double style ◆15:電脳ページ




イルミさんと、キルア。


暗殺一家ゾルディックの血。



僕ら常人は入り込めない世界の住人なんだと―――思い知らされる。






ハンター試験…最終試験。


死者1名、不合格者――――1名。















サトツさんからキルアの話を聞いたとたん、ゴンが控え室を飛び出した。


「ゴン!…ごめんなさい、サトツさん。僕も行きます!」

まるでこの流れも読めていたかのように、椅子に深く腰掛け目を瞑るサトツさんにそう謝って、僕もゴンの後を追いかけ部屋を出た。


腕を骨折してバランスを崩してるっていうのにやたらと足の速いゴン。

受講室に着いた途端、ゴンはノックも無しに勢い良く扉を押し開けた。


ネテロ会長や他の試験官の人たち、そして講習を受けていた合格者達が、突如としてやってきた乱入者に目を向けてくる。



そんな多くの視線にさらされる中、それでもゴンはスタスタとまっすぐにイルミさんの元へ歩いて行った。


僕はちょっと、さすがに入室までははばかられて、入り口付近に立ちどまってゴンの様子を伺った。



イルミさんは真横にゴンが立ってもまったく表情を変えず。

ていうか前を向いたままで、ゴンに視線を向けることすらしなかった。


それでますます、イルミさんに向けるゴンの怒りが色濃くなった。



いやいや、待って。これ以上ハラハラさせないでくださいよゴン〜…;


なんて…心で祈ってもゴンが止まるわけなかったんですが。






「キルアに謝れ」



力強い口調で、ゴンは言う。

ゾルディック―――イルミさんに向かって。


だけどイルミさんはもちろん、ゴンの存在なんて意に介さない。



「…謝る……?何を?」

「…そんなこともわからないの?」

「うん」

「お前に兄貴の資格ないよ」

「…?兄弟に資格がいるのかな?」


イルミさんのその答えを聞いた瞬間、ゴンはイルミさんの腕を掴み、席から引っこ抜いた。

誰も彼もが少なからず―――僕だってそれには驚いた。



ゾルディックの人間を、「あの」ゴンが――――引っこ抜いたから。





「友達になるのだって資格なんかいらない!!」


ゴンの激しい怒りが、イルミさんの腕をみしみしと締め上げる。



「キルアのところに行くんだ。もう謝らなくたっていいよ。案内してくれるだけでいい」

「…そしてどうする?」


「決まってんじゃん。キルアを連れ戻す!!」


「……ゴン…」



そうして少々のいざこざのあと、僕らは講習を受け、ハンター試験の全ての過程が…終了した。





ハンター試験、8名…合格。











「ギタラクル。キルアの行った場所を教えてもらう」

講習が終わりさっさと帰路に着こうとするイルミさんを、ゴンが呼び止めた。


「止めたほうがいいと思うよ?」

「誰が止めるもんか。キルアはオレの友達だ!!絶対に連れ戻す!!」




…ですよね。「止めた方がいい」なんて言葉でゴンが止まるわけないです。



だけど気持ちは僕もゴンと同じ。


キルアに、もう一度会いたいから。

……友達だから。




そう思って、ゴンの後ろに並び立つ。


僕も。

そしてクラピカとレオリオも。




「もしかして後ろの3人も同じ?」


「おうよ、当然」

「もちろんだ」

「そうです」


3人で頷くと、僕らを振り返ったゴンもまた、もう一度イルミさんへと深く強く、頷いた。



「いいだろう。教えたところでどうせたどり着けないし…。キルは自宅に戻っているはずだ。

……ククルーマウンテン。この頂上にオレ達一族の棲み家がある」


















「………ゼロや」

「あっ、ネテロ会長。…なんですか?」


イルミからキルアの居場所を聞いた後。今後どういう行動を取ろうかといろいろ作戦を立てていたオレ達のところにネテロさんがやってきた。

そしてなにかとても言いづらそうな顔でゼロに言う。



「…うむ。実はな、二次試験の後…ジャズに会ったんじゃが……」

「えっ!?」



「…ジャズ……?聞いたこと無い名前だね?」

「うむ…」


オレはクラピカとレオリオに聞いてみたけど、2人も知らないみたいだった。

ゼロがすごく驚いてる。…誰だろう?



「おぬしも試験中じゃったし、話をするわけにもいかないからメールを送ったと言っておった。 試験が終わったら見るように伝えてくれと言われておったんじゃ。

……黙っていても見るかと思ったんじゃが…その様子だと見ておらんと思ってな」


「…メール!?」


ネテロさんの話を聞いたとたん、ゼロはウェストポーチの中をあさり始めた。そして白いケータイをポーチから取り出す。

「あ、ほ、ホントだ……。……………。」


ケータイの画面をみて、ゼロが止まった。


サーッという音が聞こえそうなほど、ゼロの顔から血の気が引いていくのがわかった。


え!?な、なんで!?何が書いてあるの!?


「何!?ど、どうしたのゼロ!?;」

「ゴン……。あ…、あの…。……ごめんなさい、僕キルアのところに行けません…」

「え!?なんで!?」





「……し、…仕事が入りました……」




















ネテロ会長に呼び止められて、その理由を聞く。

そしてその ネテロ会長の口から突然出たジャズの名に、うっかり大声を上げてしまった。

ゴンたち、ビックリしてるだろうな…;



ジャズからメールか…。 なんだろう?


僕らはそれぞれ、別々のケータイを使う。僕とジャズ…片方が起きているときは、もう片方の電源を切っている。

まぁ試験中は両方の電源を切っていたんだけど…。

ウェストポーチから僕のケータイを探して電源を入れ、センターに問い合わせる。



メールは…1件。

アドレスは……ジャズ。










――――――――――――
件名:へなちょこへ
――――――――――――
本文:仕事が入った。
試験が終わったら
とっとと体をよこせ。
――――――――――――





それを見て僕は青くなった。


いやいや、 「とっとと体をよこせ」って……メッセージ誰かに見られたらどうするんだ!!ばかジャズ!!



ありえない、ありえない!

…どう考えても、僕が困るのを見て喜んでるとしか思えない!


ぶ、ぶん殴りたい………無理だけど…。


案の定、僕の顔色が変わったのを見てゴンがメールを見たがってる…。

僕はそのメールを削除した。



「ゴン……。あ…、あの…。……ごめんなさい、僕キルアのところに行けません…」

「え!?なんで!?」



「……し、…仕事が入りました……」


「仕事!?…あ、前に言ってた"相棒の手伝い"…?」

「…よく覚えてましたね。そうです…」

「相棒…ジャズというのか?…一体何の仕事をしているんだ?」

クラピカが聞いてくる。レオリオも僕を見てる。



う……;

…い、言うべきなのか………というか、もうこれは言わなければならない雰囲気だ……。

ジャズのバカ…!!



「…ん……その…; ……裏の仕事…です…」

「へー」

あ、あれ?…意外に反応が薄い…?もっとなんか…拒絶されるかと思ってたのに…。


「キルアと同じか…?」


とクラピカに訊かれて僕も思い出す。

そういえばキルアも暗殺稼業でしたね……。


暗殺一家ゾルディック…。って今そんな話してたばっかりなのに;



「うーん…暗殺とはちょっと違いますけど……。でもまぁ似たようなもんです。

…あ、で、でも僕は表面上をちょっと手伝ってるだけで、僕もそういう怖いことしてる訳じゃないんです…」


「そうか…。まぁ仕事なら仕方ねーな」

「そう…だな」

「ごめんなさい…行きたいのは…山々なんですが…」


「でも、終わったら来るでしょ!?」

「えぇ、それはもちろん!!

…あ、これ、僕のケータイの番号とアドレスです。みんなのも教えてください。仕事が終わったらすぐに連絡しますから!」

「そうだな」


あわてて番号を交換した。

ゴンはケータイを持ってないらしいので、クラピカに連絡することを約束して。


「す、すみません!急ぎますので、僕はこれで失礼させていただきます…!すみません!」

「ううん。謝らなくていいよ。またすぐ会えるでしょ?」

「そ、そうですね。…ではまた!」


そうして僕はみんなと別れた。















「あ、ゼロだ」

「ん?どこだい?」

イルミの腕の様子を見ていたヒソカ。イルミの一言に顔を上げる。

するとちょうど 廊下の先を走っていくゼロの姿が見えた。


「うーん、可愛いねェ…。そういえば、ゼロがキミのところを尋ねるらしいね」

「そうみたいだね。ゼロ1人だったら大歓迎だったけど」

「………ボクに断り無くゼロに手を出したら、いくらキミでもただじゃおかないよ」

「なんでヒソカの許可が要るわけ?向こうから尋ねてくる分にはオレは止められないと思うけど」

「……………。」

「まぁ、丁重にもてなす準備はしておくよ」

「………ボクも行こうかな…」





















**********


「…ダメだ。極秘指定人物に指定されている…」

「……そうか、ゴン、お前の親父は予想以上にとんでもねー人物みたいだな」

「うん」

3人はパソコンルームで電脳ページをめくっていた。

ゴンの父親、「ジン=フリークス」をめくることは出来なかった。



「…じゃあそろそろキルアん家目指していこーか!?」

「そうだな」

ゴンの言葉を聞いて、クラピカはパソコンの電源を落とそうとした。が、それを横からレオリオが止める。


「あ、待て、クラピカ。もう1個知りてーんだ」

「なんだレオリオ?」


「ジャズ……について」

「えー?だからゼロの相棒でしょ?」

「……そう…だな。私たちはゼロについて何も知らない。

……向こうから言ってくれるのを待つのが一番いいと思うが……、私も少し気になる。調べてみよう」

「え!?で、でもさ…」

「…ゴン。ゴンの気持ちもわかるが…」

「ゴン、別にゼロの全てを調べようってんじゃねーんだ。…電脳ページにそこまで書いてるわけねーよ」

「でもさー…」


「ジャズ、か。ハンターなのか?」

「あ、うん…。プロハンターって言ってたけど……ホントに見るの?」

「……何人かいるな。ジャズ……シュナイダー……これかもしれない。ゼロのファミリーネームもシュナイダーだったな」

「あぁ、最終試験でそう言ってたな。……兄弟か…?」










ジャズ=シュナイダー

「始末屋ジャズ」として世界的に有名。

金次第で、モノでもヒトでもこの世から抹消するハンター。








つづく


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次はゾル家編の前にちょっぴり閑話です。

すもも

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ももももも。