double style ◆62:リミット




「パク、もう一度こいつらを調べろ」




んん?

なんかまずったか?これ?







「鎖野郎ってどんな奴?」



マチがそうパクノダに聞いたとき、オレはクロロがゴンとキルアをじっと観察していることに気づいた。

カンとセンスだけはいい奴だから、まさか感づかれたか?


つーかもともと5分以内に目ぇつぶれっつうのが性急すぎなんだよな。まぁしょうがねーけど。




「クロロ〜…?」



オレはクロロの目の前で手をフリフリしたが、そんなオレを完璧無視のクロロはただ黙ってゴンとキルアの様子を観察していた。

そして冒頭の台詞を吐いたわけだ。






「オーケー。で、何を聞くの?」


「何を隠してる? かだ」



パクノダが確認すると、クロロは間すらあけずにそう言った。

核心を突いたいい質問だと思った。…コイツやっぱ嫌味なくらい頭いいな。



パクノダの手がゴンたちに伸びる。




うー。


あー。


あー。




くそ、あとちょっとなのに。







「おい、パクノダ…」


パクノダを止めようと声をかけたとき、ぐっと後ろに引っ張られた。見ると後ろからクロロがオレのことを抱きしめていた。



「ジャズ…」

「…んだよ、クロロ。こんなところでまたサカッてんのか?」


オレのニヤリ笑いを無視して、クロロはひどく哀れんだような…愁いを帯びた目でオレを見ていた。






………なんでそんな目、するんだ…?





周りを見ればマチもノブナガもパクノダも、他のクモ共もオレを見ていて。


よくわかんねーけど、なんだか胸が締め付けられて…オレを抱きしめ引き止めるクロロの手の動きにオレは黙って従った。





「団長…」

「…パク、ジャズのことは気にしなくていい。お前はお前の仕事を」

「……わかったわ」



冷静にパクノダにもう一度指示を出して、クロロはオレの頭をなでた。

そしてオレの髪に口付けてからクロロはそのまま静かにオレに向かって呟いた。





「ジャズ……お前…本当に一体何があった? 何故あんな子供達をそんなにもかばう? …何故、そんなにもあいつらのことを必要としているんだ?…ゼロのためか」





そうやって、オレに訊いてくるクロロ。




本当に、イヤミなくらい頭が良くて。






(クロロはきっと、なんとなく気づいてる。このチビ達が…オレが、クラピカの奴と繋がってるって)






………お前のそういうトコロ、オレは大好きだけど…………大嫌いだ。








「―――そうだよ。…だから?」


「随分と簡単に言うな。………ジャズ。お前、本当にわかっているのか? ………こいつらと行くという意味を」


「なんだ、いまさら?そんなのわかりきったことだぜ。…お前だってシズクたちから聞いたんだろ?オレのこと」




オレが、「二重人格者」だって事。




「…ああ」


「頭のイイお前なら、「その」意味だってわかるだろ?」

「………ああ」








小さくて弱いアイツを守るために「オレ」が生まれた。

アイツの代わりに傷を受けて、アイツの代わりに苦しみを受けて。


アイツが笑って生きられるように、




―――――アイツの笑顔のために、「オレ」は存在している。










「ジャズ……お前は」


「クロロ。…「オレ」はな、ゼロを守る為に生まれたんだよ。ゼロを、全ての『痛み』から守るのがオレの役目なんだ」


「…………。」



何かを言いかけたクロロの言葉を、オレは言葉で以ってさえぎる。







誰になんと言われようとも、もう迷わないって。


今度こそ、ちゃんと決めたから。





だから―――――







「……………あのチビ共はゼロの大切な仲間なんだ。 あいつらの傍にいればきっとゼロは戻ってくる。

―――だからオレはあいつらと行く事に決めた。…何があってもな。お前の元には…もう戻らないんだよ、クロロ…」



そう言って綺麗に笑って見せた。








――――――ごめんな、クロロ。


もう…"リミット"だ。










「ジャズ……?」


「じゃあ、な…。クロロ………」





眉をしかめたクロロの、唇を…掠めて………頬に、キスを落とした。













その瞬間、闇が全てを支配する。















7時ジャスト。


ブツリと視界が閉ざされた。





オレは肩に回されたクロロの手を振り払う。


不意の暗闇、とっさの出来事。クロロの手は案外抵抗なく離れた。




「……ッ!!」


ジャラ、というわずかな音が聞こえ、クロロの存在が遠ざかる。





―――――――クロロは、クラピカに捕らえられた―――――――













クロロ…。







オレはお前とは行けねーけど…、でも



オレ…お前のこと、嫌いじゃなかったよ。






だけど、さ。














―――――バイバイ。
































土砂降りの雨の中、先ほどロビーで騒いだ男が運転する車で、オレは『鎖野郎』とおぼしき女に捕らえられて移動していた。



不意の闇に一瞬気をとられ、オレは鎖に捕らえられた。

傍にあったぬくもりと離れる。ジャズの、存在と。





『じゃあ、な…』


お前の最後の言葉が耳に残っている。





お前の、最後かもしれない言葉。









ジャズ。


お前は本当にわかっているのか?


こいつらと行くという意味。






―――――ああわかってるよ、クロロ。




最後に、綺麗に笑ってみせたジャズ。

脳裏に焼きついた「お前」が、頭の中でそう叫ぶ。





だから―――バイバイ、クロロ…。




少し淋しそうに、それでもアイツは最後まで美しく笑っていた。





ジャズは、笑っていた。











………ああそうか。ジャズ…。

わかっていて、それでもお前はこいつらと………





『こいつら』と―――――――









「何を見ている?」


『鎖野郎』が聞くので、オレはたっぷりの嫌味を含めて言ってやった。



「いや、鎖野郎が女性だとは思わなかったのでな」

「……私がそう言ったか?見た目に惑わされぬことだな」


そう言って『鎖野郎』はつけていたカツラをとった。



「それより発言に気をつけろ。何がお前の最後の言葉になるかわからんぞ?」


「殺せはしないさ。大事な仲間が残っているだろう?…お前達の護りたい者が。」




オレの挑発に、『鎖野郎』があからさまな不快感を見せる。









「……お前達が救いたいのは、ゼロか? それとも―――ジャズか?」












ジャズ……




お前はこいつらに騙されてるだけだ。







必ず、迎えにいく。

だから待っていろ、ジャズ………。










――――――「お前」を救えるのは、オレだけだ。











つづく


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すもも

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ももももも。