「ねぇ、ゼロって殺し…ダメなの?」
昨日の僕の様子が気になったのか、翌日キルアがゴンと一緒に僕の部屋を訪ねてきた。
キルアがベッド脇に椅子を引っ張って来てそれに座るなり、そう聞いてくる。
……ていうか鍵、閉めたと思ったんだけどな…。
僕が出迎えるまでもなくゴンとキルアは部屋に入ってきたから、もしかして鍵開いてたんでしょうか……。
………いや、違う。
鍵閉めるどころか、昨日は気分悪すぎて廊下歩いてる途中でジャズに代わってもらったんだった…。
ジャズなら戸締りしてなかった可能性が多分にありますね…;
じっと僕の顔を見つめてくるキルア(と隣に座ってるゴン)の瞳に根負けて、とりあえず僕はベッドに入った格好のままで体を起こした。
まだ熱は下がりきってないみたい。少し頭がクラクラする。
「えっと…、キルアはなぜそう思ったんですか?」
「だって昨日、途中で帰ったろ?」
「ああ…はい。すみません…」
「だから…ダメなのかなって………殺しとか…」
なんだか言いづらそうにしているキルア。
そういえばキルアも、元『殺し屋』でしたね…。
僕が軽率だったせいで、キルアにまで引け目を感じさせちゃったみたいだ。…でも、違うんですよ。
「別に、殺しがダメって訳じゃないんです。
進んでやろうとかは…思いませんし…、僕の弟も大別すれば『殺し屋』の部類だし…。
僕も…そりゃあ…………全くやらないわけじゃないし……ただ…」
「ただ?」
「昨日のは…ダメです。その…なんていうか……」
ヒソカさんのアレを見た瞬間―――――心が抉られた。
理由を言葉で表現するのは難しいけど…………
ヒソカさんのあの笑みが、僕の中の「何か」と重なって。
ただ、ひどく怖かった。
怖くて怖くて
ただその感覚だけが、あのとき僕を支配していた。
「生理的にダメ?」
途切れてしまった僕の言葉をキルアが補う。
「あ…そうかもしれません……」
それが一番近い表現かも……。
「………もっと…ヒソカさんて、『自分の力に絶大な自信を持っていて、その力で相手をねじ伏せる』タイプだと思って…
なんとなくそういう試合をイメージしてたから…………予想外だったというか……その…」
「なるほどねー。…なんつーか……まっすぐだな、ゼロもさ」
「うー…そうなんでしょうか……」
「なんかよくわかんないけど……。…ところでゼロ、具合悪そうだけど大丈夫なの?」
僕とキルアの話を横でぽけーっと聞いていたゴンが会話に入ってきた。
なんか蚊帳の外に置いちゃってましたね…;すいません…。
「夕べはすごくきつかったんですけど…今はだいぶ良くはなりました。…熱はまだあるみたいですけど」
そういえば昨日は誰かが看病してくれたような記憶がうっすらとあるんですけど…誰だったのかなぁ?
起きたときは誰も居なかったけど……でもおでこに濡れタオルもかかってたし…ベッド脇に水とか置いてあったし…。
……もしかして、ジャズが頑張ってくれたのかな?
おんなじ体使ってるんだから、熱ある時はジャズだってきついのは一緒でしょうに。
後でお礼言っとこう。
と、そんな事を考えていたら、ゴンが何かを思いついたようにパッと笑顔を見せて来た。な、なに…?;
「決めた!それじゃ今日はオレが看病してあげるよ!」
「あ…助かります、ありがとうございますゴン」
「あっ!なんだよ!オレもやるよ!!」
「キルアもありがとう。でも騒ぐだけなら帰ってくださいね」
椅子を飛び降り、ばたばたとキッチンにむかうゴンと、それを追いかけるキルア。
なんだかほほえましくて、ちょっと癒されました。
僕はとりあえずベッドに潜った。
今日で、ゴンがウイングから謹慎を言い渡されて2ヶ月。
オレとゴンはゼロも誘ってウイングの泊まる宿に向かった。
「キルア君、ゴン君。…今日から2人がズシと共に修行をすることになります」
「押忍!」
ズシに向かって言うウイング。ゼロもウイングの後ろに立って、いつもみたいにニコニコしている。
「ゴン君。この2ヶ月、良く約束を守りましたね」
「誓いの糸のおかげです」
「えー?でもさ、何で約束を守ったかどうかわかんの?もしかしたらコイツこっそりズルしてるかもしれないじゃん」
オレはウイングに聞いてみた。
ゴンがむっとしてるけど無視。
だって普通に思う事だろ?
なんて答えんのかと思ったけど、ウイングは別段驚いた様子もなく、「誓いの糸が切れてないからですよ」とサラッと答えてくる。
「ゴン君。久々ですが『纏』をやってみてくれませんか?」
「いいの?」
「ええ」
纏かぁー……。やっべ、オレやれるかな?
って…オレが自分の心配してたら、ゴンはさっそく一歩前に出て纏をはじめた。
前に初めてやったときよりも、ずっとなめらかに、力強く。
「わー、すごいですねゴン」
ぱちぱち拍手するゼロ。
「ズシ…どう思う?」
「す、すごいっす!!全身にオーラがよどみなく流れているっす!静かでなだらかでいて……それでいてすごく力強いっす!」
「できた!よかった、忘れてたらどうしようかと思ってた」
「泳ぎ方や自転車の乗り方と同じで、一度覚えたらまず忘れませんよ。もちろん、高度に使いこなすためには努力を怠ってはいけませんがね。
……さ、左手を見てみなさい」
「え?…あ!!」
ウイングに促されてゴンの左手を見ると、小指に掛けられてた誓いの糸がぶちぶちに切れていた。
え?なんでだ?
「…切れてんな。でもこれ、風呂でゴシゴシ洗ってもとれなかったって言ってたよな?」
「うん。…なんか変な文字書いてある」
「ほんとだ」
糸の内側に文字が書いてあった。
「君が約束を破って念を使ったら切れるように結んであったのです。私の念でね」
へぇー、そんなこともできんのか…。念って…。
「………ねぇ、ウイングさん。ヒソカの試合見た?
ヒソカの能力ってなんなの?ちぎれた腕を飛ばしたり、元通りにしたり…あんなことオレ達でも出来んの?」
そんな風に言った後で、オレはまずったと思った。ウイングの後ろでゼロが顔をこわばらせたのが見えたからだ。
「うーん、難しい質問だね。一つずつ答えていこうか。……ゴン君、その対戦をビデオで見ましたか?」
「ううん。まずウイングさんに許可を取ってからと思って」
「じゃ、見ながら説明しようか」
ウイングがビデオを取り出す。
あーあー、やっぱそういう方向にいっちまったか…。
「あ、あの…ウイングさん……」
ビデオをセットするウイングにゼロが控えめに話しかける。
あー…。たとえビデオでも、アレまた見ろって言われたら嫌だよなそりゃ。
オレは平気だけどさ。
「どうしました?ゼロさん」
「あの……僕、席を外してもいいですか…?」
少し目を伏せたゼロを見て、ウイングもなんとなくその理由がわかったようだった。
「では少々廊下で待っていてもらえますか?…ゴン君に一度全部見せてから…またあとで呼びますから…」
「はい、ありがとうございます。…すみません」
へこっと頭を下げて、よたよたドアに向かうゼロ。
…なんか頼りねーなー。
「あ、ウイングさん。オレもちょっといい?」
オレはゼロの後姿を指差してウイングに聞いてみた。
「……キルア君は一度見たんですね?ならいいでしょう。………お願いするよ」
ウイングもゼロが心配になったようで、そう言ってあっさり許可をくれた。
だからゼロを追って、オレも廊下に出た。
ドアを閉め、ゼロがドア横の壁際に座り込んだんで、オレもその隣に座った。
「だいじょぶかよ?ゼロ」
「…んー…」
膝を抱えて顔も伏せてしまったゼロ。アレ、思い出しちまったのかな?
オレはなんか、見てることしかできなくて、ゼロの気を紛らわすように喋ってた。
でもゼロも相槌はうってくれるけど、さっぱり聞いてない感じで…オレの方がほっとかれてるみたいで、なんとなく聞いてみた。
「……ゼロってさ、そんなにヒソカだめなの?………オレも嫌い?」
「………なぜですか?」
顔を伏せたままチラッとオレを覗き見て、ゼロが聞き返してきた。
「いや…、オレも、さ。………殺し屋…だから……」
"元"だけどさ…。
オレの言いたいことがわかったのか、ゼロは少し顔を上げて…弱々しくだけど笑ってくれた。
「そんなことないですよ…。キルアは好きです。もちろんゴンも。……殺しをするからって嫌いになる理由にはなりません…。
………ヒソカさんも……嫌いではないんです。……ただ……」
「………アレだけがダメなの?」
訊くとゼロは小さくこくりと頷いた。
「……ゼロってさ」
「はい…」
「変わってるよな」
「………はい」
あれだけ鋭い殺気を見せて綺麗に笑って戦うくせに。
―――――戦いを好むくせに。
やっぱりちょっと変わってる。
オレは、なんか小さく見えたゼロの背中をそっとなでてやった。
しばらくすると、ズシがドアを開けて「先輩…」と心配そうな顔でオレ達を呼びに来た。
つづく
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キルアの視点は初めてかな?
すもも