拍手御礼夢ログ ◆アンティークショップ『リアラ』00




ハンターだった母が、死んだ。


ハント中に受けた、念能力による消せない傷が悪化して死んだ。




けれど母はハンターの仕事を愛してた。



たくさんの素敵な人と出会えて

たくさんの素敵な物と出会えて


とても楽しかったと、最期まで母は素敵な笑顔を浮かべていた。



僕に遺されたのは、母がずっと集め続けていたよくわからないガラクタの山と、そしてこの店――――「アンティークショップ『リアラ』」だけだった。








「アンティークショップ…?」


大通りから外れ、少し奥まった小道を歩いていたら、とある店の看板が目に入った。

興味をそそられる内容のその看板を見上げ、クロロは1人呟く。


見ると店のドアは開いており、入り口からすぐの場所には何冊も古い表紙の本が積まれていた。

開いた店のドアにはCLOSEの札がかかってはいたが、クロロは構わずに中へと歩を進める。


狭い店内には、古書から始まり大小さまざまな置物や掛物、ガラクタ人形、店の奥のガラスケースにはアンティークのアクセサリーなどが所狭しと並んでいた。



(…これは並んでいるというよりは、放り込まれたという感じだな…)



クロロが、足元に積んであった古書のページをパラパラとめくっていたら、人の気配に気付いたのか店番らしき若い男が奥からヒョコリと顔を出した。

似合わない眼鏡をかけた、線の細い男だった。


「いらっしゃいませ。」

「…もしかしてお休みだったかな?」

「見るだけでしたら大丈夫ですよ」


にっこりとやわらかな笑顔を見せてそう言う男。

足元をふさぐ古書や置物の山をひょいひょいと跨ぎ歩いて、レジカウンターの椅子についた。




「この店は水曜定休?」


古書や、棚に並ぶ様々な品を眺めながら、今日の曜日を思い出してその男に聞いてみた。

「いいえ、ずっとお休みです」

「ずっと?」


品を見る手を止め、男の方に視線を移したクロロ。

すると男は少し苦笑して、店の中を指した。


「お店の中、まだこんな状態ですし…」

「ああ…。もしかしてまだ開店前?」

「うーん…、それとはまたちょっと違うんですけど…」


説明しづらそうに男は頭をかいた。



「この店、鑑定士だった母が経営していたんですけど半年前に急死しまして…、僕が店を継いだんです。でも本当に急の事だったから、準備も何も出来てなくて…」

「そうか、なるほどね」

「僕もまだ駆け出し店主だし、営業再開は…とりあえず今店にあるものだけでも全部自分で鑑定できてからと思いまして。まぁ、まだ半分も終わってないんですけど…。
 だからずっとお休みして勉強中です」

「たしかに自分の店の品物を、お客さんにちゃんと説明できないっていうのはアレだな」
「そうです、そうです」


こくこくと頷く若い店主。


よく見れば、レジカウンターには分厚い辞書や古美術品の写真集などがページに付箋がついた状態で山と積まれているし、カウンターの奥にある本棚にもそれ系統の本ばかりが並んでいる。

彼がかけている似合わない眼鏡もそのせいだろう。



「お客さんはアンティーク、興味あるんですか?」

「ああ、まあね。じゃなきゃこんな店、入らないよ」

「あはっ、それもそうですね」


置いてある品物をクロロは順に手にとって見ていた。



雑然と置いてあるたくさんの品々。


ガラクタのようなものが数多くある中、かなりの数の"本物"の品もまぎれているのに気づく。

クロロは思わず手を止め、ぐるりと店内を見回した。




名匠の作、絵画や人形。

いわく付きの宝石、そしてナイフ。



――――クルタの、緋の目。




「お母さんって何者?」

「……はい?」

「ただの鑑定士じゃないだろう?……ハンター?」

「そうですけど…。どうしてわかるんですか?」

「わかるよ。普通の鑑定士じゃ易々と手に入れられないようなものもずいぶんある。いい腕のトレジャーハンターだったんだろうな」

「そう…ですね…。僕はずっとこの家に篭っていたから母の外での仕事は全然わからないんですけど…。でも母を頼りにしているお客さんはずいぶんと多かったみたいです」


「そうか………。とんだところに宝の山が眠っていたものだな…」

「えっ?」


「いいや、なんでもない…。オレも、君のお母さんには一度会ってみたかったよ。亡くなる前に」

「そうですね。アンティークがお好きならきっとお客さんとも気が合ったと思いますよ」


にこりと笑って言う店主。

言った後はレジカウンターから立ち上がり、奥の棚をごそごそと漁って茶葉の詰まった小瓶を取り出す。



「あの…、お茶でも飲んでいかれますか?」

「いや、今日はもう帰るよ」

「あ……そうですか……」


クロロがそっけなく答えを返すと、店主は寂しげな表情を見せて残念そうに肩を落とした。

それを見て『何だ?』とクロロが思っていたら、ハッとした店主が勝手にあわあわとそれを取り繕い始める。


「あっ…!その、これはあの…。お店、もうずっとCLOSEの札かけてるし、お客さんが来ないのは…当然なんですけど……。お客さんがお店に来たのは、あなたが本当に久しぶりだったから…、その」

「ああ…、寂しかったんだ?」

「えっ!?い、いや、そっ、そうじゃないんですけど…!でも、あの…」


図星だったのか店主は顔を真っ赤にして、モゴモゴと口を閉ざしてしまう。

茶葉の小瓶を握り締めて俯く店主を見て、クロロはクスッと笑みを零した。




「―――君、名前なんて言うんだ?」


突然思いもしないことを訊かれ、店主が「えっ?」と顔を上げる。


「君の名前、何?」

「あっ!ぼ、僕…!ゼロです!『リアラ』のゼロ」

「そうか。じゃあゼロ」

「はい!」



「オレは今日はもう帰るけど、……また、ここへ来てもいいかな? それともお休み中は?」


と、クロロはドアにかかるCLOSEの札を指差し、ゼロに向かって笑いかける。


ゼロはわずかの間、訳がわからないような顔をしていたが―――

クロロの言った事を理解した後は、目を涙で潤ませつつとびっきりの笑顔を見せてくれた。




「あのっ!い、いつでも来てください!僕、まだ至らない点もいっぱいあると思いますけど、頑張りますから!

あなたが………『僕の』お店の、最初のお客さん…ですね!」









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はじまりはこんな感じでどうでしょうか(誰に聞いているのか)
弟出てきてないので次回があれば弟とも出会わせたいです。

すもも

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ももももも。