silver fang 番外編◆とある日のゾル家・3
※11月11日の季節ネタです。
※さすがに商標そのままはヤバいかと思ってキ→チにしました(爆)




「…アゲハ。今日は何の日か、もちろんわかってるわよね?」



イルミ様と奥様、カルト様が集まる朝食の席。

皆様食事もほぼ終わりかけのころに、奥様が口元をナプキンで拭いつつオレを振り返って尋ねてこられる。




今日は何の日かって?もちろん知っている。



…とはいえ数日前にゴトーに言われるまでオレも忘れていたわけだが。


昨年奥様にオレと一緒にしこたま説教喰らったゴトーはしっかり覚えていて、1か月も前から通販で到着日時指定をしてまで「それ」を準備していたそうだ。

本当に頭が下がるな、ゴトーには。




「はい奥様。この後抜かりなくご用意しておりますのでご安心ください」


今年はヒステリーを起こされずに済むと思ったら、つい笑みがこぼれてしまった。

しかしオレの胸中など知ってか知らずか、奥様はわずかに漏れたオレの微笑みに「まあv」と歓喜され、満足されたご様子。


……と思ったら今度はイルミ様がオレに向かって妙な殺気を飛ばしてきた。…まあ、うかつだったのは認めます。




「…母さん。アゲハとまた何企んでるわけ?」

「あら、なあにイルミ?何も企んでなんかないのよ?」

「何もないならアゲハは今みたいに笑わないよ。相当なこと企んでるでしょ?」

「企んでなんかないわよ〜。今日は11月11日じゃない?ポッチーの日だから、ママはこれからパパのお部屋まで行って、ポッチーゲームでイチャイチャしたいだけなのよ?」


合わせた手を顔のそばに持ってゆき、ゆさゆさと体を揺らして、まるで10代の恋する乙女のような顔でうっとりと申される奥様。

相変わらず、劇場型というか仰々しいというか。オーバーリアクションなお方です。

そこが奥様らしいといえばそれまでなのですが。




「「ポッチーゲーム?」」


「そうよ」



そうそう。あのくだらない…



「…って何?お母様」

「あら?…あらあらあら。そうよねぇ、カルトちゃんはまだそういう事する相手がいないものねぇ」

「そういう事する相手?イルミ兄様は知ってるの?」


と、カルト様はイルミ様の方に目をやられた。

イルミ様とそういう事する相手……。まさかオレのことを言ってるわけじゃないだろうな。



「いや、相手は居てもオレは知らないよ?何、ポッチーゲームって」

「まあ、いやだわ。イルミも知らないの?そんなんじゃイザって時に困るわよ?」



…いや、ポッチーゲームごとき出来なくても困らないと思いますよ奥様。ていうかどんなイザですかそれは。



しかしイルミ様がポッチーゲームを知らないとは…。少し意外だ。


まあ昨年以前も何も言われなかったし、そういう俗っぽいお遊びを積極的に仕入れてくるようなお方じゃないしな。

「ポッチーゲームやろう?」なんてポッチーの箱抱えて言ってくるイルミ様のお姿なんていかんせん想像もできない。


……むしろ怖いから想像したくない。




「まあいいわ。ママはパパが仕事に逃げる前に行ってこなくちゃいけないから、もう失礼するわね。アゲハ、ポッチー頂戴な♪」

「は…」


オレの前にやって来られ、上機嫌で手を差し出される奥様。

さすがに箱のままでなど渡せるはずないから、箱の中身を深めのグラスに開けておいたものをお渡しした。


受け取った奥様は、「じゃあ行ってくるわぁv」とそのまま急ぎ足で旦那様のお部屋の方へと駆けて行かれた。




「……結局教えてくれなかったね、お母様」

「自分で考えろってことじゃないの?…で?オレ達の分もあるんだよね、アゲハ?そのポッチーって」

「ハイ、ご用意しております」



食事の終わった皿を下げて、ポッチー添えのミニパフェと、さらにポッチーを立てた別のグラスと紅茶を配膳する。


ちなみに、今日11日のデザートはポッチーをメインにしたいとコック長に伝えたときはとても微妙な顔をされたものだが、「奥様が」と伝えたらむしろ神妙な顔で深く頷かれた。

訊けばコック長も、昨年は奥様にたっぷり1時間ヒステリックに喚かれたらしい。



「そうか…今月だったか…」と呟いたコック長の哀愁漂う背中は、通販の振込用紙を処理するゴトーのそれととても似ていたな。





「ふーん。これがポッチーなんだ」



と早速ポリポリとポッチーを手づかみで口にされるカルト様。

イルミ様は逆に、じーっとポッチーの入ったグラスを見て、何かを考えておられるようだった。



「アゲハ」

「はい」


「アゲハはもしかして知ってる?ポッチーゲームって。…あ、っていうか母さんの頼みごとを理解しないままやるわけないから、もちろん知ってるんだよね?」

「…はい」




奥様が言うから調べたわけでもなくて、年末年始に使用人たちだけで開かれるささやかな慰労会の席で見たことがあるのです…。


酔っ払ったツボネ先生が王様ゲームをやろうとか言い出して、結果アマネ王様時にヒシタが泣きながらツボネ先生とやらされていてですね…。

アマネは酔って爆笑していたが男性陣は誰1人として笑ってなかったのが印象深い。むしろ酔いが醒めてたぐらいだ。


……行為自体は思い出したくもないアレだが、今思うとアマネとツボネ先生は最初からグルだったんだろうか…。

あの時は男の方が人数多かったから、相手に男を引き当てる確率は高かったしな。…だとしたら当たらなくて本当に良かった。



ちなみその王様ゲームでは、オレは逆立ち片手腕立て10回とカナリアを胸の上に乗せての腹筋20回の二つを当てられた。

……んだが、普通にクリアしてやったら場が白けてしまってな。


「強化系バカ」とか「いや、体育会系」とか言われていたたまれない空気になったのだけは覚えてる。

…ああいう場合どうボケればよかったんだろうか?






「……アゲハ?」

「あっ、は…!申し訳ございません!」




全然関係ないところまで思い出して気を飛ばしていたら、イルミ様に若干首をかしげられた。申し訳ありません;


あー…っと…、話題はたしかポッチーゲームがどんなかって事だったよな?







「えー…、そうですね。僭越ながら端的に申し上げますと、ポッチーゲームは1本のポッチーを2人の人間で食べる?ゲームです」


「…何それ。何が面白いの、そんなことして」




…と、イルミ様はポッチーを皿から取り上げて、早々にそれを二つに割った。………割った!?

そしてその一欠片を「ハイ」とオレの前に差し出してこられる。




「あっ…、ありがとうございます…」





――――いや、つい受け取ってしまったが、ちっ、ちが…!!


オレの言い方が悪かったですイルミ様ポッチーゲーム間違えていますそうじゃなくて2人の人間で1本のポッチーを同時に頬張るゲーム……ってそんな恥ずかしいゲーム今さら詳しくなんて説明できるか!!!

どうすればいいんだこのポッチーは…!!


手づかみで食べる菓子なんてそもそも苦手なんだが、イルミ様から頂戴したものを断るわけにもいかないし、…というかここでオレがこのまま食べてしまったらポッチーゲームがこういうゲームだとなおさらイルミ様は勘違いされるんじゃないのか!?

かと言ってイルミ様がじっと見ているのにこれを食べないという選択肢はありえん…!「せっかくあげたオレのポッチー、食べないんだ?」とか言われたその後の展開が手に取るようにわかるぞオレは!!



「(くそっ……ええい、ままよ!)」


意を決して、一欠片のポッチーを口に放り込んだ。





「おいしい?アゲハ」


「はひ。美味にございまひゅ…」


「じゃあもう1本あげるよ」




と、イルミ様は今度は手に持ったポッチー1本丸ごとをオレの口の前に差し出してくる。


なんだか楽しそうな雰囲気をその表情に醸すイルミ様だが―――しかし違うんです!ポッチーゲームはそういう遊びじゃないんです…!!



……奥様あたりから真相をバラされたら、その時こそオレはきっと酷い目にあわされるような気がしてなりません…。

土下座でも何でもいたしますからもう許してくださいオレを。

























「(…あ。なんか間違ってるなこれ)」


先ほどからやたらと妙な葛藤を見せるアゲハのその様子から、自身の行為が「ポッチーゲーム」とかいうゲームとは少し外れているだろうことを直感したイルミ。

テーブルを挟んで座るカルトが「僕、分かっちゃったよ兄様〜♪」とポッチーを口に咥えたまま頬杖ついてそれをプラプラとさせて笑っているから、そのゲームがどんなものか、そこでなんとなく予想がついた。


しかしイルミはそれでも無邪気に、アゲハの口元にその棒状の菓子を押し付ける。



心苦しい、といった表情を浮かべ「失礼します」と恐る恐るそれを口にするアゲハの顔が、たとえようもなく好みだったから。





「("する"時とおんなじ顔してる…)」





やらしいなぁと感想を漏らす。心の中で。


そして自分が掴んでいたせいでアゲハが食べ進められなかった持ち手の部分を、「口、開けて」と口を開けさせ、そこに放り込んだ。






「(これはこれでそそるから、まあ許してあげる)」




教えてあげないけど。と内心笑って、イルミは再びポッチーを1本、グラスから拾い上げる。

そして先ほどと同じように、ポッチーをアゲハの口元へと持って行った。





「…ねぇねぇ兄様。それ、たぶん違うよ?僕にやらせてよ。僕、分かったよ?ポッチーゲーム」


テーブルに身を乗り出して言ってくるカルトに、「ダメ」と即答で返して―――




「はいアゲハ。もう1本」


「……はい」




自身の皿にあったポッチーをすべて同じ方法で食べさせてから、結局アゲハは部屋にお持ち帰りした。








つづ…かない




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裏まで続きそうだけど残念ながらありません(爆)

すもも

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ももももも。