『ほー。ジンの息子か…道理で』
珍しくジャズが他人に興味を示していた。
僕もジャズもお世話になりましたからね、ジンさんには。
ジンさんに出会う前、僕はもう生きていること全てが嫌で、何もかもをジャズに押し付けて長い眠りについたことがあった。
でもジャズは僕を責めることもしなかった。
ジャズはジャズなりに僕を守ろうと必死だった。
向かってくるもの全てに憎悪を撒き散らし、僕を守って…いつも傷だらけだったジャズ。
そんなときにジャズはネテロさんに出会って…"力"の使い方を覚えたといっていました。
そして自分のことがちゃんと制御できるようになったとき、ジャズは僕の声を感じるようになったそうです。
ジャズは毎日、心の隅にいる僕に話しかけました。
それでも僕は、僕の殻に閉じこもったまま外に出るのを恐れていた。
それを見たネテロさんが、ジンさんのもとにジャズを連れて行ったんだそうです。
「お前がジャズってのか?それともゼロか?」
「……オレはジャズだ」
「ははっ、そうか。ま、仲良くしよーぜ」
ジンさんはあまり僕らの事を聞かなかった。
ただ、毎日いろんなことを教えてくれて。僕らを色々なところに連れて行って、色々な人に会わせて…。
僕に普通の生活をさせてくれた。
ジンさんは自分の信念をはっきり持って、強く生きてる人だった。
確かに優しかったけど、それだけじゃない人。
ゴンと同じように、まっすぐで温かい人だった。
そんなジンさんと共に暮らす内に、『僕』はいつのまにか目覚めていたんだ。
「もう逃げなくても大丈夫だぞ?とって食ゃしねーから」
そう言って、怯えた僕を優しくなでたジンさん。
そのときはまだ小さかった僕。
大きな手がとても暖かくて、僕は初めて嬉しさで泣いたのかもしれない。
「ここをお前の居場所にしていいから」
と、僕の心が安定するまでジンさんは一緒に居てくれた。
そして僕もジャズも、やっと心を落ち着けてきて…、いつしかそれぞれが別々の生活の時間を持つようになったころ。
…でも、やっぱり僕は肝心なときに逃げ癖が抜けなくて…ジャズだけが、僕を守るために戦っていたのを見て。
ジンさんが、そんな僕ら2人に向かって言ったんだ。
「お前らは2人とも、『戦う』ことの意味をわかってねー」
「…?」
「いいか、男なら!誰かを守るためとかそんなんじゃなくてだな、テメーの信念を貫くために戦え!」
「しんねん…?」
「そうだ。ゼロ、お前はちゃんと自分のために自分で戦え。逃げんな。
そんでジャズ、お前はゼロを甘やかすな。テメーの尻拭いくらいテメーでやらせろ」
「でも…ぼく……」
「おっ、泣いたら負けだぞ?ゼロ」
「うぅうう〜」
「戦い方がわかんねーなら聞け。オレでもジャズでもいい。出来るとこまで自分でやってみろ。
そんでどーしてもダメだったらジャズに頼め。いいか、頼むんだぞ。勝手に押し付けて逃げんなよ?」
「うー……」
「じゃ、指出せ。約束に指きりしよーぜ」
「…うん」
そうして僕もジャズに教わって、戦うことと念を覚えた。
ジンさんはそんな僕ら2人をいつも見守っててくれた。
ジャズはジャズ、僕は僕で決別できたのはその時。
まぁジャズはまだ僕を甘やかす癖が抜けませんが、それはジャズという存在が、僕を守るために生まれたから仕方の無いことで。
ジャズ自身も、『オレの信念はゼロを守ることだ』って、ジンさんに向かって豪語したし。
だから僕はあまり無茶をしないために、念を使う戦いを避けている、というわけだ。
それに僕の念能力は、ジンさんに会いに行くために開発したもの。
本当は、戦うための力じゃない。
僕にとっては…ジンさんの元が、たった一つの帰る場所だから。
一晩ゴンの家に泊まってその次の日、僕らはしばらくぶりにジンさんの声を聞いた。
ゴンがハンターになったら渡してくれ、とジンさんからミトさんに託されていた箱。
"箱"の"鍵"を開けて、その中に入っていたのは指輪とテープとロムカードだった。
「じゃあまずテープ聞いてみる?」
再生したテープに入っていた、ジンさんの言葉。
ジンさんはいつだってジンさんのまま。
テープに吹き込まれた10年前のジンさんも、きっと今のジンさんも。
ずっと変わらずに自分の信念を貫いてる。
ゴンに言うんだ、そのジンさんが。
「オレを捕まえてみろよ」
って。
「手ごわいな、お前の親父」
「うん」
君にもその血が流れているんですよ、ゴン。
僕のレイ・フォースならジンさんを探し出せるけど、僕はそれをゴンに教える気は無い。
これはジンさんがゴンに出した試練だから。僕が手助けしちゃいけない。
だってバレたらジンさんに怒られるし。
ゴンだって、きっとそれを望まないだろう。
だからいつか…ゴンと一緒に。
ゴンと同じ速度で、僕もまた…会いに行きますね。ジンさん………。
「何ニコニコしてるの?ゼロ」
「いいえ。何でもありませんよ〜」
「キモイよ」
「えぇ!?酷いですキルア!!キモくないですよ!!」
ジンさんからの贈り物(?)はあと二つ。
「指輪はともかく問題はこのロムカードだな」
「通常規格より小さいね」
「そうですね。専用ハードがあるんですかね?」
僕とゴンでくりくりとカードをいじっていると、キルアがそんな僕らを珍獣を見るような目で見ていた。
「…ホントお前ら知らねーの?ジョイステ。」
僕とゴンは顔を見合わせて、それからキルアに聞いた。
「なにが?」
「ですか?」
「これ、ゲーム機専用のカードだよ。ジョイステーションての」
「…じょい、すて?」
「……すて?」
「…天然記念物が2匹…;」
そう言ってキルアはパソコンをつけた。
そしてゲームショップサイトにアクセスして、ジョイステーションとロムカードを注文する。
即日配達で届いたゲーム機にカードを差し込んで調べた結果、中に入っていたゲームデータは『グリードアイランド』という名前のものだった。
「あ――…!これが『グリードアイランド』かぁ…!」
前にジンさんが話してたっけ。
「ゼロ、知ってるの?このゲーム」
「ええ。なんか『絶対面白いゲームだから、いつか機会があったときには必ずやれよ!』ってジンさんがよく言っていました。
どんなゲームかは教えてくれませんでしたけど……」
「へー」
……僕、ずっとボードゲームとか…、賭け事のなんかかと思ってた…;
そっか…天然記念物か、僕……;;
ゴンと僕の会話を尻目に、またキルアがパソコンに向かった。
「ん…っと、あ、あった。グリードアイランド!」
それを聞いた僕とゴンもパソコンの前に急いだ。
……どんな内容のゲームかとかはホントに全然教えてくれなかったんですよね。
『そりゃお前が大人になるまで秘密だ!』とか…、『じゃあお前はどういうゲームだと思う?』って。
一生懸命考えていろんな事言う僕を見て楽しんでたっていうか…。ジンさんって、そういうトコひねくれてるから…;
画面に映ったグリードアイランドの情報を、僕ら3人は各自読み取っていく。
「ハンター専用…ハンティングゲーム……ですか」
「どういう意味だろ…?それでいくらなの、キルア?」
「ん…」
かちりとクリックして出てきた数字は…
「「「ごっ…58億!!?」」」
なんですかこのゲーム!!ていうかテレビゲームってそんなに高いものなんですか!?
大人になったらって…、そういう事!?
っていうか大人でも普通の大人は買えませんよ、こんな値段のゲーム!!
…ぇえ?ちょっ…、ジ、ジンさん!?;
「うあ、もーマジでありえねー!」
「買うにしてもお金も足りてないよキルア!」
「あー…」
僕だったら、天空闘技場で稼いだ貯金があるから、まあ一応出せないこともないけど……。
でもさすがに大金だし…。言うべきなんでしょうか、うーん…。
僕が別の意味で悩んでる間、キルアとゴンは在庫を問い合わせたり、他にも色々とゲームについて調べていた。
でもいくら探しても値段以外にはゲームに関する有力な情報が出てこなくて。
「くそ、電脳ネットとゲームに詳しい奴とかいればいーんだけど…、あ、まてよ、いるな両方詳しい奴」
「え!?誰!?」
キルアの独り言のような言葉にゴンが反応した。キルアはケータイを取り出す。
「嫌なんだけどな、こいつに頼むの」
そう呟いてどこかに電話を掛けたキルア。
僕とゴンは邪魔にならないように小さめの声で話した。
「どうしようねゼロ」
「うーん…でもジンさんがゴンにって、このゲームのロムカード残してますし…。
何か重要なメッセージとか、暗号が隠されてるのかもしれないですし…。
せっかくの手掛かりですから、何とか方法を探しませんとね」
「でも58億って…;」
「そうですね。どんなゲームなんでしょうね?"ハンター専用"っていう部分も気になりますし…」
『…ジャズは知りませんか?』
僕はジャズにも一応聞いてみた。
裏世界とか僕より詳しいし…。そっち方面から何かネタ掴んでたりしないかなって思って
『…話だけならチラッと聞いたことあるがな。オレもゲームなんかやらねーし、わかんねーよ』
そうですか…。言われてみれば、テレビゲームなんて「めんどくせー」ってやらなそうですもんね、ジャズ。
『それで、話ってどんな?』
『ん?なんか実際に死ぬかもしんないゲーム?』
『……意味わかりませんね……』
『だろ?』
そうこうしてるうちにキルアの電話も終わったようだ。
「ワリ!話の流れでカードのコピーと交換ってことにしちゃった!」
「うん、かまわないよ」
「それでなにか情報は掴めましたか?」
「ああ。まず一つは、ハンター専用サイトがあるって」
『おお、あそこな』
……なんかもうジャズも興味津々なんですかねー;
まぁジンさんの勧めるゲームですしね。
「僕も知ってます、それ」
「えっ!マジ!?じゃあ取引する必要もなかったなー」
キルアがちょっと残念そうな顔をした。そして続ける。
「んで、もう一つがヨークシンのオークション。
ガセかもって言ってたけど、今度のオークションに何本かグリードアイランドが出されるかもって話」
「へぇえ」
『ちっ、ヨークシンか…面倒なことになりそうだな……』
キルアの話を聞いて、ジャズがそう舌打ちした。
なんでしょうね?何かヨークシンによくないことがあるんでしょうか…。
『しかもオークションとなると値段は58億どころじゃなくなるな』
『そうですねー』
のほほんと答えた。
『…お前はどーすんだ?行くのか、ヨークシンのオークション』
『ええ。そのつもりですが?クラピカたちと会う約束もありますし…、ジンさんの勧めるゲームですからね、この際だからやってみたいです』
それを聞くとしばらくジャズは黙った。何か悩んでいるようだった。
『とりあえず貯金とかを確認しに行かないとダメですね』
ジャズが黙ったままなのでそう聞いてみた。
ジャズはなんだかんだ言ってても僕の頼みなら断らないことを僕は知っている。
僕もおおっぴらに助けようとは思いませんが、ゴンたちに『協力する』んだったら、ジンさんも許してくれるでしょう?
『はぁ…、ったく…しょうがねぇな。おい、ゼロ』
『なんですか?考えがまとまりましたか?』
よくわからないがどうやらジャズも決心がついたようだ。
『オークションに参加する以上、金が要る。いくらあっても足りねぇくらいにな。
…しばらく体貸せ。依頼、何件かこなす。ゾラのババァにも色々頼んでみる』
『わぁ、ありがとうございますジャズ!!大好きです!』
『ケッ…でもオレにもゲームやらせろよ』
『わかってますよ、ありがとうございます!』
照れた感じのジャズにもう一度お礼を言って、ゴンとキルアに話を切り出した。
「ねぇゴン、キルア、聞いてください。…ここから僕は別行動します」
「えっ!?ゼロは手伝ってくれないの?」
やっぱりゴンに引き止められた。
でも、安心してください?
「そりゃーもちろん、手伝うために別行動するんですよ。『オークション』の意味、わかってます?」
「…58億じゃ到底落とせないって訳だよな」
「そのとおりです」
さすがキルア、ゴンよりはそういうの詳しそうですもんね。あくまでゴンよりは。
「僕もかなりお金持っていますが、念には念を、ということで僕はこれから一足先に島から出て金策に走ります。
でもギリギリまで協力する気はありませんから」
『協力しない』との言葉にゴンもキルアも驚いていた。
「えっ、な、なんでゼロ…」
「だってジンさんが用意したゴンのための試練でしょう?だからゴンとキルアだけでギリギリまでがんばってみてください。
それでどーしてもダメだったら協力しますから。あ、でも期待はしないでくださいね。がんばらない人にお金は貸せませんから」
びしりとウイングさんの真似をして、指を立てながら言ってみた。
「「ちぇー」」
「クスッ、がんばってくださいね」
そして一旦僕は彼らと別れることにした。
再び、ヨークシンで会う約束をして………。
つづく
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やっと次からヨークシン編です
すもも