「そうか……二重人格者か……」
十老頭を始末し、地下オークションのお宝を手に入れアジトに帰り着いたオレは、マチから留守中にアジトであったことを聞いた。
ジャズと…ゼロというもう1人のジャズのことを。
「…話を聞く限りではまさにパーフェクトな人格の『解離』だな。穏やかなジャズなどオレは全く想像できん」
シャルナークとシズクから話を聞いただけのマチも同様のようだった。
「トラウマを持っているのがゼロ、それを護っているのがジャズ。
となるとジャズはゼロという男の副人格なのだな。………だとすれば………」
一つの可能性。
お前は気づいているか?ジャズ…
整然とした明るいホール。
ベーチタクルホテルのロビーの片隅で。
オレはジャズを抱いたまま、『緋の目』のコピーを追ったパクノダ、ノブナガ、コルトピの合流を待っていた。
しばらくすると、ふぁ…とジャズがあくびを吐く。
「ジャズ…寝るな」
オレ達の警戒網がわからんお前じゃない。
よくそんな緊張感無く眠れるな。
「無理ぃ…。暇だし……クロロ暖けぇし……寝みー……」
そう言ってジャズは、ぽて、とオレの肩に頭を預けた。
「ジャズ…」
「んー………」
本気で寝る気か。
あきれた奴だ。
「…んぁ……あ、そんな風に揺らすな、…ばか……イッちまう…」
「……だったら起きたらどうだ?」
寝てしまいそうなジャズを、ゆらゆらと眠りを邪魔するように揺り動かす。
相変わらず、口から出るのは下卑た想像を掻き立てる言葉ばかりだ。
「ジャズ、寝るんじゃないよ。ガキじゃないんだから」
マチも、だらしの無いジャズを見てため息をついていた。
「やぁだ…………ガキ……で、いいもん……」
「ジャズ……『もん』って、…アンタそんなキャラじゃないだろ。起きな」
「えー」
マチの言葉に合わせて、オレもすとんとジャズの足を下ろした。
するとジャズがつまらなそうに声を上げる。
そして甘ったれた子供のような目でオレを見た。
「クロロ〜……」
………何だその可愛い顔は。
………チッ、全然寝かせてくんねー。
あー…、どうやって目ェつぶろうか?
オレはさっきのレオリオからのメッセージを思い出していた。
―――闇に乗じてクラピカがこいつらを捕らえる。そのために闇に目を慣れさせろ、って。
何とかクモ共より先回りしてホテルに入っていたレオリオの、"迫真の演技"にて。
クラピカからのそのメッセージは、確かに伝わった。
ゴンが考えたその"作戦"の決行時間は、―――7時。
ホールの真ん中にある時計に目をやれば、『その時間』まであとわずか5分。
そして、7時ジャストのその闇に紛れクラピカが狙う"蜘蛛"が、パクノダかクロロか………。
それはオレにはわからねぇが……。
この状況ならクラピカの狙いはおそらくクロロ。
クロロを倒せて、なおかつパクノダを始末できれば一番良いパターンだろうな……。
だがクラピカがゴンやキルアを見捨てるとも思えねーし………
ふぅ、めんどくせぇー…。
「あ」
「ん…なんだジャズ」
考えるのも面倒になって、天井を見上げていた。
ふと、何かを思い出して声を漏らす。
そのオレの声にクロロたちも反応したのでオレは聞いた。
「なぁマチ…、ウボォーギン死んだって、ホントか?」
――――――長く開いた沈黙が、全てを語る。
無言のクロロたちの様子に、オレはいよいよ確信を持った。
本当にウボォーギンがクラピカにやられて…、こいつらはそのためにクラピカを探してんだ。
そっか。
死んだのか、アイツ…………
またアソボーぜって…約束…したのになぁ………
「…じゃあお前らは今そのウボォーギンを殺した奴を探してんのか?」
わかってるけど一応確かめた。
こいつらの認識じゃ、それはオレの知らない事実だろうから…。
「…そうだよ」
マチがしんみりとそう呟いたところで、ホテルのドアが開く。
「パクたちが来た」
ホテルの入り口方面を監視していたシズクが言ったのが聞こえた。
「お?」
「げっ」
ゴンとキルアがノブナガを見てわずかに舌打ちをした。
何だ知り合いか?
「なんだオメーらまた捕まったのかよ!?」
ノブナガが愉快そうにゴンとキルアに向かって言う。
オレはあんま覚えてねーが、そういやアジトでノブナガに捕まってたんだっけ、こいつら。
「ははん、わかったぞ。お前ら結局気が変わって入団したくなったんだろ」
「あんた達にかけられてた賞金が取り消しになったこと、知らなかっただけだよ」
「その結果また尾行に失敗したのか?懲りねーな」
待て!入団ってなんだ!?意味わからん!!
いや……まぁそれよりなにより…
「そこのチョンマゲ。ウルサイ」
「お!? ジャズ!!何してんだお前こんなトコで!!」
嬉々として喋んな。
雰囲気ぶち壊しだバカ。
「やかましっつってんだろ、黙れこのチョンマゲ!!チョンマゲ!!」
げしげしとオレはノブナガに蹴りを入れた。
「いてっ、なんだ!?やめろジャズ!ようわからんが悪かったって蹴るな」
「ウルサイバカ、お前のせいで話の腰が折れたじゃねーか!!」
せっかく可愛いマチが見れたのに!!見れたのに!!!
「ジャズ、落ち着け」
クロロがオレを止めるが…
「止めるなクロロ!!せっかくマチが!マチのあんな愁えた顔なんかこの先見れるかわかんねーんだぞ!!ぐあ〜〜!!」
あんな顔で甘えられてぇー!!なんて叫んだらマチにドスッとケツ蹴られた。
「いでぇ!!何すんだマチ!!」
「バカはアンタだよジャズ!!何言ってんだいこんなときに!」
顔を真っ赤にしてマチが言うけど、やべぇ、可愛すぎだ!!ムラムラする!!!
「マチーッ!!」
「落ち着け、ジャズ」
「ぐえっ」
ゴンとキルアを押さえて手のふさがってるマチに抱きつこうとしたら、クロロとパクノダとシズクに全力で止められた。
勢いよく突っ込もうとしたせいで、クロロの腕にラリアット食らう形になってオレはカエルのような声を上げてしまった。
…クソッ、間抜けだ。
「ゲフッ、ゲフ……何しやがんだクロロ!!」
「……オレのせいか?これは」
「いや、今のはジャズが悪いわよ。どう見ても」
「ぶはははは、まぁジャズらしいといえばジャズらしいな。
…あのときのことはオレが謝るからよ、こいつら共々また仲良くやろうぜジャズ? な、ボウズ共?」
オレの頭をくしゃくしゃにしてノブナガがゴンとキルアに言った。
いきなり話を振られたゴンはちょっと焦ってたみたいだけど、キルアがうまくかわそうとする。
「はぁ?意味わかんねー。やだね、懸賞金があったからこそお前らを追っかけてたんだ。本当はお前らなんか顔も見たくないんだからな」
吐き捨てるようにそう言って、プイッとそっぽを向いた。
キルアのその行動の意味が読めたのかゴンもそれに続く。
「オレもだね!」
ガキみたいに(じっさいガキだけど)つーんとそっぽを向いて目をつぶった2人。
やべぇ、おもしれぇ。ガキなりにうまく考えてやがる。
自然と笑いが漏れた。
「…ハァ、…蜘蛛相手に……命知らずなガキ共だ、なぁ?クロロ」
「かっかっか。そーだろ?どーだい団長!?いいタマだろ?ウボォーに通じるふてぶてしさがあるぜ、こいつらにゃあよ」
……ああ、だからこいつ2人を追ってたのか。やっとわかった。
「…そうか?ウボォーギンは馬鹿だがもっと賢い選択をするぞ?」
「子供だからだろ?怖いもん知らずなのはさ。それより鎖野郎ってどんな奴?」
あ、笑ってる場合じゃねーな…。
オレもなんか手を考えなきゃ……。
つづく
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ジャズ君ちょっと壊れた…
すもも