木々のざわめきに混じって、高く、鳥が鳴く声が聞こえる。
右も左も前も後ろも。
見渡す限りが森だった。
「……どこだろう…ここ…」
気がついたときには、僕はすでにココに立っていて。
「もう"ゲーム"の中なのかなぁ…」
広く深い森の中で、僕は1人、長い溜息を吐いた。
――――僕の名前はゼロ。ゼロ=シュナイダー。ライセンスを持つプロのハンターです。
とある人を探してこの"ゲーム"、『グリードアイランド』の中へとやってきました。
今まで誰もクリアした事もなく、実際にゲームの中で命を落とす危険があるという不思議なゲーム。『グリードアイランド』。
ゲームに入ったらすぐに、ゲームについての説明があるって聞いてたんですけど……
無かっ……た、ですよね?そんなの?
僕、これからこのゲームの中で、何をどうすればいいのかな…。
とりあえず森の中を、道を探して歩いていた。
無造作に拡がる木々の枝葉を持っていた短剣でそっと刈りながら、僕はサクサクと森の奥へと進んでいく。
「ん…、何だろ?」
しばらく歩いていると、森の奥からブツブツと呪詛のような声が聞こえてきて僕は足を止めた。
なんだろう?と、木の影からそーっと様子を伺うと。
「……おのれ…、三蔵一行め…。この俺の幻術を破るとはやってくれるじゃないか…」
「ん?」
「…む、何だ貴様」
少し開けたところで大樹に寄りかかって肩を押さえていた男性を見つけた。
僕と目が合うと、男性は僕のことをひとしきり見た後「チッ」と舌打ちを漏らした。…何故?;
男性が押さえる肩からは血が滴ってるのが見える。
あ、この人、怪我してるんだ。
「…あの、大丈夫ですか?」
辺りの様子を伺い、その男の人以外の気配が無いことを確認してから、僕は剣を腰の鞘に納めて彼に駆け寄った。
男性は肩に負傷。……銃創だな、これ。
弾は…と、良かった、残ってない。貫通してるみたい。
「いだだだっ!?〜〜〜〜いきなり出てきて何だ貴様!?俺様は今、肩を負傷しているんだぞ!?見れば分かるだろう、この阿呆めが!!そこへさらに腕をひねるとか何事なんだ!?」
「あっ、すいません。傷、深いかなって思って。いま包帯出しますね」
言って、僕はウエストバッグから消毒薬と傷パッドと包帯を出した。
「なっ……、何を余計なことを……」
「まあまあ、こういうときはお互い様ですって」
銃で撃たれたってことは、この人今まで対人戦を行ってたってことだ。
…この人もハンター(プレイヤー)なのかな?それにしては弱そうだけど。
きつく包帯を結びながら、まじまじと彼の顔を見ていた。
――――が。とある一点に目がいって、僕の視線はソコで釘付けになる。
………この人、耳、とんがってる。
「こらキサマ…ッ!?いたたたっ!?やめんかッ!!!」
「うわっ!?本物なんですか!!?」
好奇心に負けてついその耳を引っ張ってしまった。
当然、とでもいうように男の人はその口から悲鳴を漏らす。
…本物だ。くっついてる。
昔、小説で読んだ「エルフ」みたい。……ガラ悪いけど。
じゃあこの人プレイヤーじゃなくて、きっとゲームの「中の人」なんだ。へぇー…。
そんなことを考えていたら、僕のその心を見透かすようにガラの悪いエルフさん(仮)はじっとりと猜疑の目を僕に向けてきた。
………な、なんでしょう?;
「…この匂い。やはり貴様人間だな?人間が何故俺を助けた?」
「え…、何故って言われても…。あなた、怪我してたじゃないですか」
「そ、それはそうだが…。いやそうじゃない!!俺様は妖怪だぞ!?貴様、俺のことが怖くないのか!?」
「へ?ヨーカイ?」
「…ふっ…、はははは!バカめが!!いまさら恐怖しても遅いわ、人間!今ココでこの俺の傷を手当てしたことを後悔させ」
「ヨーカイって何ですか?」
「ぶ。」
くわっと立ち上がったと思ったらその勢いのままその人はずっこけた。
その際に肩を痛めたのか、しばらくうずくまった格好でその人はプルプル震えていた。
「えと…大丈夫ですか?」
「くっ…何、この程度……俺にとってはホンのかすり傷よ…」
「(涙出てますけど…;)」
肩を押さえながら、むっくりと身を起こしたその人。
背後の大樹に寄りかかり、怪訝そうな目で僕を見据える。
「…しかし貴様、妖怪を知らんだと?」
「ぇえ?ああ、まあ、はい。僕、まだココ来たばかりで……、だから知らなくてすみません。教えてもらえると嬉しいんですけど…」
僕がぺこっとお辞儀をすると、男の人は意表を突かれたようでぽかんと口を開けていた。
…あ、キバ生えてる。やっぱりこの人、人間じゃないんだ。
「ふっ…、ま、まあいいだろう…。そういうことならば、この俺様が無知な貴様にとっくりと教えを説いてやろうではないか…。心して聞き、そして恐怖するがいい!」
「は、はあ;」
そう言って男の人―――雀呂さんというらしい―――は教えてくれた。
雀呂さんは『妖怪』という人種で、昔からこの世界―――『桃源郷』で人間と共存してきた種族らしい。
でも人間は、自分達よりもずっと強い力を持ってる妖怪たちを怖れ、あるときから妖怪を迫害し始めたんだそうだ。
集団で妖怪を襲ったり子供を人質にとったりして妖怪を殺しまくって、人間達だけの世界を作ろうとしているって。
へぇー、人間って怖いですねー。(棒読み)
「そして俺はそんな人間どもの愚行を止めるため、妖怪達のリーダーとしてこの森を拠点に人間どもと戦っていたのだ」
「ふーん…。で、雀呂さん、こんなところで怪我してたって事は…負けちゃったんですか?」
「違うわバカもの!!
正面から戦うのならば何人が来ようと俺は奴らを退けられた。…だが奴ら、それを知ってか身の毛もよだつような卑劣な戦術を用いて俺にここまでの手傷を…!
おかげで敗走を『余儀なく』されたのだ!!断じて負けてなどいない!!仕方なく退いただけだ!」
「ふふ…、そうなんですか〜」
大げさな身振り手振りに加え、地面に拳を打ちつけたり、爪を噛んだりと、演技過剰気味に延々と1人で喋り続ける雀呂さん。
見てて飽きない人だなぁ。ついほのぼのと笑顔が浮かんでしまう。
「まさか奴らがあのような人道を廃した極悪非道な戦法まで使ってくるとはさすがの俺も考えに無かったのだ…。フッ…奴らそれほどまでに俺の力が恐かったのだろうよ」
「ふーん…。じゃあ要するに、雀呂さんは本当ならすごーく強いんだけど、その力を出し切る前に人間達の卑劣な罠にハマッてやられちゃったってことですね?」
「ふふん。その通りだ人間。貴様、なかなか話がわかるな!」
ふはははは、と雀呂さんが高笑いに笑い出す。バシバシと肩を叩かれて、僕もあはは…っと愛想笑いを返した。
……って、なんかこの人……;
「妖怪はただでさえ人間より大きな力を有しているし、ましてや我が力はその中でも特異。『幻術使いの雀呂』といえば、少しは名の知れた存在なのだ。
本来ならば人間相手にそう簡単にやられたりせんのよ」
腕を組み、ふふん、と得意げに言う雀呂さん。
気持ちよく話せてるところ悪いんですけど、僕、ちょっと気がついちゃいました。
顔のニコニコが止まらない。
「へぇー、すごいですね〜」
「うむ。…いや!『すごいですね〜』ではない!のほほんとしすぎだ貴様!!
だから俺様が貴様に何を言いたいのかというとだな!我が力を持ってすれば、貴様のような人間1人赤子の手をひねるかのように簡単に殺せるぞ、ということだ!!
貴様も人間なら、妖怪である俺様をもっと恐れろ!我が前にひれ伏し、そして不様に逃げ出せ!!」
「えー?どうしてですか?」
「な……、『どうしてですか』だと!?『どうしてですか』ではないわ!!だから!俺様は『妖怪』なんだぞ!?貴様ら人間よりもずっとすごい力を持って……」
「や、待ってください?だって雀呂さんって、妖怪を迫害する人間達の愚行を止めるために戦ってるって言ってましたよね?」
「う、うむ? …うむ、そう言ったぞ。……………うん?」
―――ほら、ちょっと突っついたら雲行きが怪しくなってきましたよ?雀呂さん、どうするんでしょうか。
何か様子がおかしいことに雀呂さんも気づいたのか、僕の言葉を聞いて少し首をかしげ始める。
「んー、だったら少なくとも雀呂さんは、また昔みたいに人間と共存できたらいいなって思ってるってことですよね?人間達の『愚行を止めたい』んでしょ?」
「え……」
案の定固まる雀呂さん。
顔色が、みるみる青ざめてく。
「僕が妖怪である雀呂さんに襲い掛かったならともかく、こうやって傷の手当てをした僕を無下に殺す理由は雀呂さんにはもちろんありませんよね?
―――だって本当は雀呂さん、僕達人間と共存したいって思ってくれてるんですから!」
「ぐふっ!!?」
満面の笑顔で力いっぱい言ったら、雀呂さんは噴き出した。
「ちょ…待、キサマ……っ違…;」
「そもそもですね、妖怪っていっても雀呂さん、耳とんがってるだけで僕とそんなに外見違わないし。
今、雀呂さん…いや妖怪さん達のこと恐いかって尋ねられても、僕はそう思いません。この世界の人間達ならどう思うかは分かりませんけど…。
でもここには今、そんな僕とそんな雀呂さんが2人だけで、他の人間も妖怪もいませんし…。
ちょっとの間だけかもしれませんけど、昔人間と妖怪が共存できてたっていうように僕も雀呂さんと仲良くできたらなーって思うんですけどね?」
僕がにこーっと笑いかけると、冷汗いっぱいかいて狼狽していた雀呂さんもそのうちに観念した。
ふふん。―――これで僕の勝ちです!
「〜〜〜〜っ。…そうか、貴様何も知らないのだったな…」
「はい〜。」
頭を抱えて、雀呂さんがうーうー考えている。
僕を恐がらせたかったんなら最初から『俺は人間を憎んでるぞ!!』とかそういう直球な事言っておけばよかったのに。
無理に格好良く見せようするから墓穴掘るんですよ。
…とか考えてたら、頭を抱えていた雀呂さんがゆらりと復活した。
あれ、ここからどう弁解するつもりなんでしょうかね?
「ふっ………; そ、そうだな……、お前は運が良い。
確かに、お前が少しでも妖怪のことを知っていれば…お前はこうして俺を助けなかったろう。必ず、あの時弱っていた俺をチャンスとばかりに襲うか、のたれ死ねと見殺しにしていたはずだ…。
ふ…、そうなればもちろん俺様はお前に容赦しなかったし、それにもしここに倒れていたのが理性的なこの俺様ではなく別の三下妖怪だったのならば、傷を手当てしたその場でお前は引き裂かれ殺されていたかもしれんのだからな」
「え?そうなんですか?」
自らの台詞に酔いしれるように言う雀呂さん。
あー…、結局そのまま通すんですね?
「そうだ。同族を多く殺され、迫害され続けた妖怪どもの大半は、当然のように人間を憎んでいる。もちろん俺もだが…。しかし」
「―――『しかし』……、雀呂さんはまだ人間を信じようとしてくれてるんですね?v」
「うっぐく……!? ………う、うむ…。そ、そういうことだ………」
言葉尻を奪い取って念を押すように言うと、雀呂さんは眉をひくひくを引きつらせながらそれを肯定した。
引っ込みつかなくなっちゃったのが簡単に見て取れて、僕は雀呂さんにバレないようにクスッと笑った。
「カッコいいなぁ〜」
「ふ、ふん…。そうだろう?」
「…でも雀呂さん、最初は僕のこと襲おうとしてましたよね?」
僕が苦笑いを浮かべると、雀呂さんはむぐっと言葉に詰まった。
「む、そ、それは…。そ、そう!俺がああいう"フリ"を見せてやれば、お前のような『人間』は俺に恐れをなしてすぐに逃げてくれると思ったのだ!
かすり傷とはいえ、治療をしてくれた相手を本気で殺すほど我が高貴なる誇りは地に落ちてはいないしな!
傷つけずに済むのならそれが一番良いと…、かっ、考えてだな……、悪役に徹したわけだ…!それ以外あるわけ無かろう!ふっ…ふははっ!!」
「あはは、じゃあそういうことにしときましょうか」
「な……。貴様、なんだその投げやりな返答は!?何故笑う!?
大体、お前少しおかしいぞ!?人間が、妖怪の言う事をそう簡単に信用してはダメだ!!俺が嘘をついてたらどうするんだ!?」
「え…、雀呂さん、まさか嘘ついてたんですか?…ひどいです、僕が何にも知らないと思って…。一体どこからが嘘なんですか…?」
「それはっ…だな、……うぐぐ…、な、泣くのではないキサマ!!」
…ふふ。なんか面白い人だなぁ。ついからかいたくなっちゃう。
なんだかんだ言ってたけど結局助けてくれるって事は、きっと本当に根っから悪人じゃないんだろうな。
「ふっ…;人間の男の癖に気の弱い奴だな、仕方の無い奴だ…。
本来ならば俺様は妖怪どものリーダーとして人間を許す事はできないが、お前は俺のこの傷を手当てしてくれたからな。
他の妖怪も見てないことだし、今回のところは見逃してやろうではないか。俺様は心優しい妖怪なのだ。だからお前はさっさと…」
「そうですか〜、ありがとうございます。じゃあその前にこれ、替えの傷パッドと傷薬と包帯と化膿止めと、置いていきますね」
ひょいひょいとウエストバッグから包帯その他を取り出して雀呂さんの前へと並べていく。
すると雀呂さんは慌てた様子でその僕を止めた。
「いや!!待て待て待て!もういい、人間!いくらなんでもそこまで施しは受けられん!俺様は本来ならば人間殲滅のための…」
「…あ、他の妖怪さんたちの手前、自分の意志とは反対に人間と戦わなきゃいけない悲劇のリーダーさんだからですね?でも化膿止めくらいは飲んでおかないと後が大変ですよ?はい。」
「……き、貴様…、もしやワザとやってるんじゃないだろうな…」
「えっ?何がですか?」
「ぬぐぐぐ…」
「ハイ、化膿止め!ちゃんと飲んでくださいよ?」
強引に化膿止めの薬を握らせる。
自分でそういう設定にしちゃったんだから最後まで責任持って演じてください。
………たとえその姿が偽りのものだったとしても。
「んじゃ僕、そろそろ行きますね。妖怪のリーダーさんが人間と仲良くしてるのをもし誰かに見られたら、他の同族さん達にも心証悪いでしょうし?」
「だから…それは違うのだ……」
「え?なんですか?聞こえませんでしたけど」
「〜〜〜〜〜!!」
立ち上がって、僕は大樹の脇に座ったままの雀呂さんを見下ろす。
雀呂さんは相変わらず、なにか悔しそうに爪を噛んでる。…あはは。
「ふ、ふん…。まあ良いわ。俺様は心が広いからな…。―――それで、お前はこれからどこへ行く気なのだ、人間」
「えっ…」
どこへ行くかって………うーん、そうですね…。
「んー、そうだなぁ…。僕―――、ん、そうですね…。
じゃあ僕もこれから、雀呂さんみたいに『人間と妖怪が元通り共存できる平和な世界』を目指して、人間と妖怪の争いを止めるために尽力してみようかな!」
びしっと、雀呂さんに向かって笑顔で敬礼のポーズをとる。
雀呂さん、妖怪のリーダーさんらしいですし?(どこまで本当か分からないけど)
僕も同じ改革派メンバーとして、『いつかまた人間と妖怪が共存できる世界に戻るよう、密かに準備を進める雀呂さん』をリーダーさんとさせてもらいます。
……なんてね。
たとえ、"それ"が嘘から生まれた言葉でもいいんです。
でもそれがきっと、僕がこの世界でやらなきゃいけないことのような気がするから。
―――たとえそれがゲームクリアのための本当の目的じゃなかったとしてもね。
だって素敵じゃないですか。皆が皆、仲良く幸せに暮らせれば。
理想は高く、信念は強く。
それが、生きていくうえで一番大事な事だって……僕が僕の大切な人に一番最初に教わった事だから。
僕、少し頑張ってみようと思います。
「じゃあまたどこかで会えるといいですね、雀呂さん。できれば、世界が平和になった後で!」
「う、うむ。」
眩しいくらいの笑顔を、妖怪である俺様に見せてくる人間。
我らが動くのに都合のいいように吹き込んだつもりだったが、こうまで簡単に信じるとは…。ふ、所詮は人間だな。
途中若干予想外の解釈もあったが…、それはこのおかしな人間がおかしな方向に勘違いをしただけであって、断じて俺のミスではない。
誘導催眠、話術の天才であるこの雀呂様にミスなんかあるわけないのだ。そうなのだ。
だから例え、この人間が次にどこかで別の妖怪と会って、勘違いしたまま対応を間違えて殺されようと、俺様にはもちろん関係ない。
………。
ふっ…。
か、関係は……
「―――待て、人間!」
「はい?なんですか、雀呂さん?」
森の奥へと消えようとしていた背中に声をかけ引き止める。
―――――別に、さっき話してたときに俺に向けてくれた、あの笑顔が気に入ったわけではないぞ。
「うむ…。お前に少し言い忘れていたことがあってな」
「へえ?」
「これからお前がこの桃源郷で旅をする上で何よりも重要な事柄だ。しっかりと聞いていけ?」
「…はい。」
言われたとおりに、しっかりと俺の目を捉える青の瞳。
柔らかく穏やかに返事を紡ぐ唇。
そして極上のこの笑顔。
ふ、そうだな。やはり人の話を聞くときはそうでなくては…。
――――――誰にも渡したくなかったのだ、俺に向けてくれるこの顔を。
……イヤイヤ、違う。たかが人間の、しかも男相手に何を考えているか俺は。
そんなんではない。決して!
「……良いか、人間。俺様と別れた後は、妖怪相手に決して油断してはならんぞ!?
妖怪は皆、人間を見たらすぐに襲ってくるからな。俺様のような理解のある素晴らしい妖怪などこの桃源郷には俺様を置いて他、まず1人もいない!
貴様のその無防備なアホ面を見たら、妖怪は必ず!!お前のことを殺そうと襲ってくる!そこのところをよ〜〜く覚えておくがいい!!
―――いいか、今後妖怪に会ったら!すぐに!!逃げるんだぞ!!例え相手が怪我をしていても、今回のように手当てをするなどもってのほかだッ!
でなければ死ぬぞ!必ず殺される羽目になる!!だから妖怪には絶対に近づくな!!わかったか、この脆弱な人間め!!!」
ゼイゼイ、と―――、…くっ、何を息を切らすまでに俺様は熱くなっているのだ!?こんな人間相手に!!
バカらしい、と自分でも思う。
だが、目の前の人間は――――
「あははっ、そんな力いっぱい言わなくても。…わかりました。気をつけます。心配してくれてありがとうございます、雀呂さん」
そう言って、本当に嬉しそうに笑って…、ぺこりと俺に頭を下げてくる。
…ちょっ、お、
……おおおお落ち着けっ、静まれ我が心臓!早鳴るのではない!!
よ、よ、よ…、妖怪がっ、人間に礼を言われて『嬉しい』なんて………嬉しいなんてッ!!
―――――思ってたまるか!!!断じて無いわそんなことは!!!
こ、この人間はッ、この人間は………
そうだ、ちょっとおかしいのだ、この人間は!
この桃源郷で妖怪を知らん人間がいるわけ無いしな!!やはりどこか頭でも打ってるに違いない!!
「……赤くなったり青くなったり…。なんか忙しいですね、雀呂さん?」
と…、くすくす、と控えめに笑われてしまい、カッと顔に熱が上った。
「ちっ、違うわバカものッ!!!
何故そんなハズかしい真似を、この完璧なる雀呂様がせねばならんのだ!!誇り高き妖怪である俺を侮辱する気かキサマ!!」
「え…;侮辱したつもりは無いんですけど…」
「大体だな!俺様は心配などという幼稚な感情からあのような事を言ったのではないぞ!?
脆弱な人間の身で、和平のためになどとこれから長く・厳しく・辛い旅路へと身を投じる破目になる、哀れなる貴様へのっ…、貴様への……、心優しい雀呂様からの最初で最後の手向けだ!!
貴様には、この傷の手当てと化膿止めの分の恩があったしな!!受けた恩義は返す、それが当然だろう!?だから『忠告』してやっただけだ!!
貴様を気に入ったからとか…、俺様以外の妖怪に手を出されたくないとか……、そういうことではないのだからな!!勘違いするんじゃないぞ人間っ、調子に乗るなっ!!」
…そうだ、この人間には一つ恩義があったのだ。
これを返さずにおくほど俺様は不義理な妖怪ではないからな。―――決して『心配』などという感情のせいではない。
手当ての『返礼』として、『忠告』を与えてやっただけなのだ!他意など無い!
微塵もな!!!!
「(なんか語るに落ちてる…)」
「何だとッ!!?」
「いえ、なんでも…;」
「ふ……、そ、そうだろう?…なんでもない。なんでもないのだ。…なんでもなければ別に良い…」
「(はは…;)」
俺様は何も言ってないぞ?おかしなことは何も言っていない。何もな。…言ってないはずだ。
この華麗なる幻術使いの雀呂様が、そんなことを言うわけがなかろう。フ……フフフ。
「ふ… ではいつかまた遠い未来にもう一度会おうではないか、人間!この桃源郷が、元の姿へと戻った後でな!」
「はい、いつか必ず。……さようなら、雀呂さん。お気をつけて」
「ああ。さらばだ人間!ふはははっ!!」
羽織ったコートを翻し、俺様は颯爽とその場を去った。
ガサガサと草木を掻き分け、森の中へ分け入る。
人間は、俺様の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り別れを惜しんでいた。
フッ、さすがは俺様。美しい別れだった。
しかし……
「名を尋ねるのをすっかり忘れていたな…」
思わずその場で頭を抱えるほどに落ち込んだ。
……しかも何をやってるのだ俺は。
そもそも何故誇り高き妖怪であるこの俺様が、人間との共存のために戦ってるような話になってるのだ。
バカか、あの人間は。バカか。
「……いや、何。関係ない、関係ない。もうあんな人間のことなど微塵も関係ない。
ふ…、そうさ。この広い桃源郷で一度別れては、もう二度と会うこともないだろうしな。一夜の悪夢に出会ったと思って忘れよう。うむ。
名を訊かなかったことも、むしろその方が清々と忘れられるという計算の上だ…」
そう、この雀呂様の使命は、玉面公主様の命令どおりに三蔵一行から経文を奪うことのみ。
それさえ終われば、俺様は吠登城での地位を確立できるのだ。汚らわしい人間の社会との関わりも断ち切れる。
―――さすれば、あの人間と会うことも無い。思い出すことなどもちろん無いしな。
今日のことは…そうだ。この肩に受けた傷の熱が見せた、ひとときの悪夢だったのだ。
寝て、目が醒めれば綺麗に霧散して消えてしまう。
消えて――――…
『雀呂さん。』
あの人間の呼びかけが、突如として耳に蘇る。
『心配してくれてありがとうございます、雀呂さん』
そう言って柔らかく笑った、あの笑顔も。
はぁ…。
考えればやはり名くらいは訊いておくべきだったか…。
「………いやいやいや。待て、なんだ今の溜息は!?」
おかしいだろ、今のは!!
激しくおかしいぞ!?何かが!!
何だ。何だ?何故だ!?
「―――はっ!?そうか…! ……ぬうっ…!あの人間、さては化膿止めと称して毒を渡したのだな!?」
そうだ、そうに違いない!
なんだか頬が熱っぽいのもそのせいだな!?
むう、これだからやはり人間は信用ならん!
あどけない振りをしてこの俺様を騙しおって…!
許せんな!!
「ふっ…。ならばもう一度、必ずや会わねばなるまい…。この雀呂様を謀った罪は重いぞ、人間!目に物見せてくれるわ!!ふはははははは!!」
「………あ、なんか雀呂さんが高笑ってる声が聞こえる…;」
雀呂さんと別れ、再び森の中を歩いていたら、少し遠くから特徴的な笑い声が聞こえてきた。
遠くからでも本当に良く目立つ人だなぁ。
普段からああいう、自演の激しい人なんでしょうか?;
声が聞こえてきた方向へ向け、僕はほっこりと暖かい気持ちになった。
まあ『暖かい』、というか…
生暖かい?
「また会えたらいいけどなぁ…」
とは思いつつも……
常時あの人と付き合うのは疲れるだろうなぁとも思った。
つづく
NEXT→02:不運な邂逅
雀呂落ち三蔵一行逆ハー夢とかやってもいいくらいに雀呂が好きな管理人ですみません。趣味全開の雀呂夢です
時系列的にはリロード2巻での雀呂さん初戦→撃たれた後設定で
すもも