silver fang 試験編◆09:ヌメーレ湿原の攻防・2




「…あれ。」


試験官を含む一団にくっついて霧の中を走っていたギタラクル―――もとい、イルミ。

さっきまで近くを走っていたはずのヒソカの存在が、いつの間にか集団の中から消えているのにふと気がついた。




『霧が出たらちょっと遊んでくるよ◇』



……と、湿原へ入る前に言っていたヒソカの言葉を思い出す。

『好きにすれば?』などとそのときは軽く流していたのだが……。




「アゲハまで、あんな後ろで何を遊んでるんだろ?」




早々にキルアにバレたあの馬鹿は、キルアに付いて先頭付近を走っていたんじゃなかったのか。


円で探ったアゲハのオーラ。立ち止まっているのか、それがどんどん集団から離れていくのを感じる。



そしてアゲハの近くにはヒソカのオーラも。




事態を悟ったイルミは呆れたように「はぁ」とため息を吐く。


そしてごそごそと懐から携帯を取り出すのだった。





















「ヒソカ!!てめぇ、さっきからなんでオレ達ばっか狙ってきやがる!?」


湿原の奥深くに取り残された数十人にものぼる受験者達。

薄くかかる霧の向こうには、パラパラとトランプをシャッフルしているヒソカの姿がある。


そのヒソカに向かって、オレの背後からレオリオが叫んだ。




「クク…キミ達っていうか…ボクが遊びたいのはそこの眼帯のお兄さんだけであって、キミ達みたいな雑魚に用事はないんだよね。

そのお兄さんがボクの相手をしてくれるって言うなら、キミ達の事は見逃してあげてもいいよ?さっさと行ったらどうだい?邪魔だし。

…まあキミ達じゃこの霧の中、本隊に合流できるとも思えないけど◇」



「ふざけんな!!見逃してやる、だと!?何様のつもりだてめぇ!?」


「おい…!」

「レオリオ!止せ!!」



ヒソカの周囲では他の受験者がすでに数名、血まみれでその身を大地に転がしている。


自らそれに仲間入りする必要など無いと、オレの背後より身を乗り出し吠えるレオリオを手で制止する。

クラピカも、"挑発だから乗るな"とレオリオを止めていた。




だが、オレ達のほかに残っていた受験者達は、先程のレオリオの叫びに同調したのか武器を手にヒソカを取り囲み始める。





「嘗めた事言いやがって…。この霧の中じゃ、テメェだって本隊への合流は不可能だろうが」

「そうだそうだ!お前だってオレ達同様、ここに取り残された不合格者じゃねぇか!」


「やだなぁ、キミ達とボクを一緒にするなよ。冥土の土産に覚えておくといいよ。奇術師に不可能は無いってね◇」


「ふざけんな!!何が冥土の土産だ!」








「ち…莫迦共が」



茶番だ、と吐き捨てた。



この間にも試験官を含めた先頭集団はどんどん遠ざかっていってる。



キルア様も、もちろんイルミ様も、だ。

オレだけがこんな奴らと共に不合格だなんて、笑えもしない。








――――まったく、イライラさせやがる。



このピエロも、相手と自分の差も理解できていない周りの雑魚どもも。





(全員まとめて始末してやろうか。)




ミシリと拳に力がこもる。













「…しょうがないなぁ…。じゃあちょっとだけキミ達とも遊んであげようかな?」


「―――その必要は無い!!どけ、貴様ら!」



「うお!?」
「ぎゃっ!」

「おや?」


いきり立つ他の受験者共を力づくに退かせて、ヒソカの前へと出た。


すると、当然のようにクラピカとレオリオがそんなオレのことを止めに入る。


「おいアゲハ!?」

「アゲハさん…やめろ、危険だ!」

「そうだお前、何考えてる!勝てる相手じゃねーよ!!」


と、肩を掴もうとするレオリオの手を、バシッと手で払った。



「お前達もうるさい!!勝てないと思うならお前達はさっさとどこかへ消えていろ、オレの邪魔はするな!」


「なんだと…!?お前、人がせっかく…!!」

「……『せっかく』だ?オレよりも弱いくせに忠告のつもりか?バカバカしい。

ここで勝っても負けても、先頭集団とはぐれた今となってはどの道オレもお前達も試験には不合格なんだぞ。だったら何をしようがオレの勝手だろうが!」


「おい、待てってアゲハ…!!だからってヤケになるこたねぇだろが!」

「オレはヤケになどなっていない!ムカついてるだけだ!」

「はあ!?」


「…ふん。とにかくお前達は邪魔だ。巻き添えで死にたくなければさっさと消えろ」

「てんめ…!!」

「レオリオ!」


キリがないなとレオリオの制止を無視しヒソカと向き直った。





別にヤケを起こしたわけじゃない。


そもそもこんな下らん手間を取ることになったのもこのピエロが起こした馬鹿のせいだからな。

それなりの責任を取らせねば気がすまないだけだ。




ゴキッと指を鳴らしオーラを研ぎ澄ますと、それだけで目の前の男は満足そうに目を細め、ニヤリと口角を吊り上げる。





「ククッ…。やっとヤる気になってくれたかな?嬉しいよv」

「黙れ変態。貴様だけは今すぐに殺してやる」

「…あれ?殺っちゃってもいいの?本隊へ帰る道を知ってるのはボクだけなんだけどなぁ?」

「そうか。だったらその口割らせてから殺してやる」

「あっはっは♪面白いね、キミ?」

「ピエロに面白いなどと言われるのは心外だな。やはり貴様は黙れ。黙って………死ね。」


言葉と共に、目の前の男に向かって強く踏み込んだ。







「…シッ!!」


一気にヒソカとの間合いを詰めて、その勢いを生かしたまま真正面に突きを繰り出す。切り裂くための手刀ではなく……、肉を掴み、千切るための手で。


しかしヒソカはそれを、オレの背中側に回る形で避けた。

そしてオレの背を両手でドンッと思いっきり突いた後は、体制を崩したオレの背に向かって鋭くトランプを放ってくる。


オレは振り返ると同時にオーラを纏った腕を大きくすばやく振るい、襲い来るトランプを風圧に巻き込んで散らした。



ヒソカはなおも続けて2枚、3枚、とトランプを放ってくる……が、オレがトランプを避けるとでも思ったのか?2メートルもないこの距離で。




「―――そこもオレの間合いだ!!」

「…!」



トランプを避ける事もはじく事もせずに、オレは右腕にたっぷりのオーラをこめてヒソカに襲い掛かった。


トランプはもちろんヒソカのオーラで強化されてはいたが、攻撃態勢に入ったオレのオーラ量の前ではそんなものただの紙切れに等しい。

ガードする必要もなくトランプはオレのオーラにはじかれ、焼き切れていった。




「散れ!!」

「ククッ…」




ズバアッ!!


「―――ぎゃっあ!?」
「うわあああ!!」




捉えたと思ったが―――様子見、といったところなのかトランプでの攻撃の後も逐一後ろへ下がっていたヒソカは、かなりの余裕を持ってオレの渾身の薙ぎをかわした。


大きく振りかぶり放たれたオーラの爪牙はヒソカの背後の位置にいた受験者数名をぼろきれの様に引き裂いた。

ビチャビチャと血と肉の塊が場に飛び散る。



「あーらら、とんだ正義の味方だねぇ」



軽い足取りでオレから広く間合いを取って、ヒソカがそう呟く。




オレは正義の味方になどなった覚えはない。

そもそもこんな雑魚共を助けるために前に出たわけでもない。そんなところにボーっと突っ立ってる方が悪い。



目を細めてクスクスと笑う男の顔をオレは鋭くねめつけて、再び拳にオーラを込めた。















「…あっが……マジかよあの野郎…。なんなんだ…?バケモンか…?」


アゲハからの踏み込みで再び始まるヒソカとアゲハの攻防を目にして、レオリオははぽかんと口を開けたまま汗をたらしていた。



ヒソカの手刀を腕一本で難なく防ぎきり、反撃に転じるアゲハ。

周りの巻き添えも気にせず、アゲハは素手で、触れもせずに立ち木と地面を大きく抉りとってしまう。


その美しく華奢な風貌からは想像もつかぬ戦闘力に、レオリオだけではなくクラピカも、ただただ唖然とその場に立ち尽くす。








「…おい」



よれた帽子をかぶった長髪の男―――ポックルが、そんなクラピカの肩を叩いた。

ハッと今気づいたかのような顔でポックルの方へ振り返るクラピカ。



「お前達、何をしている。逃げるなら今の内だぞ?」

「逃げ…る…?」

「ここにいては巻き添えを食って死ぬだけだ。お前達だって目的があってこのハンター試験に臨んだんだろ、あんな化け物共に付き合ってそれをふいにすることはない。

ヒソカの奴も逃げる連中には興味ないみたいだし、退くなら今の内だ。……まあ、それでもここに残りたいって言うなら止めはしないが」



武器を捨て、次々とこの場から離れていく受験生達を指しポックルは言う。


彼らの向かう先が次の試験会場を目指したものなのか、それともただこの場からの逃亡なのかは分からないが、とにかく隙を見ては次々と人が居なくなっていた。




「どうする?できればオレはお前達と行きたい。この陰気な森を本気で抜けようと思うなら人手は多い方がいいし…。

特にあんたは頭もよさそうだしな。あんたとなら上手くいけば試験官の元にまで復帰できるんじゃないか?」


「いや、買いかぶりすぎだ。それに誘いは嬉しいが私は…」

「ざっけんなテメェ!」


クラピカがやんわりと断りを入れようとしたところ、ポックルとの間に突然レオリオが飛び入ってきた。

その声の大きさに驚いて、大きく目を開くクラピカとポックル。



「テメェ、いきなり出てきて勝手なこと言ってんなよ、このウンコ帽子!!いくらなんでもあの野郎をあのまま残して行けねーだろが!!」

「レオリオ…」

「ウ、ウンコ帽子…;」


「アゲハの野郎…、いちいちムカつく野郎だけどよ…。

だからってあいつ1人をヒソカと戦わせて、オレらだけノコノコ逃げられるかよ!……それも『庇われて』逃げるなんて……冗談じゃねぇ…」



そう呟いてレオリオは、ゴソ、とその辺に落ちていた太い木の棒を拾い上げる。

その行動で、レオリオがこのあと何をしようとしてるのかすぐに気づいたクラピカは、慌ててレオリオの行動を止めに入った。



「っやめろ!何を考えてる、レオリオ!?」

「そうだ、やめておけ!あんな連中の間なんて、下手に飛び込むだけでボロ雑巾だぞ!?」


「うるせぇ!!敵わなくてもいい、手助けになるかもわからねぇが…、オレは何もせずに逃げ出すことだけはしたくねぇんだよ!!」






――――ドシャアッ!!


「「…!!?」」



レオリオが叫ぶのとほぼ同時に大きな音がして、3人は一斉に視線をそちらへと向けた。



アゲハの被っていた豪奢な帽子がふわりと宙を舞う。




アゲハ本人はというと―――ヒソカの両腕に襟首を締められて、太い立ち木へと押さえつけられていた。




「アゲハ!!」


「待て!レオリオ!!」

「ちぃ…、バカが!」



クラピカたちの制止も聞かず、はじけるようにヒソカへと向かっていったレオリオ。

クラピカとポックルもやむなく、それぞれの武器を手に走り出した。








つづく




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レオリオ本当書いてて楽しい。

すもも

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ももももも。