」


『……やあ、エンジェル。オレだけど…わかる?』


「…………サダソさん…ですか?」



『覚えててくれたんだ?嬉しいなー』

「…あの、何の御用ですか?」


『ああ、そうだね。…実はキミと対戦する日、決めたんだ。悪いけど戦闘日指定で申し込んどいてくれるかな?』


「……はい。いつですか?」

『6月1日は?空いてるかなー?』

「…はい。わかりました」

『そりゃあよかった』


電話の向こうでサダソさんがくすくす笑ってるのが聞こえた。




「……一つ聞いてもいいですか?」

『んん?…どうぞ』


「………僕は最後じゃなかったんですか?」




僕の大切なもの、全部壊してからって……あの時サダソさんは言っていた。


だとしたら先に狙われるのはゴンとキルアの方じゃないんですか?



ゴンは6月10日に戦闘日指定するって……口にしちゃったけど、サダソさんが僕に指定してきた戦闘日はそれより前………。

あれ?ていうかサダソさん、自分の締め切りは5月29日ってさっき……




『―――ああ、その辺はもういいんだ。オレの方の締め切りもなんとかなったしね。キミはオレとの事だけ考えてればいいよ。

 じゃあ6月1日…楽しみにしてるからね、エンジェル……』



僕がぐるぐる考えている内にサダソさんはそう言って。

僕が返事をする前にそれきり電話は切れてしまった。




「………ぇええ?;」

どういう事??




『くくく……そうきたか………ハハハハッ』


ジャズの意味のわからない笑い声を頭痛のように感じながら、とりあえず僕は受話器を置いて。


いまいち納得いってなかったけど、まずは部屋を出て受付へと足を向けるのだった。






つづく


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サダソ、好きだけど難しいなー

すもも

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ももももも。