ピンクメドゥシアナ ◆02:薄紅色の蛇(前編)




「……なるほど?自分自身を念で操作して、コントロールできずに壊れたのか。それでこの流星街に棄てられたと」

「そういうことらしいよ。で、何故かウボォーに懐いちゃったから拾ってきたわけ」


そう言ってシャルナークは、床に胡坐をかくウボォーギンとその膝に乗ったケイリュースを親指で指した。クロロの視線がそちらを向く。

ウフフ、ウフフフと何が楽しいのか、笑ってウボォーギンの胸毛を指先にくるくる絡めて遊んでいるケイリュース。

そしてそれを、ウボォーギンが憮然とした表情で見下ろしている。



―――見ていてあまり気持ちのいいものじゃないな…と、クロロは早々に、傍に立つシャルナークに視線を戻した。



「……ところでなんでウボォーなんだ?お前とウボォーと2人いて、あいつはウボォーを選んだのか?」

「そうみたい。人の好みってわかんないね?…一応、ケイリュースが前に好きだったらしい奴にウボォーが似てるから、そいつとウボォーを混同したらしいけど」

「そうか…。どのみち趣味がアレなのは元からってことだな」

「おい団長、何ボソッとひでぇ事言ってんだよ!」

聞こえてるぞ!とウボォーギンがクロロに向かって怒鳴る。

ケイリュースは、怒鳴るために自分の方へと少し身を乗り出してきたウボォーギンの胴に、嬉しそうにペタリと抱きついた。



「ソウ。ワタクシ、そう、好き。ダカラ一緒、が良いデス。アナタ、ウボォーギン。ウフ。イツモ」

「チッ…。あー、うざってぇな。いちいち引っ付くなよお前も…」


「…ふむ。ずいぶん懐かれたな、ウボォー。お前はそいつとここに残るか?」

「おいおい、冗談はやめてくれよ団長。オレはコイツと居るよりゃケンカの方が百倍いいぜ」

「あっれ?そうなの?ずいぶん仲良かったのに。…ねぇ?ケイリュース?」


ウボォーギンとケイリュースの元へ、てくてくと向かいながら言うシャルナーク。

ケイリュースの頭を撫でて、シャルナークは笑顔でウボォーギンを茶化す。


"仲が良い"とはもちろんアレの事を指している。「不可抗力だろ…」とウボォーギンは口を尖らせそっぽを向いた。





「…ねぇ、ケイリュースって言ったっけ」


ウボォーギンの傍の、古臭いデザインの椅子の上で体育座りで座っていたシズクが、ふとケイリュースに尋ねてくる。

ウボォーギンに抱き付いた格好でケイリュースはシズクの方に顔だけ向けて、ニコリと笑った。


「ウフ。そう。ワタクシ、の名前は、ケイリュース、デスネー。ウフフ」



「おしり出てるよ」


ピッとその一点を指さしてシズクが淡々とした口調で言う。

それを聞いてシャルナークがプッと失笑を漏らし、クロロはシズクが指さすところへ視線を向け、ウボォーギンはギクッと身を固める。



「防護服達、そんな服しか用意してくれなかったの?もうちょっとマシなのありそうなのに」

「あはは、違う違う。これはウボォーがやったの」


汗を垂らして黙り込んでしまうウボォーギンに代わり、シャルナークがニコニコと笑って答える。


「…お、おいシャル;」

「ほーう?どういうことだ?」


なぜかシズクよりクロロの方が食いついてきた。



「うん。最初はちゃんと着てたんだよ。シャツとかも。―――で、それが今はこれ」


建物の隅に投げ捨ててあったワイシャツ……らしきボロ布を拾い上げて、シャルナークはクロロとシズクに開いて見せる。


「見ての通りもうビリッビリの再起不能だし。ついでに言うと今ケイリュースが穿いているズボンも、ウボォーが力任せにヤッたせいで留め金は吹っ飛んでチャックは壊れたし、よく見るとところどころの縫製もかなり怪しいんだよね」



先日のアレの後に、素っ裸のケイリュースを抱っこしたウボォーギンに『どうしたらいいか?』と相談され、『しょうがないからその破れかけのズボンだけ穿かせとけば?』と提案したのはシャルナークだ。


「どうせあとは団長が来るだけだし。男ばっかりだから見えても大して問題じゃないよ。ケイリュースだって脚立たないから座ってるしかないし、…大丈夫だろ?」


と…投げやりにだが一応体裁を整えた感じで、シャルナークはウボォーギンに言ったのだ。そしてウボォーギンはそれを実行した。

しかしその時は大丈夫だと踏んでいたのに、当のクロロがシズクを連れてくるもんだから、2人を出迎えたシャルナークはついその場で吹き出してしまった。


だからと言ってケイリュースの代わりの服を用意する時間もなく、それ以上どうすることもできなかったのでシャルナークはそのままクロロとシズクを建物に招き入れた。

………どうすることもできないとかいうのは建前で、ウボォーギンの困った顔を見るのが面白かったから、というのが大方の理由だったのは否定しない。



そんなわけでケイリュースの現在の着衣といえば結局その崩壊寸前のズボン1枚のみ。ケイリュースはそれを腰に引っ掛けるようにして穿いていた。

それがずり下がって、シズクの位置から見ると半ケツ状態なのだろう。ウボォーギンが言うには、下着は元から穿いてなかったらしい。

シズクの方は表情を変えずに淡々とそれを指さしているし、ケイリュースは気づいてないのかニコニコとした無邪気な笑顔を浮かべたまま。


この場で焦っていたのはなぜかウボォーギン1人だけだった。



「ケイリュースも脚怪我してて立てないのが幸いしたけど。下着もないから、下手したらシズクの前でぽろりだよ?…ウボォーのせいで」

「オレのせいってなんだよ!コイツがパンツ穿いてねぇのは最初からだし、それに元はと言えばコイツが突然サカってオレに飛びついてきたから…!」

「そうだけど。でも、これをこんなにしたのは ウ ボ ォ ー 、…だよね?」

「ぐ…。それは、まあ…。…くそ、言い返せねぇ」


「お前性格悪いぞ」とぼやくウボォーギンに、シャルナークは再びクスクスとどこか黒さの滲んだ笑みを返す。


あー楽しい、とその時のシャルナークの目は有言に語っていたという。



「へぇ。ってことは今の話はつまり……お前、ウボォーと寝たのか?」

「団長!?」


ケイリュースと目を合わせて、おもむろにクロロが問う。

何訊いてんだ!?とウボォーギンが叫んだ。



「ウフ。ソウ。ワタクシ、好き。アナタ、ウボォーギン。一緒欲しいの、寝るのシタ、ワタクシ、思わず死スルのこと覚悟シマシタ、その時。
 ワタクシ、アナタ、スルのワタクシ、苦しい。殺すサレルと考えた。痛いカッタ。けど気持ちイイの。とても。好き。ウフフ」

「そんでお前はなんで全部喋っちまうんだよ!!」

「あはははははっはははは!!!」

「笑いすぎだシャル!!」

「ふーん…。たしかにウボォーってケダモノそうだもんね。大変そう」

「ぶふーっ!!ふふははwwッ、シズク淡泊すぎだろwww」


腹を抱えて爆笑するシャルナーク。

ウボォーギンは「くっそー」とこぶしをギリギリ握り締めていた。



「それはともかくこのままじゃ困るよね。仕事で外行くついでに盗ってきてあげようか?寄り道するくらいの時間はありますよね?団長」

「ああ、構わない。多少ならまだ余裕があるからな」


クッ、とクロロも話に失笑を零しながら頷いた。




「外、行ク……?アナタ、ウボォーギン。ドコか行きますか?仕事、はドコ?ワタクシ、は一緒…?一緒欲しい…。ワタクシ、アナタ、ウボォーギン、好き」


話の流れから、彼らがどこかへ行こうとしていることに気が付いたらしいケイリュース。

抱っこでもせがんでいるつもりなのだろうか、両手をウボォーギンに開いて見せてゆさゆさと縦に体を揺らし始めた。



「あれ、ケイリュースも行く気だよこれ」

「…ここで面倒を見てやるぐらいなら構わないが、連れて行くのは無しだ。そんな奴連れて行ったところで足手まといにしかならないだろ?」

そうクロロが冷たく淡々と言うと、ケイリュースの表情がまるでこの世の終わりを見たかのように、みるみる悲しく歪められた。


「うう…。ボス…。ボス、ダンチョー。大丈夫、ワタクシ役に立つのするデキル。頑張る、カラ大丈夫。一緒…、ワタクシ、も一緒、行ク…」

「うわっ!?ちょっとケイリュース!!そのまま立っちゃ駄目だってば!」


ウボォーギンの大きな体を支えに、ケイリュースがプルプルと脚の怪我をおして立ち上がろうとする。

ズボンが腰からずり落ちかけて、慌ててシャルナークが横からケイリュースの腰に飛びついた。


しかし飛びついた勢いでケイリュースの膝からはカクンと力が抜ける。

ずぅるりとケイリュースはシャルナークを腰にくっつけたまま、ウボォーギンの背中に指を立てながら滑って床に倒れていった。


「くすぐってぇな。何やってんだよお前ら…」

「ご、ごめん;」


「う、う…。何故?シャルナーク、ワタクシ止めるマス?一緒、ダメ?大丈夫、ワタクシ囮にするの事、いつも、メイレイ。群がるの誘蛾灯。すると良いデス。誰も怪我ナイ、シナイからダレも。
 だから囮スルのこと、命令…。ワタクシ、は、囮、は、ボス、の役に立つ。ダカラ、ボス、ダンチョー、ワタクシ一緒行くの命令、クダサイ。ワタクシ、は、ボス、アナタ、ミンナ一緒良いデス。
 …ヒトリ嫌…、棄てるのサレルの、ワタクシもう嫌……」


倒れた格好のまま、ケイリュースはめそめそ泣き出した。

それを、ケイリュースの上に覆いかぶさって困ったように見下ろすシャルナーク。

何か言いかけたが、その前に「ふう」とクロロのため息の声が耳に届いて、シャルナークは振り返る。


「お前のような物狂いを囮に使わなければ達成できない仕事じゃない。それにオレ達は囮を使って横から刺さなければ勝てないほど弱くもないしな。
 ……お前を棄てて行く訳じゃない。流星街に棄てられた者をこれ以上どこに棄てろと言うんだ?お前はここでおとなしく待っていればいい。3日とかからずに戻ってくるさ」


「待つの…?ワタクシ…?ヒトリ…?ワタクシが、必要ナイカラ?ダカラ棄てていくデスカ?ボス…」

「違う。お前を棄てて行く訳じゃないと言ってるだろう…」

「あーあー、そういう言い方じゃダメだよ団長。ケイリュースは頭弱いんだから。そんな恐い言い方だと余計聞く耳もたないよ?」

話の通じなさに若干イラつき始めたクロロに、シャルナークが胸の前で両腕をクロスさせてバツを出す。



「はぁ…ならどうする?何を言おうと連れて行くことなどありえないが…」


「まあまあ任せてよ。……あのねケイリュース、ちゃんと聞いてくれる?団長もウボォーも君の事棄てて行く訳じゃないよ。大事な仕事があって、ちょっとの間遠くに行くだけだから。
 君を棄てた『ボス』や『アナタ』と違って、ちゃんと君のところに戻ってくるからさ。だから今日だけは聞き分けてくれないかな。
 脚の怪我が治ったら、そのときはケイリュースも一緒に行こう?ね?」


……もちろん怪我が治ろうと連れて行く気はさらさら無いのだが、嘘も方便だ。

いかにも優しい顔で言って、シャルナークはくしゃくしゃとケイリュースの頭を撫でる。



「うう…、う、仕事…はダイジ…。ワカル…シマス……。デモー、ワタクシ…ヒトリは嫌デスネ…」

「大丈夫。オレがケイリュースとここに残るから、1人じゃない。……いいだろ団長?ちょうど調べたいこともあったし。ウボォーとシズクが行くんだから十分今回は手が足りるだろうし」

「…お前がそいつのお守りで良いと言うなら、オレは止めはしないが…。まぁそうでもしなければ延々と堂々巡りになってただろうしな。わかった、早めには戻ろう」

「そうしてくれると助かるよ団長」


泣き止んだケイリュースの腕を引っ張って、起こす。

まだ何度か鼻はすすっていたが、了承はしたのだろう。それ以上ケイリュースは文句を言わなかった。



「…なんか悪ぃな、シャル」


ウボォーギンがガリガリと頭を掻きながら申し訳なさそうに言ってきた。

だからシャルナークはニコリと屈託ない笑顔をウボォーギンに向ける。


「大丈夫だって。ウボォーが残るより、調べ物もあるオレが残った方が効率がいいってだけ。ケイリュースの事はオレに任せて、気にしないで行ってきなよ」

「そうか?じゃあ任せるぜ。その代わりこっちの方はオレに任せろや。お前の分も暴れて来てやるからよ」

「あははっ、よろしくー」

「なるべく早く帰ってきてあげるからね、ケイリュース。あと服も」



シズクがケイリュースの頭を撫でて言う。


その言葉をきっかけにクロロは「じゃあ行くぞ」と立ち上がり、ウボォーギンとシズクを連れ、建物を出て行った。

















「よしっ、と…。じゃあ、やりますかー!」


テーブル代わりの大きめの石材の上にゴトリと、小さめのノートパソコンと自分の物ではない携帯を1台ずつ乗せる。

そしてシャルナークは「よしっ」の声と共に意気込むように手のひらを叩いた。



「それにしてもまたずいぶん大人しくなっちゃったね、ケイリュース」


クロロを筆頭に皆がここからいなくなることを伝えたときは、泣いて嫌がって…としていたケイリュース。

気狂いの割には良く喋るケイリュースなのだが、今は床に敷かれたボロ布の上に足を投げ出して座り、ボーっと呆けたような表情でただただ床を眺めていた。

防護服たちにノートパソコンと携帯を借りにシャルナークが建物から出て行った時―――1人でここに残された時も、ケイリュースは特に嫌がるそぶりも見せずボーっとしたまま。

思っていたより大きな音が出た、合掌の音にも反応しなかった。



「(…ウボォーも団長もいないせい…だろうなぁ、これどう考えても)」


一応言って聞かせたはずだけど、今のケイリュースでは理解するのは難しかっただろうか?

「やっぱりまた『棄てられた』と勘違いしちゃったかなぁ。『ボス』と『アナタ』に」



…なんだかな、とシャルナークはぽりぽり頭を掻いて苦笑いを見せた。


そして座ってボーっとするケイリュースの脇にしゃがみ込む。





「寂しいなぁ、ケイリュース。君と一番最初に会ったのはオレだよ?なのに見てるのはウボォーと団長だけ?オレの事は見てくれないんだ?」


少し茶化すようにそう言って頭を撫でる。

するとケイリュースはゆっくりと顔を上げ、その濃いピンク色の瞳をシャルナークの方へ向けてきた。



「さみ、シイ…?ワタクシ、そう、寂シイ…。ソウ。ボス、ダンチョー。アナタ、ウボォーギン…。イナイ…、寂しい…」

「そうだね。でも戻ってくるまではオレが一緒に居るんだよ?だから寂しくないだろ?…わかるよね?オレの事」

「うう…、オレの事、は、シャルナーク…デス。一緒…?」

「そうそう、一緒。だから大丈夫。…ね、ダイジョーブ!はい、リピートアフターミー」

「り…、り…」

「ぶふっ。そっちじゃないって」



「ってか"リピート"はわかるんだw面白いなー、君」と笑って、シャルナークはまたくしゃくしゃとケイリュースの頭を撫でた。

そして困った顔を向けてくるケイリュースの隣で、シャルナークはノートパソコンを開いた。



「さてと。じゃあオレはその間に調べ物っと…!」


防護服たちから無理言って借りてきたノートパソコンの接続端子を、同じく借りてきた屋外圏外なし全世界対応型のビートル07型改造携帯に繋ぐ。

そしてそこから電脳ネットのハンターサイトにアクセスする。




『調べ物』とは、ケイリュース自身の事だ。

自分自身の髪の毛で、自分を操作した。そして壊れたケイリュースの―――前経歴。



本来なら流星街に棄てられた時点で、その人間の過去もなにもかも、この流星街の住人たちにとってはほぼあってないようなものだ。

棄てられたそのままを、ここの住人は受け入れる。


ケイリュースのこともそうだ。

たとえこうやって、壊れて自分の事などほとんどわからなくなってしまっていても―――ウボォーギンもクロロもシズクも、ここに棄てられたそのままのケイリュースを受け入れるだろう。

実際その通り、なんだかんだと受け入れられたし。


ケイリュースの過去など、ここで生きていくのにはもはや必要ない物ではある。





「(でもま、気になっちゃったしね)」



ケイリュースが己を捨ててまで尽くそうとしたのに、そのケイリュースを恐れて棄てた『ボス』とか、ケイリュースの想い人らしい『アナタ』とか。

ふとした拍子にケイリュースが元に戻る可能性もあるし、その時にはやはり過去のケイリュースを知っていた方が話もしやすいだろう。


「(それに、またウボォーをからかういいネタになるかもしれないし)」

正直そっちの方が大きな理由かもしれない。…我ながら黒い。

フフッ、と笑みを漏らすと、ケイリュースに不思議そうに首を傾げられた。





「とはいえ手掛かりはあんまりないけど…。いくつか絞ればなんとかなるか」


防護服から聞いてきた話によると、廃物と一緒にケイリュースを棄てて行った飛行船は、一般処理業者の皮をかぶったマフィアンコミュニティー御用達の業者のものだったらしい。

普段はそれなりにまっとうに仕事をしているが、マフィアからの依頼があれば死体や武器や援助物資を運ぶ仕事もしている業者の。


ケイリュースは銃でも撃たれているし、ハンターでもないのに念能力を修めていることからも、やはり外法の組織の人間であることは間違いないだろう。

順に当たってみるか、とブラックリストやマフィア関係の関連項目を片っ端からめくってみることにした。




―――手掛かりはケイリュースと言う名前と、男にしては珍しいストロベリーブロンドの髪。


普通の男ならそんな色、大抵は別の色に染めてしまうか短く刈ってしまうだろう。シャルナークでもおそらくはそうする。

が、ケイリュースの髪は染めて傷んだような痕跡もない。

汚れてボサボサではあったが髪質自体は綺麗なものだったから、棄てられる前からおそらくケイリュースはこの地毛をそのままの色で維持していたんだろう。

きっと目立つことこの上ない。十分手掛かりになるはずだ。



「…おっと。それからあのトライバルも、か…」


上半身裸のケイリュースの右肩。長い髪の間から時折覗いている、ドラゴンを模した大きな黒いトライバルのことを思い出してシャルナークは立ち上がった。




「ねぇケイ。背中、写真撮らせて?」

「う…?ケイ…?ケイ…、ワタクシの、こと?」

「そうだよ。その方が言いやすいかなって思ってさ。…気に障った?」

「うぅ…気にサワル、のは違ウ、デモ、デモー、ワタクシ、は、ケイリュース。…デスヨ?ですヨネ?ケイ…?ううん?」


今まで呼ばれていた自分の名前と違和感があるのか頭をゆらゆらさせて考え込んでしまうケイリュース。

あれ、混乱させちゃったか。などと思いながら「じゃあ撮らせてね」とシャルナークはケイリュースの髪を束ねて持ち上げた。



「…ナンデ?シャルナーク、ワタクシ、撮るのスルデス?背中?ワタクシの?ナンデ?」

「あっと、そのまま動かない!……君の事いろいろ調べたいからね」


自分の携帯でトライバルを写真に撮って、それをパソコンに繋いだ改造携帯の方へメールで送った。


「ナゼ?調べる?何、ワタクシの事、調べるアリマスカ…?ナニの事?ワタクシの事、ワタクシ、聞く、のが、一番なの。ワタクシわかります。なのに、なぜ?シャルナーク、は、調べるマス?」

「…って言ったって、君、訊いたこときちんと答えられるの?ボスの名前とか今言える?」


それまでだんまりだったのに、何がスイッチだったのか突然ぺらぺらと喋るようになったケイリュース。

笑って、シャルナークは少し意地悪気にケイリュースに訊き返した。



…好きだとか守りたいだとか言う割に、ケイリュースはまだ一度も『ボス』や『アナタ』の名前を思い出してはいない。

それどころか、自分にとって大切なはずのその存在をクロロやウボォーギンと簡単に混同する始末。

そんなケイリュースが、シャルナークが知りたいことの何に答えられるというのか。


もちろん、なにかしらのキーワードがあればケイリュースもそれをきっかけに何か思い出すかもしれない。


『操作』の言葉から自分の境遇を思い出した時のように。

『ボス』の名前とか、『アナタ』の名前とか。与えれば答えてくれるかもしれない。


しかしそれだってまっさらな状態からでは何もできないし、キーワードを探すだけでも膨大な時間と労力がかかる。

下手なキーワードを与えれば、この良く喋る気狂いはまた突拍子もないことを延々と喋り続けるに違いない。

キーワードを探す暇があれば、電脳ネット上で知りたい情報をそのまま集めた方がどう考えても早い。


案の定ケイリュースは泣きそうな顔をシャルナークに向けてきた。



「う、う…。ワタクシ…、ボス……うう」

「あははっ。ごめん、意地悪したね。大丈夫、自分で調べるからさ」


困って眉を下げるケイリュースがなんだか可愛くて、ぐりぐりとまた頭を撫でて落ち着かせてあげた。








中編へつづく




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すもも

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ももももも。