※ご注意※
ここから先は裏コンテンツとなっております。過度な暴力描写やグロ、流血、不快な発言等がありますので注意。エロはありません。
時間軸は原作より5年程前。捏造設定がもりもりです。
苦手な方は無理せずに
メニューへお戻りくださいませ。
では大丈夫な方のみどうぞ。
「…で?団長。この道って結局どこに向かってるわけ?」
黄色く色づいた紅葉の落ち葉が埋め尽くす山あいの道をサクサクと先に進む逆十字を背負う黒コートの男に、女―――マチはそう尋ねる。
深い渓谷に架かっていたはずの落ちた吊り橋を跳び超え、管理が放棄されて久しいボロボロの舗装路を歩いてすでに40分。
「仕事だ」とふもとの寂れた町に呼び出されたものの、待っていた件の男は目的も行く先も告げずに「行くぞ」とだけ残して歩き出し、今に至っている。
自身と同じように呼び出されたであろう、町で落ち合った数人の仲間に目配せしてみるが、皆一様に『聞いてない』とばかりに肩をすくめる。
「一応、地図上ではこの道の先にブラッドプールほとりの古城があるけどね〜」
とマチの横を歩いていたシャルナークが手に持った携帯で地図アプリを検索してそれに応えてきた。
「ブラッドプール?」
「あー…ブラッドプールっつったら、あれだろ?血の池地獄みてぇに真っ赤に染まったっつー気味の悪ィ湖だろ?一度は見てみてぇとは思ってたが、この先にあんのか?」
「ほーお。なんだ、その血の池っつーのは。古城の主がヤベー事でもやってたのかよ?」
疑問符を上げシャルナークに訊き返すマチに続いて、そばを歩いていたノブナガとウボォーギンが意見を連ねる。
シャルナークはそれを「月並みだなぁ、ウボォー」と愉快そうに笑って訂正する。
「まあ、古城の主が何年か前に突然死したのをきっかけに、いろんなバカげた噂は電脳ネット上で飛び交ってるけどね。それこそウボォーが言ったみたいな『古城の城主が毎晩のように領民を殺してその血を浴びていたからだ』とかさ。
でも実態はただの塩湖で、そばの山脈から流れ込む鉄分と、高い塩分濃度に適応した微生物が出す色素の影響で、湖水が真っ赤な血の色に見えるってだけ。
赤く見える湖はほかにもいくつかあるけど、ブラッドプールは見た目と名前に反して、泳げるレベルには安全だったりするんだよ。今は主の死んだ古城も、どっかのホテル企業が買収したんじゃなかったかなぁ」
いつかそんな記事をどっかで見たことある、とシャルナークは手に持ったケータイで電脳ネットにアクセスし、古い新聞記事をめくり始めた。
「…ん?ってーことはつまり、その古城がぶっ壊されちまう前に、残ってるお宝をいただいちまおうって腹なのか?団長?」
と、シャルナークの話から何となく今回の計画を察したノブナガが、先頭を歩く逆十字の男―――幻影旅団団長であるクロロに尋ねる。
訊かれたクロロは、振り返りもせずに「……まあ、そんなところだな」と返してきた。
「その古城も、最初は死んだ城主の孫娘だったかが権利を継いだようだが、色々と怖がらせの噂話を周辺の人間から吹き込まれてあっさりと手放したらしくてな。
家具も調度品も美術品もそのまま付けての格安の買取価格だったそうだから、関わった連中はさぞ笑いが止まらんことだろう。
今現在は数年計画でブラッドプールを売りした一大リゾート地化の準備が進んでいるらしいぞ?古城も外観はそのまま、内装をホテル仕様に改装して運用する事になっているようだ」
「あー、なるほど。電脳ネット上の情報も、そいつらが買い取りの際に自演したその名残ってことね」
「尾ひれ背びれをつけたのは何も知らない噂好きの連中だろうが、まあ大元はそんなところだろう。今時リゾート開発というのもそれほどメリットがあるように思えないが…。
城を買い取った奴らの本当の狙いが、居抜きの家具や調度品の方だったとしたら中々面白いな、と思ってな」
「…!それで今回の仕事、」
「ああ。はっきりとした確証はないんだが、たまには盗賊らしく宝探しというのもオツなものだろう?」
「おお…、それで人集めしたのか」
ウボォーギンはそう言って今回呼び出された面子の顔を見回した。
クロロと自身の他は、シャルナークとマチとノブナガが今回のメンバーだ。
「そういう事だ。現物を確認後、運び出すにしても今はまだ人手がいる。オレとしては、こういう時のために運搬に強い能力が欲しいところだが…。中々それもレアだな」
「なるほどねー」
「他に、現地でレヤードも合流する。ちょうど山向こうの町で…」
「ちょっと待って、団長。…あいつも呼んだの?」
言いかけたクロロに、マチが思わずストップをかける。
マチのその反応を見て、シャルナークとノブナガも『あー…』と何かを察したような、どこか面倒臭さをにじませる表情になった。
ウボォーギンだけは何食わぬ顔で頭の後ろで手を組んで歩いていたが。
「…嫌か?」
「いや、別に嫌ってほどでもないけど…。あれのお守りは誰がやるわけ?」
「ここには5人。あいつが合流すれば6人だ。いつも通りペアで組むなら…オレとシャル、ノブナガとウボォー。……あいつのお守りはお前だな、マチ」
「……ま、そんな予感はしてたけど」
眉間にわずかにしわを寄せつつ、マチは「ハァ、」と短くため息を吐いた。
するとそのため息に気づいたシャルナークから「ご愁傷様。マチ」と半笑い気味に言われ、思わずシャルナークの方を睨んでしまった。
「あいつバカだからなー」
「オメーに言われちゃお終いだ、ウボォー」
「…あ?ケンカ売ってんのかノブナガ?」
「褒めてるように聞こえたのか?相変わらず目出てぇ頭だな」
「……ほーぅ?」
と、そこで歩みを止めて睨み合いを始めたウボォーギンとノブナガをよそに、シャルナークは歩く速度を変えないクロロに「でもさ、」と先ほどの話の続きを尋ねる。
「まさかそんな確証もないモノだけが目当てじゃないんでしょ、団長も。城には他に何かあるわけ?」
「そうだな…。こっちも城主の生前に訪問した者達の間での噂程度のものだが、3階ホールの奥の部屋に掲げられている家族の肖像画…。
その瞳が、観る者によって色を変えるらしいぞ?真偽を確かめる意味でも、人の手が入って観光用のレプリカとすり替えられる前にぜひ実物を拝んでおきたくてな」
「へー…」
というクロロとシャルナークの会話を、突如「パーン」という乾いた銃声が遮った。
続いて、それよりも少し軽い「パン、パン、パン」という連続音。そのあとでもう1発、「パーン」と最初の銃声と同じ破裂音が遠く響く。
その後も続く何発かの銃声に、黄色く色づいた紅葉の木々の間に見える澄んだ青空を仰いで「…城の方かね?」とマチが呟いた。
レヤードという男が銃器を武器として携帯するような人間でないのは旅団の誰もが知っている。
ならば当然その音の出どころはレヤード以外の別の誰か―――おそらくは、これから向かう先である古城の関係者からのものだろう。
「オレが行くまで刺激するなと伝えておいたはずなんだが…。レヤードがまた待ち切れずに先走ってるのかもしれんな。少し急ぐか。
人間相手に暴れているだけなら良いが、どこにどんなお宝があるかまだ確認が取れていない状態であいつの好きにやられては敵わん」
「あー。独断専行でうっかりお宝壊しちゃうこともあったねー」
「なかなかヘコむ事態だったな、あれは」
そう言って、思い出したのかわずかに失笑を零すクロロ。
とはいえそれすらも"嫌な思い出"というよりは『馬鹿げていても良い思い出の一つ』とでも言うようなクロロのその横顔を見て、マチは問いかける。
「……ねぇ団長」
「ん?」
「団長って、案外あいつのこと嫌ってないよね?あのバカ、お宝の扱いとかも雑だし、団長の言う事だって全然聞かないのに」
「そんなことはあいつを蜘蛛に誘った当初から想定済みだ。そもそもオレがあいつを蜘蛛に誘った理由はそんなところに無いからな」
「なら何で?……"アレ"か。」
「…"アレ"だな。」
―――マチが指す"アレ"とは、レヤードの特殊性癖についての事だ。
もしもレヤードという男の事を一言で説明しろと言われたら、マチには―――いや、おそらくメンバー全員が『その言葉』を浮かべるはずだ。
クロロにも容易に想像がつくはずのその言葉を指したつもりでマチは"アレ"と言う。クロロもそれに同調した。
……その実、クロロが指している"アレ"の意味は、マチが指す"アレ"の事とは微妙に違っていたりするのだが。
言ったクロロ以外の誰も、それに気付くことは無かった。
「お前たちとは反りが合わないだろうことも解っててオレはあいつを蜘蛛に入れたんだ。オレはあいつに、最初に『好きにしていい』と言ったし、だからこそあいつもオレについてきた。
お前たちがあいつの"性癖"を疎ましく思っているのも知っているが、昔からあいつはああだったし、蜘蛛になったところであいつは生き方を変えない。オレも変えさせようとは思ってないしな。
短絡的な先走りが多いのも事実だが、あれはあれで特攻としては結構役に立つんだ。それにオレの命令は案外ちゃんと聞いているぞ?…足りない頭で自由解釈しすぎるのが玉に瑕だが」
「アハハハ。それ一番迷惑なヤツじゃん」
無能な働き者って奴じゃない?とシャルナークが横から笑う。
「だがそういう奴だしな。とはいえあいつが精を出して『働く』時は、お前たちの言う"アレ"に関してだけだから、管理はそこそこ楽なんだぞ?突飛の無い事もたまにするが、あいつのそういう部分も考慮に入れて計画を立てるのが楽しいところだ。
…ままならないあいつに対してお前たちがイラつく気持ちも理解できるがな」
「忍耐強いね、団長は。アタシは無理」
「そうか?お前もあいつの扱いには長けていると思っていたが」
と、クロロがマチの顔を振り返る。
すると横からシャルナークが「あー、団長。違う違う」と苦笑しながら突っ込んでくる。
「マチがレヤードの扱いに長けてるわけじゃなくて、レヤードがマチの言う事をちゃんと聞いてるだけだって。だってあいつ」
「…ストップ、シャル。それ以上は口にしなくて良いから」
黙れ、とばかりに手を立てたマチに、シャルナークはぺろりと舌を見せつつ「…ごめん」と失言を謝罪する。
「……さて、そうこうしてるうちに銃声も収まったな。片付いたか。これ以上の短慮を起こされる前にオレ達も急ぎ向かうとしよう」
「「了解」」
道らしい舗装路もいつしか途切れ、クロロ達は車1台がようやく通れる、といった感じの木々の間のうねった窪地を辿り、ひた走る。
いつからか地面には点々と血のようなぬめりが落ち、それを追ってしばらく行くと、周辺の木々が少しばかり斬り倒されいくつかの切り株が並ぶ開けた場所へ。
石造りの城門前の、狭い広場へと出られた。
そこには、見知らぬ男2人の死体が落ち葉と共に転がり――――
そばの切り株には知った男が―――歳の頃はクロロやシャルナークと同じ20歳前後、ハネた髪をヘアピンで留め、派手な赤服を着崩した恰好の長身の青年が―――座り込み、ショットガンの銃口の方を手にくるくるとそれをバトンのように回していた。
ショットガンの機関部には、"それ"で殴り殺したのかべったりと赤黒い血がついており。
その銃を回しながら紅葉の空をボーっと見上げていたその青年は、クロロ達の姿に気付くなり持っていた物を回すままに投げ捨てて、その場にパッと笑顔で立ち上がった。
そして―――
「幻影旅団ナンバー4!レヤード、スイサーンでッす♪」
キュピーン☆などと口で言いながらポーズをつけて、横ピースの間からウインク――――右頬にある「4」の数字が刻まれた蜘蛛のイレズミを見せつけるようにしてウインクしてきた。
わずかに流れた寒々しい沈黙の後、「…おう、バカが居たぞ、バカが」というノブナガの呆れたコメントを皮切りに他のメンバーたちも口々に文句を連ね始める。
「おう、そうだぜレヤード。そーいうのはよぉ、お前みたいな男がやっても気持ちワリーだけなんだぜ?」
「んな誰が見たってわかること改めて言わなくていいよ、ウボォー。…ホント、こんなのと居場所を同じにしてるなんて考えたくもないね」
「ていうかレヤード、『推参』って…。推参の意味ちゃんとわかってて言ってる?」
「フッ…。まぁそこで斃れている連中からしたら、推参で間違いはないだろう。…久しいな、レヤード」
「うんうんっ!おひさー団長!!ってかー、全員遅刻なんですけど〜〜!?そこの自称時間にうるさいウボォーさんとかさぁ、なんか一言無いのォ〜〜?このオレにさぁ〜〜」
「バーカ、お前1人早かったんなら、そりゃお前の早とちりってもんだろーが。さっさと1人で楽しみやがって、オレが来るまでちゃーんと『おあずけ』してろってんだよ!『待て』も出来ねーんじゃお前、犬以下じゃねーか、ガハハハハ!」
「…そうだな。ウボォーの言うとおり、オレはお前に『先に着いた場合は何もせず、近くで待機していろ』と確かに言っておいたはずだぞ。…なのにこの有り様はなんだ?レヤード」
「…あっ」
クロロの言葉によって、事前にそういった内容の電話連絡を受けていたことを今まさに思い出し、レヤードは黙る。
…が、一瞬後には笑顔を見せて、反省もしていないような素振りで「ごぉんめ〜〜〜☆」と明るく言い訳を始めた。
「なんかねぇー?あっちの山からァ下りて来た時ねー?…すっげーの!黄色い紅葉の間にィ、まっかっかーの血ィの海ぃ!!!ヒハッ!血の海があってぇー!?何人殺したらあんなんなんのォー?って思ったら、テンション爆速で上がっちゃってさぁあ――!!
誰でもいーからあ、殺ってヤリたくなっちゃってェえ!フヘヘッ!待機とかぁ、もー全部さぁ!トンじゃったんだよね――――!!!ヒャハハハッ!!
…でっさ、ねーねー、団長も見た?マジ血の海ヤベーから!!団長もグワッてぇ!ぜってークると思うからぁ!ぜひ見て欲し〜〜っ☆アッハハハァあ♪」
「…そうか。なるほど、わかった。少しその口を閉じろ」
言われて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたレヤードは、その後手を口の前で横一直線に動かし、『お口チャック??おけー?』とオッケーサインをクロロに見せながらコクコクと素早く頷いた。
それを見たノブナガとシャルナークとウボォーギンが「…まーた始まった。馬鹿だコイツ」「目ェ輝かせすぎでしょ」「団長の前で命令無視を堂々白状してんじゃねーよ…」と呆れ顔で突っ込む。
―――それが、メンバーの誰もが疎ましく思っているレヤードの悪癖だった。
自他ともに認める殺人狂。『食う寝る殺す』を三大欲求に、暗い路地裏を彷徨う4番目の蜘蛛。それがレヤードだ。
直立不動になって、レモンを噛み潰したような酸っぱい顔でプルプルと沙汰を待っているレヤードに、クロロはフッと、諦めともとれるため息を一つ。
「全く、相変わらず欲望にだけは忠実な奴だな……」
口元に笑顔を浮かべつつそう呟いたクロロ。それを見たレヤードが、許されたのかと思ったのか表情をぱあっと明るくさせる。
…が、しかしそこからは、幻影旅団団長としての厳格なクロロの顔が覗いて。レヤードの目が気まずそうに横に泳いだ。
「―――もう一度言うがな、レヤード。蜘蛛において、オレの命令は絶対だ。確かにオレは、お前が入団する際に『好きにしていい』と言った。だが命令厳守はその大前提だ。
蜘蛛(ここ)でのお前の役目は盾ではなく陽動と攪乱で、オレの作戦に沿っての遊撃がお前の仕事であり、お前の最も効果的な使い道を考えるのがオレの仕事だからな。
普段は好きにしていて構わないが、蜘蛛として、仕事の上でオレが命令した事柄は必ず守れ。蜘蛛の手足としてのナンバーをその身に刻んだ以上は、オレの目の届かない場所での勝手な行動は、オレが蜘蛛の頭として許さない。
…いいな?『団長(オレ)の命令は絶対』だ。次に破れば制裁を下す。いかにお前でも、そうでなければ他の奴らに示しがつかないからな。………返事は」
「…りょ…」
「なら後はマチに言って手当てを受けろ。銃弾1発もらってるだろ?」
そう言って再びフッと穏やかな青年の顔で笑って、クロロは自身の脇腹を指でちょいちょいと指し示した。
レヤードの赤服に隠れた同じ場所―――シャツに滲んだ血の痕を目ざとくその脇腹に認めて。
それからクロロはさっさと城門横の仮置きの待機所と思われる木造の小屋へと向かってしまう。
「よく見てるねー団長」とシャルナークが、そのクロロを追って行った。
「…えー…、めっちゃ怒られたぁー…」
「自業自得だろ、馬鹿。…ほら、いいから怪我してんならさっさと診せな。縫ってやるから」
「…別にこんなんダイジョーブだし…」
「…何あれぐらいでヘコんでんだ。お前らしくねぇな」
「ああ。預かり知らねートコで勝手に死ぬなっつってるだけだろ、団長は。なんだ、ずいぶんオメーに甘いんじゃねーか?」
珍しく落ち込んだ様子で肩を落とすレヤードを、マチとノブナガ、ウボォーギンの3人がワイワイと囲む。
クロロとシャルナークは、城門横の小屋付近を調べながら何かを話しているようだった。
「そーだぜ。オレらなんかはヘーキで盾にするのにな?」
「オメーはなんぼ銃弾食らっても死なねーだろうがよ、ウボォー…」
「おお。オレを殺りたきゃ核弾頭ぐらい持ってこいってんだ」
「アンタ以外は全員死ぬね、それ」
「……で?お前は何食らったんだ?レヤード」
ウボォーギンに言われ、レヤードは腕を上げて血の付いたシャツを見せながら「ぁあ〜〜〜っ!?聞きたい?聞きたぃい〜??」と再び目を輝かせ食いついてきた。
とたんにウボォーギンはマチから肘で背中を小突かれ、ノブナガには『やれやれ、余計な事を…』と呆れたように頭を左右に振られる。
「血ィの海見てさぁ、たまんなくなって崖滑り降りてきてさぁ!そしたら森ン中に芝狩りのオジサン見つけてさぁあー!!思わずオレ、棒切れ拾ってぶん殴っちゃってェ!!!フヒヒヒッ!!そのまんまもーわけわかんねーぐらいメッタ殴りにしてやってさあー!!
…それからさぁ、そのオジサンがちょーどいい手斧持ってたからぁ、ちょっとそれもらってさー。
お礼にトドメで腹ぁ割いてやってェー!!道なりに、もっと人いねーかなって捜して走ってたら、ここで2人、木ィ切ってたオジサン見っけてさぁ!!!
手斧振りかぶって襲い掛かったら、オジサン実はショットガン近くに持っててェ!果敢に応戦してきたんだよねェ―――!!ウヒハハハッ!!
もう1人も護身用か知んないけどグロック持ってて、アハァ―――!ヤッベ、反撃キタァコレ――!!と思ってテンションまた上がっちってぇ―――!!
真っ正面から斧でタマ弾きながら一気に距離詰めて、まずグロックのオジサン蹴倒して首に手斧叩き込んであげてねー??次、ショットガンおじさぁん♡♡と思ってそっち振り向いたら、クッソ至近距離で構えたオジサンにショットガンおもくそ撃たれてマジぁばかったっつーの華麗に半身で躱したけどォ!!ヒャハハハッ!!」
「…で、避けたと思った弾が実は当たってて、その傷ってわけ?全然躱せてないよね、それ」
「ハッふ!?…………掠っただけだし…」
横からマチに冷静な顔で突っ込まれ、肩を飛び上がらせて固まったレヤード。そっと目をそらし面白くなさそうに口を尖らせてボソリと呟いた。
その間も、ノブナガはすでに話半分なのか興味無さそうに耳に小指を突っ込んで掻いていて、ウボォーギンは逆に真面目にレヤードの話を聞いてやっているのか、腕を組んだ格好でその続きを待っているかのようにレヤードの動向を見ていた。
それから少しの沈黙を置いて、レヤードは再び「…それからさぁ…」と少し調子低めになりながら話し始めた。
「そのまんま、1発撃ったショットガン抑え込んで力比べで奪ってさ。…楽しかったんだけどな、ぶん殴るの。
周で覆ったショットガンで顔面から頭ボッコボコの血まみれになるまで殴って、…ああ、そんで、タコ殴りの最期はオジサン自慢の愛銃で、―――ぁあ…そうだ、ヤッベ思い出した!イヒッ!
その歯抜けのデカい口にィ愛銃をフェラぁ〜?させてあげよーと思ってぇ〜!そーだ、思い出したァ〜!!ヒヘヘッ!
…引きつったそのイ〜イ顔の前でショットガンポンプして見せてやってェ、倒れたオジサンの口にゆっくり、ゆぅ〜〜〜っくり銃口を押し込んであげてさぁあー!!
両手をそーっと挙げて降参するオジサンにィ、ちょぉーっともったいぶってからぁ〜〜!アッハぁー!イッパツ、ズッドーン!!!吹き飛びぃ〜〜♪イェえ〜〜〜ッ!!」
と―――両手を上げて叫んだところで、レヤードはクロロとシャルナークから遠目にじっと見られていることにハッと気付いて、焦った様子で『お口チャック!ね!!おけ!!』と再びハンドサインをクロロに向かって大仰に示す。
それを最後まで見届けて、ウボォーギンが
「…お前、悩みとかなさそうでホント羨ましい奴だな」
と真顔で感想を呟いた。
「ファッ!!?ちょっとなにそれどういう意味デスカ??オレにだって悩みぐらいあるしぃ〜!つかー、脳筋ウボォーに悩みがとかぁ、そんなん言われるとかチョー心外なんですけどぉお〜〜!?」
「…ほー?オレが脳筋ならお前はなんだよ、脳みそ空っぽか?お前がその頭で何悩むってんだ?オラ言ってみろよレヤード」
「んん―――?ん゛ー………こんな山ン中…だしぃ…、今日の晩メシどぉ―――しよぉかなあー…とかぁ〜?」
「―――ふっ!ガハハハハッ!!め!し!!―――メシの心配か!ハハハハハハッ!!」
「…カッ!馬鹿丸出しじゃねーか」
「はぁああ!??なんだよ、ノブナガまでさぁ!強化系突撃バカ2人に馬鹿とか言われたくないしぃー。全然オレは、ぜぇーんぜん馬鹿なんかじゃありませんけどぉお〜〜〜??」
「…レヤードアンタ、ちょっと黙んな。つーかそのまま動くな。動いたらもう手当てしてやんないから」
「あ、ハイ…」
前のめりに、ウボォーギンとノブナガに文句をつけていたレヤードの身体をそのままガッシリと手で押さえ、マチが言う。
言われたレヤードは前のめりに身体を傾けた格好でぴたりと動きを止めた。
「ハハハハ!なんだそりゃお前、なっさけねぇ!マチには言いなりかよレヤード!!ハハハハ!」
「うるせー、クソっ!後で覚えてろよなァ、この筋肉ダルマっ!」
「レヤード」
「ヒィあッ!?…ごっ、ゴメン…」
「かっかっか。なんだオメー、マチの言う事は素直に聞くんだなぁ。それとも哀しい『男のサガ』って奴かぁオイ?」
「くくくく…。ま、お前はそのまま心ゆくまでメシの心配してろよ。その、マ・ヌ・ケ、な格好のままでな。はははは」
「っきしょ〜〜〜…」
と、そんなやり取りをウボォーギンとノブナガとレヤードがしていた時。
クロロとシャルナークは、斃れた男達の住居であっただろう城門横の小屋を調べていた。
しかしこんなところまでレヤードのやり口が丸聞こえで、「……声デカいな、あいつ」とクロロはレヤードの方を見ながら感想を漏らす。
「もう、1回気持ちが盛り上がっちゃうと、そういうトコ自分でも制御効かなくなるんだろうねー」
「幼児か。まったく…」
「あははっ。なーんだ、団長もやっぱりレヤードにイラつくことあるんじゃん」
「…オレだって頭に来ない時が全く無いわけじゃないぞ?気持ちは理解すると言っただろ?…とはいえ、まだこの程度で目くじらを立ててるようでは、とてもじゃないがあいつとは付き合いきれんのも事実だが」
「そうだねー、そこは団長にお任せするよ。もうすでにオレは付き合いきれてないし」
せっかくこうやって逃げて来たのに、とクロロを追ってこちらに来た事に言及するシャルナーク。
「…なるほど」と、自分の手伝いに来たのだと思い込んでいたクロロが、その認識を少々改める。
「ていうか、オレは旅団に入って来てからのレヤードしか知らないけどさ。ホントに昔からああだったの?あいつ。よく一緒に居れたね、あんな狂犬と」
「…犬以下だぞ?奴らとて腹を空かせているとき以外は無駄に他のものを襲うことはしないだろうに。あれは腹を空かせていようが、そうでなかろうが、いつでも・なんでも襲うからな」
「いやいや、よくそんなの手懐けたねって話」
「別に四六時中ずっと一緒に居たわけじゃない。流星街(あのばしょ)で、時折エサを運んでやっていたら懐かれたんだ。歳が近かったのもあるのだろうな」
――――『ねーねー。お前さぁあー、今日はぁ、なにィ?持ってるぅ〜〜?』
と……、手ごろな長さの血まみれの鉄の棒を手に、もう一方の手には見惚れるほどに鮮やかな切り口の―――まだ血の滴る女の首を持ったレヤードから、乾いたヘドロの山の上から見下ろすようにそう声を掛けられた日の事を思い出したクロロ。
シャルナークと同じ、美しい翠緑の瞳をした14、5の少年だった。
なのにその瞳の奥に宿る"色"はドロドロと、まるで廃油のように濁り切った黒。
そんな矛盾する清濁に、はっきりとした好奇心を持って見下ろされたあの日。
『あの目―――欲しいな』と唐突に思ったものだ。
それから、それまで気が向いたときに運んでいた"エサ"を日を置かずに欠かさず運んでやるようにしたら、なんと3日で見事に懐いた。
懐いた、と言っても、その後気まぐれや好奇心で手を噛まれることも数回。
やっと飼い犬もどきに出来た頃には、あの日の"黒"はずいぶんと和らいでいたが。
それでも、あいつが生き生きと―――すればするほどあの"黒"は色濃く表れ、……きっとそれこそが、オレがあいつを傍で好きにさせている理由なのだろうと、クロロは思う。
オレは、今もまだあの翠緑の奥にある決して『美しい』とは言えない黒い泥濘に、なぜか深く魅せられている―――。
「アハハハ!『エサで懐いた』って、それ結局犬じゃんw」
「だから、"犬以下"、だ。食べるものを奪うために、誰かを襲う奴じゃない。目に付いた人間をとりあえず襲ってから、欲しいモノがあればそれを漁るような奴だった。…流星街でも最底辺の地区で1人生き延びていたあいつの、あの場で学んだ処世術なんだろう」
「あー…、中央の方は教義も浸透してて物資の配給もままあるから割合生きやすいけど、はずれの方のヤバいトコは本当にヤバいもんね、流星街(あそこ)も」
と、"ヤバかった"経験でもあるのかシャルナークが寒気を抑えるように両腕を擦る。
「ああ。他に『犬』というくくりで言うなら、あとは鼻も良いな。あいつの『持ってる奴』を嗅ぎ分ける嗅覚…というか、当たりの引きの強さには驚かされることが多い。…まあ、当たり外れも関係なく、気分だけで隣にいる誰かを何の脈絡もなく唐突に殴れる奴だが」
「ハハッ。凶犬すぎるでしょ。フィンクスとかフェイタンでももう少し分別つくのに」
「こっちのイカレ具合を交渉相手に初手で理解(わか)らせるには最適なんだがな。そこは適材適所だ。今はリードもオレの手にあるし、あいつも犬らしく群れの中ではそこそこの秩序を保っている。特に問題はないだろう?」
「そーかなー?同席のメンバー次第じゃない?そこは」
そう言って2人はレヤードの方へと視線を向ける。すると件の犬はちょうどマチの縫合による手当ても終わったのか、尻をバチンとマチに叩かれてエビ反りに飛び上がっているところだった。
色気も何もない妙な悲鳴を上げてウボォーギンとノブナガに笑われている奴の姿を見ると、『本当にあの時のあいつと同一人物なのか?』と疑いたくなることもあるが。
「―――レヤード」
「いや、呼ばなくて良いって。うるさいし」
シャルナークが渋い表情をする横で、クロロは「ちょっと来い、聞きたいことがある」とレヤードを再度呼びつける。
呼ばれたレヤードは尻をさすりながら「え〜〜〜?なーにィー?団長ー」とガニ股のおかしな足取りで走って来て、そばに居たマチ、ノブナガ、ウボォーの3人もそれを追ってクロロ達の元へと集まった。
「…さて、ここでお前が馬鹿騒ぎしている間にまあまあの時間が過ぎたわけだが、城の方からは援護もなく、森の方も静かなままだ。この場にある死体は二つだが、レヤード、殺したのは3人で間違いないな?」
そう言ってクロロがレヤードを見ると、レヤードはこくこくとそれに頷いてみせる。
「うんうん!そうー!今日はねぇ、オジサン3人を殺りましたぁー。もっと殺りたいで〜〜す!うひひっ!」
「そうか。この小屋も、ベッド数が3。カップも3で、住人がその3人だったのは間違いなさそうだな。
この粗雑な小屋のつくりと男達の風貌…。小屋の中の生活臭から言って、『警備』というよりは自給自足も可能な雇われ山師か猟師…と考えるのが妥当だろう。
現状で大規模な警備の追加は無いと思っているが、…お前はどう見る?シャル」
と、クロロは今度はシャルナークを見る。
訊かれたシャルナークは両手を腰に当て、「んー…」としばらく考えて。
「そうだねー。…周囲は切り立った険しい山脈でしょ?リゾート開発を計画してるならいずれ道路は通すだろうけど、オレ達が登って来た道も今はまだ渓谷で道が寸断されてて、橋を架けるにもすぐは無理。天然の要塞だね。
関係者以外でわざわざ訪れるとしたらオレ達みたいな輩だろうけど、アクセス経路が貧弱すぎて、現状ただの泥棒じゃ割に合わないんじゃないの?手に入れたお宝の輸送の手段が無いから。
となると警備…っていうか見張りはもののついでで、まずは資材の切り出しと関係者らが今後空からアプローチするための場の確保を主な仕事に、3人はここに住まわせられてた…って考えるのが一番あり得そうな線かな。
仕事内容的に短期の人員交代は考えにくいし、あるとすれば食料物資の差し入れだけど、これも定期的に空から荷物のみ落とすのが一番コストがかからない。
最初の銃声からここまで警備の増援がないなら、元々近くにそういった人員配置も無し。目撃者も無し。
連絡設備は一応小屋の中にあるけど、交渉の余地もないレヤード相手にこの場の2人が外部に連絡とる猶予があったとは思えないし。
ここに死体の無い最初の1人が、万が一わずかでも生き延びていて外部と連絡を取ってたとしても、あと数日は援軍も来ないと見ていいんじゃない?援軍を送り込もうにも、外部から大量にとなるとやっぱりアクセス手段がネックだしさ」
「ふむ…」
検証するように考え込むクロロに、今度はマチが「罠である可能性は?城内部にアタシらを引き込んで一網打尽の布陣とか」と意見を呟く。
「無くもないが確率は低いな。最初の銃声を聞き、応援に出て来ずにあえて引きこもる理由がない。城という機能上、守るに易い構造であるべきだが、元々ここは戦拠点用ではなく住居用として建てられたものだ。
その後のリゾート開発を考えると、美術的価値の保護のためにも城そのものへの損傷は向こうも避けたいはず。
食い止める気なら、この城門前の広場で城柵を下ろしたまま、内から銃撃というのが最適だ」
「ん。ならこれ以上の戦闘はなさそうだね。あとは定時連絡か何かのタイミング次第だと思うけど、関係者側が異変に気付く頃にはとっくに品定めも終わって、オレ達もさようならした後だと思うよ」
そうシャルナークが結論付けると、クロロもまた「特に異論は無いな」と頷いた。
「…よし。とりあえず城門の柵は下ろしたまま侵入しよう。もし早い段階で援軍の到着があっても、それである程度時間稼ぎはできるだろう。
城内部に警備が潜んでいる可能性も完全には否定できない。用心に越したことはない、警戒は怠るな」
「「「「了解」」」」
と――、シャルナーク以下マチとウボォーギンとノブナガの4人は応答するが、レヤードだけはキョトンとした顔でクロロを見下ろしていた。
「…どうした?レヤード」と訊くと、レヤードは「え?…えー??…ん〜〜…、警備とかぁ…、もういねーの?って思ってさぁ…。ならこんなトコに何しに来たわけ〜?団長〜?」などと素っ頓狂なことを訊き返して来た。
…最初に電話連絡をした時点で、お前にはきちんと説明をしておいたはずだがな、とクロロは頭痛を抑えるかのように眉間に手を当てる。
「ははっ。まあレヤードが思ってるような事じゃないのは確かだね」
「ええー…マジでェー…?」
「……オレの台詞だそれは」
つづく
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まずはキャラ紹介的な。次から本編です。
すもも