silver fang 番外編◆とある日のゾル家・1




「あらアゲハ、貴方ずいぶん髪伸びたのねぇ」


夜半の食事の席。キキョウ様が、食事を配膳するオレの姿を見ながらしみじみとそう申された。

そして言った後で、オレの髪にするりと指を通される。


気づかぬうちに抜け毛でも気に障ってしまったのかと、オレは反射的に頭を下げた。



「これは失礼をいたしました、奥様。明日までには切り落としてまいりますのでなにとぞ本日は…」

「まあ。私そんなつもりで言ったんじゃないのよ、別に切る必要はないわ。貴方はそのままが一番可愛いんですもの。ねえイルミ?」


と、キキョウ様は正面の席についていたイルミ様にそう訊ねられた。

ちなみに本日の食事の席にはキキョウ様とイルミ様、そしてカルト様のみが集まっておられる。



「そこで何でオレに振るのかな。母さんが余計なこと言うからアゲハが気にするんだよ」

「まあひどいわイルミ。本当にそんなつもりで言ったんじゃないよ?だから切るのだけは絶対ダメよ、アゲハ。わかったわね?」

「は…。奥様がそう申されるのであれば」

「そう、よかったわ。…それでアゲハ?それどこまで伸ばすつもりなのかしら?」

「あ、いえ…。特に伸ばすつもりでもなく…」


忙しさにかまけていたら切る暇もなく伸びてしまっただけで、伸ばそうと思ってたわけでは…。

たしかにこんな長さではそろそろ少しカットした方が良いかと思う。



「あら、そうなの?せっかくだしこのまま伸ばしてみたらどうかしら?そのほうがもっと可愛くなると思うけれど」

「はぁ、そうでしょうか…」

「伸ばさなくて良いよ、アゲハ。お前はもうちょっと短いくらいが一番可愛いんだから、ゴトーにでも少し切ってもらいなよ。毛先もちょっと傷んできたしね」


奥様へあいまいに返事を返していると、横からわりと強めの語気でイルミ様が反論なされた。



オレ的には伸ばそうが伸ばすまいがどっちでも構わないんですが…


………というか…、『可愛い』の連呼は恥ずかしいので止めてください……。

私、男ですし『可愛い』はホメ言葉じゃないです…。




「まあイルミったらそんなこと言って!切っちゃだめよ?いい?アゲハ?そのまま伸ばしなさい。ね?」

「ダメだったら。というか母さん、立場利用していいように扱おうとしないで。アゲハはオレの執事だから。…そこにいたら捕まるよ、アゲハ。こっちにおいで」

「はい、イルミ様」


逃がすまいとオレの腕をつかむ奥様の手。それを配膳にかこつけて「失礼します」と解いてもらい、終わった後はさりげなくイルミ様の後ろへと戻った。

そんなオレを見て奥様は残念そうに『あら、もう!』と扇子を握り締めておられたが。



「ねえカルトちゃんはどう思うー?伸ばした方がいいと思うわよね?」


今度はカルト様に同意を求めておられる。

数で押し切ろうというわけなのか…、さすがに抜け目のないお方です。


しかし…


「僕は、今のままで十分アゲハはキレイだと思うんだけど…」

「まあ!カルトちゃんったら!」

「はは。諦めなよ母さん」


「どうしてよ!アゲハだって、イルミとおんなじく長髪になりたいわよね!?」



『おんなじく』を妙に強調して申される奥様。……そう来ましたか。


同じといわれてもオレとイルミ様では髪の色も髪質も違うのでさすがにまったく『同じ』には…。

確かにイルミ様と『同じ長髪』って部分にはそれはそれでちょっと心揺らぐものはありますが。






「ダメだってば、しつこいな母さんも。大体クセッ毛のアゲハが長髪にしちゃオレと同じって言うよりは父さんと同じになっちゃうだろ」





………。



あっ。







「オレはそんなアゲハ嫌だよ。父さんとおんなじとか無理。そんなアゲハ可愛がれない

「あらどうして?良いじゃないのパパ似の執事なんて。可愛いと思うわ〜。ねぇアゲハ〜?」



……嬉しそうなお顔をオレに向け、うっとりと言われる奥様。


オレにどうしろと。

夜伽でもしろと?




「ダメだよ。無理。そんなの良いとか言うの母さんだけだって。家族みんなに訊いたっていいよ。無理。絶対無理。」



とにかく無理、無理無理、と連呼するイルミ様と、それに追随してコクコクと頷くカルト様。

とりあえずオレは仕事が終わったらゴトーに髪を切ってもらおうと決意したのだった。






おわり




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キキョウさんも公認なんだろうか…。

すもも

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ももももも。