Troublesome visitor (in BLEACH) ◆1-02:僕、女じゃないです



「へー、市丸さんはこんなところで働いてるんですか…」

「けったくそわるいところやろ?」

「そーですかね?白くてキレイだし、僕はそんなに嫌いじゃないですよ」

「エエ子やな〜、ゼロは」


結局手を繋ぎ、広い瀞霊廷内を歩いていた2人。


六番隊隊舎付近を歩いていたときに、後ろから誰かに声をかけられた。




「この非常時にこんなところに部外者を連れ込んで何をしている?」

「…あ。」

「…なんや六番隊長さんか」


後ろを振り返った先に立っていたのは、白い薄布を首元に巻いた、市丸と同じ格好の黒髪の美丈夫。


市丸の"隊長"という言葉を耳にして、『偉い人なのかな?』とゼロは思う。

しかしそれと同時に、市丸の"同格"といわんばかりの言い草に、(市丸さんももしかして偉い人だったのか…;)と少しあせりをも覚えた。



「この瀞霊廷内に旅禍が侵入したらしいという報せ、聞いていないわけではあるまい?」

「旅禍!そら大変やな。どおりでいつもより廷内が騒がしい思ったわ」


「…リョカ?」

「(ええから黙っとき。)」


リョカってなんですか?と市丸に聞こうとしたら、合図のように繋いでいた手をキュッと引っ張られて、ゼロは黙る。


「隊長各位にも召集の命がかかっている。もちろん兄にも。こんなところでそのような娘とじゃれている暇はないはずだが」

「(娘じゃないです)」

「(黙り言うてるやろ)」


「ふん…、もっとはっきりと言ってやれよ朽木。この非常時に芸子連れ込んで遊んでんじゃねぇって」



市丸とゼロの背後から、また1人、誰かが口を挟む。

髪を尖らせた、無骨な男。



「…芸子って酷いなァ十一番隊長さん。ボクは昨日やぁっと再会できたこの生き別れの妹に、ボクの仕事場見てもらお思て案内しとっただけやのにv」


言って市丸は、むぎゅっ、とゼロの肩を抱き寄せる。

抱き寄せられたゼロは、黙ってはいたがなんだか納得いかなそうな表情。


「―――はっ、お前の妹じゃ身分もたかが知れてるぜ。それともなにか?『市丸は女とやってて来れません』って山本のじいさんに言って欲しいってことか?そりゃあ」

「いややなぁ。そんなん言われたらボク総隊長さんに叱られてまうやんか。堪忍したってな」

「ふん、そんときはてめぇのその自慢の二枚舌でなんとかすりゃいいだろが。…ま、じいさんがそれで許すとは思えねぇがなぁ?」



ヒヤリとした殺気が場を包む。


その空気がわからないゼロでもなく、「これってやっぱり僕が原因なんだろうなぁ…」と思い、思い切って間に入る。



「あの、すみません。僕が無理やり市丸さんに頼んだんです。…ごめんなさい市丸さん。お仕事あるって言ってたのに、無理に付き合わせちゃって。

僕、1人でもゼンゼン平気ですからどうぞお仕事の方がんばってください」


六番隊と十一番隊の隊長にぺこぺこと頭を下げ、そしてそれから市丸に向かって『ねっ!』と力いっぱいの言葉でグッとせまったゼロ。

そして「合わせてください、」と市丸にだけ聞こえるように小声で合図を送る。




「………くっ。……ふ、ハッハッハァ!!」

その様子を見て、突然十一番隊の隊長が大声で笑い出す。何なのか、とゼロは大きく目を開いた。


「テメーの『妹』にしちゃ上出来だな、市丸。テメーももう少しその『妹』のこと見習ったらどうだ」

「僕、妹じゃないです!」

「んなもん見りゃわかる」


ふいに、大きな手でぼすっと頭をなでられてゼロは思わず肩をちぢこめた。

じろ、と鋭い瞳がゼロの顔を覗いた。




「市丸に飽きたらいつでも俺の所に来い、女。地獄の底まで俺が案内してやる」

「……え、遠慮しておきます…;」


―――怖いです。顔がすごく怖いです。ちびっちゃいそうです。

そのうえ僕、女じゃないです。



「くっくっく…。―――じゃあな、お嬢ちゃん」

「お、お嬢ちゃんって……だから…っ!」


ゼロの頭をなでていたその手をヒラヒラとさせながら、十一番隊の隊長はくるりと方向を変えズンズンと廊下の先へと歩いていってしまう。

それまで黙って市丸と十一番隊隊長のやり取りを眺めていた六番隊の隊長も、市丸とすれ違いざまに「遅れぬようにな」と残して十一番隊隊長の後に続いて行ってしまった。






「……むーっ!ひどいですよ、市丸さん。『妹』だなんて」

2人の姿が見えなくなってから、ゼロが市丸に向かって少し口を尖らせながらそう漏らす。


「堪忍なー。せやけどおかげで助かったわ。サスガ、ボクの妹やv」

言って、市丸はギュ、と両手でゼロを抱きしめた。が、抵抗されてすぐに手を解かれた。


「だから妹って何ですかっ!僕、男です!身長だって貴方とあんまり変わらないじゃないですか!」

「いやァボクのほうがまだずいぶん高いやろ。……ちゅーか…ゼロ、まさか怒っとる?」

「…ええ、ちょっとだけですけどね!」


市丸を見上げ、にっこりと笑顔でゼロが言う。

……しかし笑顔なわりに、目だけが笑ってないのは気のせいか?


「市丸さんお仕事なんですよね?……ね?早く行きましょうよ、お仕事。ねぇねぇ」

「…怖ぁ…。なんやツレないなぁゼロ…」


笑顔のまま、つんつんぐりぐりと強めに腕をつついてくるゼロ。

「怖い、怖い」とつぶやきながら、市丸はまた長い廊下を歩き出した。






つづく


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すもも

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ももももも。