silver fang 試験編◆08:ヌメーレ湿原の攻防・1




「…しかし、良かったのかアゲハさん?」


「一体何がだ?」

「あなたはキルアの家の執事だといっていただろう?キルアの側にいなくていいのか?」



後方集団の列に紛れ湿地帯を走り続けていると、クラピカと名乗った少年が不意にそんなことを尋ねて来た。

オレはクラピカとレオリオの少し後方を、彼らのペースを見ながら走りつつ、その質問へと答える。





「だから先程も言っただろう。そのキルア様の命令でお前達の護衛に来たのだと」

「つーか、ふっ、だからっ、あいつのことはっ、ヒィ、守ってやらなくていいのかよっ、はひーキツー」

「……その質問に答える前に聞くが、貴様本当に平気なのか?さすがに実力での脱落者まで面倒は見切れんぞ?」

「まだッ、脱落してねーだろが!!」

「レオリオ、あまり怒鳴るな。体力を消耗するぞ」


まだ若干余裕があるクラピカとは違い、レオリオは今にも倒れそうなほどゼーゼーと息を上げている。

こいつ、もうそろそろ限界じゃないのか?本当に大丈夫なのか?



「キルア様なら今のところ特に心配はない。お前達のようにこの程度の試験で脱落するほどヤワな鍛え方をされてはいないからだ。

注視すべき危険人物も今のところ向こうにはなかったしな」

「危険人物…か。」


オレの言葉によって神妙な面持ちになったクラピカが、周りに気をめぐらせはじめた。


この試験一番の危険人物―――ヒソカ。

オレ達からかなり近い場所をスタスタと走っていた。



「わかった、すまない…。今はキルアよりも私達の方がずっと危険だということだな?」

「そうだ。だからもっと速く走れ。

そもそもお前達がこんなうしろでトロトロと走っていなければ、オレはキルア様の側から離れずに済んだし、万事都合よくいっていたのだからな。

……ほらほら、これでは追いつかんぞ?グズグズするな亀。もっとペースを上げろ」


レオリオのすぐ後ろについて、パンパン、と手を叩いてたきつけた。


「亀ってオレかー!!無茶いうなテメーっ!」

「無茶というならさっさと落ちろ、そのほうが早い。貴様などここで捨てて行ってやる」

「こんのやろ…。アゲハお前、後で覚えてろ!」

「後とはいつだ?試験の後か?ここで脱落するお前が?試験を合格するこのオレに何をどうするわけだ?」

「ムキャーッ!!誰が落ちるか!誰が落ちるかぁーっ!!」


「あーもう、こんなときに口喧嘩はよせ!アゲハさんも無理にレオリオをたきつけるな!」

「だがおかげでペースは上がったではないか」

「シレッと言うな!!挑発の仕方がいちいちむかつくんだよテメーはっ!!」




―――ヒュッ。



「―――!!」


風切音。


レオリオがオレに向かって怒鳴ったところで、"アレ"が動いた。

オレはとっさにクラピカの腰ベルトとレオリオのネクタイを掴んで、前方に跳んだ。


「うっ!?」
「ぐえっ!?」

「アゲハさん!?何を…」

「黙ってろ、死にたいか!」


2人を抱えたままスピードを上げるが、それでもなお"それ"はオレを追って攻撃を仕掛けてくる。



「ちっ…」




―――振り切れんな。


このまま2人抱えて逃げるよりも迎え撃った方が早いかと、オレはレオリオとクラピカをその場に投げ捨て後ろへ向き直った。




ガッ!!



霧の中、トランプのカードでもって切りかかってきた男の腕を止める。

クソ、かなり強い…!



「くく…っやるねぇ…◇」

「貴様…っ!」


派手な化粧を施した特徴的な"あの"顔がオレの顔を覗く。

オレに攻撃を仕掛けてきたのはやはりヒソカだった。




「チッ!」

ぶんっ


「アハハハッ!!」


蹴りを食らわせようとしたが、ヒソカは大きく後ろへ跳んでそれを避け、深い霧の中へと消えていった。


『―――ぎゃっ!?』

『あっ、ぐ!?』

霧の向こうから、他の受験生共のくぐもった悲鳴が聞こえる。

姿は見えないが、跳んでいったヒソカがそのまま最後尾の連中を手にかけているのだろう。




「ゲホッ…、おい、今のってヒソカか!?」

「ついに動いたか…」


「お前らなにボサッとしている!今のうちに行くぞ!列を見失ったらアウトだ!!」


ヒソカの消えた先を見ながら呆けていたレオリオとクラピカ。

その肩をすれ違い様に叩いて、先を促した。


「あ!?つーかアゲハお前、この濃霧で方角とかわかるのかよ!?」

「お前達とは鍛え方が違うんだ!試験に受かりたいなら黙ってついて来い!!」

「なんだとテメ!?」

「レオリオ!言い争ってる場合じゃない!」



喚くレオリオを無視して、オレは走る。



たとえどれほど霧が濃くとも、『円』を使えば集団を見つけることなどオレにはたやすい。

…とはいえそれにも限界があるから、あまり列から離れてしまうわけにもいかないのだ。

突然攻撃された事はもちろんムカつくが、いつまでもあんな奴に構っていられない。



羽織ったコートを翻し、一気にペースを上げて先を走る集団へと合流する。




―――だが。








『ぎゃああああー!!』

『ひいいーッ!助けてくれぇ!!』




「っち…、次から次へと何だ!?」


「これは…!?」

「なんかパニックになってるぜ!?」


集団に合流できたと思ったら、すでにそこはパニックの渦だった。

受験生達は悲鳴をあげ、四方八方散り散りに逃げ惑っている。



「どうやら後方集団そのものが、途中から別の方向へ誘導されてしまっていたようだな…!!」

「"詐欺師の塒"の名は伊達ではなかったという事か…」


「お前ら2人とも冷静に分析してる場合かよ!?」


「少しシャクだが、たしかにレオリオの言うとおりだな。(「なんだとテメー!!」)とにかく急いで試験官が行った方角を探さねば…」



こうして立ち止まっている間にも、試験官を含めた先頭集団はどんどん遠ざかっていってる。時間は1分1秒と惜しい。


あの試験官――――もしくは彼を含む先頭の集団が見つかれば…と、オレはさらに大きく『円』を広げた。

…いや、広げようとした。







「――――逃がさないよv」

「…っ!!」


『円』を広げた瞬間に、後方からものすごい勢いでヒソカが襲い掛かってきた。

とっさにオレは横へ跳んで、ヒソカの鋭い手刀を回避する。


「くくくっ。やっぱりキミ、いいねぇ!」

「くっ」


追い打ちに投げつけられたトランプをも難なく避けて、オレは体勢を整え構えた。


しかしヒソカはオレに向かってくる事はなく。

トランプの束を取り出したかと思うと、一斉に周囲へとそれを投げつけた。


「な…っ!?貴様っ!」


オレはすぐさまクラピカとレオリオの前に飛び込んだが、ギリギリそれも間に合わず。

「くっ…!!」

「いでぇ――――!!」

クラピカは二刀流ナイフでうまくトランプを振り払っていたがレオリオは………腕にくらってた。やはり遅い。





『ぎゃあああ―――!!』

『いてぇえ――!!』


受験生達の悲鳴が響く中、くすくすとピエロが笑う。




「…周りから狙うか」

「今のキミにはそのほうが有効じゃないかと思ってね◇ ……これならキミは、その子達を逃がしてボクと踊るしかなくなるだろう?」



一般人では到底耐えられないような殺気混じりの禍々しい念をオレの方へ向け、ヒソカが近づいてくる。



それを後ろの2人へと通さないように、オレも強く念を発現させ、構えた。








つづく




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レオリオ書いてて楽しい。

すもも

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ももももも。