大通りからはずれ、少し奥まった小道を歩いていくと、その先にはすすけた木の看板を掲げたとある小さな店がある。
「アンティークショップ『リアラ』」
ニコニコ笑顔の店長が、今日ものんびりとお客さんを待っています。
―――――深夜。
業者市からの帰り、今日競り落とした品物を持って僕は店に帰るところだった。
「…どうしよう…誰かつけてきてるよ…」
少し前から、誰かが僕の後を追うように歩いている。
コツコツという靴の音が、さっきからずっと、僕の歩く速度と同じテンポで響いているから。
僕の店は表通りから外れていて、帰るときにはどうしたって人気の無い裏通りを通らざるを得ない。
前にも一度、裏通りで強盗まがいの暴漢に襲われかけた事がある。
僕は怖くなって、後ろも見ずにゆっくりと歩く速度を速め―――そして走り出した。
もう少しなんだ。
お店まで、あと少し。
そう思って、街頭の下を通り抜けた瞬間。
―――――後ろから、ガッと肩を掴まれた。
「わあっ!!」
「ゼロ。…おいゼロ、逃げるな。オレだよ。―――クロロだよ」
「へ…?クロロ、さん…?」
声を聞いて振り返るとそこには見知った黒髪の男性の姿。
僕はへなへなとその場でしりもちをついた。
「あ、あ、悪趣味ですようクロロさん。ずうっと追いかけてくるなんて…」
「すまない。ずっと声をかけようと思ってたんだが、なかなか機会に恵まれなくてな」
恐怖から開放された安堵からなのか、ぽろぽろと涙がこぼれた。
僕の前にしゃがみこんだクロロさんは、そんな僕をあやすようにゆっくり頭をなでてくれた。
「さ、家に帰ろうかゼロ?そんなところにずっと座ってたら風邪を引く」
そう言って僕に手を差し伸べるクロロさん。
ぐすぐすと涙を拭いて、僕はその手を借りて立ち上がろうとした。
でもどうしても膝に力が入らなくて。
「あ、あれ?」
「どうした?…もしかして腰でも抜けた?」
「クロロさんのせいですよ!」
わーっと大泣きすると、クロロさんは「しょうがないな…」と漏らして僕の体に手を回した。
「―――うひゃあ!?」
「相変わらず軽いな。もう少しゴハン食べれば?」
クロロさんは僕の持っていた荷物ごと、僕を横抱きに抱きかかえた。
たくましいクロロさんの腕は、僕の身体を軽々と持ち上げてしまう。(そんなに軽くないと思うんですけど…)
「恥ずかしいから降ろしてください…」
「そう?誰も見てないよ。それに、言うほど嫌でもないんだろう?」
「う…」
口ごもる僕を見て、クロロさんが楽しそうに笑った。
「ホント素直だなぁ、そういうカワイイところ好きだよ。…じゃあこのままホテルまで連れて行っちゃおうかな」
「ええ!?」
「―――嫌じゃないんだろう?」
「うううー…っ;く、クロロさん、意地悪です…」
「ははっ。大丈夫、意地悪なんかしないって。ちゃんと可愛がってあげるから。…ホントの意味で腰抜かすまでね」
「そういう意味じゃないです!クロロさんの変態ィ!」
「まあまあ。怒った顔もそそるよ、ゼロ」
「ばかー!!」
ぽくぽく叩く僕のこぶしも意に介さず、クロロさんは楽しそうに笑ったまま歩き続け―――結局僕はその日、お店に帰ることができませんでした。
「………兄貴、また朝帰りかよ…」
「す、すいません…;」
つづく
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さすがに拍手御礼でエチーまで書くのはなにかなとおもいますた
すもも