silver fang 番外編◆とある日のゾル家・4(double styleコラボ)
※原作沿い夢double styleとのコラボです






「お帰りなさいませ、イルミ様」

「ただいまアゲハ。お客さん連れてきたから部屋に通してお茶出して」

「かしこまりました」


イルミ様がなにやらおかしな男を連れて庭の散策から戻ってこられた。



スマートなルックスに襟口の大きく開いた黒いシャツを着て、(肩が出てる。脱げないんだろうか?)

遠慮なくさらされる白い首にはコントラストを決める黒い紐で結ばれた銀十字の首飾り。


自信ありげに吊り上げられた口元からは濡れた赤い舌が覗き。まるで自然に、見る者を誘うようにペロリと唇を撫でた。



悪戯っぽく笑う切れ長の青い瞳。

わずかなしぐさにもサラサラと流れてついていく、無造作に伸ばされたストレートの髪。

どれもが、まるで手馴れた娼婦をほうふつとさせて。



(…変な男…)



それがオレの、彼に対する第一印象だった。





――――男の名はジャズ。


昔、旦那様と互角にやりあったらしい、『始末屋ジャズ』という肩書きを持つ男だった。









「ふーん…、ここがお前の部屋なのか?イルミ?」

「うん。テキトーに座ってよ。今お茶持ってこさせるから」


キョロキョロと部屋の中を見回し、それから言われたとおりジャズはソファの適当な位置にボフンと座り込んだ。

遠慮なく背もたれに寄りかかり、長い足を組む。

態度の大きなその姿に、どちらが部屋の主かわかったもんじゃないな、とイルミは苦笑した。


「リラックスにもほどがあるよ、ジャズ」とジャズの横をすり抜けて、そして自身も、ちょうどジャズの正面に位置するソファへと座り込んだ。


「そういやお前の部屋に入るのは初めてだな」

「そういえばそうだね。感想は?」

「意外なほどフツーでつまんね」

「どういう部屋を想像してたわけ?」


「失礼します」


…と、小型の台車を押して、アゲハが部屋に戻ってきた。

台の上にはティーセットにポット、皿、ナイフ、そして結構大きなパウンドケーキが乗っていた。



「あー…。もしかしてオヤツの時間だった?」

「知ってて来たんじゃないの?」

「ククッ…、バレた?」


悪いね、と片手を上げて、悪戯っぽく笑いながら平謝りするジャズ。

イルミは相変わらず無表情な猫目でジャズを見ていた。

アゲハは無言でお茶の用意に入る。


「あ、でもヘンなもん入れてないよな?」

「お客に出すものにまで毒とかヘンなの入れるのは母さんだけだよ。ねぇアゲハ?」

「はい。こちらのものには特別なにもお入れしておりません」


"ねぇ?"という同意の声を、「何も入れていないよね?」という意味ととらえ、アゲハはそれに追随するように答える。

さすがに『奥様ならばそうですね』などとは口が裂けても言えない。



「なら良いけど……。でさ、イルミ。さっきから気になってたけどアイツは?」

親指で、自分の背後で作業するアゲハを指差してジャズがイルミに尋ねる。


「ジャズは何だと思うの?」

「ハッ、そりゃお前の……」


と、考えるようにそこで言葉を切って、後ろのアゲハを一瞥。


そして



「…小姓?」


などと爆弾発言。




そのジャズの一言に、アゲハはパウンドケーキをカットする手を一瞬よどませた。

しかしすぐに、何事も無かったかのように無言で作業へ戻る。



「ハッ。…怒った?アゲハちゃん?」

「いいえ」


ちょっと後ろを振り返り、ポットからカップにお茶を注ぐアゲハに軽い口調で訊くジャズ。

返ってきたそっけない返事に、イルミのほうに向き直って「やっべ怒らせちまったな」と、ジャズはちょろりと舌を出した。



「気難しい子だからあんまりからかわないでくれる、ジャズ?後のフォローが大変だから」

「そうなのか?美人なのにもったいねぇ。まあ確かに"小姓"って歳ではねーみてーだけどさ」

「ジャズ様、紅茶にはミルクかレモンかお入れいたしますか」


静かに、しかし僅かに圧力のある低めの声を、アゲハがジャズのセリフにかぶせてきた。

普通ならお客相手に絶対そんなことをしない。

ああ、相当怒ってるなとイルミは思った。ジャズも同じことを思ったのか苦い表情で肩をすくめていた。



「紅茶ならストレートでオネガイシマ〜ス」

「かしこまりました」


ふざけたように言うジャズにアゲハは内心呆れつつ。

「…失礼します」

「おう、サンキュ。」


まずジャズの前にお茶と菓子を、続けてイルミにも同じものを出す。


「おかわりもございます。何なりとお申し付けくださいませ」


美しい動作で一つ礼をしてアゲハは戻っていく。

トレイを台車の上に音も無く置いて、そしてアゲハは台車の脇に立った。


背を伸ばし、スッとそこに立っているアゲハを、ジャズはちらりと見やる。



シルバと同じような、透き通るほどの銀髪のくせ毛。

左右色違いの、銀と紅の瞳。


その瞳と目が合うと、アゲハはすかさず「何かございましたでしょうか、ジャズ様?」と声をかけてくる。

「何でもねェよ」とジャズはヒラヒラ手を振って正面に向き直った。



「……イルミ。お前、あれ自慢したかったんだろ」

「あ、わかった?」


間違いなく『美形』に類される男だと思った。その上えらく強そうなイイ男だ。

ヒソカとかが涎をたらして凝視しそうなくらいは。


わざわざオレの前につれてきたのは―――いや、イルミが「お茶ご馳走するよ?」などと家に誘ってきたのはこいつを自慢するためか、とジャズはクスリと笑う。



「ジャズになら見せても良いかなって」

「ほーぉ?」

「ジャズは人のもの欲しがったりする性質じゃないだろ?」

「ハッ、そうでもないぜ?そりゃ誰へのあてつけだ?」

「…たぶん今ジャズの頭の中にいる人間。」




「「ヒソカ」」



とイルミとジャズの声がハーモニーを奏でる。


次いでジャズの笑い声が部屋にこだました。




「それからあとクロロとか」

「ああクロロ。…誰それ?」


イルミが紡いだ言葉を反射的に反復してから、ジャズはその名前に覚えがないことに気づく。

頷いておいてなんだがイルミに聞き返した。


「クロロ=ルシルフル。知らない?」

「記憶にねぇな…」

「まあそのうち会うと思うよ。ジャズって割とクロロの好きそうなタイプだから」

「ふーん…。ま、テキトーに覚えとく」

「…それって全然覚える気無いよね?」

「おう、当然」


話を流すように聞いて、ジャズはお茶に手を伸ばした。



強い香りを立てるダージリン・ティー。一口飲んで、「ん、うま」と漏らす。


"アイツ"の淹れる茶もうまいが、アゲハの淹れた茶もそれに劣らずオレ好みの渋みというか。

まあ名高い「ゾルディック」の使用人なんだから茶ぐらい淹れるのうまくて当たり前か?と思いながらジャズはケーキの皿にも目をやった。

クルミと焼きチョコがごろごろと入ったパウンドケーキ。ネテロのトコの「カステラ」も好きだが、パウンドケーキも結構好きだった。

生クリーム物のケーキは甘ったるすぎて好きじゃないけど。


うむ。味もさすがゾルディック。ほのかな甘みとソフトな口当たり。

教育が行き届いてマス、キキョウ様。



「何で様付け?」

「…イルミお前、オレの心を読むな」

「声に出てたし。じゃあ次はカステラも取り寄せとくよ」

「…ぉえ、オレそこまで口に出てたか?」


そんなやりとりをイルミとしていたら、後ろからフフッと笑う声。



ジャズの後ろに人間は1人しかいない。


ジャズはゆっくり振り返り。



「……今お前笑ったな?」

「笑っておりません」

「いや、笑っただろ?アゲハ?」

「…申し訳ございません」


名前まで呼ばれてしまい、さすがにアゲハは白状した。


「おいイルミ。お前のペット、しつけがなってないぞ?」

「はいはい。後でちゃんと言っとくよ」

「ホントかよ!?」


我関せずといった風にお茶を飲んでいるイルミに、ジャズは当然のように疑問符を投げる。


ころころよく表情が変わるなぁとイルミはジャズのことを面白がって見ていた。

イルミの表情に変化が無いせいでジャズにはそれがわからなかったようだが。




「ったく。…よっ…」


何か思い立ったのか、ジャズは組んでいた足を解き、足で少し反動をつけて手を使わずにソファから立ち上がった。


そしてスタスタとアゲハの元へ。

イルミはやはり面白がって無干渉を決め込み、ひとりパウンドケーキにフォークを入れていた。






「ふーん…?」


ジャズはアゲハと向かい合い、じ、とその顔を眺める。

近づいてみてもアゲハは人形みたいにじっと微動だにせず。

ただ、銀と紅の瞳だけはジャズの目を見ていた。



「アゲハ。……で、よかったよな?」

「はい。なんでしょうかジャズ様」



アゲハの、ふわふわ波打つ銀髪の間から覗いている血のような紅い色の右目。


綺麗な目だな、と思った。

銀髪に白い肌。全部白っぽい中、瞳だけ―――しかも両目ではなく片目だけ色が違うので、なおさらそこに視線が吸われる。



アメ玉みたいで…ちょっと舐めてみたい。



アゲハにもわかるように、ぴちゃりと音を立てて下唇を舐めた。


視線がわずかに動いたのを見てからジャズは、ゆっくりとさらに距離を詰めて。





「なァ…、オレと遊ぼうぜ…?」




首筋を、胸元を、見せ付けるようにしながら誘いかけた。


距離が近すぎるせいでアゲハが一歩後ろへとよろける。



「…っジャズ様、なにを…」


ふいに開いたアゲハの唇に、ジャズはするりと指を添える。

そのふれあいに体を固めたアゲハがもう一歩後ろへ下がろうとして台車にぶつかり、ガシャンッと音がした。


それに気をとられたアゲハをジャズは今一歩追い詰め、熱を帯びた視線を流す。




「…なにってさぁ…」



イルミも構ってくれねーし……




どうだ?


ふたりで…?





一言一言、至極ゆっくりとした口調でそうささやく。


そして煽るようにジャズはアゲハの襟元…リボンから胸、わき腹を通って大腿にまで、するりと手を滑らせてきた。


ジャズの細く長い指は服の上からでも的確に体のラインをなぞっていく。


アゲハはぞっと寒気がした。

ある一点に触れられそうになり、アゲハはとっさに大きく身を退いた。




「なァ…逃げるなよ…」


「…………勤務中、っですので」


「ふぅん…?」




………やられた。


言葉を詰まらせ、彼の目から視線をそらしてしまっては、自ら「負けた」と宣言しているようなものだ。

案の定、それを見たジャズがニヤリと口角を上げて。アゲハは唇を噛んだ。




「…ハッ」


声に出して笑った。

ポンポンとアゲハの肩を二度叩いて、ジャズはくるりと踵を返す。


そして元居たソファへと戻って行った。







(…何なのだ、アイツは…!!)



得体の知れない奇妙なものに出会った気分だった。


心臓が早鳴るのを抑えきれない。

気づけば手のひらにじっとりと汗をかいていた。


(いや、落ち着け…)


ゆっくりと静かに、何度も息を吐いて自分を落ち着かせる。


ジャズを見れば、何事も無かったようにソファに腰掛け再びイルミと何かを話していた。

その途中でふとこちらを向いたジャズと目が合い、アゲハは反射的に彼から目をそらした。




ドクドクとまたのたうちはじめる心臓。



………一体何なんだ。


あんな変な男、見たことが無い。












アゲハの反応を見て、ジャズはくつくつととても楽しそうに笑う。


「なんか楽しそうだね、ジャズ」

「ああ楽しいぜ?」

「気に入った?アゲハのこと」

「おお、熱烈至極。お前ズリーよ、あんなんいつから囲ってやがった?」


ヒソカだのクモだの………最近はああいう初々しい反応をする奴になんぞ、なかなか出会う機会がなかった。

あれは見事にツボにハマったなぁとジャズは上機嫌だった。




「お前が良いならたまには貸せよ、アレ」


うーん…、とイルミは少し考えて。



「じゃあそのときはオレにキミの相方貸してよ」



…………相方?




「ヤダ」

「じゃあダメ」

「ケチ」


イルミはその言葉に反論しない。

口を尖らせるジャズを無視するかのように、イルミはお茶のカップに口をつけた。



「つまんねぇなぁ…。じゃあ……」



――――実力行使。



「…だな。」


ジャズのその一言にやっとイルミが顔を上げた。


「…冗談じゃねぇぜ?」とジャズは挑発的な微笑みを見せる。

はあ、とイルミはため息。



「…まいったな。ジャズなら大丈夫だと思ってたんだけど…」

「ハ!オレのどこを見てそう判断したのか一度聞いてみたいもんだな、イルミ?」


舌を出して笑って、ジャズはお茶を飲み干した。







つづく



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一応時系列的にはdouble style原作沿い本編ゾルディック家編終了〜天空闘技場編くらいと考えています
なのでジャズ君は一応まだクロロを知りません

すもも

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ももももも。