silver fang 番外編◆とある日のゾル家・4〜後日談(double styleコラボ)
※原作沿い夢double styleとのコラボです






「ん…?」



カサカサと木々の葉が揺れる。


ちょうど夕刻の交代時間で屋敷に向かってゾルディックの庭を歩いていた眼帯の男―――アゲハ。

木々を揺らす風の中に混じり、こちらへ向かってくる何者かの気配を感じとって顔を上げた。



(……手練れだな。)


オーラの量こそ抑えているが、かなり練度の高い念能力者のようだ。

だがゾルディックの家の者や、庭を徘徊するミケの気配とは違う。となると―――



「侵入者か…」



つぶやいて、アゲハはその場で迎撃体勢をとった。"円"で周囲を探り、そして"それ"が自分の方へ飛び込んでくる瞬間に、カウンターで拳をあわせた。


「……ちっ」

「…ッ、…ジャズ!?」


茂みの中から飛び出してきたのは、先日イルミから「知人」として紹介されたジャズだった。


アゲハの中に一瞬の躊躇が生まれる。

ジャズはそのわずかな隙を見切り、出会い頭の一発を身体をひねってうまくかわした。

かわした後はアゲハの間合いの外まで一足飛びに跳び退いて、そこでアゲハと対峙する。



「……よう、アゲハ」


「ジャズ…様、一体何用でこのような場所に…」



ジャズの姿を確認し、構えを解いたアゲハ。しかしその目にはまだ警戒の色がにじんでいた。



いくら主であるイルミの知人とはいえ、相手は仮にも『始末屋』などという物騒な肩書きを持った人間だ。


この日、アゲハは執事室からも主であるイルミからも"ジャズ訪問"の連絡を受けてはいなかったし、事前の連絡もなしにジャズがこの場所へ―――恨みを買うことの多い暗殺という仕事を生業とするこのゾルディック家へ―――もぐりこんだ理由を考えれば、やはり最初に思いつくのはその肩書きどおりの「仕事」しかなく。


もし本当にそうだとすれば、アゲハはたとえ刺し違えてでもこの男をここで止めねばならなくなる。




 『主を守る』


それが、幼い頃からゾルディック家の執事としてこの身に刻み込まれた責務だから。


いつでも動けるように、決して警戒は解かず。

疑心暗鬼の目でアゲハはじろじろとジャズを見ていた。



「クッ…、そう怖い顔するなって。オレが遊びに来ちゃダメなのかよ?」

「……遊びに?"この"ゾルディック邸へ、でございますか?ご冗談でありましょう?」

「悪いが冗談は好かねぇタチでな」


ニヤニヤと余裕の目線でアゲハを見下ろし言うジャズ。

それが余計にアゲハのか細い神経を逆撫でした。





ガツッ!!

何の前触れも無く繰り出されたアゲハの右拳を、ジャズはきれいに左手の甲で横にサバいた。

振りも溜めも極力抑え、踏み込みとほぼ同時に打ち出したというのにあっさりとそれを止められて、アゲハはわずかに目をむいた。


「何キレてんだよ、アゲハちゃん?」

「…黙れっ!オレを『ちゃん』付けで呼ぶな…っ!!」

「ハハッ、喋り方変わってんじゃねーか!」


鋭く繰り出された二撃目の左も、ジャズは冷静に外側へとサバく。


が、その瞬間にジャズは、サバいた二撃目が初撃のような"打撃"の拳ではない事に気づいた。

アゲハの指に引っ掛けたのか、服の袖の部分が千切れ飛んでいた。


(…やべ…パンチじゃねぇ…。こいつ、掴む気だ!)


ジャズが本気で構えると同時に、アゲハはラッシュを仕掛けてきた。



「ちっ…うっぜ」

舌打ちを残しながらもジャズは、何度もしつこく掴みかかろうとしてくるアゲハの両腕を器用にサバき、避けていく。


キレやすいその性格とオーラ総量からみて、アゲハはおそらく強化系。

もしも掴まれ、グラウンド(寝技)にもっていかれでもしたら軽量級の自分などひとたまりも無い。


攻撃をサバきつつ、ジャズは隙を見てトトンと数歩後ろへと下がる。

間合いが少し開いたところで鋭い横蹴りをアゲハの腹へと叩き込んだ。


「く…」

「…ハ!!」


重心を少し崩したところへすかさずジャズは黒い獣を具現化し追撃をかける。

今しがた蹴りを入れた同じ場所へ、大きなケダモノがその巨躯を生かした重い一撃を放つ。



ドゴォッ!!


「…ぐ…っ!」



とっさにガードした両腕がみしみしと音を立てる。


―――この威力。まるで"本物"の凶獣並だ。『ミケ』を相手にしているときのような―――



バチィッ!!


「がはっ!?」


ありったけのオーラで腹への一撃は防御したが、続く二撃目…右目に付けた眼帯のせいで死角となっていた右サイドからの、尾でのなぎ払いを防ぎきる事はできなかった。

アゲハの身体は大きく横へ吹き飛び、その先の立ち木へと叩きつけられた。

とどめとばかりにそこへさらに思いっきりの体当たりをぶちかます巨大なケモノ。



当然のごとく、ズウン、と大きな音を立てて根元から巨木が倒れる。

土ぼこりが治まるのと同じくして、ケダモノの影はすうっとその姿を消した。

倒れた木の根元では、アゲハが膝を着き、胸を押さえてしきりに咳き込んでいた。

やはり体当たりの衝撃は殺しきれなかったのだろう。呼吸困難気味になるのも無理は無かった。




「ハッ…」


咳き込むアゲハと比較的近い場所で、ざり、とジャズの靴が土を噛む音。

それを耳にして顔を上げたアゲハの視線の先には――――――アゲハを見下ろす、ジャズの姿。



「アレを食らってそんだけのダメージで済んでるなんざ、並みの防御力じゃねぇな。普通ならひき肉かトマトピューレにでもなっちまってるトコだぜ?やっぱ強化系かぁ、アゲハちゃんは」


くくっと楽しそうに笑って、アゲハの目の前にしゃがみこんだジャズ。

伏せるアゲハの顎をくっと持ち上げる。


ジャズは、アゲハの右目にかかる眼帯を「邪魔だな」とばかりに引き剥がした。


赤と銀、左右色違いのアゲハの瞳が苦々しくジャズを睨む。



「…本当、何回見ても綺麗な瞳だな…。イルミなんかに独り占めさせとくにはもったいねぇくらい」

「貴様…っ!イルミ様を侮辱する気か!!」


ジャズの一言にカッと目の色を変えたアゲハが、オーラを鋭い爪牙に変えてジャズに踊りかかった。

…が、やはりその両腕はジャズの両手に阻まれ――――いや、ジャズの腕ではない。


ジャズの背中側から生えた別の2本の腕によってしっかりと捕らえられていた。


「な…!?」

「…飛んで火にいるなんとやら…ってな、アゲハ。強化系は単純で助かるぜ?」


4本に増えたジャズの腕。それを目の当たりにしたアゲハが困惑の声を上げる。

しかしよくよく見ればそれはジャズの背後にその身を隠していた、『もう1人のジャズ』の両腕だと理解できた。


不気味な薄笑いをその顔に貼り付け、ずるりとジャズの背後から這い出てきたもう1人のジャズ。

姿を現すや、そいつはアゲハの目の前でめりめりと音を立ててその身体を変形させ始めた。



「………こいつは…さっきの…!!」


凄まじいパワーと質量を以って、先程自分を痛めつけてくれた『バケモノ』。

事の深刻さに青ざめたアゲハが必死で掴まれた両腕を引こうとするがやはりというべきか、びくともしない。


まずい…!



「く…っ!?」

思った瞬間に、両腕をつかまれたままで後ろに押し倒される。


「くそっ!!離せ!離せッ!!―――っぷ!?」


べろり、とケダモノの長い舌がアゲハの顔を舐め上げる。ねっとりと絡みつく、化け物の唾液。

それに顔を歪ませていると、長い舌はそのまま襟元から服の中へと入り込んできた。


抵抗しようにも両腕は拘束され、さらには体の上にのしかかられていたのでろくに体を動かす事すらできず。

その間に、生暖かい濡れた感触が首筋から胸の突起にまで伸びてきて、アゲハは大きく目を開いた。


「この…離っ…ぅあっ、ふ、っ…」


ゾクゾクとした寒気のような快楽を、唇を噛みしめて必死で耐える。



「…ふーん。お前、ソコが弱いのか?結構いい躾されてんだなぁ」


アゲハの顔を上から覗き込んで、意地悪くジャズが笑う。


「…っふ、…っん、貴様っ……、オレにこんなことをして…っ、ハ、ただで済むと…」

「クッ、……何だよ、耳でも噛んでくれんのかよ?」


そんな格好で吠えたところでどうにもならないぜ、と余裕の笑みでアゲハの髪をなでた。


だがアゲハの目は本気だった。

本気で、ケダモノの腕を振り切ろうと力をこめる。



「…無理だって。少々の力じゃこいつの拘束からは逃れられねー………って…」



見れば、先程とは比べ物にならないくらいのオーラが、アゲハの体に充満していた。

力任せにではあるが、少しずつリバイアサンの腕が押し戻されはじめる。




ギシ、ギシギシ…


「グ…、グル、ゥ…」

「…ちょっ…、おいおいマジかよ!?」


リバイアサンとの力比べで勝てる奴なんか、あのウボォーギンくらいだと思っていた。

アゲハのこの細い体のどこにこんな力があるのかと、ジャズは驚愕の声を上げる。



「う…ああああっ!!」

「ガウッ!?」


その身に有り余るほどの強大なオーラを以ってリバイアサンの拘束を無理やり跳ね除けたアゲハ。


「…貴様!待ってろ、殺してやる!!」


凄まじい怒りが大気を揺るがす。

ベトベトにされた身体と、乱された襟元を押さえて、くびきを外れた銀狼が白い牙を剥いた。



「やっべ…」

ここまで本気で怒らせる気は無かった。

『一旦引くか…?』と迷い始めたジャズだったが………それと同時に、目の前のアゲハとはまた"別の気配"を察知する。

悩む暇なくすぐさまその場から飛びのいて、音もなく飛んできた『針』をすんでで避けた。


当然、その『針』を投げたのは―――



「ちっ…、イルミ…」

「イルミ様っ!?―――ひぃっ!?」


木々の向こうに己の主の姿を認め、「何故?」とばかりにアゲハが叫んだ。


………が、叫ぶと同時に今度は自分に向かって針が飛んできて、アゲハは短く悲鳴を上げた。

無数の針で、服のすそを木に縫いとめられる。



「………何やってるの、アゲハ?」

「もっ、も、もうしっ…、もうしわけあり、あっ…、」


恐ろしく低い声の台詞を聞き、己の主の静かな怒りを肌で感じて、一瞬で顔面蒼白になったアゲハ。しどろもどろに謝罪の言葉を展開しはじめた。

――――しかし当のイルミは聞いていないのか、アゲハを無視して今度は木の上にいるジャズを睨んだ。



「ねぇジャズ、なんでアゲハが脱がされかけてるのか一から説明してくれるかな?」

「ハ…、お前がいないうちにちっとばかりつまみ食いしてやろーと思ったけど、意外に早くめっかっちまったなぁ」


わざとらしく舌を出して、けらけらと笑ってみせたジャズ。


実際には笑えるほど精神的余裕は無かったのだが、そんなことはおくびにも出さないところはさすがだ。



「アゲハに手を出すんだったらキミの相方と交換っていったでしょ?」

「…ハハッ!能面かと思ったら意外と嫉妬深いじゃねーか、王子サマ!!……おっと!」


茶化すように言うと、その瞬間にビュビュッと針を投げられた。ジャズはひらりとそれをかわして、もう一本奥の木へ飛び移る。

すかさずイルミがヒュウッと指笛を吹くと、一瞬のうちに大きな影がジャズの背後へと覆いかぶさった。



「…あ?」

振り向いたそこには、イルミの指笛を聞いてあっという間にジャズの背後に走ってきた―――巨大なミケの姿。



「ゴシューッ!!」

「うぉおいっ!!?ちょ、あ、待て、うぎゃ!?」


連続的に振り下ろされるミケの太い腕の攻撃を必死で避けながら、ジャズは森の奥へと消えていく。

バキバキ、ミシミシッと多くの木がなぎ倒される音とジャズの悲鳴を聞きながら、戦々恐々と汗をたらすアゲハ。

イルミがジャズの逃げていったほうを見ている間に、針をはずし、唾液でベトベトの顔を袖で拭いて乱された襟元を正そうとモゾモゾしていると―――



「………アゲハ。」

「は、はぃひっ!!?」


アゲハの行動などお見通しなのか、アゲハがきちんと襟元を正す前にイルミがくるりとアゲハに向き直った。

そして、うつむいてガタガタ震えるアゲハの髪を乱暴に掴み、強引に自分の目を見させる。



「んじゃアゲハ、説明してくれる?何でそんな格好になってるのか。―――最初から。」

「そっ…!あのっ、私は…っ!」

「ジャズなんかに簡単に引き倒されてちゃってさ…。少しきつめの調教が必要なのかな?」

「(…大変だ、聞いておられない…;)」



説明を求めつつ、やはりアゲハの言い分はまったく聞く気が無いらしいイルミ。


その後、ひああーという誰かの情けない声がゾルディックの庭に響いたとか響かなかったとか。







「…あら?今何かヒメイが聞こえませんでした?」

「野良犬の遠吠えでしょ?」


屋敷でメイドたちがつぶやいていた。








おわる


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えろ目指して続きを書いてみたはいいけど、えろはえろでも未遂な上にしょくしゅえろとかあばばば…!

すもも

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ももももも。