ピンクメドゥシアナ ◆05:笑顔の裏に潜む(前編)




「でもさー、さっきの話だと結局、パクも『ウボォーが男とつがいになった』ってメールを団長から貰ってここに来たって事だろ?そんなメールでよく来る気になったね?」


長屋街への道すがら、ケイリュースを横抱きに抱きかかえたシャルナークが、隣を歩くパクノダにそんな事を尋ねてきた。

ちなみにシズクはケイリュースの濡れたズボンと、いつかの日にゴミ山から拾ってきたケイリュース用のショッキングピンクなクロックスを手に、パクノダのさらに隣を歩いている。



「そりゃ、私だって最初は来る気無かったわよ。でも相手のケイがこんな可愛い子だなんて、あんな画像見せられたらねぇ?」



シャルナークの首に抱きついていたケイリュースの頭をフワフワと撫でてパクノダは言う。嬉しそうにケイリュースはニコニコと顔をほころばせ、パクノダへとその顔を向ける。


「…あんな画像?」とシャルナークが聞き返すと、パクノダは「あら、あんたは貰ってないの?シャル?」と自身の携帯を操作して画面を見せて来た。



「あ、ケイ可愛い。ウェーブにしたときの写真だね」

「…う?ワタクシ?ナニ?」

「ホントだ。出てく前に撮ってたのかな?ほんっと団長ってそういうトコ抜け目ないよなー」


渡された携帯の画面には、1週間ほど前―――それこそクロロがこの流星街から居なくなる直前に、髪を三つ編みからのウェーブに加工した時のケイリュースが可愛らしくこちらに向かって微笑んでいる写真が映っていた。



「ア!これ!ワタクシ!」

「あははっ。そうだよ、ケイの写真。この時の事は覚えてる?ケイ」



嬉々として携帯の画面を指差したケイリュースに、シャルナークは笑顔でそう尋ねる。

するとケイリュースもまたニコニコとそれに笑顔を返して、「そう、ソウ…。覚える、シテルワタクシ」と何度も頷いた。



「ボス、ダンチョー。クロロ…、ワタクシの新しいボス…、撮ルの…、ワタクシスル、シテクレタデスネ。キラキラ、ぴんくいの…かわいい、笑え、言うボス…。ケイ、呼ぶシテクレタです。ボス撫でてクレますた。あたかい手…、ワタクシ嬉しいシタ…。ワタクシダンチョー好き…。クロロ優しい…、好き…」


両手を顔の前で合わせてうっとりと嬉しそうに惚気るケイリュースに、「あらあら、ケイは団長も好きなのね?w」とパクノダが子供の話に合わせるようにして微笑みかける。



「まあでもこんな写真でもなくちゃ、あんなメール1本でこんな荷物持ってまでホームまで戻って来ようとは思わないわよ」


言って、パクノダは大きめのショルダーバッグをかけた肩をすくめる。

それに対してシャルナークもまたプッと小さく吹き出しつつ「確かにw」と応えてきた。




「男とつがいになった」なんてメール内容から、その後追い打ちのように送られて来た添付ファイルをパクノダは最大限に警戒した。


見たくない見たくない、と思いつつも、しかし恐いもの見たさの好奇心に負け――――

そっと画像を開いてみれば、そこに写っていた「つがいの男」の姿はパクノダの想像の斜め上を行くものだったから別の意味で「はあ!?」と声を上げてしまった。

前情報無しでパッと見ただけなら「どこから攫ってきたのよ」「あんたの彼女?あり得ないわ」とかウボォーギンに詰め寄ってしまいそうなほど、画像のケイリュースは普通に可愛らしい少女の姿をしていて。


そして、『まさかこんな子をウボォーみたいな野生児に任せられないじゃない』と妙な義侠心に駆られて来てみれば、当のケイリュースの方が誰よりウボォーギンの事を好いていて離れたがらない、というのだからパクノダはさらに面食らい。

1日・2日も経たずに、その辟易するほどの好き好き光線にこっちまであてられてしまったのか、もはや一周回って微笑ましい感じのものにしか見えなくなってしまった。




「ホント、ノブナガやフェイタンじゃないけどこんな可愛いなんて予想外よねw」


この際だからもっと可愛くしてあげるわね、とパクノダはバッグの中身をケイリュースに見せつつ言う。

バッグの中身は各種化粧品や美容用品だ。「ずいぶん持ってきたねー」とシャルナークが、「さすがパク」とシズクも一緒になってそれを覗く。



「ウボォーだったら、絶対にそういうところ雑に扱ってると思ったのよ」

「やっぱ誰でもそう思うよなー。ウボォーに任せとくとさぁ、シャンプーもコンディショナーも全然中身減らないんだから。結局オレがケイのそういうとこ、面倒みてあげてるんだよね」

「ウフフ!そう、ソウ…、シャルナークわ、ワタクシ、の…いつもシテクレル、スル…、やさしい!ワタクシ好きデス。シャルナークもすき…」


ぱあーっと顔の周りに花を咲かせてケイリュースが会話に割り込んでくる。

ふふふ、と笑ってケイリュースは再び、先ほど「ダンチョー好き」と言っていたときと同じように両手を合わせてうっとりとした表情で首を傾けた。


するとそれを見たシズクが「ケイ。あんまりそういうの、良くないよ?」といつもの無表情ながらケイリュースをたしなめる。


「…う?」

「そうね。あんまり期待持たせるのは良い事じゃないから、そうやって誰にでも「好き」って言うのはやめなさい?シャルと団長なんか特にダメよ。言質とられたら最後、手玉にされるわ」

「えー?w ひどいなパク。オレ、そんな節操なしに見えるわけ?」

「各所に現地セフレが居るような色男はちょっと黙ってなさいね?シャル」

「そんなん居ないって!ちょっとあちこちでモテちゃうってだけなのに、どんなイメージなのオレw」


「ケイは団長よりシャルより、今はウボォーが一番好きなんでしょ?」


シャルナークとパクノダの会話をよそにシズクがケイリュースへとそう尋ねる。

訊かれたケイリュースはシャルナークの首にしがみつつもコクコクとそれに笑顔で頷いた。



「ウフ!うん!ウン!そう!ウボォーギン!すき!ワタクシ!大好き!うぼーぎん、は…、ワタクシ連れるのしてクレル…、殺す、シテクレル言ったデス…。
 ワタクシうれしい…。ヒトリしない…、チャント、ころす、は…言うシテクレタはスゴク嬉シイダカラ…。だから…だから、ワタクシ、ウボォーギンが好き…。いっぱい…、タクサン大好きのデス!ふふふ!」



空を見上げ、ニコニコととても楽しそうにそう言うケイリュースに、パクノダとシャルナークとシズクがそれぞれ『ん?』とばかりに疑問符を頭上に掲げる。



「あら。ケイは、ウボォーに殺されるのが嬉しいの?ずっと一緒に居られる方が良いんじゃないのかしら?」


パクノダがそう訊くと、ケイリュースは眉を下げて哀しい顔で地面を見る。



「一緒…、うう…。うぼーぎんトー、いっしょ、のは…、イチバン良いデス。ワタクシは、もうヒトリいや…。ズット一緒にイル、は…一番デスネ。
 デモ、デモー、ミンナ、前ノハ、そうだった、シタカラ…。ワタクシは、イツモ、イツカ、は、ワタクシ…、誰も、飽きて棄てラレル。何もできない…、ばかで、愚図の…弱い私は、利用されるダケ、サレテ…いつも棄てられるシタ…。
 ズットワタクシ、は…、ナニモ信じラレナイ…、ラレナイわたしは、イツモ、壁を作り、心の底…真実を隠す…。そしてワタクシ…は、強いの…フリをシテ、ダレもカレも、利用する…シテ、ヒトリも、へいき、のふりシテタです。でも、本当は、本当は…ワタクシ、ヒトリいや…。信じラレルのひと、イツカ…深くキズナ、ズット欲しいシテタ…。
 アカシアの…いた、ボスは見てクレタカラ。スレイ…、スレイ…は、ワタクシ、信じるシテイイ思ってイタ…ノニ…。デモ、スレイもワタクシ…、サイゴは棄てたデス…。りゅうせいがい…。ワタクシ悲しいクテ…。
 デモー、うぼぉーぎんは、ワタクシひろう、シテクレタの。抱ク上げるしてくれた…。ワタクシ、が…弱い、しても…、ばか…ダケド…。デモ良い、スキ言うシテクレタから…。ワタクシ嬉しい…、ウボォーギン好き、ワタクシたくさんナッタ…。
 …デモ、デモー、ワタクシは、ウボォーギンも、イツカ、は…ワタクシ飽きて、棄てるスル…?
 ワタクシ不安のの…。すきなひとの…、うぼーぎんの、に…また…棄てる、サレテ…ひとり、またスルするのナルぐらいナラ、もう殺す、ワタクシシテ欲しい…。ずっと一緒…居てほしい…。ワタクシ、は言ったデス…。ウボォーギンに、言った、シタ…。
 そうし、そうしタラ、…ソシテ、ウボォーギンは、言うシテくれたデスネ。ワタクシ、最後のは、棄てるシナイ…サイゴ、は…ワタクシ殺してくれる、言う、シテクレタ…。
 ワタクシひとりしない、ずっと一緒、イテくれる言う。殺すの、シテクレル…。言ってくれたデス…。ワタクシ嬉シイ…。今マデの…一番嬉しいダカラ…。ウボォーギン、ワタクシずっと好きイル。イチバン大好き…。ウフフ…」



悲しげな表情から一転、惚れ切ったようなうっとり顔を上げたケイリュース。…が次の瞬間にはハッとしたように「ア!」と漏らして固まった。


「…どしたのケイ?っていうか『ア』はびっくりするからやめようねって」

「ひみつ…、秘密ダッタデス。ひみつシテクダサイ」


オレ前にも言ったよね?と続けるシャルナークの言い分も聞いているのかいないのか、そわそわと体を縦に揺らしながら焦ったようにケイリュースは両手を合わせてお願いのポーズで「ひみつ、ひみつ、」と繰り返す。



「あら、何が秘密なの?ケイ?」


半ば予測はついているものの、それでもわからないふりでパクノダは尋ねる。

そしてその優しそうな微笑みにケイリュースはもちろん何の疑問も抱かなかったようで。



「ひみつ…。うぼぉーぎんは、ワタクシ好き言う、は…秘密の、良い言う…。ワタクシはすき、たくさん、タクサン、うぼーぎん好き言うシタイのケド…。好きのいう、スルは、ウボォーギンの…、一緒トキダケ、のが良い。らしデス…。
 ひみつ…ウフフ。アナタ、とワタクシ、ふたり、ダケの秘密…。それほうガー、ドキドキ。好きは、シャルナークの…、パクノダ、もシズク…も、ミンナ前のは、あまり言うシナイ…。秘密がイイ、うぼーぎんは言うシタデスネ…。ウフフフ」


「あははは!ケイってば、それ言っちゃったら秘密にならないだろ?」

「…う?」

「ケイはなんでも素直すぎるよ」

「ふふ。まあそういうところも含めて、ウボォーの性分には合ってるのかもしれないわね」


そう言ってパクノダは、『ナンデ笑うスルデス?』と疑問符を頭の上に掲げてキョトンとしていたケイリュースの頭を柔らかく撫でた。

するとケイリュースの頭のスイッチもそこで切り替わったのか、パクノダの方を向いてニコニコと笑顔になる。



「ウフフ。ワタクシパクノダも、綺麗良い。優しい。すきデス」

「あら何?急に。嬉しい事言ってくれるわね」

「シズク、は可愛い。ワタクシ、しずくも好き。ワタクシおとこ、ナノデー、可愛い、きれいのおんなのこは、イイデスネ。みんな好きです」

「そんな身も蓋もないことまで言わなくていいって、ケイw」


シャルナークがそう突っ込むと、ケイリュースはくるりとシャルナークの方を見て笑った。



「フフフ。シャルナークも、優シイくて、格好いい…。チョットいじわる…言うも、アルは…デモ、ワタクシ、シャルナーク好きデス」

「はいはい。ありがと」

「ボス、ダンチョー…、ダンチョーは、いないの…けど、ワタクシを、嫌いを思うの、ないヒトミ、は、ワタクシワカルシタデス。カラ…。ワタクシ撫でテ…、笑う、ワタクシのあたらしいボス…シテクレタダンチョー…。クロロ…も、ワタクシ好き」

「…結局みんな『好き』なんだね、ケイ」

「ふふっ、そうねw」



真顔で言うシズクに、パクノダがクスッと漏らして同調する。

ケイリュースはというと話すうちに楽しくなってきたのか、少し興奮気味に身体をゆさゆさと縦に揺すり始める。



「あたらしい、男、のひとの、3にん、は…新しいヒトデス?デモー、デモー、ウボォーギンとしてた、笑う、をシテタデスネ!ウボォーギン、のナカマなのヒト?デスカ?笑う、のはイイデス。キズナあるの感じ、スル。ウボォーギンの、仲間です?
 仲間、はイイデスネ。ワタクシ、も一緒、ナカマ居るシタイ。キズナ、ワタクシ欲しいシテ…。ワタクシのミンナ、と…ワタクシもなれる?一緒、なかまイテ…、ワタクシも良いデス?なかま…、思うをミンナして、ワタクシも良いデスカ?ウフフ!」

「ハハ。まぁいいんじゃない?」


例え旅団員としてじゃなくても、ケイが流星街(ここ)の住人である限りはみんなそう露骨に邪険にはしないでしょ、とシャルナークは笑う。



「ええ、そうね。ケイがウボォーを好きで一緒に居たいと思う限り、他のみんなもケイの事可愛がってくれるはずよ」

「確かにw ケイに懐かれてるウボォー見てるの、ホント面白いもんなー」


「ウフ。…ホントウ?一緒イテいい?ミンナ、ワタクシもなかま…、思うシテクレル?…嬉しい。ふふ。楽しいワタクシ…。ウボォーギンと一緒…、ミンナ一緒イイの。なかま、楽しい、ワタクシも中、居てラレタら、ワタクシ嬉シイです…。
 新しいワタクシ、あたらしい世界…来れた、の…ワタクシ。流星街…、あたらしい…。たくさんナカマ…。嬉しい。ふふふ…」


クスクスと口元を手で押さえながら嬉しそうに微笑う。

ケイリュースのその顔を見て、シズクが「流星街に来れたのが本当に嬉しいんだ、ケイ」と零した。



「よそと比べたら"良い所"とは決して言えないんだけどねー」

「そうよね。けど『住み良い場所』って住環境だけを言うわけじゃないから。ケイにとっては、ウボォーが居てあんたが居て、シズクや私や"みんな"が居るっていう事が一番大事なんでしょ。
 …さ、これからうんときれいにして、早く"みんな"の所に行きましょうか、ケイ?」

「うん。…ウン!ミンナ…、みんなイイデス。一緒いたい…ウフフフ」

「ケイ、歩きづらいってw」


笑顔のパクノダに撫でられて、花が咲いたように満面の笑みを浮かべたケイリュース。

たまらなくなったのか、自身を抱きかかえるシャルナークの首に再びギュッと抱きついて「ウフフ、ウフフ」と体を揺らす。


そんなケイリュースを『大人しくしててよ』とたしなめるシャルナークもまた顔が笑っている辺り怒ってはいないようで。

「危ないよ、ケイ」とシズクにもその背中を支えられながら、長屋街の方へと歩みを早めた。



















――――そして夕刻。

シャルナーク達が戻るより前に、いつもの広間では酒瓶の運び出しもそこそこに男共による酒盛りが始まってしまっていた。


空になった酒瓶と食べ物の空袋や空箱が周囲に散らかる中、ぶすくれた表情で黙って座り込むウボォーギンをノブナガとフィンクスとフェイタンが酒を片手に笑いながら囲んでいる。



「オラ、ウボォー!いい加減黙ってねーで教えろよ!あのピンク髪とどーいう仲なのかをよw」

「そうだぜw そろそろいい感じに酒入っただろ?その勢いでつるっと白状しやがれ」

「今のうちに洗いざらい吐いておくが身のため言うものねw」


「冗談じゃねー。他人事だと思って茶化す気満々じゃねーかお前ら。誰が話すかってんだ」


言って、ウボォーギンは手に持っていたコップの酒をグイッと煽る。




この15日間に色々、それこそケイリュースと2人きりで過ごした時には色々な事があった。

第三者には絶対に聞かれたくないような、似合わなくも恥ずかしいセリフを何度も吐いたし。言われたし、言わせたし、…させたし。



「(それだきゃあ、さすがにな…)」


いくら昔馴染みの仲間でもそんなものさすがに聞かせられないだろう。いやむしろ気心知れた仲間だからこそ、そんなことを喋ったら一体どんな大騒ぎになるか。

シャルナーク1人(とパクノダ)を相手にしてすら面倒なのだから、コイツら3人になんて一言でも喋ったが最後、シャルナークを相手にするよりももっと面倒なことになるのは目に見えている。

昨日おとといにケイリュースには「すきすきだいすき」は他の連中の前ではもう少し黙るように言っておいたりもしたが、その翌日にはこんなことになっているのだから本当にギリギリセーフだった。


ケイリュースの鳥頭がそのことをどれだけの間覚えていられるかはとりあえず横に置いておくとしても――――その時ケイリュースが「ウッぷす!」と変なくしゃみでシャルナークに笑われていたのにももちろん気付くことなく。


どんなに迫られようが絶対に、オレからなんて死んでも言わねぇよ、などとウボォーギンは心に誓っていた。




「ちっ…つまんねーなコイツ。口堅すぎだろ」

「よほど恥ずかしいと見たね」

「かっかっか!そりゃそうだろ。あんな別嬪が相手とかよw」

「別嬪言ても男ねw」

「女だったとしてもあんな顔の可愛いのは、商魂たくましい商売女か、それこそ頭でもイカレてなきゃウボォーみてぇな野獣なんて相手しねーだろw」

「顔に関してはフィンクスが言えた義理ないけどね」

「はあ!?ケンカ売ってんのか?フェイ」

「かっかっかっか。ま、イカレでも男でも、あんだけ可愛いなら運は向いてたって事だな!な?ウボォー!」

「うるせぇ」



喋っても喋らなくても、結局は好き勝手絡んでくる仲間たちにイライラを募らせながらウボォーギンは手酌で酒を煽る。


そこへ、話題の薄ピンク色が広間の入り口からひょこりと顔を出し、なおさら場が沸き立った。



「ギャハハハハ!!なんだよ、めちゃくちゃ可愛くなって戻って来たじゃねーか!!」

「これはウボォーギンが落ちるのも納得の可愛さねww」



出て行った時と同じようにシャルナークに抱き上げられた格好で戻って来たケイリュース。


その特徴的なストロベリーブロンドの髪は後ろの高い所でポニーテールに結ばれ、若干化粧もされているのか、頬紅と口紅のおかげでいつもよりも顔色がほんのり明るい。

服装だけは乾かしたいつものズボンとシャツ、そしてショッキングピンクの穴あきサンダルであまり可愛げは無いが、男共3人の期待には十分に応えることが出来たらしく、笑い声が加速した。



「来い来い!!早くお前こっち来い!」とノブナガに満面の笑みでぶんぶんと激しく手招きされ、空気を読んだシャルナークが、本日の主役を場の中心へと足早に持って行く。

そして「はい、ケイ。戻って来たよー」とケイリュースを床に―――ウボォーギンの隣に降ろして意味深にウインクした。


…なんだそのウインク、とそれを向けられたウボォーギンの額に青筋が浮かぶ。



「ウフフ!うぼーぎん!ワタクシ、モドルを…、見て!見るシテ!クダサイ!可愛いデス?可愛い?ワタクシお化粧…、きれいサレタ!パクノダ、シズク!ウフフフ、良いデス!イイ?」

「懐くなっつーの。なんでこっちに持ってきたんだ、シャル」

「えー?そりゃ、せっかく綺麗にしたんだから、やっぱり一番にウボォーに褒めてもらわないとさあーww」

「白々しく言うんじゃねぇ!顔笑ってんじゃねーか!?」

「そんなことないってw」



そんなやり取りをしていると、少し遅れてパクノダとシズクも広間に戻って来た。

そしてきちんとした準備もままならないまま始まってしまっていた飲み会の様子に、パクノダが「あら、やっぱりこうなったのね」と呆れたため息を零す。


シズクはというとウボォーギンの隣に座り込むケイリュースの背後から、

「それよりどうかな?パクが化粧品持って来てくれたから、髪整えるついでにしてみたんだけど」

と、ニコニコ顔のケイリュースを自慢気に(表情はいつも通り無だが)ウボォーギンの方へと押し出してきた。



「本当なら着替えもさせてあげるところなんだけど、流星街(ココ)でまともな替えの服を望むのは無理な話だったわ」


着替えにまでは頭回らなかったのよね、とはシズクに追従したパクノダの言だ。



「そこは適当に見繕ってあらかじめ持ってくりゃよかったのによぉ」

「可愛い服っていうのはきちんと体に合ったサイズのを着せないと野暮ったくなるものなのよ。ましてやケイはこんな見た目でも一応男の子だし、なおさらだわ」



クロロから送られてきた、測定的な意味で微妙な角度の画像1枚では、さすがのパクノダでも合うサイズの服を見繕うのは無理である。

身体のつくりも、いくら華奢とはいえ少女のそれとは骨格から違うはずだ。


それを説明すると、ノブナガも「なるほどなぁ…」と残念そうな表情であごひげを撫でる。



「かと言って集会場行ったって防護服共のセンスじゃそれこそ野暮ってぇのしか貰えねーだろうしな」

「年中ジャージのフィンクスに言われるようならお終いね」

「うるせー」


「でもさあ、もしマチが居たらそういう服でもきちんとリメイクしてもらえたかもね」


思いついたように指を立て、いつもの柔らかい笑顔でシャルナークは言うが、パクノダに「あんなメールじゃマチは来ないんじゃないかしら?」と微笑みながらに返され―――


「あー、それはわかるw絶対来ないww」

「かっかっか。たしかになぁw」

「メール貰ってキレる顔まで想像つくぜw」


と、ノブナガやフィンクスと一緒に半笑いになった。



実際、マチからは例の一報を入れた時点で「キモイメール送ってくんな」と一蹴する内容の返信がクロロの元に届き、その後の追加メールも全て無視されていた。

ちなみにフランクリンには「互いに好きあっての結果なら別に良いじゃねぇか。それをこうやって面白半分で囃すようなのは感心しねえがな?」とやんわりと一斉メールの件を咎められ、コルトピからは「メールは感情任せに送ったりしないでもう少し推敲した方が良いと思う」と変なアドバイスを贈られ。

ヒソカとはアドレス交換からしておらず、ボノレノフに至っては電子音が苦手などという理由で携帯の類は持っていないため連絡できていない。


画像の誘惑に負けたパクノダと、ウボォーギンの悪友たち3人。現状のメンバーでもよく集まった方だろう。




「はは。マチいないのは本当残念ね。どうせならフリフリのウェディングドレス着たそいつがウボォーギンに抱かれてるところ見たかたのに」

「うるせぇよ!お前マジでケンカ売りに来たのかフェイ!?」


ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ、明らかに面白がってるふうな表情のフェイタンを怒鳴りつけるウボォーギン。

フィンクスがさらにそこへ混ざってきて、「キレてんじゃねーよウボォーwwこんな面白れぇ事そうそうねーってのに」と茶化してくるのでウボォーギンの怒りはますます増した。


その隙に、「そんなにケイと一緒にされるのが嫌ならオレが預かるよー?おいで、ケイ〜?」とシャルナークまでもがニッコリ笑顔でケイリュースの方を誘惑しにかかってきて、さすがに堪忍袋の緒が切れた。




「……ったく…。いい加減にしろよテメーら」



聞こえた低い声にシャルナークがぎくりと体を固める。

その間にウボォーギンの太い腕の影がそのシャルナークの頭の上を横切り、シャルナークから差し出された手にほぼ反射で手を重ねようとしていたケイリュースの首根っこを引っこ抜いていく。



「おっ?なんだなんだァ?オメー、ついに観念したってのかウボォー?w」


「ふん…。じゃねーとお前らいつまでも笑ってるじゃねぇか。いいぜ、そんなに聞きたきゃ言ってやる。
 誰がなんと言おうとコイツはもうオレのもんだ」



ほんの少し前まで『死んでも言うか』なんて思っていたのも束の間に、ウボォーギンは引っこ抜いたケイリュースを胡坐の膝の上へと乗せた。

そしてケイリュースのその細い腰をギュッと抱き寄せ、自身の顔近くに来た薄ピンク色の頭へ、イライラの衝動のまま見せつけるように唇を押し付ける。


そんなウボォーギンを「おおっw」とノブナガが、「この単細胞(バカ)ついにやりやがったww」とフィンクスが茶化しかけるが――――

頭へのキスに気付いたケイリュースがあまりにも明るく、パアアーッと顔の周りじゅうに大輪の花を咲かせるかのように笑ったために、『お、おう…;』とばかりに何も言えなくなった。



「ワタクシ、ワタクシー…!ウフフ。…ふふ。ウボォーギンのもの?ウフフフ。嬉シイです…、ウレシイ。…ふふふ。ホントウの…嬉シイ。アナタ言うシテクレル…、力づく、のは…。ウフフ。イイデスネ。奪って。シテ。うぼーぎん、は、ワタクシアナタ好き…。大好き。ウフフ…」



頬を染め、至極嬉しそうにもじもじといじらしく身体を左右に踊らす。

そんなケイリュースを見たフェイタンが、「…このイカレ、本気でウボォーギンに惚れてるか?さすがに引くね」などとどこか嫌悪感の滲んだ表情でぼやいた。



「そうか?こうして見ると案外一途で可愛いとこもあんじゃねーか」

「…フィンクスまで落とすとなると、さすがに魔性と言わざるを得ないね」

「おまっ、そういう意味で言ったんじゃねーよ!!」


「かっかっか!しっかしお前にしちゃなかなか良いのとっ捕まえたな、ウボォー!まっ、性別は男だけどよwwオメーが認めた以上は応援するぜ、オレはな!」

「うっせーな。誰がいるか、そんなもん」

「そう言うなって、せっかく来たオメーの春じゃねェかよ!オレにも1枚噛ませろってんだ!」



ダハハハと上機嫌に笑いながら、酒を片手にべしべしと背中を叩いてくるノブナガを、ウボォーギンは『何を噛みてぇんだよ』とばかりに渋い顔で睨む。


いつもの飄々とした雰囲気から一転、やけに楽しそうなのはすでに飲み散らかした酒のせいか、それとも昔馴染みの親友であるウボォーギンの事を本当に祝っているのか。



傍にあった未使用のコップを着物の袖口で磨きつつ、ノブナガはウボォーギンの懐で能天気にニコニコしていたケイリュースへ「ほれ、ケイっつったか?オメー酒飲めんのか?」と――――

自身に向けられるウボォーギンのイラついたような視線は無視して陽気に詰め寄る。



「…ぅう?サケ?さけ、は…お酒デス?お酒…なのは、スキのワタクシ!飲むシタイデスネ!ウフフ。ワタクシ、ワタクシも、おさけ飲むスル!」

「おーし、じゃあこれがオメーのコップだ」



そう言って、傷が入ってくすんだガラスのコップをケイリュースの手に渡し、早速一升瓶からどくどくとそれに良い銘柄の酒を注いでやる。


別に溢れるほど入れたわけではないのに、なぜか焦ったように口でそれを迎えに行くケイリュースだったが、それをウボォーギンがコップの口を手で塞ぐ形でサッと止めた。

唇を手の甲で防がれ、「…う?」とケイリュースが不思議そうに目をぱちくりさせる。




「オラ、飲む前に先に乾杯だ、ケイ」



疑問符を掲げて見上げてくるケイリュースの、その両手に抱えられていたコップに、ウボォーギンは持っていたコップをこつっと小さくぶつけニヤリと笑う。


すると「あ、オレもオレも。乾杯ね、ケイ!」と急ぎ寄って来たシャルナークにも横からコップをぶつけられた。


「じゃああたしも!」

「おーし、乾杯だ!」


そうして次々に、フェイタンを除くその場の全員からコップをぶつけられる。

ケイリュースは驚きのあまりにか、口をまんまるくぽかんと開けて固まってしまった。


しかし少しして、その様子に気づいたウボォーギンに「おい」と尻を乗せていた方の膝を揺すられ、再起動を促された。



「…ふふ。ウフフ。ナニー?お酒…、オサケ、楽しデスネ。かんぱい、の…楽シイするオサケ。今まで…のは、乾杯…は、あまりシタナイカッタデス…ワタクシ。フフフ。デモー、うぼぉーぎん、アナタ…。かんぱいスル、良いデスネ。新シイ世界の…流星街、の…新しいは…かんぱい好きデス、ワタクシ」

「そーか?気に入ったなら、乾杯ぐらいこれから何回でもしてやるぜ?」

「ウフフ…」



撫でてやるとケイリュースは嬉しそうに目を細めてその手を享受する。


途中、頭の高い位置に可愛らしい赤いリボンで結ばれていたポニーテールにも手を絡めて、「なんだ、髪結んじまって良かったのか?」とウボォーギンはどことなく優しさのにじむ声を漏らした。


髪を結ぶのも、化粧も、女みたいな格好は嫌です、と泣いて縋って来た何日か前のやり取りを思い出しながら。

しかし今日のケイリュースはその時とは違って、ニコニコととても嬉しそうに微笑んだ。



「フフフ!かみ…、髪スル…はイイの!シャルナークはしてくれたデス、ワタクシポニーテール…。初めて、の…流星街来たのカラ、ワタクシ、新しい、イイデス。仕方…の、ナイ違ウ…。シャルナーク、も、パクノダ、シズクが、きれいイイ、シテクレルした、だから…。
 ポニーテールは初メテ…の、シャルナーク考えるシテ、ダカラ、ワタクシは、良いデス!ワタクシぽにてーるはいいの!」


「えー?なになに?ケイ、オレの事呼んだ?」

「呼んでねーからお前は向こうで飲んでろよシャル。つーかそれよか何言ってんのかがさっぱり、まるっきりわかんねェぞ、ケイ?」

「うう…。ナンデ、ナンデ?ワタクシぽにてーる、しゃるなーく、してくれた好き、言うシタイのダケ、ナンデうぼーぎん、わかるナイスルの!ワタクシ、ワタクシ…、やぅうー」

「やーんじゃねぇ。何甘ったれた声出してやがる」



抗議のつもりか、ケイリュースがぽくぽくとウボォーギンの胸板に拳を乱打してくる。

うっとおしいだけで痛くもなんともないそれを受け止めながら、ウボォーギンは考えた。



だいぶ理解できるようになったとはいえ、ケイリュースの言っていることがまるでわからないなんて事も未だに時折は起こりうる。


女の格好はしたくてしてるんじゃない、とあの時は言っていたのに、要するにシャルナークにしてもらうのなら女のようなポニーテールでも嬉しいという事だろうか?


なんとなくその言い様が気に入らず、うざったくケイリュースの手をガッシと掴まえた後は、その頬っぺたをむにむにとお仕置き代わりに強めにつまむ。



そうしている内にふと―――いつの間にか場の視線がじっとりと自身に集中していることに気が付き、ウボォーギンはぎくりとした。




「……なに人目もはばからずイチャついてんだコイツ。なんかイラついてきたぜ」

「あら、この程度で妬くだなんて心狭いわね、フィンクス」

「羨ましいならささとフィンクスも可愛い男見つける良いねw」

「だからなんで男だよ。女が良いぜ、オレは」


「またウボォーがケイの事虐めてる…」

「なんだかんだ口では否定するけど、ウボォーはケイが大好きなんだからしょうがないよww」

「かっかっか。好きな子虐めてぇなんて10やそこらのガキがする事だぜ、ウボォーよおww ほんっとこの馬鹿、ケンカの仕方しか知らねぇから。オメーには迷惑かけるなァケイちゃんよ」

「はぅう」


頬をつままれて、嫌がって涙目になっていたケイリュースの頭を撫でて、「オレが代わりに謝ってやるから許してやってくれやw」とまるで世話人のような物言いでカラカラと笑うノブナガ。

「何様のつもりだノブナガてめェ」とウボォーギンが不機嫌を隠さず絡んでくるが、「うるっせ、触んな!」とニヤついた顔のままそれを腕で跳ね退けて。


そんなやり取りをフィンクスとフェイタンとシャルナークが三者三様の含み笑いで見やり、シズクはいつもの真顔で、パクノダは『しょうもない連中ね』と呆れた風情でため息をついている。

その日の流星街での宴はそんな形で始まりを告げたのだった。











中編へつづく




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13・14日目は今のところ細かく書く予定が無いので補足しておきますが、
※13日目→12日目の後、半日以上寝て、起きてパク達の前でウボォーに懐いて「すきすきだいすき」→パク、あてられすぎて微笑ましい感じに見えてくる
※14日目→「すきすき」が止まらないので、連れ出してウボォーの説教&おしおきえちちを食らう→4話冒頭ZZZ…

こんな感じです

すもも

TopDreamピンクメドゥシアナ◆05:笑顔の裏に潜む(前編)
ももももも。